ナタリー PowerPush - 高城れにのKing of Rock! #03

ロックの申し子・高城れに 単独ラジオ番組を徹底解剖

「シングルベッドはせまいのです」はブースで一緒に歌ってる

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──そして前山田さんの作品はもう1曲、百田夏菜子&玉井詩織の「ももたまい」によるユニット曲「シングルベッドはせまいのです」。いつもじゃれている2人の様子がついに曲になったと(笑)。

本当にあの2人はいっつもベタベタしてて、特に玉井がくっついてくるみたいですけど。夏菜子はイヤがってるのかなと思ってたら、話を訊いてみると案外……(笑)。内容が萌え萌えなんで、音も萌えサウンドにしようと思っていて。あえてバッキングをおしゃれなAORにして、その上に歌ラップを乗せることで萌えを増してみました。

──それから、この曲はトラックも新鮮で。これまでの前山田曲、ヒャダイン曲にはなかったサウンドですよね。

そうなんです! (ドヤ顔で)こんなんもできるんだぞ!と。こういうアプローチもできるんですよ、僕は。ホントはこっちをやりたくて作曲家業を始めたのに、気付いたらドスンドスンした曲ばかり発注がくるようになって(笑)。

──ああ。発注する側はヒットした曲を前例に「こういうテイストで」とお願いすることが多いでしょうし。

ええ。アイドルソングだと、BPM80~90の曲って大体バラードになっちゃうんですよ。でも、こういうふうに、ゆっくりだけどグルーヴ感がある曲もあるっていうか。ゆっくりめの曲=バラード、という固定観念を払拭したかったんですよ。あとこの曲は、2人一緒にブースに入って歌ってるんです。ブースにマイクを2本立てて。これは「デコまゆ」のときに勉強になったんですが、そうやって録ると全然温度感が違うんですよ。玉井は普段、結構棒読みなほうなんですけど、2番のデレっぷりとか感情が入ってるでしょ? そして間奏の言い合いですよ。

──百合モノが好きな人にはたまらないでしょうね。ももクロを知らない人でも、百合が好きな人にはぜひ聴いてもらいたい。

ごちそうかもしれないですよねー。「寝てるときの話をしといてー。」って放っておいて、適当に話をさせたんですよ。だから実際はもっと長いんですけど、いいところを切り出したら、なんにもいじってないのに尺バッチリで。あの語りはもう、いつもどおりの2人です。

──ある意味フリースタイルラップ(笑)。前山田さんの作った3曲は、どれもドキュメンタリーですよね。2012年4月現在の5人を捉えたドキュメンタリー。

まさにそう。ドキュメンタリーソングでございます。

師匠の隣でバーグバーグ

──前山田さん以外の方が書かれたソロ曲についても感想を聞かせてください。まずはリーダー百田夏菜子さんの「渚のラララ」。この曲はまさかのザ・ワイルドワンズとのコラボということで。

そもそもメンバーみんな時代感が違うのが面白いですよね。70年代風ファンクもあれば、80年代風歌謡曲もあり。僕は90'sクラブサウンドで……ひとり(高城を指して)は特別枠(笑)。そして夏菜子は60年代のグループサウンズという。

──ザ・ワイルドワンズだけでも贅沢ですけど、編曲が上田健司さんで、ギターにはザ・サーフコースターズの中重雄さんという豪華なメンバーで。このアルバムはブックレットのクレジットを細かくチェックするのも面白いです。

ですね。横アリではあの豪華なメンバーを前に堂々としていて、さすがだなと。ただ、好みとしては前作(「太陽とえくぼ」)のほうが僕は好きかなー。あの曲はモロに渋谷系でしたもんね。彼女はさらにいろんなジャンルにチャレンジしてほしいですね。

──そして80'sマニアの間で波紋を呼んでいる玉井詩織さんの「涙目のアリス」。

僕はもうコレたまんないですね。何度も聴いてます。この曲は発注からして「シティポップス」だったらしいですね。なので作家さんも時代を代表するお2人。作詞は期せずして僕の師匠である松井五郎さんで。さすがの手腕ですよね。隣で僕がバーグバーグ言ってるのに(笑)。

──この師弟の温度差(笑)。そして作曲が……まさかももクロ作品のクレジットに「林哲司」の名前が刻まれるとは思いもしませんでした。

"林哲司節"って、ありますよね。この曲が好きな人は菊池桃子さんの「夏色片想い」も聴いてほしいです。あれは名曲ですよ。

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──そして有安杏果さんは、在日ファンクとのコラボによる「教育」。実は昨年の「MIWA ROCK!!」の企画でもメンバー内で突出してファンクの飲み込みが早くて。奇しくもこの時点で「ももクロのファンク王」と呼んでいます。

