ナタリー PowerPush - おさむらいさん

アコギ道を極めんとする「歌い手盤」と「弾き手盤」

手がキレイって言われたときに「それが武器になるのか!?」って

──今のおさむらいさんのスタイルが形成される過程で影響を受けた人はいますか?

山崎まさよしさんとかハナレグミさんとか、ギター1本でステージに1人で何万人の前に立っている人を見て、カッコいいな、ああなりたいと強く思ったのですが、ソロギターのスタイルでは「あの人みたいになってやろう」と思った対象はいません。普段はソロギターを聴かないんです。だからこそ“アコギでロックしてみた”というスタイルにはオリジナリティがあるんじゃないか、と自負はあります。ただ、投稿をしていく中で、MIYAVIさんに似てるっていうコメントがあって。僕はMIYAVIさんの存在を当時知らなかったんですけど、気になって映像を観てみたら「これはすごい。変態だ」と思って(笑)。

──僕も最初におさむらいさんのことを知ったとき、真っ先にMIYAVIさんのことを思い浮かべたんですよね。

MIYAVIさんって「魅せる」ことをめちゃくちゃ意識してますよね。命かけてるんじゃないかってくらい。ライブを何度か観に行ったんですが、めちゃくちゃ刺激になりましたね。演奏のスタイルやテクニックはもちろんですが、ライブ中に脱いで、上半身ハダカになると引き締まったいいカラダでタトゥーしていて、手上げたら脇まで真っ白で。

──そこ?(笑)

いやいや、それって細部まで気を使ってるってことじゃないですか、「魅せる」っていう意味で。存在自体がアートだなって思ったんです。それがきっかけなのかもしれませんが、自分の爪を、ケアという意味だけじゃなく、色塗ったり模様つけたりして遊ぶようにもなったんですよね。見られるからには、やれることはやっておこうっていう。ただし無理のない範囲で。

──そういえば、おさむらいさんの動画には「手がキレイ」というコメントがかなり多かったりもしますよね。

人生で、手がキレイって言われるの初めてでした(笑)。普段生活してて言われることないですから。自分の新しい一面を知りましたね。でも、「それが武器になるのか!?」とは思います(笑)。

テクニックを見せつけるギタリストがイヤ

──動画共有サイトでカバーしている曲たちに関しては、日本で活躍するバンドのロックナンバーから、ネットシーンで人気を集めるボカロ曲まで多岐にわたっていますよね。

そうですね。自分の中でそこは並列のものだと思っています。個人単位で作るネット上の音楽と、いわゆるJ-POPシーンにはクオリティや技術面の差があるとは感じますが、音楽の本当のよさだったり、感動するポイントってそんなところじゃないと思うんですよ。

──そういう意味ではメロディのよさや歌心みたいな部分が大事だと。

そこだけですね。

──そこはおさむらいさんの作品を聴くとすごくよくわかりますよね。インストであっても歌にこだわってる印象があるというか。ギターをしっかり歌わせてますから。

僕は歌がうまい人がホントにうらやましいんです。歌が下手だから。今回のアルバムを作っててもすごく感じたところなんですけど。これだけ歌えたらギターなんて弾かないよなあって(笑)。人の心を一番動かすのはやっぱり歌だと思いますからね。それができないからこそギターで歌いたいと思って……。そういう気持ちでいつもギターを弾いてます。

──ギターアレンジを構築するときにも、そこは強く意識しているんでしょうね。

そうですね。ギターの美味しい音が出るところを探してっていう作り方をするときもあったりはするんですが、基本的には歌が第一だと思ってるので。アレンジしながら自分で歌ってみることで、バッキングが歌を邪魔してないかと常に確認しています。

──先ほどの「大道芸になりたくはない」っていう発言通りですけど、おさむらいさんはギターのテクニックを見せつけたい人ではないんですよね。

僕、そういうギタリストがホントにイヤなんですよ(笑)。それに僕がやっていることって、ギターがうまい人からしたらそんなに難しいことはしていないんです。うまいに越したことはないけど、テクニックはツールに過ぎないし、そこで表現したいものが僕にはないので。それこそイングウェイ(・マルムスティーン)くらい突き抜けて弾けたらカッコいいですけど、できないし、まあ、いいかな……(笑)。

歌では表現できないものが、ギターでならできることもある

──派手なテクニックが評価されるところではありますけど、中にはシンプルな曲もありますしね。まさに適材適所で。

うん。例えば今回のアルバムの「独りんぼエンヴィー」のアレンジは、ギター1本のシンプルなバッキングのみになっています。曲が孤独を歌うもので、歌い手のそらるさんのキャラ、囁く声に合うアレンジだと思って。逆に「千本桜」みたいなお祭りっぽい曲だったら、早くて複雑な演奏をしたり、たくさん声があると楽しいだろうなって。そこはもう表現したいものありきでアレンジを探ります。

──ギターアレンジに苦戦する曲っていうのも中にはありますか?

