猛者が集結するTHE PRIMALSのREC現場に潜入、イメージを覆す新作の裏側に迫る

スクウェア・エニックスの人気オンラインRPG「ファイナルファンタジーXIV(以下、FF14)」の公式バンド・THE PRIMALSが、5月25日に新作ミニアルバム「THE PRIMALS - Beyond the Shadow」をリリースする。

「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ」で使用されている「知恵の巻貝 ~オールド・シャーレアン:夜~ (Acoustic Version)」「Flow Together」「Close in the Distance」「此処に獅子あり ~万魔殿パンデモニウム:辺獄編~」の4曲がバンドアレンジで収められる今作。音楽ナタリーではこれら4曲をレコーディングしているスタジオでTHE PRIMALSへのインタビューを行った。メンバーそれぞれがバンドを掛け持ちするなど、手練れで構成されるバンドはどのようにレコーディングを進めているのか? その進捗を伺いながら、新作の聴きどころやミニアルバム発売後に控えている幕張イベントホールでの2DAYSライブへの意気込みを聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 山崎玲士

レコーディング3日目のスタジオにて

──レコーディングは3日目と伺っていますが、順調に進んでいますか?

たちばなテツヤ(Dr) 超順調ですね。レコーディングに入る前はけっこう難しく捉えていて「この日程で終わるかな」と思っていたんですが、やってみたらすごく順調に進んで。なんとかなりそうだね。

「THE PRIMALS - Beyond the Shadow」をレコーディング中のTHE PRIMALS。

「THE PRIMALS - Beyond the Shadow」をレコーディング中のTHE PRIMALS。

「THE PRIMALS - Beyond the Shadow」をレコーディング中のTHE PRIMALS。

「THE PRIMALS - Beyond the Shadow」をレコーディング中のTHE PRIMALS。

GUNN(G) 僕もレコーディング前は不安な気持ちもありましたが、プレイヤーとして信頼している方ばかりなので、なんとかなるだろうとは思っていて。これまで何度か朝まで録り続けるようなこともあったから、今回もそうなるかなと思ってたんですが、今回はそんなこともなく。順調にレコーディング最終日を迎えられました。

祖堅正慶(G, Vo) いつものレコーディングではけっこう紆余曲折してゴールに向かうことが多いんですが、今回はみんなの見ている方向が同じ感覚があって。「シンプルなほうがTHE PRIMALSっぽいよね!」というのがみんなの共通認識としてあるような感じ。意見をぶつけ合うんじゃなくて、ポジティブな改良点を出し合って「それいいね」とゴールに向かえているので、すごくスムーズにレコーディングをやれています。

イワイエイキチ(B) ここまでは順調なんですが、今日録る最後の1曲が心配ですね。僕はまだ何を演奏するか決まっていなくて……。

──先ほど音出しのときにイワイさんがベースではない楽器を手にしていて驚きました。

イワイ そうなんです(笑)。

祖堅 その話はあとにしましょう(笑)。

──コージさんは今日からレコーディングに参加すると伺いました。

マイケル・クリストファー・コージ・フォックス(Vo) はい。今回のミニアルバムでは僕が歌う曲がそんなに多くないので、僕は最後の1日だけ合流です。

マイケル・クリストファー・コージ・フォックス(Vo)

マイケル・クリストファー・コージ・フォックス(Vo)

祖堅 コージはもともと開発スタッフであり生粋のボーカリストではないので、全力で歌うと2回くらいで声が枯れちゃうからね。最終日に合流して短期集中で録ってもらうことにしました。

コージ 全力で歌ってようやく皆さんのレベルに追いつけるかどうかなので(笑)。がんばります!

いじりすぎずTHE PRIMALSのカラーを出す

──では選曲について伺います。祖堅さんは「FF14」の音楽担当として数多くの楽曲を生み出していますが、なぜ「知恵の巻貝 ~オールド・シャーレアン:夜~ (Acoustic Version)」「Flow Together」「Close in the Distance」「此処に獅子あり ~万魔殿パンデモニウム:辺獄編~」の4曲をTHE PRIMALSとして演奏することにしたんですか?

