空虚感の中に何かあるという考えすらも終わったポスト・ポストモダンみたいな世界にいる影響はあると思いますか?
──お二人は年齢が3つ違いますが、表現者として同世代感を感じていらっしゃいますか?
ヤマトパンクス おこがましいですが、僕は一緒に時代を作る仲間だと思っています。と言っても、例えばNirvanaみたいなグランジが興隆したことで、メタルが下火になって、みたいな英雄史観に立つ意味の時代じゃなくて。東京タワーを作ることだけが東京を作ることじゃないというか、そこらへんのプレハブを建てることだって、もっと推し進めて言えば、大阪の通天閣を管理することだって回り回って東京を作ることだと思うんです。それと同じように、20代、30代、40代、あるいは80代でも同じ時代を共有している時点で時代の共同制作者という意味で仲間だと思っていて、ましてや趣味や表現したいことまで似ているとなると、これはもう仲間以外の何物でもないと思う。僕は魚豊くんのことを尊敬しているし尊重したいと思っています。尊重もされたいし(笑)。
魚豊 ありがとうございます。尊重めっちゃしてます。それと、超、急にダルい質問になっちゃうかもしれないので恐縮なんですけど、ポストモダンの影響というか、今やそれすら古い言葉ですが、大きな物語全部が崩壊したあとの虚無の中に生きているというところの影響はヤマトさんには……。
ヤマトパンクス 突っ走り始めたな(笑)。
魚豊 (笑)。今は、終わってるという空虚感の中にこそ何かあるんじゃないかという考えすらも過去のものというか、ポスト・ポストモダンみたいな世界で、その「何もねえよ」っていう虚無感が当たり前になってる。そういう世の中にいる影響は、意識的にせよ無意識的にせよ、あると思いますか?
ヤマトパンクス え……何?
魚豊 いや、確かに僕が同じ質問されてもそう言うと思います(笑)。でも僕は生まれたときから、それこそ世の風潮が「今後はずっと虚無の時代だ」って言ってるような気がして、でも本当にそうなのかな。みたいな思いがあって。そこら辺はどういうアティテュードで作品を制作してますか?
ヤマトパンクス ちょっとズレてる上にベタな回答かもしれないけど、太古の時代から常に「俺たちは恵まれてないよな」って考え自体はあったと思うんですよ。どんな世代もその少し上の世代から「今の若造はダメだ」って言われてきたんだろうし、下の世代からは「もうお前らおっさんの時代じゃねえよ」って言われ続けてきたんだと思っていて。たぶん僕たちが死んだあとにも、そういうことをずっと続けていくのが人間だと思うし。でも、僕たちは恵まれてないみたいな意見を持ち続けること自体は必要だと思うんです。というより、悲観という感情が人間に必要ない機能なんであればペシミズムなんてどう見ても自然界の生存戦略上めちゃくちゃ邪魔なんだからペシミストは進化過程で淘汰されているはずだし。僕は別に悲観を批判するわけでもないし肯定するわけでもなくて、どこでどういう働きをしてるのか知らないけどとりあえず人間というプラモデルを作るときにパーツとして同梱されてるネジというか、多分必要で、かつ、ただそこにあるだけ、っていう感覚で捉えてる。さっきも言ったけど我々は常にポスト悲観のポスト悲観のポスト悲観の……みたいな悲観の中を生きていかなきゃいけないわけで、そして今は僕たちの番で、一緒に次の時代に行きましょうよ、と。もちろん次の時代もやっぱりダメで、カスで、クソだろうけど、とりあえず明日もう1回太陽が昇ってくるまで毛布を被ってましょうよ、って感じで僕は生きているので。それは無責任というわけじゃなくて……まあ無責任かもしれないけど。どっちなんだ?と考え続けるのが楽しいんじゃないの?と思ってる。天国ってあるのかな?とか、エヴァンゲリオンに乗りたいなと思ったりとか。答えになってないかもしれないけど(笑)。
積み重ねたものを最後に爆破
──あははは。逆にヤマトさんから聞いてみたいことはありますか?
ヤマトパンクス それだけ音楽が好きなんだったら、なぜ音楽をやらなかったんですか?
魚豊 考えたことなかったです。音楽の授業でも歌や楽器が下手だから、音楽やろうって意思がよぎりもしなかった(笑)。僕からは、ヤマトさんが影響を受けたものも聞きたいです。それこそMVとかアートワーク方面を聞いてみたいですね。
ヤマトパンクス 今回のアルバムジャケット画像は、「涼宮ハルヒ」シリーズのSOS団のロゴのオマージュなんですよ。作中だと何百ペタバイトの情報量を持ったハイパーリンクで、それが異次元への扉になっちゃう、って設定になってるんですけど、今回のアルバムも音を重ねすぎて容量がオーバーして2枚組になったっていう経緯があるので、そこに引っかけてみようかと。それと俺のソロのミニアルバムのタイトルは「衛星都市計画」なんですけど、ジャケットに「第一次中間報告」と書いてあるのは「人類補完計画」の書類のオマージュ。結局、自分の作品はセカイ系みたいな物になっちゃってるのかなという恥ずかしさはありますね(笑)。魚豊さんはどんなものに影響を受けているんですか?