実はあります。ちょっと逆説的なんですけど、もともとがアコギの曲だとアレンジするのが大変なんですよ。原曲のイメージに引っ張られちゃってやりにくくて。その通りに弾かなくちゃマズイ気がしちゃうというか……。

──曲中で印象的なフレーズであれば、そのまま弾くほうがリスナー的に喜ばれる場合もあるでしょうし。

そうなんですよね。ホントは壊して全く新しいものをやりたいんだけど、ほかのフレーズを当てはめても合わなかったりもして。エレキギターとかピアノで演奏されている部分は、そもそも再現できないこともあって自分でイチから作れるからすごくやりやすかったりもしますね。とはいえ、曲が表現したいことを考えながらアレンジを詰めていく作業は楽しいですよ。歌では表現できないものがギターでなら表現できる場合もありますし。例えば今回のアルバムの「吉原ラメント」は色気のある曲なので、スライドギターで人の喘ぎ声みたいなものをイヤらしくないように表現できたり、だとか。情景を思い浮かばせるようなステレオのアルペジオだとか。

ニューアルバム「勝負前夜 弦月 ~弾き手盤~」 / 2013年8月7日発売 / 2000円 / EXIT TUNES / QWCE-00291
「勝負前夜 弦月 ~弾き手盤~」ジャケット
収録曲
  1. 夜咄ディセイブ(じん[自然の敵P])
  2. 再教育(Neru)
  3. リスキーゲーム(黒うさP)
  4. fix(keeno)
  5. 東京テディベア(Neru)
  6. 吉原ラメント(亜沙)
  7. 小夜子(みきとP)
  8. 独りんぼエンヴィー(koyori[電ポルP])
  9. 心臓デモクラシー(みきとP)
  10. ナイトウォーカー(ラムネ[村人P])
  11. さよならミッドナイト(大柴広己)
  12. StarCrew(赤髪)
  13. セツナトリップ(Last Note.)
  14. 千本桜(黒うさP)

(カッコ内はオリジナルアーティスト)

ニューアルバム「勝負前夜 吟風 ~歌い手盤~」 / 2013年8月7日発売 / 2000円 / EXIT TUNES / QWCE-00290
「勝負前夜 吟風 ~歌い手盤~」ジャケット
収録曲
  1. 夜咄ディセイブ / しゃむおん
  2. 再教育 / ぐるたみん
  3. リスキーゲーム / りぶ
  4. fix / りょーくん
  5. 東京テディベア / 伊東歌詞太郎
  6. 吉原ラメント / そらる
  7. 小夜子 / しゃむおん
  8. 独りんぼエンヴィー / そらる
  9. 心臓デモクラシー / 伊東歌詞太郎
  10. ナイトウォーカー / りょーくん
  11. さよならミッドナイト / 新社会人
  12. StarCrew / りぶ
  13. セツナトリップ / 新社会人
  14. 千本桜 / ぐるたみん
おさむらいさん

動画共有サイトの「演奏してみた」カテゴリに2007年から演奏作品を投稿しているアコースティックギタリスト。テクニカルな奏法を取り入れてさまざまな曲をアレンジする「アコギでロックしてみた」と題した一連の投稿映像が話題になり、演奏動画の総再生数は1000万回を超える。2011年には一般投票&ライブ審査を経て「SUMMER SONIC」に出演し、ピエール中野(凛として時雨)主催の「ピエールナイト」にも登場。台湾でのワンマンライブがソールドアウトになるなど、その人気は海外にも及んでいる。2013年8月には、ボカロ曲を中心にカバーするインスト盤「勝負前夜 弦月 ~弾き手盤~」と、人気歌い手をゲストに迎えたボーカル盤「勝負前夜 吟風 ~歌い手盤~」を同時リリースした。