祖堅 ゲームをプレイしていてヒカセン(「FF14」のプレイヤーを表す「光の戦士たち」の略称)たちの印象に残っているであろう曲を選びました。THE PRIMALSにはロックなボス曲をガチャガチャ演奏するイメージがあると思うんですが、今回はわりとドラマチックというか、大人っぽい落ち着いた曲を選んでいます。

──“大人っぽい楽曲”をTHE PRIMALSで演奏するときに気を遣ったことは?

GUNN いつものことではありますが、プレイヤーの方々にはすでに定着している曲を僕らがアレンジするわけなので「いじりすぎない」というのは意識しました。ただ“いじりすぎずにTHE PRIMALSのカラーを出す”というのがけっこう難しくて。祖堅くんと話をしていく中で「そこまではやめたほうがいい」みたいな話になることはよくあるんです。そのあたりの軌道修正は適宜話し合いながらアレンジしています。今作4曲のメインのアレンジャーは僕ですが、実際に皆さんに演奏してもらうといろんなアイデアが出てくるし、生演奏ならではの迫力も出てくるので、そこを期待したデモ作りをしていて。その期待がいい意味で形になっている手応えがありますね。

──ここまでのレコーディングで苦戦した曲はありましたか?

祖堅 「Flow Together」は難しかったですね。昨日1日かけちゃいましたから。原曲はすべて僕が作っているんですが、そもそも原曲を作るときは鍵盤を使って打ち込みで制作を進めているので、生で演奏することなんて考えていないんですよ。だから今回ギターを手にして弾いてみようと思ったら、コードの展開がすさまじくて指がこんがらがっちゃって。

祖堅正慶(G, Vo)

祖堅正慶(G, Vo)

GUNN 曲を作ったのにコード押さえられないことある?とか言いながら、僕と祖堅くんでコードを整理するところから始めました。

イワイ ベースもやたらと動くんだよね。何してくれてんだよ!って感じ(笑)。

祖堅 でもちゃんと弾いてくれるじゃないですか(笑)。

たちばな 「Flow Together」はGUNNさんが作ったデモの段階でドラムのアレンジが完成しているイメージがあって。僕がやったのは生で演奏したときにどういう着地になるかをちょっと考えるくらいだったから、比較的シンプルになったかな。シンプルだけど、しっかり聴きどころがあるような大人のアレンジになってると思います。

祖堅 我々ももう大人(おじさん)だしね(笑)。

GUNN 演奏におけるタッチの力加減とか、そういう細かいところにすごく気を遣った1曲でもあります。さらっと弾いているように聞こえるけど、実はすごく難解なことをやっていて、「THE PRIMALSのコピーやろうぜ」と言って、この曲を真面目にやろうとしたらめちゃくちゃ難しいと思う。

──「Flow Together」は「FF14」のゲーム内でものすごく重要なシーンで流れる楽曲でもあります。ライブで披露される際の演出も気になるところですよね。

祖堅 もちろんいろいろ考えています。ただ普通に演奏するだけじゃない予定なので、ヒカセンのみんなには楽しみにしてほしいですね。

「大人なアレンジ」は今作のキーワード

──「Close in the Distance」も“大人なアレンジ”を感じさせる1曲ですよね。

GUNN 歌をしっかり出したかったので、何を加えて何を引くか、そこに意識を注いだアレンジでしたね。

祖堅 この曲はドラムがすごくカッコいい。

たちばな 申し訳ない話ですが、珍しくGUNNさんのデモにダメ出しをしてしまいまして。「これは行きすぎてるよ!」って。なのでデモのドラムよりはちょっと抑えた感じ。大人のロックになりましたね。

GUNN ドラムに関して言うと、パソコン上で打ち込んだものと生で演奏するものとでかなり差が生まれるものだと感じていて。一旦「こういう雰囲気で……」というのを受け取っていただいたというか。

GUNN(G)

GUNN(G)

たちばな 十分理解しております(笑)。

GUNN ありがとうございます。その節はお世話になりました(笑)。

祖堅 確かに「大人なアレンジ」「大人のロック」というのは今回のミニアルバムのキーワードかもしれないですね。今までのTHE PRIMALSの曲は「イエーイ! 盛り上がろうぜ!」みたいな勢いのある曲ばかりだったけど、今回はベテランが奏でるロックの醍醐味みたいなものが感じられるサウンドが多い。

