2016年よりソロ名義で弾き語りツアーを行っている小山田壮平。今年は映画「#ハンド全力」に主題歌「OH MY GOD」を書き下ろし提供するなど、精力的に活動を行っている。そんな中で届けられた初のソロアルバム「THE TRAVELING LIFE」は“旅”をテーマにした作品で、聴き進めていくうちにまるで目の前の景色が移り変わって行くような色とりどりの12曲が収録されている。
音楽ナタリーでは小山田に初のソロインタビューを行い、アルバムの制作背景やミュージシャンとしての思考を解き明かす。
取材・文 / 小野島大 撮影 / Susie
「ここがいいよね」という部分を分かり合える人たち
──新型コロナウイルスの影響で今年は大変な状況ですが、アルバムの制作工程はいかがでしたか?
去年の8月に福岡に引っ越しまして、それからツアーに行っているうちにコロナが広がってこういう状況になったんです。そこから自粛期間に入って、4月ぐらいからレコーディングが始まって。あたふたしながらも、なんとかできあがりました。
──4月からレコーディングということは、楽曲そのものにはコロナの状況はあまり影響していないということですね。
そうですね。曲自体はできあがっていましたので。
──ご自宅で自粛生活をされていた中で、生活や音楽活動などに影響はありましたか?
お酒が好きで、以前はかなり飲みに行っていたんですけど、それがなくなって健康的になったなと(笑)。レコーディングが始まるとレコーディングのことで頭がいっぱいになっちゃうので、コロナの影響で友達が大変だとか、いつも飲んでる店がつぶれそうだとか、そういうことを耳にして心苦しく思いつつも、自分自身の生活にはそんなに影響はなかったかもしれません。今回のレコーディングも苦しんだは苦しんだんですけど、思い返せばレコーディングが楽だったことは一度もないので、この苦しみはコロナのせいというわけではないかと思います。毎回苦しいです。
──なるほど。レコーディングは福岡で行ったんですか?
今回は伊豆と東京ですね。伊豆のスタジオでリズムとか基本的なものは録って、上モノのレコーディングやミックスは東京のスタジオでやりました。伊豆でのレコーディングは合宿でやったので、そういう意味ではいつもと違いましたね。
──レコーディングとひと言で言ってもいろいろなやり方がありますが、小山田さんの場合はプレイヤーが実際に顔を突き合わせてやるというスタイルなんですか?
そうです。細かいニュアンスを伝えたりというところで考えると、コミュニケーションを取りながらやる形が一番いいのかなと。
──楽曲はどのように持ち込んでいるんですか?
最近はGarageBandを使って、ある程度まで自分で構想して作っていますね。今回のアルバムは2曲ぐらい打ち込みを入れたのかな。でも、ギターとコーラスだけ入った状態でメンバーに渡すことが多いです。
──合宿レコーディングはどんな雰囲気でしたか?
今回のメンバー(濱野夏椰、藤原寛、久富奈良)は3人ともよく見知った仲だから、新しい発見は特になかったんですが、途中で釣りに行ったりしながらすごく仲よくやってました。
──人間性もプレイもよく知っている人と一緒にやって、レコーディングも和やかな雰囲気だったわけですね。
はい、和やかでした。
──過去のレコーディングではピリピリした経験も?
そういうときもありましたね。レコーディングのときというよりも、それ以外の時間もずっと仲が悪かったこともあったので。日中の何時間かを息が詰まるような思いで過ごしながら、それを乗り越えて「ああ、助かった……」という気持ちになることもありました。でもそんな状況でも、音楽が作れないことはないんです。レコーディングをしていたら音楽自体は楽しいし集中しているので、多少嫌だと思う部分があっても楽しさを感じられるんですよ。徐々に曲が仕上がっていく過程だったり。
──それはやっぱり音楽的に信頼し合っているという関係が前提にあるから。
うん、そうですね。音楽的に信頼しているということですよね、それって。
──ほかにメンバーを選ぶときの基準はありますか?
