リスナーの方々からもらっているもの
──そうやって生まれた音楽を、自分の喜びだけに収めるのではなくリスナーに聴いてもらうことは、OSHIKIさん自身に何をもたらしますか?
うーん……その答えは、2つあるのかな。でも、答えるのが難しいな。1つ目のほうがまず口に出すべきことで、2つ目のほうがあとで言ったほうがいいことなんですけど、1つ目は言葉にするのが難しくて、2つ目の答えがまとまっている(笑)。マクドナルドのメニューで言えば、ハンバーガーありきのハッピーセットですけど、ハッピーセットのほうが前に出てきている状態、というか。
──OSHIKIさんには「喩えて」という曲がありますけど、本当にOSHIKIさんはよく“喩える”んですね(笑)。
そうなんです、“喩え”たがり(笑)。なんでだろう? まあ、この話はいいか。2つ目の答えが簡単なので先に言うと、僕の楽曲を誰かに聴いてもらうことによって、次に作る曲に生きるんです。僕の伝えようとしている「肌に触れる感覚」が、ほかの人にとっても心地よいのか、あるいは触れすぎて気持ち悪くなっているのか。自分と聴いてくださる方の間にギャップがあるかどうか、それを測ることができます。
──1つ目はどうですか?
言葉にするのが難しいんですよね。リスナーの方々からもらっているものは絶対にあるんです。でも、それはある種、意識と無意識の間にあるものというか。そこには、リスナーへの感謝だったり、僕の自己肯定感を上げてくれているものだったり……僕に「この道を歩いていてもいい」という自負を与えてくれるものもあると思う。でも、それを言葉にしようとすると……非常に難しい。考えておくので、いつかまた質問してください。
──そのときを楽しみにしています。試行錯誤の果てにOSHIKIさんが何を得るのかが、個人的にはとても気になります。
僕が何を得るのかですか?
──得るだけではなく、失うものもあるのかもしれないし。
そうですね。得るのと等しく、失ってもいますから(笑)。
「インスタントナイト」はただ寄り添っている
──新曲の「インスタントナイト」には、昨年のミニアルバム「BOARDING PASS」以降のOSHIKIさんの新たな距離の測り方が反映されているのでしょうか?
「インスタントナイト」は今までリリースした曲よりも古い曲なんです。最初に書いたのが「オッドアイ」(2025年5月配信)で、その頃に作った曲ですね。僕の曲は主に鍵盤で、編曲に注力して作ることが多かったのですが、「インスタントナイト」はアコギで、リスナーの方々がより身近に感じられるよう意識しました。それに、今までは誰かの背中を押したり、手を引っ張ったりする感覚で曲を書いてきたけど、「インスタントナイト」は背中を押すでも手を引くでもなく、ただ寄り添っている。背中をさすっているのか、頭を撫でているのかはわからないですけど。明確に「こうするべき」とも歌っていない。この曲の中にいる“私”は、「どうすればいいんだろう?」と不安に苛まれているんです。
──「インスタントナイト」は、冒頭の「重力が吹き返す朝に」という描写から素晴らしいなと思いました。
朝の明るさは、自分が1人であることをはっきりと自覚させるんですよね。逆に夜には、1人なのか、2人なのか、それを覆い隠す優しさがある。この曲の“私”は、心の中がグチャグチャなんです。しかも自分が悩んでいることに対して「それだけの話」と言えるくらい、客観視できているけど、結局どう解決すればいいのかわからない。そんなふうに悩みを抱える人に寄り添う曲になっている……と思いたいです。
──この曲のレコーディングはいかがでしたか?
特にアウトロのギターを聴いているときはすごく楽しかったですね。「もうリズムなんて忘れているんじゃないか」っていうくらい、感情の揺らぎが表れているギターで。プロの方々が関わることによって、自分の想像の域を出てくれたなと思います。
──2025年は初ライブも経験されて、今年もきっとライブを観ることができるだろうと楽しみにしているんですけど、ステージに立ってみてどんなことを感じましたか?
ずっと家でゴロゴロして、シャワーを浴びながら考えごとをして、そうやって曲を作ってきたので、ライブはまだ慣れないですね。でも楽しいんですよね。チケットを買ったことを少し後悔していた映画をいざ観に行ってみたら、すごく楽しかった、みたいな。そんな心の躍動がありました。僕は本来、音源が好きなんですよ。完成されていて、緻密に考え尽くされた世界が好きなんです。一方でライブのアドリブ感、お客さんと自分の垣根が取り払われていくような感覚……。リスナーがリスナーに徹するのが音源を聴く行為だと思うんですが、ライブは聴き手が一緒にステージに立っているような、聴き手という立場を逸脱するような瞬間が起こり得る。ライブをしたら、自分の心に何かが入ってきて、ぞわぞわする感覚がありました。それがいいものなのかどうかは、まだわからないけど、楽しい。結局、僕はそういう感覚を味わいたくて、またライブをやるんだと思います。
プロフィール
OSHIKIKEIGO(オシキケイゴ)
ソングライティング、トラックメイクなどセルフプロデュースで楽曲制作を行うソロアーティスト。2024年にSNSで楽曲投稿を開始し、ユーザーから大きな反響を呼ぶ。2025年4月にユニバーサルミュージックから「モナリザ」でメジャーデビューし、各音楽ストリーミングサービスの主要プレイリストに多数選出される。2025年10月、テレビアニメ「フェルマーの料理」のオープニング主題歌「メイラード」などを収録したミニアルバム「BOARDING PASS」を配信リリース。2026年1月にSpotifyが注目の次世代アーティストを紹介するプログラム「RADAR: Early Noise 2026」に選出された。2月にニューシングル「インスタントナイト」を配信リリース。
OSHIKIKEIGO - UNIVERSAL MUSIC JAPAN
OSHIKIKEIGO (@OSHIKIKEIGO) | X
OSHIKIKEIGO (@oshikikeigo) | Instagram




