ナタリー PowerPush - りぶ
40mP&みきとPと語る歌い手とボカロPの関係性
ニコニコ動画はルールが決められてないから面白い
──みきとPさんは、自身の曲をいろんな歌い手さんが歌ったアルバムの「みきうた」もリリースされましたよね。自分の曲が歌い手に歌われるということは、どういうイメージで捉えているんでしょうか?
みきとP 前にナタリーさんでも話したんですけど(参照:みきとP「僕は初音ミクとキスをした」インタビュー)、ボーカロイドを使い始めたときは、実は「音楽をやめようかな」って思っていた時期で。自分で歌うこともそんなに好きじゃなかったし、もう無理かなって低迷していたんです。そこで初音ミクやボーカロイドが俺の気持ちとかやりたいことを代弁して表現してくれて。だからちょっと大げさですけれど、誰かが自分の曲を歌ってその世界を広げてくれるっていうことはすごくいいな、うれしいことだなと思います。それで歌い手さん自身が「歌うの楽しいな」とか「歌の道に行ってみようかな」とか、いろいろ思うのもありだし。単なる娯楽として楽しむのもありだし。そういう起源になっているっていうのは、自分でもうれしいと思いますね。
40mP なるほど。僕はもともと歌モノを作りたくて、でも歌ってくれる人が周りにいないし、自分でも歌えないのでボーカロイドで曲を作り始めたんですよね。で、ボーカロイドはボーカロイドで完成したものを作っているつもりなんですけど、今は「虹色オーケストラ」で歌い手の人と一緒に生音で全部作り上げていくことをやっていて。だから人に歌ってもらうのは、自分にとっては1つの理想的な形でもあるんですよね。そういうことがあるのは自分にとってはすごくうれしいですね。
──なるほど。では、同じ質問をりぶさんに聞きたいんですけれども、歌い手がボーカロイドの曲を歌うということを、どう捉えてますか?
りぶ そうですね……みきとPさんや40mPさんは肯定的ですけれど、ボカロPさんによってはあんまり歌ってほしくないという人もいたりして、だから、個人的には不安な部分っていうのもけっこうあるんですよね。「歌ってみた」もいわば二次創作みたいなものですが、動画サイトに投稿するときに作家さんにその都度アポを取って「歌ってもいいですか?」「上げてもいいですか?」って聞いて投稿するわけじゃないんですよ。よくも悪くもそういう感じになっていて。それで波及していくスピードにはすごいものがあるし。
──そういう文化ですもんね、もう。
みきとP 確かに、歌い手さんとボカロPの関係って、別に仲が悪いわけじゃないんですけど、未解決な部分はけっこう多いかもしれないですよね。歌い手さんもそれぞれ個人による部分もあるし、歌い手代表の意見っていうのも別にないわけで。ボカロP代表の意見もないし。俯瞰で見ると謎めいてる部分が多い。でもまあ、「そんなもんなんじゃね?」って感じなんですよね。そもそもガチガチにルールを決めてやるもんじゃないし。
──そもそも、そういう二次創作を原則OKにしたことで広がった文化でもあるし。
みきとP そうそう。「歌ってみた」がなかったら盛り上がらなかったっていう部分も、このシーンには絶対にあるので。すべての人が自覚もないままそのシーンを作っているっていう、そういう面が面白いなと思いますけど。
40mP ニコニコ動画って、ガチガチにルールが決められてないから面白いものが生まれる場所だと思うんですよね。ボーカロイドが流行ったのも、「歌ってみた」というコンテンツが盛り上がって相乗効果が生まれたのも、そういう場所だったからだと思っているので。だから、「これは歌ってもいいですよ」とか「これはダメですよ」とかルールを決めるんじゃなくて、基本的になんでもいいと思うんですよ。で、ちゃんと、歌う人は曲に対しての尊敬の気持ち、作る人は自分の曲に対するプライドとかをちゃんと持ってれば、たぶんそこのバランスは崩れないと思っているので。これからもそんな感じでルールがない中での盛り上がりっていうのができていったらいいなと。
──なるほど。確かにそうかもしれない。
40mP やっぱりこれだけ文化が大きくなって、企業とかも関わるようになってくると、ルールができあがってきちゃうところがあって。でもそうじゃなくて、「面白い曲があるから歌ってみたい」とか、純粋な気持ちがずっと残っていったらどんどんいいものが生まれてくるんじゃないかなって思ってます。
あんまり先のことを考えてない
──わかりました。では最後に2014年の抱負を皆さんに語ってもらおうと思うんですがどうでしょう?