音楽性ももちろん大事ですけど、こうやってソロアルバムを作ろうということになると、自分(小山田)の音楽が好きかどうかというところ。というより、一緒じゃなくてもいいんですけど、音楽的にスイートなポイントを共有できる、「ここがいいよね」という部分を分かり合える人がいいです。
自分は本当に旅が好きなんだな
──キャリア初のソロアルバムということですが、なぜ今のタイミングで作ろうと思われたんですか?
ALというバンドで2枚アルバムを作って、それでひと区切りついた感覚があって。2016年からソロ活動で弾き語りライブをずっとやっていて、2018年に4曲入りのCDを作ったんです。次の年にはバンド編成でソロツアーをやって、そのときにはこのアルバムに入っている曲はかなりそろってる状態でした。アルバムのアイデアが浮かんだのは曲がある程度そろってからですね。
──じゃあ最初にソロライブを始めたときは、ソロアルバムのリリースまではあまり視野になかった?
考えてなかったですね。
──特に発表する機会がなくても、締め切りがなくても、曲は作っちゃうほうですか?
ライブで披露するためという意味はありますけど、放っておいたら曲を作っちゃうほうです。でも、いい形で作品にしたいという思いがあって。やっぱりアルバムというものに対するこだわりはあるのかもしれないです。
──ライブのために曲は作ったけれどそれはアルバムのためではないから、アルバムにするには別のテーマを掲げることが必要になるということですね。
そうなんです。アルバムとしていいものにしたいので、どういうふうにそれを形にするのかということをずっと考えていて。だから曲単体では好きだけど発表できていない曲はたくさんあります。彼らをどうするかということも、常日頃考えてはいるんですけど。
──楽曲は自分の子供みたいなものって言いますよね。
そう言いますよね。子供を持ったことがないのでわからないんですけど。でも子供にしては多作すぎますね(笑)。
──今のお話ですとバンドでのソロライブのあと、しばらくしてからソロアルバムの構想が浮かんできたということですが、そのときはどんな状況だったんでしょう?
2018年12月にインド・ネパール旅行に行ったんですけど、保安検査場を抜けて飛行機に乗り込む前の時間に「新しい旅が始まるんだ」という感覚でものすごくワクワクして。そのときに自分は本当に旅が好きなんだなと実感したんです。実は2018年6月にもインド・ネパール旅行に行っていて、現地にずっと住んでいる日本人のバックパッカーの方たちと2週間ぐらい一緒にいたんです。いろいろな方と出会って、日本に帰ってきてからも彼らのことを思い出していて。彼らにとっては人生が旅なんだなと。自分もあちこち引っ越したりいろんな人と出会ったりしながら思いが変わっていったりする。自分もその人たちと同じように、人生という旅をしてるんだなという気持ちになったんです。あと、同じ時期に方丈記の中の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という一節を思い出して、「人生は仮の宿である」という世界観、その情景がずっと自分の深いところにあったんだなということに気が付いて。主にその3つのことが重なって、こういう感覚を作品にできたらいいなという思いに至ってアルバムを作り始めました。
──普段からよく旅行に行かれるんですか?
コロナでこういう状況になる前は、年1で海外旅行に行っていました。(バンドの)ツアーとかも含めたらけっこういろんな場所にあちこち行っていますね。
──ツアーで回る旅と観光で行く旅の違いはありますか?
あります。ツアーは仕事だからちゃんとしなきゃいけない。でも、あんまり予定を決めないで行く気ままな旅が好きで。そういう旅が一番理想的ですけど、誰かと一緒に行って、ある程度制約を受けながら旅をするのも好きです。その地域のものに出会って触れて、という体験が好きですね。
──小山田さんにとって旅することは日常的なものなのか、それとも非日常的な感覚を求めているのか、どちらですか?
海外旅行には非日常を求めています。でも、このアルバムにおいては“日常も旅である”という感覚も盛り込んでいて。アルバム1枚を通じて旅をしていくような情景を思い浮かべてほしいところもあるんですが、それがそのまま川の流れのような……人生であったり日常の暮らしの中にあるものだったり、そういうものも思い浮かべてもらえたらいいなと思っています。
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“いい歌”の定義