魚豊 うーん。それこそ「チ。」はニーチェとかに影響を受けているかもしれないです。
ヤマトパンクス なんかいいな……俺もそんなの言いたい(笑)。
魚豊 あ、恥ず。イキったわ。というか普通に「カイジ」にめっちゃ影響を受けています(笑)。
ヤマトパンクス だいぶ変わったな(笑)。ちなみに大学では何を専攻していたんですか?
魚豊 2年で辞めたので卒論すら書いてないですけど、大学は哲学科で、カントの「美と崇高との感情性に関する観察」と恐怖を結びつける何かを書こうとしてました。ヤマトさんは民俗学で論文を書いたって前におっしゃってましたよね?
ヤマトパンクス 民俗学も書いたし、卒論はヴィトゲンシュタインで書きました。「論理哲学論考」じゃなくて「哲学探究」のほうで。ほとんど提出当日に書いたんですよ。前日の日付変わる頃から当日の晩までかけて。
魚豊 それで通るんですね(笑)。
ヤマトパンクス 早く大学から出て行ってほしかったんだと思います。7年生だったから(笑)。
魚豊 確かにヴィトゲンもセカイ系っぽいですしね。ヴィトゲンはざっくり言うと言葉を分析した人ですが、PKも言葉に対するオブセッションというか拘りというか、興味が過剰なところがありますよね。ジャケットの文字化けとかも面白いし、あまり見たことがないなと。
ヤマトパンクス けっこうこだわって書いた歌詞やタイトルを文字化けさせるのが好きで。もうちょっとくだけて言うと、丁寧に積み重ねたものを最後にドカーンって爆破するのが好きなんです。大学で散々国文学とかやったのに卒業式の打ち上げでは酔って「あげぽよーー!!!!」しか言わない、みたいな(笑)。
魚豊 ヴィトゲンも「論理哲学論考」を書いて、全部完成させたあと「全部間違ってたーあげぽよ」みたいな感じで「哲学探究」を出しましたよね。全然詳しく知りませんが(笑)。ヤマトさんも最後全部文字化けさせて、「もう何もわからない……」ってところまでいくので、そこ、ヴィトゲン感がありますね(笑)。
あなたにとって星とは?
──ハイレベルな対談になってきました。最後どういう締め方がいいのか、わからなくなってきました(笑)。
ヤマトパンクス 昨日飲みながら、なんか締めの質問とか考えといたほうがいいんじゃない?ってマネージャーに言われたんです。そのときは「あなたにとって星とは?」とか、ふざけて言ってたんですけど(笑)。
魚豊 星ってガス状の粒子が重なって生まれる超偶然性と、ガス同士が万有引力で引かれ合って生まれる必然性を兼ね備えているんですよね。そのアンビバレントな感じも含めて面白いなと思うんです。
ヤマトパンクス 漠然と「面白いもの」って感じ?
魚豊 そう、この世をオモロくしたものって感じですね。どうですか、星は?
ヤマトパンクス 星、スター……僕のことでしょう!
魚豊 これで落ちたんじゃないでしょうか(笑)。
ライブ情報
1st Full Album「PK shampoo.wav」Release Tour "PK shampoo.tour 2022"
- 2021年1月15日(土)北海道 BESSIE HALL
- 2021年1月23日(日)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2021年2月10日(木)東京都 LIQUID ROOM
- 2021年2月12日(土)新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
- 2021年2月13日(日)石川県 金沢GOLD CREEK
- 2021年2月18日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2021年2月20日(日)宮城県 enn 2nd
- 2021年2月26日(土)福岡県 DRUM Be-1
- 2021年2月27日(日)広島県 HIROSHIMA 4.14
- 2021年3月5日(土)京都府 磔磔
- 2021年3月13日(日)香川県 DIME
- 2021年3月21日(月・祝)大阪府 BIGCAT
- 2021年4月9日(土)沖縄県 Output
プロフィール
PK shampoo(ピーケーシャンプー)
ヤマトパンクス(Vo, G)、福島カイト(G)、西岡ケンタロウ(B)、カズキ(Dr)の4人組ロックバンド。2018年3月に大阪、京都を拠点に活動を開始し、精力的にライブを行う。2019年に1stシングル「Kiseki」、2020年に2ndシングル「新世界望遠圧縮」を発表。2021年に1stフルアルバム「PK shampoo.wav」をリリースした。
魚豊(ウオト)
東京都出身のマンガ家。2018年11月から2019年8月にかけて、「マガジンポケット」で「ひゃくえむ。」を連載し、2020年に「ビッグコミックスピリッツ」で「チ。-地球の運動について-」の連載を開始した。「チ。」は「マンガ大賞2021」で第2位、「次にくるマンガ大賞2021」でコミックス部門第10位、「このマンガがすごい! 2022 オトコ編」で第2位にランクイン。シリーズ累計発行部数は160万部を突破している。最新第6集は12月28日頃発売予定。