Risa Kumon版「FREE」に豪華メンバー
──この2年半、新型コロナウイルスの影響で、アーティストもお客さんも行動を制限されてきましたが、考えや活動の変化はありましたか?
以前は近い人たちと音楽を作っていたんですけれども、コロナ禍以降さらに世界が広がった感じがします。世界中のアーティストが活動を自粛しながら、それでも音楽を作りたいという強い思いがあるから、ネットワークを介して一緒に楽曲を作る動きが次々と始まって。今回の「FREE」もほとんど日本でレコーディングしましたけど、トランペットはウィル“The Brass”アレンさんにアメリカで録ってもらったものをデータを送ってもらって、こっちでミックスしました。
──参加クレジットを見ると、そうそうたるメンバーが集まりましたね。ベースの日野“JINO”賢二さんは、MISIAさんやAIさんなど数多くのアーティストのライブのサポートでも知られた存在です。
JINOさんは、お父様の日野皓正さん率いるh-factor(日野皓正、dj honda、日野“JINO”賢二)のツアーで以前オープニングアクトを務めさせていただいたこともあって、いつかぜひ一緒に音楽をやりたいアーティストさんだったんです。今回、JINOさんのグルーヴがどうしても欲しくてお声かけさせていただきました。あえてベースの音量のレベルを上げて、グルーヴ感をしっかり出しつつ、そこに私だったらどういう心地よさが欲しいか考えた結果、コーラスを飛び交うようにたくさん入れて浮遊感のあるサウンドを目指しました。
──この楽曲との出会いは覚えてらっしゃいますか?
アメリカに住んでいたときにラジオをよく聴いていたので、オリジナル曲はそこで聴いた気がします。私の中では10代の頃にシャンテ・ムーアのカバーバージョンをよく聴いていたので、そちらのほうがイメージ的には強いですね。
──いろんなアーティストがカバーされてますし、日本のソウルファンの間でも人気が高いですが、とにかく難易度が高い曲でもあります。
歌うアーティスト、演奏するアーティストの感情や持ち味が浮き出てくる曲だと思います。ピアノもジャジーな感じで入れてもらったり、各アーティストの個性が集まった楽曲ですね。キーボードのカレブ・ジェームスさんの演奏からは、私がどういうふうに歌うのか予測しながら弾いてくれてるんだろうなと感じられました。ドラムのジェイ・スティックスさんもキャリアがすごくて、来日アーティストや日本のメジャーアーティストと一緒にツアーを回られてきた方です。最初に「こんな曲をレコーディングしたいんです」ってデモを送ったとき、選んだ曲のジャンルやアーティストから私たちのことをもっと年齢が上だと思ってたみたいで。「Hello」と挨拶したとき「えっ? こんなに若いアーティストだったの?」みたいな反応で(笑)。
──そうだったんですね(笑)。
マスタリングエンジニアのハーブ・パワーズ Jr.さんも過去8回グラミー賞にノミネートされたレジェンドで、彼はシャンテ・ムーアの「FREE」もマスタリングされてるんです。もともと私たちが好きなアーティストの曲を数多く担当されているなと思ってお願いしたあとに、そのことに気付いて。カニエ・ウェスト「Donda」に携わったグラミー受賞のエンジニア・IRKOにも参加していただきました。おかげさまで私が歌う「FREE」も理想通りのサウンドになったと思います。
──制作時にコンセプトは用意されていたんですか?
コロナ禍なので皆さんマスクしてお互いを信用して同じスタジオに入ったんですけれども、みんな自粛したり我慢してる時期だからこそ開放感を感じられる曲を作りたいなと思って。この曲自体すごく私のフィーリングにも合ってましたし、参加メンバーにとってもなじみある曲だったので、コンセプトとしては「心の開放」ですかね。
──その思いを具現化したミュージックビデオも素晴らしい仕上がりでした。あれは日本で撮影したんですか?
