音楽ナタリー Power Push - 平井拓郎(QOOLAND)×三浦隆一(空想委員会)対談

平井拓郎(QOOLAND)

三浦隆一(空想委員会)

インディーズとメジャーシーンで邁進中 それぞれが考える音楽の届け方

自己満足から“曲を届ける喜び”へと変化した心境

──ファンと一緒に作るアルバムという前提があって生まれたのが今回の「COME TOGETHER」になりますね。

平井 そうです。さらに今作のキャッチコピーは「誰でもいいなら君がいい、誰でもいいわけじゃないぜ」で、「Shining Sherry」の歌詞からの引用なんです。このフレーズが生まれたのはQOOLANDというバンドのやるべきことがよりハッキリと、わかりやすくなったからで。

──じゃあ今回クラウドファンディングを導入する前のQOOLANDは、自分のために歌っているという意識が強かった。

平井 今思えばですけど、正直そう思います。だから今のほうがバンドとしての純度が高いってというか、澄み切ってる感じがします。去年まではいろんな複雑な思いがあったから。

──誰に向かって歌うのか、何のために歌うのか、というアーティストとしての根幹に関わってきますね。

平井 そうなんです。その根幹がすごくクリアになりましたね。

──空想委員会は普段お客さんとのつながりはどれぐらい意識されてます?

三浦 そもそも音楽を始めた理由は、自分のストレス発散のためだったんです。だけどメジャーデビューから1年経って、「誰に向かって歌うのか、何のために歌うのか」ってことを考えるようになるんですよね。それで初めて聴いてる人宛に歌詞を書いたのが、今年の7月に出した「GPS」ってミニアルバムだったんです。それまでそんなこと考えてもいなかった。要は自己満足でしかなかった。聴いてもらえてありがたいけど、それ以上ではなかったんです。

平井 ああ、なんかわかります。「自己満だけでそれ以上ではない」っていう(笑)。がんばって書いてはいるんですけどね。

三浦 そう。誰かの耳に届くようにとは思ってたんだけど、「GPS」を作ることで届かせるものが何か、届かせるためにどうするかを考えるようになりましたね。それは自主のときは思わなかったことでした。

平井 こうやって書いたほうがもっと売れるとか、そういう次元じゃないですよね。とにかく「届かせたい」という思いなんですよね。

──お客さんの顔が見えてきたということなんですかね。

三浦 それは大いにありますね! 自主のときはがむしゃらにやるしかなくて、「届いたらラッキー」くらいの感じだったんですけど、メジャーデビューしてからは、届いたものが自分に返ってくるのが如実にわかるようになってきたんです。ライブとかでもそうなんですけど。

平井 届かせる喜びっていうのを覚えると、考え方が変わりますね。

三浦 そうだね。それで僕の場合は歌詞の内容に広がりが出ました。あと何のために自分たちがステージにいるかっていうのはけっこう考えるようになりましたね。

過剰にファンを意識することで生まれる弊害

──お客さんのことを考えることと、聴き手に媚びて相手が喜びそうな曲を作ることはもちろん違いますが、その境界線ってけっこう判断が難しいですよね。

三浦 そうですねえ。

平井 確かに……。

三浦 媚びるんだったらやんなくていいかなっていうことはけっこう考えてたんだよね、「GPS」を作るとき。媚びるのは俺じゃなくてもいいんじゃないのっていう。

平井 ほかの奴がやればええやんって?

三浦 そう。ほかにいい曲を書く人なんていっぱいいるし。だけどなぜ自分が歌うのかっていうのも大事で、そのバランスですね。完全にそこで自分を消して100%お客さんのためだけに歌うなら続ける意味がないし、自分のことばっかだと歌う意味もないし。両方に意味を持たせようと思ったらバランスを取り続けないとつまらなくなっちゃうもんね。

平井 そうですね。難しいとこだな、その境界線。確かに曖昧ですね。

三浦 俺は(今回のQOOLANDのクラウドファンディングに)お金を出してないんだけどさ。あえて言いたいのは今までのQOOLANDも好きってこと。お金出してる人は、今までのQOOLANDからガラッと変わっちゃうのは望んでないと思うよ。今までの4人が好きで、4人らしくやりたい放題やってほしいと思うからこそ応援してくれるんだと思うよ。

平井 うん。それは絶対そうだと思います。

三浦 だから作ってる側が過剰に「満足させなきゃ!」とか意識しちゃって、妙に力んで作風が思いっきり変わったらつまらない。

平井 なるほどね。それってクラウドファンディングをやる側のデメリットの1つかもしれない。意識しすぎて、かえって自分たちらしさを失ってしまう恐れがあるってことでしょ。お金集めのツールではあるけど、お金が目的になってしまったら、そうなっちゃう気がします。今作のリード曲「Shining Sherry」を初めてライブハウスでやったとき、初披露なのに途中でお客さんが一緒に歌ってくれたことがあって。QOOLANDでその現象が起きたのって初めてだったんです。曲自体も4人全員で作った曲だったし、みんなで作り上げたことで、多くの人の心を動かせたんです。それで次はライブじゃなくCDで、みんなを盛り上げるってことをやりたかった。そのためにクラウドファンディングを選択したんです。

CD不況の中、アルバムを作る理由

──インターネットが普及したことで、無料で音楽を聴く人が圧倒的に増えましたが、それはCDが売れないという昨今の状況につながっています。そうした状況はアルバム作りなど、アーティストの活動に大きな影響を及ぼしていますが、それでもアルバムを作る最大の理由ってなんですか?

