逃げ出さなくなった
──「ちっぽけな夜明け」は絞り出したというか、えぐり出したというか、自分を表に出す勇気や恐怖と戦って作った作品だったと思うんです。でもこの「弱虫のうた」はもっとラフというか、さらっと出している感じがする。まるで日記のような側面があって、当たり前に「これ私です」と差し出されている印象なんですよ。
そうですね。ちゃんと自分からスルッと出た歌詞ではあります。そんなに悩みすぎずできましたね。もちろん歌詞を工夫するために時間がかかったり、歌のはめ方やメロディはすごく考えましたけど、朝の4時5時まで泣きながら、頭かきむしってできた「ちっぽけな夜明け」とは違いましたね。いっぱいライブをやって感じたこととか、今の気持ちを書いて、前向きな気持ちではあるなと思います。
──アユニさんはBiSHのときから、歌詞を書くときは常に「自分は弱い」「ちっぽけだ」ということを歌い続けてきて、それがデフォルトだったと思うんです。そういう意味では「弱虫のうた」も同じですけど、そのことをどう捉えるかが全然違うんですよね。めちゃくちゃ肯定的というか、それを受け入れたうえで、「でもここから変わっていくから」と前を向いている感じがあるなと。
そこは「逃げ出さなくなった」というのが大きいですね。私は卑怯だし、すぐ隠すし、宝の持ち腐れみたいなのがすごくあったんです。人からもらった優しさだったりカッコよさだったりっていうのを、自分の中だけに閉じ込めちゃう癖があった。そのくせ、自分にはもっと特別なことができると思い込んでたんですよね。でもいざ独り立ちしてみて、自分は選ばれし者でもなんでもないと知って……。ただ、自分が好きなものとか夢中になれるものに対して、特別に時間をかけて、特別にたくさん愛して大切にしていくということは、自分にもできると思って。それからは、弱虫の部分、マイナスな部分をちゃんと強みに変えていこうという意識が強くなったかもしれないですね。見て見ぬふりしてがんばるというよりは、弱い部分も磨いて、できなかったことをやっていけるようになったら、もっと「いいやつ」になれるんじゃないか、みたいな。そうすれば普通に生きるのが楽になるんじゃないか、死にたいと思う回数が減るんじゃないかと思って、前向きに捉えるようになった。それは大きいかもしれないです。
ちょっとずつ、正々堂々と
──今おっしゃっていた「いいやつ」って、アユニさんにとってはどういう人ですか?
後ろめたさがなく、正々堂々と生きていける「気持ちのいいやつ」ですね。例えばツアー中の移動の新幹線って、だいたいバンドメンバーやスタッフさんと横並びの席なんですよ。でも今までの私だったら、朝ちょっと早く駅に行って勝手に席を変えて、別のところに座るみたいなことをずっとやってきてたんです。でもそういうことをやめようって。嫌じゃないですか。相手に「私の隣、嫌なのかな」って思わせてるかもしれないし、私が遅刻しても気付かれなくて、トラブルになっちゃうかもしれない。だから席を替えないとか、お弁当を食べるときに1人でコソコソ食べない、一緒に「いただきます」してしゃべりながら食べてみるとか。そういう「できなかったこと」をできるようにしていく中で、ちょっとずつ正々堂々と生きていけるようになってくる。そんな1日1日を繰り返して……そうすると、自己満なのかもしれないですけど、気分よく生きていけるようになってきたんです。
──つまり「社会人としてちゃんとしなきゃ」みたいなことではなく、「そっちのほうが正々堂々と生きられる感じがするからそうしたい」ということですよね。昔はそういう思いはなかった?
なかったですね。「自分一人で勝手に行動してもいいじゃん、誰にも別に迷惑かけてないし」とか思ってたんですけど、普通に迷惑だし(笑)、やらないほうが絶対にいいなって。些細なコミュニケーションを避けることによって、大事な人との間に亀裂がどんどん入っていくことに気付かせてもらえたので、「人を大事に、やるべきことをやろう」という単純なことを、ようやくやり出したっていうか。
「やる」って選択肢しかないよね
──その先で生まれた「弱虫のうた」は、「さあ始めよう」と歌っている通り、アユニ・Dの新たなスタートラインを示す曲だと思います。スタートがあるということは当然ゴールもあるわけですけど、ここから目指す場所というのはどういうところなんですか?