みきとP 俺、抱負を話すのすごく苦手なんですけど(笑)。あんまり先のことを考えてないので。今やっていることしか目に見えてなくて。2014年の最初に「みきうた」のワンマンライブ、歌い手さんも招いてというのがあるので、それをいかに楽しくやるかっていうことしか今は考えてないです、すみません(笑)。
40mP 僕も実は同じで(笑)。やっぱり、あんまり先のことを考えてないんです。いい曲を作ることだけにしか今は執着がないというか、そこにしか興味がなくて。で、虹色オーケストラはそれを一番いい場所で表現できるっていうものだと思っているので。追加公演の3月までそれをなんとか達成してやろうっていう気持ちはあって。野心とかよりも、今までに作った曲よりも少しでもいい曲を作ってやろうというような、創作に対するモチベーションしか今はないです。
──なるほど。じゃあ、りぶさんどうでしょう。
りぶ いや、僕も本当、2人と同じで(笑)。そういう、ひとつ2014年で大きな目標を打ち立ててそこに向かって計画的にがんばっていこうみたいなのが最も苦手とするところなので、本当に一所懸命というか、目先のことに自分の持てるものをすべて注ぎ込んでいこうと思います。
──いろいろスタンスの違う3人ですけど、「先のことを考えてない」「目の前に一生懸命」ってところだけは見事に一致しました(笑)。
りぶ (笑)。この先月日が流れていってどういう環境にあっても、たぶん僕はほっといても歌ってると思うんですよ。で、今は歌い手のブームみたいなものも少なからずあると思うんです。そのおかげでアルバムを出させてもらったりライブに呼んでもらえたり、すごく充実していて。なのでその充実している今を逃したくないという感じですね。
【クロスフェード】Riboot / りぶ【1月8日発売】
- ニューアルバム「Riboot」 / 2014年1月8日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 [CD+グッズ] / 2520円 / VICL-64093
- 通常盤 [CD] / 2205円 / VICL-64094
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CD収録曲
- ヨンジュウナナ
[作詞・作曲:みきとP] - 聖槍爆裂ボーイ
[作詞・作曲:れるりり&大柴広己(もじゃ)] - しわ
[作詞・作曲:buzzG] - ロベリア / Lobelia
[作曲:sequel / 作詞:ユミソラ] - スタートアウト・リピートショー
[作曲:TOKOTOKO / 作詞:りぶ、TOKOTOKO] - 如月アテンション
[作詞・作曲:じん] - ワンルーム・オール・ザット・ジャズ
[作詞・作曲:DATEKEN] - ジッタードール
[作詞・作曲:niki] - トビウオの夢
[作詞・作曲:40mP] - 秘密遊戯
[作詞・作曲:Task] - Whiter Than Snow
[作詞・作曲:halyosy] - 東京レトロ
[作詞・作曲:すこっぷ] - Afterglow
[作詞・作曲:ジミーサムP] - 人生は吠える
[作詞・作曲:Neru] - 夜を超えろ
[作詞・作曲:ラムネ] - さよなら告げた
[作詞・作曲:渡和久 / 編曲:風味堂]
- ヨンジュウナナ
りぶ
動画共有サイトを中心に活躍する男性シンガー。音域の広い透明感のある歌声が特徴で、2013年11月時点で歌唱動画の総再生回数が1200万回以上を誇るなど高い人気を誇る。2012年9月に1stアルバム「Rib on」を発表。ライブやイベントにも積極的に出演しながら、ネットシーン以外でも着実に知名度を獲得する。2014年1月に2ndアルバム「Riboot」をリリースした。
40mP(よんじゅうめーとるぴー)
ボーカロイドを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロP。2008年からニコニコ動画にオリジナル曲の投稿を開始し、同年公開された2作目「Melody in the sky」で早くもネットユーザーから多くの注目を集める。2012年に東京、2013年に神戸と埼玉で、7人の歌い手と生バンド、ストリングス、ブラス、コーラス隊を率いたホールコンサート「虹色オーケストラ」を開催。2013年夏にはNHK「みんなのうた」に「少年と魔法のロボット」が選ばれ、ボカロ曲の採用が番組史上初ということもあって大きな話題になる。同年9月には自身のボーカロイド曲をリメイクしたベストアルバム「少年と魔法のロボット VOCALOID BEST, NEW RECORDINGS」をリリースした。
虹色オーケストラ 追加公演
2014年3月1日(土)
神奈川県 よこすか芸術劇場
みきとP(みきとぴー)
ボーカロイドを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロP。「小夜子」のような心を揺さぶるシリアスなギターロックから「いーあるふぁんくらぶ」のようなアッパーなディスコポップまで、幅広いタイプの作品を発表している。またボカロPとしての活動のほか自身が歌った動画の投稿も行っている。2013年4月には初音ミクをフィーチャーした初のオリジナルフルアルバム「僕は初音ミクとキスをした」をリリースした。