パク・ユチョンが2024年12月18日にミニアルバム「Where I Walk」をリリースし、ソロアーティストとして日本デビューを果たした。
元東方神起、元JYJのメンバーとして活躍し、K-POP界のレジェンドと称される一方、多難なキャリアを歩んできたユチョン。長い沈黙を経て日本でのソロデビューに至った彼は、音楽ナタリーとのインタビューで「僕はただただ必死でした」と柔らかい声色で自身のキャリアを振り返る。本特集では、ユチョンの日本デビュー作に込めた思いを掘り下げつつ、グループとしてのデビューから現在に至るまでの彼の心境にも迫った。
取材・文 / 宮崎敬太
10年以上ぶりのインタビュー
……こんなふうにインタビューを受けるのは本当にひさしぶりです。
──最後にインタビューを受けたのはいつ頃ですか?
ちょっと思い出せないくらい前だと思います(笑)。そもそもインタビューって作品を出したときに受けるものじゃないですか。2020年に韓国で「RE mind Mini Album」を出したけど、今回の「Where I Walk」は日本で初めて発表するソロアルバムなんです。だから日本でインタビューを受けるのは10年以上ぶりかもしれません。
──自分もインタビュアーとして責任重大です。
いえいえ、そんなことないです。今回は取材しに来てくださって本当にありがとうございます。
──日本でのソロデビューは、いつ頃スタートしたプロジェクトなのでしょうか?
プロジェクトは去年の11月後半か年末くらいに立ち上がりました。僕としてはずっと日本で活動したかったのですが、いろいろあって時間がかかってしまったんです。(所属事務所の)Kizuna Entertainment Worldの皆さんがたくさん手伝ってくださったので、今回のミニアルバムを作ることができたし、日本でも活動できるようになりました。みんなで仕事をできることが本当にうれしい。たくさん助けてもらったので、これからは僕が皆さんを助けられるようになりたいです。
──今はどんな心境ですか?
「ようやく日本で活動できる」というのが素直な気持ち。実は去年より前から日本でソロ活動できるように挑戦してはいたんです。ただいろんなタイミングが噛み合わず。だから今こうして取材を受けることで「本当に動き出すんだ」と実感しているところ(笑)。もちろん不安もちょっとあります。
──と言うと?
このアルバムを皆さんが聴いて、どういう気分になるかなって。心配でもあり、わかっていただけるんじゃないか、という期待感もあり。メールやInstagramのDMでファンの方々からたくさんメッセージをいただくんです。そういうのを読むと、僕の気持ちをわかってくださっている感覚があるんです。すごく幸せな気持ちになります。
──不安よりも期待感が強い?
どちらとも言えないです。だって僕が日本で作品を出すのは本当にひさしぶりじゃないですか。JYJのアルバム「The…」だって2011年のリリースですからね。あと、そもそも僕1人の声でもいいのかなって心配もありました。歌ってない期間も長かったから、前より歌は下手くそになってるかもしれない(笑)。だから本当に「大丈夫なのかな」という気持ちは簡単にはなくならないですね。
できるだけまっすぐに、ちゃんと応えるように
──「Where I Walk」というタイトルに込めた思いを教えてください。
ストレートに「日本でアーティストとして順調に歩んでいきたい」という気持ちがあります。なのでタイトルには「僕がどこを目指すときもファンの皆さんと一緒に歩きたい」という思いが込められています。あと、僕の中にはずっと、日本の街並みを1人で歩いてみたいという気持ちがあって。この作品を出すことで、それも実現できそうだなって。
──ユチョンさんにとって日本とはどんな場所なのでしょうか?
なんというか、日本に来ると心が休まるんですよ。あと、懐かしい感覚がよみがえる。僕は韓国で生まれたあと、幼少期をアメリカで過ごし、韓国で歌手デビューして、その後、日本でも歌手デビューをしました。それがもう20年くらい前。東京だけじゃなく、どの土地に行っても感じますね。
──韓国の歌手の方が日本に来ると、“顔バレ率”が低いというだけでだいぶリラックスできるとおっしゃりますね。
それもあるし、僕の場合は家に帰ってきた感覚になりますね。この感情をうまく言葉にできないんです。自分でもよくわからない。会いたい気持ちになるし、懐かしい気持ちにもなる。日本にいると幸せです。
──ユチョンさんにとっていい思い出がたくさんある?