杏果はリズムの解釈が全部後ろなんですよ。洋楽的な解釈ですよね。だからこの曲はバッチリはまってると思います。

──横アリの初お披露目では実際に在日ファンクを従えて、生演奏をバックに歌い上げました。

やりきりましたね。メイクや衣装もあれだけ作り込んでいながら、やらされてる感がなかったのがすごい。杏果はホントは西野カナ的なR&Bを歌いたいらしく、望んでるのはこういう土着的なものじゃないらしいんですけどね(笑)。そこは彼女のプロ意識ですよ。この曲をこなせるのは自分だけだという自負もあるでしょうし。

──そして高城れにさんは、2作連続で演歌に挑戦と(笑)。「津軽半島龍飛崎」は前作「恋は暴れ鬼太鼓」以上にディープな演歌に仕上がっています。

前回は明るい浪花節的な感じでしたけど、今回は艶歌ですね。れにちゃんはどうしても飛び道具扱いになってしまうのですが……。

──なまじ飛び道具としての才能があるから特殊なことをやらされがちですけど、もしかしたら彼女こそ80's路線が合うんじゃないかと思うんですよね。

そう! 声が一番かわいらしくてアイドルっぽいのは、実は彼女なんですよ。だからもし僕がれにちゃんのソロをやるなら、もっと別の路線で行ったと思いますね。ももクロの「BIONIC CHERRY」みたいな路線をソロでやっても面白いかもなーとか。

ここから国民的な存在になっていくのかしら

──このアルバムや横アリでの2日間を経て、彼女たちに対する見方が変わったところはありますか?

より個性がハッキリしてきたなと感じましたね。ソロ曲も増えたことで、メンバー自身もより個性やカラーを意識するようになったでしょうし。あれだけの大舞台に立つと、やっぱ一皮むけますよね。どんどんプロ根性が付いている感じがします。

──横アリを経て、今彼女たちの注目度はさらに上がっていて、テレビや雑誌などのメディア露出も一気に増えた印象があります。ももクロ結成以来の目標である「紅白出場」にもいよいよリーチがかかったかな、という雰囲気ですが、5人を近くで見ている前山田さんはどう感じていますか?

メンバーはきっとチャンスだと思ってますけど、スタッフはあんまり思ってないんじゃないですかね(笑)。人気が出てきたという実感もそんなになさそうにしてますし。とは言え、もはやアーリーアダプターだけの存在ではなくなっていますから、ここから国民的な存在になっていくのかしらと。ただし、ここの陣営は皆さんどうかしてますので(笑)、ただの国民的グループにはならないでしょうけど。いやあ、楽しみですね。ここから。

ももいろクローバーZ「ももクロ★オールスターズ2012」/ CD販売終了 / iTunes Store

収録内容
  1. 渚のラララ / 百田夏菜子 with ザ・ワイルドワンズ[作詞・作曲:加瀬邦彦 / 編曲:上田健司]
  2. 涙目のアリス / 玉井詩織[作詞:松井五郎 / 作曲・編曲:林哲司]
  3. あーりんは反抗期! / 佐々木彩夏[作詞・作曲・編曲:前山田健一]
  4. 教育 / 有安杏果 with 在日ファンク[作詞・作曲・編曲:浜野謙太]
  5. 津軽半島龍飛崎 / 高城れに[作詞:田久保真見 / 作曲:田尾将見 / 編曲:伊戸のりお]
  6. シングルベッドはせまいのです / ももたまい(百田夏菜子&玉井詩織)[作詞・作曲・編曲:前山田健一]
  7. 事務所にもっと推され隊 / 事務所に推され隊(有安杏果&高城れに)[作詞・作曲・編曲:前山田健一]
  8. 渚のラララ(off vocal ver.)
  9. 涙目のアリス(off vocal ver.)
  10. あーりんは反抗期!(off vocal ver.)
  11. 教育(off vocal ver.)
  12. 津軽半島龍飛崎(off vocal ver.)
  13. シングルベッドはせまいのです(off vocal ver.)
  14. 事務所にもっと推され隊(off vocal ver.)
前山田健一(まえやまだけんいち)

1980年7月4日生まれのソングライター。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身につける。京都大学を卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。前山田健一として、倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」などのヒット曲を手がける一方、ニコニコ動画などの動画投稿サイトに匿名の「ヒャダイン」名義で作品を発表し大きな話題を集めた。2010年5月にはヒャダインのブログにてヒャダイン=前山田健一と告白。その後も、ももいろクローバー「行くぜっ!怪盗少女」やアニメ「みつどもえ」関連楽曲などのヒット曲を量産し、2011年4月にシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でヒャダインとしてメジャーデビュー。2012年5月9日には通算4枚目のソロシングル「Start it right away」をリリースした。


2012年9月27日更新