オオカワセイヤ|新星シンガーソングライターが踏み出したプロへの第一歩 プロデューサー・Rover(ベリーグッドマン)と語る「カフェイン」

オオカワセイヤが、7月に配信シングル「カフェイン」を発表した。

19歳のときに音楽活動をスタートさせ、福岡の天神で路上ライブを中心に活動していたオオカワ。彼がそこから3年間で積み重ねた路上ライブの本数は、1000本以上にのぼる。優しく切ない歌声と豊かな表現力は道行く多くの人の耳に留まり、SNSを中心に注目されている新世代のシンガーソングライターだ。

そんなオオカワがリリースした新曲「カフェイン」は、ベリーグッドマンのRoverをプロデューサーに迎え制作された。音楽ナタリーでは、オオカワとRoverの2人にインタビュー。2人の出会いや楽曲制作、さらにはRoverが感じるオオカワの魅力について、話を聞いた。

取材・文 / 真貝聡

「オオカワセイヤ」になるまで

──本題に入る前に、まずオオカワさんの簡単な経歴を教えていただいてもいいですか?

オオカワセイヤ 高校まで鹿児島に住んでいたんですが、就職の都合で福岡へ行き、1年間正社員として働きました。退職後にソロで音楽活動をスタートさせて、19歳から22歳までは天神を中心に路上ライブをやったり、小さなライブに出たりしていたんです。で、去年上京をしまして。8カ月ほど東京で暮らしたあと、10月に大阪に引っ越してきました。

──大阪に移住された理由は?

オオカワ 福岡で音楽活動をしていたときに、シンガーソングライターのBigfumiさんと出会いまして。fumiさんは僕のことを気にかけてくれるし、めっちゃいい人だし、とにかく熱い人なんですよ。音楽のことをいろいろと教えてもらえたらなと思って、fumiさんのいる大阪に引っ越したんです。

──そうだったんですね。先日、アーティスト名を「大川晴也」からカタカナ表記に改名されましたけど、これはどういった理由で?

オオカワ 漢字だと堅い印象があるので、前々から改名したいと思っていたんです。ラッパーみたいな横文字の名前に憧れていたんですけど、いいのが思いつかなくて。それでRoverさんに相談をしたんです。「Roverさん! 僕の名前を考えてください!」って。

Rover(ベリーグッドマン) 最初に僕が考えたのは「チンパン」だったんですよ。僕がロバから取ったRoverなので、動物で行ったら面白いんじゃないかって。

──チンパン、いいですね。

Rover でしょ?(笑) 僕は今でもいい名前やなと思ってますよ。なんか下ネタっぽくてカッコいいじゃないですか。シーモーネーター(SEAMOの過去の活動名)さん的な。で、いろいろ話し合った結果、父親が名付けてくれた「晴也」を使いたいということだったので、ポップな雰囲気になるようにカタカナ表記の「オオカワセイヤ」に決まったんだよね。

オオカワ はい。

オオカワセイヤ

こいつ、とてつもなく歌がうまいやんけ!

──お二人の交流はいつ始まったんですか?

Rover 数年前、仲間内で飲んでいる席に僕の東京の同期が「かわいがっている後輩を紹介したい」ということでセイヤを連れてきたんです。

オオカワ Roverさんと初めてお会いしたときは「うわ、本物だ!」と思って緊張しました。高校時代、同じ野球部にいたチームメイトがベリーグッドマンの「冬が終わる頃に」を教えてくれて以来ずっと好きでしたし、僕からすれば手の届かない存在だったから。

Rover その飲み会では軽くしゃべった程度なんですけど、あとからYouTubeで歌っている映像を観たら「こいつ、とてつもなく歌がうまいやんけ!」と驚いたんですよ。で、2回目に会ったのが2年前の忘年会。実際に歌を聴いてみたいと思って、50人を前にアカペラで歌ってもらったんですよ。

──そのときの様子はどうだったんですか?

