ナタリー PowerPush - 大知正紘

これからどこへ向かえばいいのか?「ミチシルベ」となる名盤誕生

平成生まれの新しい才能が、またひとつ誕生した。彼の名前は大知正紘(おおちまさひろ)。平成生まれ限定のオーディション「ストファイHジェネ祭り'08」でソロアーティストとして異例の審査員特別賞を獲得し、2010年3月に配信限定シングル「さくら」でデビューした期待のシンガーソングライターだ。

ナタリー初登場となる今回は、彼のバイオグラフィを紐解く問いから、1stアルバム「ONE」の制作プロセスまでを質問。1月に20歳の誕生日を迎えたばかりの彼は、時折あどけない笑顔を見せる一方、その年齢を疑いたくなるほど思慮深く、見識の高い青年だった。心の奥深くにまで迫ったテキストから、彼の稀有なアーティスト性や音楽を続ける理由に触れてほしい。

取材・文/川倉由起子

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ELLEGARDENの「Missing」を聴いて衝撃を受けた

──今日は大知さんの音楽的ルーツや、デビューまでの経緯も含めてお話を伺えればと思います。まず、出身は三重県なんですよね?

そうです。三重県の伊賀市っていうところで、どこを見渡しても山……という盆地で育ちました(笑)。

──そういう自然あふれる環境で育った少年が、音楽に興味を持ったきっかけってなんだったんですか?

僕は中学生になるまで、ずっとモヤモヤした気持ちを抱えて毎日を過ごしていたんですね。たぶんそれは幼稚園の頃から始まっていたもので、当時は中途編入で入った幼稚園に馴染めず、さらに家庭内もどこか殺伐とした状況だったんです。で、そういうところのストレスが子供ながらに外に出てしまってたのか、人とうまくかかわれなくて、小学校に入ってからイジメにあったんです。でも僕はそれを親にずっと言えず、家庭もまだ殺伐とした状況が続いてて……。

──軽々しくは言えませんが、それってすごくしんどいですよね。

はい。精神的にずっときつい状況で。でもあるとき僕は、原因は自分が弱いからやと考えたんです。「自分が強くなればいじめられへんし、きっと中学校からは華々しい学生生活を送れるはずや!」って。それで、いきなり筋トレとかして、体を鍛え出しまして(笑)。

──それで、どうなったんですか?

中学の入学初日から人を投げ飛ばすような、ちょっとヤンチャな方向に行ってしまったんです。中学自体がわりと荒れてたのもあったし、「最初にある程度の地位を築いとかんと、3年間うまく過ごされへん」って思って。

──なるほど。

そうやってがんばってはみたんですが、ヤンチャな友達とつるんでいろんなことをしてるうちに、あるとき気が付いたんですよね。「あれ? 自分がやられたくなくて強くなろうとしたのに、今度は自分がイジメみたいなことやってるやんけ」って。しかも、そういうグループにいることが、本音を言えばどこか違和感があったんです。でも、そんな気持ちを吐き出す場所がないまま、またモヤモヤしてしまって……。

──そんな日々からは、脱することができたんでしょうか?

はい。中2のときにELLEGARDENの「Missing」という曲に出会ったんですが、そこからですね、変わったのは。最初は音楽番組でちらっと流れたのを聴いただけなんですが、すごい衝撃を受けたんですよ。うまく表現できないんですけど、心にガーンと来るものがあって。正直、それまであまり音楽に興味がなかったんですが、「Missing」を聴いて急に目覚めたかのように「音楽がやりたい!」って。それから、すぐにギターをやってた父親のところへ行って、「おとん、ギター教えて!」って言ったぐらいなんですよ(笑)。そこから音楽にのめり込んでいったんです。

「音楽ってすげー!」って、むさぼるように聴いた

──その後、中学の友人たちとバンドを組まれたんですって?

はい。まさにELLEGARDENのコピーバンドを。でも、そのバンドは高校でメンバーがバラバラになってしまい、僕は自然とソロでやるようになりました。ソロのオリジナル曲を作り始めたのも高校に入ってからでしたね。

──少し話は戻りますが、先程幼少時代からモヤモヤしたものを抱えてたっておっしゃっていましたよね? そういうある種のストレスをためて育った大知さんは、音楽を始めたことでどう変わっていったんでしょうか?

まず大きかったのは、モヤモヤした気持ちをぶつけるはけ口ができたこと。でも、ただ叫び散らすんじゃなくて、メロディやアレンジを加えた“音楽”として表現することで何かが伝わったとき、また特別な感じがしましたね。誰かに「良かったよ」とか言われると、なんだか報われる気がして。救われたというか、音楽ってそういうきっかけに成り得るんやなってことを知ったんです。

──そこから、自然と音楽を続けていこうという気持ちに?

そうですね。自分も音楽を通して誰かを救えるきっかけになれたらって。今から考えると、中学の時点でもう「将来は音楽で生きていきたい」っていう気持ちが固まってましたね。

──ちなみに大知さんはその頃、ELLEGARDENのほかにどんな音楽を聴いてたんですか?

中2くらいまで本当にまったく音楽を聴いてこなかったんですが、ELLEGARDENにハマってからは、ミスチル、レミオロメン、ストレイテナー、Syrup16g、フジファブリック……あとはテレビで流れてるJ-POPもいろいろ聴きました。そういう音楽に救われた面もあったし、とにかく「音楽ってすげー!」って思って、むさぼるように聴いてましたね。

1stアルバム「ONE」 / 2011年4月13日発売 / 2500円(税込) / Driftwood Record / AKOM-10004

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CD収録曲
  1. バルーン
  2. 藍の唄
  3. 明日の花
  4. ハリツケの街の季節
  5. 虹の見える世界で
  6. Hello
  7. 欠けた嘘
  8. ビー玉
  9. Don't Worry
  10. 19歳最後の唄
  11. 手~album version~
大知正紘 TOUR 2011「ONE」
  • 2011年6月11日(土)
    大阪府 心斎橋JANUS
    OPEN 16:30 / START 17:00
  • 2011年6月17日(金)
    愛知県 名古屋ハートランド
    OPEN 18:30 / START 19:00
  • 2011年6月19日(日)
    福岡県 福岡ROOMS
    OPEN 16:30 / START 17:00
  • 2011年6月26日(日)
    東京都 原宿アストロホール
    OPEN 16:30 / START 17:00
大知正紘(おおちまさひろ)

1991年、三重県生まれのシンガーソングライター。「ストファイHジェネ祭り'08」に出場し、ソロアーティストとして異例の審査員特別賞を獲得。2010年に小林武史がプロデュースした配信限定シングル「さくら」でデビューを果たす。力強い歌声とみずみずしい歌詞が、同世代を中心に支持を集めている。