それは間違いないですね。いい思い出は本当にたくさんあります。
──1曲目の「時計」にはそんなユチョンさんの気持ちが歌詞に落とし込まれていますね。
最初にこの歌詞を読んだとき、感動しました。皆さんはどう思うかな。でも「時計」はまさに僕の気持ちそのものだから、伝わってくれたらうれしいですね。
──ユチョンさんから作詞家さんに何かオーダーをしたんですか?
僕だけでなく、チームのみんなと相談しました。収録曲はすべて僕ひとりではなく、チームとして作り上げた楽曲たちです。
──歌詞に込められた感情を歌で表現するためにどんなことを意識しましたか?
「時計」の最後のサビにある「真っ直ぐな愛をありがとう 二度とこんな日が来るとは思えず過ごしてきた 真っ直ぐな愛でこたえよう そばにいる今が かけがえのない 守り抜きたい奇跡」というフレーズが大好きです。特に「真っ直ぐな愛でこたえよう」という言葉通りの気分で歌いました。できるだけまっすぐに、皆さんからの愛にちゃんと答えたいと言いますか。
──レコーディング自体もひさしぶりだったんですか?
はい。
──では準備もかなり大変だったのでは?
準備はそこまでじゃなかったんですが、レコーディング当日は「ああ、この感じはひさしぶりだな」と思いましたね。しかも今回は日本でレコーディングしたので、スタッフや関係者がいっぱいいらして。昔は全然平気だったんですけど、今回そういう状況に置かれて「あ、僕は日本デビューに向けて、今レコーディングしてるんだ」と再確認させられたし、身が引き締まる思いでした。
──日本のK-POPファンからするとユチョンさんは伝説的な存在なので、そういう人間くさいエピソードが聞けてうれしいです。
僕は普通の人間ですよ(笑)。
──大サビ以外だと歌唱面ではどんな工夫をしましたか?
ひさしぶりの歌唱だったので、自分の声を見つけるのに最初は時間がかかりましたね。
──「自分の声」というのは、ユチョンさんの中にある“歌に最適な声”?
そうです。どういう声でどう歌うか。
影があるなら光も少しだけ残っている
──「時計」の韓国語バージョンはユチョンさんが作詞されたそうですね。
韓国語は読めますか?
──恥ずかしながらハングルは読めないんです……。
いえいえ。全体的な意味は一緒なんです。けど、ただの翻訳じゃつまらないし、韓国語の歌詞には僕なりのニュアンスをちょっと付け加えてみたくて。これが本当に難しかったです。歌い出しの「늦은밤 가끔 뒤척이는 이유」から始まるブロックと、次の「얼마나 기울어진 빛이어야」と「지금 너에게 닿을수 있을까?」の2行を書くのに2週間もかかってしまいました。普段の作詞はかなり早いほうなんですが。
──それくらい思い入れのある曲ということですね。
自分でもなんでこんなに時間がかかったかわからないんですよ。書いてはボツにして……を繰り返して、最初の2行が出てくるまでは1週間もかかりました。自分の素直な気持ちを正確に表現しつつ、歌詞として成立させることがなかなかできなかったんです。全然うまく着地できなくて。
──特にこだわった表現はありますか?
「아직 남겨진 희미한 그림자」の部分ですね。直訳すると「まだ残された薄暗い影」。「影があるなら光も少しだけ残っている」、そんな想像をしながら書きました。僕の中には影がある。だからこそ光もあるはず。この歌詞は、ずっと僕を待っていてくれたファンの皆さん、そしていつもサポートしてくださるスタッフの皆さんのことを思いながら書きました。
──日本語バージョンとテーマは同じでも表現自体はかなりユチョンさんの言葉になってるんですね。
はい。「光がどれほど傾いて僕を覆うと、その影が皆さんまで届くだろうか」という言い方をしてます。
──ユチョンさんのファンの皆さんは韓国語が堪能な方も多いでしょうから、きっとしっかり思いを受け止めてくれると思います。
早く皆さんの前で歌いたいです。
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がんばりは未来につながります