たちばな 激しいばかりじゃないというか、もう激しくできないというか(笑)。

イワイ それは言っちゃいけないよ。

一同 (笑)。

THE PRIMALSはリズム隊がメイン

──これまでのTHE PRIMALSのインタビューでは、祖堅さんがゲーマー視点で「このアレンジはやりすぎ」という軌道修正をすると話していたので、今回はたちばなさんから「やりすぎ」という言葉が出ているのが意外でした。

祖堅 確かに。今までとちょっと違う形で意見を出し合えているかもしれないですね。

たちばな 僕の場合はゲーマーの視点ではないけど、曲が求めるリズムがわかる感覚があって。今回は激しめにいく曲が少ないと感じたので、アレンジも落ち着いたところを目指した形ですね。

祖堅 いつもだったら「ここはもうちょっといこう」みたいに、アレンジを激しくする提案がバンバン出るんですよ。でも今回は「もうちょっとここは渋みを出そう」みたいな方向にすることが多かったですね。

──選曲をしている時点で祖堅さんには今作が「大人なロック」になるイメージがあったんじゃないですか?

祖堅 うん。ガチャガチャしていない、素直なサウンドのTHE PRIMALSを試してみたかったんですよね。実はジャケ写も第1稿はもっとにぎやかなアートワークだったんですが、レコーディング前の段階できっと落ち着いたアレンジになるであろうことは想定できていて。ちょっとシックなアートワークに変更してもらいました。

GUNN 僕と祖堅くんでアレンジの方向性を揉んではいるけど、実際にここまで大人なアレンジに舵を切れたのはリズム隊の2人がその期待に応えてくれたから、という側面は強いと思います。

祖堅 正直に言うとTHE PRIMALSはリズム隊の2人がメインで、僕とGUNNさんのギターをどう乗せるかはわりとなんでもいいんですよ。

GUNN うん。僕は何もしてないようなものですから。

たちばな いやいや、そんなことはないでしょ(笑)。

イワイ ドラムのOKが出てから最終的なノリを決めるのがベースの役割になることが多くて。まあ今回は祖堅くんの無茶振りがなかった分、やりやすいほうだったかな。

イワイエイキチ(B)

イワイエイキチ(B)

──リズム隊のお二人、たちばなさんとイワイさんはお互いのプレイヤーとしての印象をどう捉えていますか?

祖堅 そういえばこれまでしたことなかったね、こういう話。

たちばな そもそも歳が近いんですよ。3歳差くらいで。僕の印象としてイワイくんはすごく“ベースが達者な人”ですね。達者にもいろんな意味があると思うんですが、年齢を重ねていくと1つのカテゴリーのさらに狭いところを極めていく人が多くて。イワイくんはその側面がありつつ、いろんな幅もあるプレイができるから素晴らしいベーシストだと思っていつも一緒にやっています。褒めたぞ?(笑)

たちばなテツヤ(Dr)

たちばなテツヤ(Dr)

イワイ ありがとうございます(笑)。印象かあ……こんなフルパワーで叩き続けられるドラマーは日本にいないだろうなと思っています。

たちばな この歳ではいないかもしれないですね。でももうあと3年くらいしかもたないかも。

一同 (笑)。

祖堅 仕事上、いろんなドラマーのプレイを見る機会がありますけど、レコーディングからステージングまで、いわゆるドラムをぶっ叩いてる人って、僕はテツさん以外見たことなくて。例えばコントロールルームからテツさんのプレイを見てると気持ちがアガるんですよ。それはもちろんライブでも一緒で、テツさんの容赦ないプレイが僕らを鼓舞するんですよね。

たちばな うれしいですね(笑)。

イワイ でもパワーだけじゃなくて、いろんなプレイができるじゃない。そこに関してはお互いの印象が一緒かもね。

たちばな 歳をとればどうしたってバリエーションは増えていくし、弱く叩くことも覚える。それと若いときは嫌うようなプレイも、歳をとると自然に受け入れられるようになって。そういうところも踏まえて楽しめるようになってきたところはお互いあるかもしれないですね。