音楽ナタリー PowerPush - 平井拓郎(QOOLAND)×ニコ・ニコルソン

どん底からの上京物語とそれぞれのマンガ道

“東京に行けばなんとかなる”なんてことはなかった

──「片道4,100円」には悲壮感漂う言葉が出てきます。上京したはいいけど、現実はつらいという心情がにじんでますよね。

左から平井拓郎、ニコ・ニコルソン。

平井 うん、「“東京に行けばなんとかなる”なんて思ってるとつらい目にあうよ」っていう歌になりました。The DARARSのときに書いたサビの部分がずっとあったけど、これまでどうにもうまくまとまらなかったんです。

──では今回この曲をシングルとして完成させたきっかけは?

平井 改めて書こうと思ったのが今年2月の大雪の日です。その日は大阪でライブをやる予定だったんですけど、高速道路も通行止めで東京から6時間かけても神奈川までしか行けないっていう状況になって……。

ニコ えーそれは大変……どうなったんですか?

平井 そのときは荷物を全部手に持って、10数万払って新幹線に乗り換えて、大阪の人のためにライブをしに行ったんです。大赤字だったんですけど、無事にライブができたことで大阪のファンの熱量はすごく上がったっていう実感がありました。その日のライブが無事終わったあと、楽屋でふと上京したときの話を振り返ってもいいかなって思って、今までまとまらなかった「片道4,100円」の歌詞に「あれから一つずつやり直して」って部分を書き足して当時からこれまでを振り返ることにしたんです。

ニコ・ニコルソンが描く「片道4,100円」の世界

──ニコさんは「片道4,100円」のジャケットに窓から外に向かって何か泣き叫んでるようなイラストを提供しました。平井さんは何かリクエストしたんですか?

平井 メールをいただいたときに、曲の感想がしっかり書いてあったので、全部感じたままにお任せしたいなって思ったんです。

ニコ・ニコルソンが描いた「片道4,100円」のラフ。

ニコ CDジャケットを手がけること自体が初めてでしたけど、読み切りのマンガを描く感じに近かったです。曲を聴いて、上京したときの不安とか、自分の殻から抜け出せなくてどうしたらいいかわからない気持ちがイメージとして湧いて。これは打ち合わせのときのもので(ノートに描いたラフを見せる)。

平井 ラフなんてなかなか見る機会がないんでワクワクしますね。

ニコ 若い女性のファンが多いと聞いたので、曲の世界に架空の女の子を1人立てたんです。実際の歌詞では主人公が女の子じゃないことはわかるんですけど、思ったままに“閉塞感からの絶叫”みたいなものを表現させてもらいました。

平井 リスナーがどう聴いて、どう思ったかっていうことが大事だと思ってるんですけど、今回のイラストも曲に対する1つのレビューですよね。ほんとありがとうございます。

ボクサーの隣人が怒りながら曲の感想を言ってきた

──QOOLANDの曲には「都民」「隣人」など東京や暮らしをテーマにした曲が多いと思うんですけど、作品同士につながりはあるんですか?

平井拓郎

平井 全部ではないけど、それはありますね。当時住んでた木造住宅が「隣人」の舞台で、僕は全開で歌ってたので、そこに近隣の住人とのやりあいが生まれるんですよ。でもある時、だんだん隣人が「あの曲はよくなかった」と言ってくる展開になったんですね。

ニコ 隣人が曲の感想を言ってきたんですか?

平井 そう、隣人が曲に口出ししてくるんですよ。その人はボクサーだったみたいなんですけど、「お前ミュージシャンかしらんけど、曲作ってるんか!」みたいなところから始まって。それを脚色して書いたのが「隣人」です。

ニコ QOOLANDの曲はストーリーがあるから絵にしやすいかもしれません。何通りでも読み切りが描けそうな感じがしますね。

平井 曲のストーリーが書籍化されたらうれしいですね(笑)。

QOOLAND(クーランド)
QOOLAND

2011年9月結成。平井拓郎(Vo, G)、菅ひであき(B, Cho)、タカギ皓平(Dr)、川崎純(G)からなる4人組ロックバンド。平井と川崎によるタッピング奏法を駆使したギターサウンドや、マンガ、アニメなどのフィクション作品、日常生活をモチーフにした歌詞を特徴とする。2013年5月に初の全国流通盤となるフルアルバム「それでも弾こうテレキャスター」を自主レーベル・下高井戸レコードからリリース。同年アマチュアバンドコンテスト「RO69JACK 2013」で優勝し、8月に「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」への出演を果たす。精力的なライブ活動を続け、2013年は115本のライブを敢行した。2014年2月に6曲入りCD「教室、千切る.ep」を発売し、3月に大阪と東京で初のワンマンライブを実施した。4月にミニアルバム「毎日弾こうテレキャスターagain」を発表。8月に1004枚限定シングル「片道4,100円」をリリースし、同月以降「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014」など多くのライブイベントに出演する。

ニコ・ニコルソン
ニコ・ニコルソン

宮城県亘理郡山元町出身のマンガ家兼イラストレーター。専門学校卒業後「東京で就職が決まった」と嘘をついて実家を飛び出し、東京で半年間のニート生活を送る。バイトとして出版社で働いていたところ、ひょんなことからイラスト制作を任されるようになり、やがてフリーイラストレーターとして本格的に活動を開始。2009年にイラストエッセイ「上京さん」をエムオン・エンタテインメントから発表する。その後、月刊誌・デジモノステーション(エムオン・エンタテインメント)で「ニコ・ニコルソンのオトナ☆漫画」、ヤングアニマル(白泉社)で「ニコ・ニコルソンのマンガ道場破り」、デジキス(講談社)で「ニコニコ妖画」、ぽこぽこ(太田出版)で「ナガサレール イエタテール」を連載。2014年4月からは、ぽこぽこで「でんぐばんぐ」のWEB連載も行っている。