the pillows 30周年記念映画「王様になれ」山中さわおインタビュー│30年間貫いてきた信念や哲学から生まれた、挫折と成長の物語

主人公の名前の元ネタは

──祐介役の岡山天音さんが表情や仕草なども含めて、本当に素晴らしかったです。

映画「王様になれ」のワンシーン。©2019『王様になれ』フィルムパートナーズ

プロデューサーの三宅(はるえ)さんがキャスティングしてくださったんだけど、100点の人がやって来た感じだったな。宣材写真を見て「天音くんにお願いしたい!」と思った。なんか天音くんは若いときの俺に似ててね、髪形もあんなふうだったし。実際よく言われるんだよ、昔の俺を知ってる人に。「似てますね」って。映画で「山中さわお役を演じる」みたいに誤解する人もいたくらいだから(笑)。

──確かに。映画を観ながら「ストレンジ カメレオン」のミュージックビデオを思い出したりもしました。岡山さんは「純平、考え直せ」(the pillowsの「眩しい闇のメロディー」が主題歌となった2018年公開の映画)にも出てましたよね。

そうそう。「純平、考え直せ」ではとてもイヤーな、怖い役だったんだよ。そのせいで、俺の中で悪い印象が付いちゃってたの。なので、最初に「天音くん、どうですか?」と提案されたときは「いや、全然イメージが違うよ」と乗り気じゃなかったりもして。だけど、ポンと出された宣材写真を見て「あれっ!?」って驚いた。違う人みたいに柔らかい表情だったから。それで「すごい俳優さんなんだな」って思ったんだよね。実際、人としても魅力的だった。素人考えで言うと、直接は芝居に関係ないであろう単行本「ハイブリッド レインボウ」を早々と読破してたり、東京でのライブを観てるのにも関わらず「役作りのためにもう1回ファンの感じを知っておきたい」と言って宇都宮までまたライブを観に来たり、本当に熱心で、そういう人に祐介を演じてもらえてよかった。

──“祐介”という役名を聞いて、さわおさんが1stミニアルバム「HAUGA」のプロデュースを手がけたArtTheaterGuildの木村祐介(G)さんが頭に浮かんだりもしたんですけど。

山中さわお

あっ、そこから取ったんだよ。そもそも俺が作った仮の脚本なんて、登場人物の名前は採用されないと思ったし、適当に書いてたんだよね。「主人公の名前どうしよう?」「若くてピロウズが好き」「じゃあ、祐介にしよう」くらいの感じで。カメラマンの名前はカメラを文字って“亀田”にしてたり(笑)。じっくり練りすぎても意味ないから、原案はたぶん一晩とかで書いたのかな。とにかくオクイさんが直してくれるだろうと思ってたので。申し訳ないけど、最初は丸投げだった。そしたら“亀田”は“虻川”に変わったのに、なぜか“祐介”は採用になったっていう。「そのまま行くんだ!」って驚いたもん。ArtTheaterGuildの祐介はえらい喜んでたね。

アキ・カウリスマキの「コントラクト・キラー」とThe Beatlesのドキュメンタリー

──ピロウズを慕うミュージシャンたちが本人役で出ているのも見どころですけど、このアイデアはどんなきっかけで思い付いたんですか?(参照:the pillows映画にGLAYのTERU&JIRO、SHISHAMO、THE KEBABSらが本人役で

これもあとから考えればって感じなんだけど、アキ・カウリスマキという、なんとも言えないダウンビートな作風のフィンランドの映画監督が好きで、彼のDVD BOXを持っててさ。「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」や「過去のない男」が有名なのかな。その中に「コントラクト・キラー」という映画があって、主人公がバーに行ったらThe Clashのジョー・ストラマーが弾き語りをしてるっていうシーンが最後にあるのね。でも、それは物語自体にはなんの関係もなくて。

──なるほど。

映画「王様になれ」のワンシーン。©2019『王様になれ』フィルムパートナーズ

それでも、アキ・カウリスマキのファン、そしてThe Clashのファンとしては「おっ!」と思えるうれしい瞬間でね。演技っぽくもなくて、ただ弾き語りしてるだけなんだけど、「なんか、ちょっといいな」って。もともと好きな映画なのに、魅力的なものがさらに1個乗っかって、「あの映画、いいよね」って誰かに伝えたくなる気分になったので、そういうのがきっかけにあるかもしれない。ピロウズが好きなら「おっ!」と思ってもらえるんじゃないかな。今回の「王様になれ」でも、芝居をしてるようで実際はほぼしてない、ドキュメンタリー的に出てくれてるミュージシャンが多いんだよ。

──そうだったんですね。

作ってるうちに欲が出ちゃって、わかりやすく芝居をしてもらった人もいるけどね(笑)。そもそもはとにかくピロウズファンが主役で、「どういう人たちに愛されたバンドなのか」を描きたくて……あっ、それで思い出した! 映画のヒントになったこととして、The Beatlesのドキュメンタリーみたいなものも大きかったな。あるときお酒を飲みながらぼんやり観てたらさ、「このバンドはどんな人たちに愛されてたのか」がいろいろ紹介されて、それもいいなと感じたんだよね。CDやレコードといった音源、ライブの映像、MVはもうあるので、ピロウズを後世に伝えるために必要なのはこの部分なんじゃないかって。

「ソロのインスト曲が好き」という言葉をヒントにしながら

──サントラの話も聞かせてください。劇伴作りというのも初めての経験になるんですよね?

初めてだね。「フリクリ」のときは曲を提供する形だったから。お芝居に合わせて秒単位で作り込む劇伴は難しかったな。音楽的には優れてても、芝居を邪魔しちゃってるという理由で、めちゃめちゃボツになったり。普段の曲作りとは勝手が違うなと思った。でも、まあなんとか……時間はかかったが、劇伴として自分のやれる100点のものができたんじゃないかな。

山中さわお

──例えば「Silent Ballerina」(ソロ1stアルバム「ディスチャージ」収録曲)や「Doll」(ソロ2ndアルバム「退屈な男」収録曲)といったさわおさんのソロ楽曲で垣間見られた、ロック以外のテイストがより伝わってきて新鮮でした。

ああ、そうかもね。オクイさんと三宅さんは劇伴がボツである理由を、音楽的な言葉では説明できないわけじゃない? 寂しい感じのトラックを仕上げても「もっと寂しい感じがいいんだよな」みたいなダメ出しのされ方をして困ってたんだけど、そんな中で「ソロのインスト曲が好き」というのはオクイさんが言ってくれたので、それをどうにかヒントにしながら作っていったんだよ。

──あと、エリック・サティの「ジムノペディ 第1番」を彷彿とさせる繊細さがあるというか。

ピアノで何かをやるってなると、「ジムノペディ」っぽさが滲み出る部分はあるよね。サティも詳しくはないんだけど、アルバムを1枚だけ持ってて、その世界観みたいなものはフワッと自分に染み込んでる気がする。いやあ、すごくがんばったよ。だって、俺はピアノを弾けるわけじゃないから、めっちゃ時間かかるの! 1小節ずつ録っては「次のコードは指をドとミとラ……だな」という感じで作ってた。