神奈川県で撮影しました。「FREE」はインターナショナルな楽曲ではあるんですけど、英語で歌っているせいか、歌だけ聴いた方から「どこの国の人?」と思われることが多いんです。私のアイデンティティとして日本ならではの美しさを出したいなと思って。それで富士山が見えたり、季節感を感じられるようにすすきが登場したり。フィルムクルーは東ヨーロッパ出身のユリア・プイカさんが監督、ジョン・ドニカさんがシネマトグラファーで、彼らから見た美しい日本が出てるから、ちょっと異国な感じがするんだと思います。
──大自然の中に現れる“ドア”も印象的です。
次元も超えて場所も時間も関係なく旅することができる雰囲気と、自分がどこから来ている存在なのかをしっかり表現できるイメージにしたくて。あと、私はいろんな人や自然とつながって自由を感じたいので、そうした生命とのつながりを感じられるよう自然の風景をいっぱい入れてもらいました。終盤の夜空のシーンもオーロラに見えたり宇宙に見えたり、観る人によってそれぞれのストーリーを作ってもらいたくて、あえて抽象的なイメージで作りました。
──参加メンバーがアイデアを持ち寄って完成したんですね。
私たちがどういうアーティストと一緒に作り上げたいか、お声がけするまでのリサーチにはすごく時間をかけました。スケジュールの都合で参加いただけなかった人もいらっしゃるんですけど、今回協力いただいた人たちこそ、私たちが今一緒にやるべき人たちなんだろうと思っていて。
──今後も楽曲ごとにこの人たちとやりたいと思う人とその都度やっていくスタイルは続けていきますか?
そうですね。もちろん縁のあった人からあえて離れることはないですけど、常にフレッシュな人たちと一緒に作っていきたい気持ちはあります。
恩恵を受けるだけでなく与えたい
──「FREE」は海外リスナーからも好評ですね。
北米や南米、ヨーロッパの方にもたくさんシェアしていただいて、気に入っていただけてすごくうれしいです。ジャケットも自分がどこで生まれたのかちゃんと知ってほしいと思って、日本をイメージしてデザインしています。
──今後の予定は?
次はアルバムを出す予定で、「FREE」はそこからの先行シングルみたいな感じで捉えていただければ。アルバムを出したときにライブをやりたいなと思っています。
──過去にROROさんとコラボレーションした「Doesn't Mean I'm Lost(feat. Risa Kumon)」のようなラップナンバーも、そのアルバムには入りそうですか?
それはまた次のプロジェクトですね。今回は私が今までインスピレーションを受けた曲を集めたもので、彼とコラボレーションしたR&Bやヒップホップの曲もいずれ出していきたいと思ってます。
──R2 Recordzでは新人アーティスト募集も考えてらっしゃるんですか?
私たちは常にオープンです。お互いのフィーリングや目指すところが合致すれば一緒にやりたいですし、「ちょっと違うな」と感じたら「こういう人がいいんじゃない?」と紹介したり、自由にやってます。
──当初思い描いていた音楽活動がようやく形になり、輪が広がっている感覚がありますね。
そうですね。私の夢の1つが、世界中を回ってそれぞれの土地のカルチャーと音楽を学んで、いろんな楽曲を歌っていくことなんです。沖縄にいたときに沖縄の民謡をアレンジしたように、いろんな世界の民謡だったり民族のリズムを学びたいです。最初に視力の話をさせていただきましたが、小さいときからずっと周りに助けられて育ってきたので、「大人になって私を救ってくれた人たちがいなくなったらどうなってしまうんだろう」という不安な思いもあったんです。このままでは自分は恩恵を受けるばかりで、与えたいけどそれも難しい。そういう思いもあって海外に行ってみたいという気持ちが強くなったんです。海外に行けば本当に1人でやっていかないといけないしそのチャレンジによって成長できると思って。結果的に歌うことによって自分に自信がついたし、その自信が私を支えてくれたなって。これからは私ももらうばかりじゃなく音楽をギフトとして皆さんに差し上げられたらいいなと思ってます。
──同じような境遇の方にとっても、すごく力になる言葉だと思います。
ありがとうございます。いろんなプロジェクトを通じて、これまで私の人生で感じたこと、チャレンジしてきたことを少しずつアウトプットできるようがんばります。
プロフィール
Risa Kumon(リサクモン)
R&B、ソウル、ジャズ、ポップスなど多彩なジャンルに挑戦する日英バイリンガルシンガーソングライター。両親の意向によりピアノのレッスンを受け、高校では声楽(イタリア歌曲)を学ぶ。卒業後はアメリカ・ロサンゼルスに音楽留学。2016年リリースのアルバム「Christmas Covers」でiTunes Storeのジャズトップソングで1位を獲得する。2018年にはヒップホップアーティストのROROとともにレーベル・R2 Recordzを成立。2022年6月にデニース・ウィリアムス「FREE」をアレンジして配信リリースすると、日本とアメリカのR&B / ソウルチャートにおいて、iTunes Storeではトップ10、Amazon Musicではトップ3にランクインした。
Risa Kumon (@risakumon) | Twitter