Rover セイヤの歌声にみんなビックリして、その場が静まり返ってましたね。僕も生歌を聴いて「こいつはすごいかもしれない」と思い、お金のこととか細かい話は抜きにして「俺が曲を作るわ」と言ったんですよ。でも話を聞いたら、セイヤは自分でも音楽を作るそうなので「だったら一緒に作ろう」と。

──それほどまでにオオカワさんの歌声に惹かれた、と。

Rover はい。そもそも路上であれだけ歌い上げて、あんなに大勢の人を立ち止まらせているのはすごい。歌声に関しては、すごく特別なものを持っていると思うし、何よりハイトーンが女性くらい高いので、それだけ表現の幅も広い。セイヤは英語をしゃべれないけど英語でも説得力があるし、ラップを歌っても聴く人の心に届くのは強い武器だと思いました。とにかく歌に関してはピカイチですね。

──大絶賛ですね。

Rover それだけ優れた能力を持っているからこそ、セイヤ自身は「人間性とか感性が能力に追いつかない」と悩んでいる時期があって。才能ってこういうことなんだなと思いましたね。特別な力を持っている人って、何かが欠如していることもあるじゃないですか。現にセイヤはめっちゃ遅刻するし、夕方4時くらいまで起きない生活習慣もとんでもないなと思ったりしたんですけど(笑)、それすらもOKに感じさせてしまう才能はズルいなと思います。

オオカワ Roverさんに遅刻のことで1回怒られて、それがめっちゃ怖くて……。

Rover まあ、遅刻の話はいいとして「私生活がどうであれ、歌がすべてだ」ということですね。この時代に反してるというか、昔ながらのアーティストみたいな一面があると思います。

いい意味で聴き流してもらえるような曲を

──Roverさんプロデュースで7月にリリースされた「カフェイン」はどのように作られたんですか?

オオカワ 制作が始まったのは去年の今頃です。Roverさんの家に呼んでいただいて、Roverさんのギターに合わせて「歌ってみて」と言われ、歌ったら「それええやん! じゃあ、これはどう?」みたいな感じで、ちょっとずつ形にしていきました。

Rover 今の時代に聴きたくなる曲を目指して、その場のノリで作りましたね。共作をする上で大事なのって、お互いがいいと思ってる理想の音をすり合わせていくこと。僕がいいと思ってもセイヤにハマってないこともあるし、その逆も然りで。だからお互いの“縫い目”を注意深く合わせていった感覚ですね。

──歌詞の内容はどのように決めたんですか?

オオカワ ちゃんと向き合って、じっくりと聴くタイプの曲もあるけれど、今回はそういう方向性ではなく「いい意味で聴き流してもらえるような曲をやりたいです」とRoverさんに話したんです。カフェで流れているような、ちょっとかわいく純粋なラブソングにしようと思って。

Rover すごく女性らしい、草食男子のようなかわいさもあるハッピーな歌詞で「あ、そういう言葉も使うんだ」と思いましたね。面白いのが、若さがあるけど懐かしさもあるというか、カフェと言ってるけど喫茶店が浮かんでくるようなレトロな印象も受けました。

──Roverさんはプロデュースをするうえで、どんなことを意識されていましたか?

Rover プロデュースって、0から100までやることじゃないと思うんです。自分の歩んできた道のりと彼の歩んだ道のりはまったく違いますし、音楽の価値観も当然違う。そこで僕が導き出したのは「一緒に作る」ということでした。寄り添わなければいけないし、寄り添ってもらわなければいけない。ベリーグッドマンにはHiDEXとMOCAという2人の相方がいて、違う感性を持っている者同士で曲を作っている。とにかく話し合って、何度もチャレンジをして曲を完成させるんです。セイヤとの制作も同じように、とにかくお互いにいいと思うものを出し合って、違ったらやり直して、微妙だったら歌い直すという感じで進めていきました。

──「セイヤのやりたい通りにやろう」でも「Roverさんにお任せします」でもなく、お互いが納得する楽曲を目指した。

Rover そうです。音楽が好きで好きでしょうがない気持ちと、どうせならカッコいい曲を歌いたいよね、というすごくシンプルな思いで作りました。なので、僕はプロデュースをしてる感覚はないです。指示をしたって彼は言うことを聞かないし(笑)、自分が心から信じたものじゃないと心を開かない人なので、本気で考えたものを提案しないと乗ってこない。逆に、セイヤが本気で根性を出して歌わないと僕はOKを出さないので、そういう戦いみたいなところはありましたね。

──特に“戦った”部分は?

Rover レコーディングですね。初日にがんばりすぎて後半戦で声がへたってきたので「今日は休もう」と言っても、セイヤは「いや、粘ります!」と、頑として聞こうとしなかった。そういうアスリート的な姿を見れたのはよかったなとも思います。

オオカワ レコーディングのとき、Roverさんがディレクションをしてくださったんですけど、気分を乗せるのがめっちゃうまいんですよ。僕自身も歌いやすかったですし「もっと歌いたい。歌うのが楽しい」と思わせてくださった。それって、ご自身がプレイヤーであるからこそできることなのかなと思いましたね。

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