平井 もちろん曲を届かせるためです。

三浦 そうだね。

平井 あと、今の自分たちはこうですよって状態を知ってもらうためですかね。ライブをやって、CDを出して、またツアーをやって、という流れが1番お客さんたちの心を打てると思います。ライブも大事ですけど、レコーディングした音を聴いてもらうのも大事ですから。

三浦 ライブだと聴こえない音もあるし。こういうイメージで我々は作ったよっていう雛形があったほうが、伝わりやすいと思う。「これがやりたかったんだよ」って。だから音源は作りたいですね。あと、これは音楽を始めたときの最初の衝動と変わらないと思うんだけど、「これを俺はかっこいいと思ってるんだけどどうよ!」っていう。

平井 それはありますね。「こんなのできたんだけどどう?」ってみんなに聴いてもらいたい。そういう先々の楽しみがあるからレコーディングをすること自体が大好きなんですよ。

クラウドファンディングの相談は平井まで

──ところでクラウドファンディングのリターンの進行は順調ですか?

平井拓郎(QOOLAND)

平井 順調ですよ。それこそ昨日、ゴールデン街でファンとサシ飲みに行ってきました(笑)。

三浦 マジで? さっき話してたリターン企画だよね? 早速やってるんだ……すごいなあ……。

──お客さんとのサシ飲みってどうですか。

平井 めっちゃ楽しませようとしちゃいます(笑)。だって僕に対して少なからず憧れの思いを抱いてくれている人なわけですし。

三浦 そりゃそうだよね。考えるだけで緊張する(笑)。

平井 実際飲んでみたら「アイツつまらん奴やったで」なんて思われたくないし(笑)。ただ者ではないような感じを出さないとなっていう。

三浦 そりゃプレッシャーだね! ……だいぶプレッシャーだわ。よくできるなあ。

──ぐでんぐでんに酔っ払っちゃダメですしね。

平井 そうなんですよ。でもめっちゃ楽しいですよ。メンバーの中に1人でもイヤイヤでやってるメンバーがいたら絶対失敗すると思いますけど、全員が楽しくやれるリターンを用意できればクラウドファンディングはイイものですよ。

──じゃあ今後も機会があれば続けたい?

平井 QOOLANDでやるかどうかはまだ考えてるところです。でもたぶん、これからクラウドファンディングを利用したいってバンドも増えてくると思うんですよ。僕らはお店に卸して流通もしてますけど、もっと小さな規模で、例えば1stデモを作るためにやりたいとか、そういう人も増えてくるんじゃないかな。一応クラウドファンディングの成功者なんで、“クラウドファウンダー”としてそういった人たちをサポートできたらいいなって(笑)。

QOOLAND ニューアルバム「COME TOGETHER」2015年12月9日発売 / 下高井戸レコード
[CD] 2376円 / STRD-1002
収録曲
  1. Come Together
  2. Shining Sherry
  3. セレクト(うーっはーっ!!)
  4. ある事無い事
  5. 一つの法則
  6. ループは止まった
  7. 言えない人が言えてたら
  8. 叫んでよ新宿
  9. ラストセンサー
  10. ゆとり教育概論
  11. Today Today Today & Yesterday
QOOLAND(クーランド)

QOOLAND

2011年10月14日に新宿で結成。平井拓郎(Vo, G)、菅ひであき(B, Cho)、タカギ皓平(Dr)、川﨑純(G)からなる4人組ロックバンド。2013年5月に初の全国流通盤となるフルアルバム「それでも弾こうテレキャスター」を自主レーベル・下高井戸レコードからリリースした。同年、アマチュアバンドコンテスト「RO69JACK 2013」でグランプリを獲得。2015年の夏にはクラウドファンディングを使用した「ファン参加型アルバム制作プロジェクト」を実施。目標額を大きく上回る200万円の資金調達に成功し、フリーライブを行うなどしてファンを喜ばせた。また全国各地で自主企画「大平和祭り」を開催し、Suck a Stew Dry、ircle、LEGO BIG MORL、空想委員会、cinema staff、オワリカラといったバンドを招いての対バンライブを展開。2015年12月9日にクラウドファンディングの資金をもとに制作したファン参加型の2ndフルアルバム「COME TOGETHER」をリリースする。

空想委員会(クウソウイインカイ)

空想委員会

三浦隆一(Vo, G)、佐々木直也(G)、岡田典之(B)からなる3人組ロックバンド。ときに儚く、ときに毒々しい、リアルな歌詞が高い共感を呼んでいる。2011年にリリースしたインディーズデビュー作「恋愛下手の作り方」がタワレコメンに選ばれ、一気に知名度を上げた。その後もハイペースでCDをリリースし、各地のイベントやフェスに出演。2014年2月にはゲスの極み乙女。との共同ツアーを開催して話題を集めた。2014年6月にキングレコードから「種の起源」をリリースし、メジャーデビュー。2015年2月に東京・Zepp DiverCity TOKYOでバンド史上最大規模のワンマンライブを行い、7月にはミニアルバム「GPS」を発表した。その後多数の夏フェス出演を経て、9月には東京・日本武道館でPerfume主催のライブイベント「Perfume FES!! 2015 ~三人祭~」に参加。12月6日に両A面シングル「僕が雪を嫌うわけ / 私が雪を待つ理由<完全限定生産>」を発売する。