「誰もやったことないことをして、誰もやったことのない場所に行きたい」とは、やっぱり常に思ってます。でも「ちっぽけな夜明け」と「弱虫のうた」の制作を経て今、一番大事にしたいと思っているのは、知らないことを知っていく素晴らしさや豊かさを、まだ感じたことない人にも伝えたいということです。きっと生きていくこと自体、死ぬまで「知らないことをしていくこと」の繰り返しだと思うし、そこで傷付いたり喜んだりしていくのが、自分にとっての革命を起こすきっかけになるんじゃないかと思うんです。「弱虫のうた」の歌詞でも、これまでだったら「今こそじゃんか!」なんて言わなかったと思うんです。「別にやりたいと思ったらやれば? 別に私は関与しないし」とか思ってたんですけど、せっかく表現者という立場でいる以上、誰かの勇気になれたらいいし、ライブに来てくれた人には、直接向き合える生身が一番だなって体験を味わってほしいし。たくさんの人に、それを味わってもらって忘れないでほしいなと。そういうことを伝えられるアーティストになりたいなと思います。
──今、「誰もやったことのないことをやりたい」と言っていましたけど、そういう考えは今までもアユニさんの中にあったと思うんです。でも、じゃあなんで誰もやったことないことをやりたいのかという、その理由が変わったんじゃないでしょうか。前はもっととがっていたというか……。
確かに! ただ目立ちたいとか、そういうことだった気がします。
──そう、人と同じになりたくない、違う方向に行きたいという意味だったと思うんです。でも今は違いますよね。
人に面白い体験をしてもらいたいとか、そういう感じ。自分がそうさせてもらってる人生だったから、自分もそれをやれる人間になりたいって思うんですよね。
──この曲の歌詞に「人生は / 一度きり / やり直し / し放題」という言葉がありますけど、これ、すごくいいですよね。
ありがとうございます。「法に触れること以外は好き勝手やっていいよ」とかよく言いますけど……私はあったことを忘れちゃうのがあまり好きじゃないんですけど、引きずりすぎないで、それを糧にしてちゃんと前に進んでいくと、楽しいじゃないですか。「あのとき恥ずかしくて好きな子に気持ち伝えられなかったな」みたいな、そういう10代だったんで、同じような気持ちを、これから何十年も味わいたくないし。昔は人生一度きりだからダサいことできない、だから失敗したくない、怖い、挑戦するのはやめようとなってたんですけど、衝動も欲望も抑えきれないし、気持ちを隠したってバレるし。なら「やる」という選択肢しかないよねって、今は思っています。
公演情報
PEDRO TOUR 2026「ROCK STEP JUMP TOUR」
- 2026年4月9日(木)愛知県 NAGOYA CLUB QUATTRO
<出演者>
PEDRO / KOTORI - 2026年4月15日(水)東京都 東京キネマ倶楽部
<出演者>
PEDRO / ドミコ / and more - 2026年5月8日(金)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
<出演者>
PEDRO / My Hair is Bad - 2026年5月14日(木)神奈川県 CLUB CITTA'
<出演者>
PEDRO / ART-SCHOOL / ZAZEN BOYS - 2026年5月20日(水)宮城県 仙台Rensa
<出演者>
PEDRO / and more
プロフィール
PEDRO(ペドロ)
2023年に解散した“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー、アユニ・Dによるバンドプロジェクト。ベースボーカルに加え、作詞作曲も自らが担当している。アユニが紡ぐ詞の世界観や、聴く人の背中をそっと支えてくれるような楽曲、魂を削るように熱を発するライブパフォーマンスがファンの心をつかむ。2023年に行った東京・日本武道館2DAYSのチケットは即日完売。「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「COUNTDOWN JAPAN」「RISING SUN ROCK FESTIVAL」「ARABAKI ROCK FEST.」など全国のロックフェスにも多数出演し、注目されている。2026年3月に新曲「弱虫のうた」を配信リリース。4月から対バンツアー「ROCK STEP JUMP TOUR」を行う。
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