ナタリー PowerPush - 踊ってばかりの国

共感不要の傑作アルバム「世界が見たい」

ホンマにしんどいときに逃げるのはいいと思う

──アルバムでは「世界が見たい」という曲がタイトルトラックになっているわけですよね。これができたときに重要な曲だと感じた理由は?

なんかこの曲って、覚えやすくないっすか? 自分の中で一番明るいと思える曲やったんですよ。キャッチーやし、名前もおもろかったんで。

──アルバムには「世界が見たい」や「Going Going」のような、愉快な感じの曲と、「反吐が出るわ」とか「お涙頂戴」とか、そういうダウナーな感じの曲がありますよね。この振り幅は、自分の中ではどう捉えています?

下津光史(Vo, G)

なんかね、アガり方が違うんですよね。テンションが違ってくるというか。元気なときと風邪ひいてるとき、みたいな感じじゃないですか? 「この曲は体調悪い系」みたいな。

──そのうち、どちらにも共通している“踊ってばかりの国らしさ”ってどこにあると思います?

なんやろう……。でもなんか、悲観的ですよね。

──例えばフリークフォークだったりチルウェイブだったり、ここ数年のUSインディにはずっと逃避の感覚=エスケーピズム(Escapism)があると思うんです。そこに共通する感覚はあると思います?

あ、それもありますね。多分彼らも同じような問題を抱えてるでしょ? 一緒なんじゃないっすか。あんまり根性論は好きじゃないんで。ツールとしてエスケーピズムを使ったらいいと思うんです。ホンマにしんどいときに逃げるのはいいと思うんですよ。でもそれが毎日になったら人間ダメになると思いますけどね。

──「セレナーデ」という曲がありますよね。これは直接的にほかのバンドのことを指している曲だと思うんですけれども。

あ、バレてました?(笑)

──この歌詞はどういうきっかけで?

いや、The Mirrazがレーベルメイトだったのが目の上のたんこぶやったんで。あと(神聖)かまってちゃんみたいなダサいのが出てきて、ダルいなって思って。それが最初のところのきっかけなんですけど。

──サビのところでは「寄ってくるな 俺に触るな アレに逃げよう コレに逃げよう」って歌ってますよね。

まさにエスケーピズムですよね(笑)。

──「東の町の大人が寄ってたかり『天才だ』とつぶやいた」という歌詞もありますけど。

これはね、あれなんですよ。メジャーの新人開発のオッサンがウザかったから書いた(笑)。誰にでも「お前、天才だよ!」って言う下世話なオッサンだったんで、曲に登場させてみました。

──そのままなんですね。

そうですね。この曲はノーオブラートです(笑)。すぐ苦いのが来る、みたいな。

「気持ちよければええやん!」ってやってるだけ

──先程「日本語詞がダサい」って言ってましたよね。でも自分も日本語の歌詞を書いて歌っているわけで。そこは相当屈折してるものがあると思うんですけれども。

めっちゃしてますね。イヤですもん、俺。また日本語で歌詞を書かなあかん、っていう。

──とはいえ、英語で歌う方向に舵を切るわけでもないし。

それはそれでサムいじゃないですか。だからね、めちゃくちゃメンドくさいところがあるんですよ。

──下津さんって、「ここはサムい」「こうするのもサムい」って、逃げ道を塞いでる感じがありますよね。で、やってる音楽の逃げ道が塞がれているから、内圧が高まってる感じがする。

なるほど。

──僕ね、このアルバムの踊ってばかりの国って、一見ユルそうで、圧力が高い気がするんですよ。

結構そうかもしれないですね。いろんな曲調で、やりたいことを全部やったみたいな感じなんで。詰め込み過ぎた感はちょっとありますけどね。よく言えばボリューミーだし、悪く言えば重たいかもしれない。ただ、情報量の多いサイケデリアっぽい感じが、個人的には好きなんで。今回はそういう意味でも好きなアルバムですけどね。

──ちなみに、このアルバムで思い入れの強い曲って言うと?

下津光史(Vo, G)

「!!!(チック・チック・チック)」ですかね。これはね、前のメンバーがおるときから作っとった曲で。再編成せなあかんぞってときに、お題としてやってた曲なんですよ。ここが4人体制のスタートになったというか。そういう意味では、この曲で今の4人がまとまれたというのはありますね。

──この曲のダブとかレゲエっぽい感じは、それまであまりやれなかったものだった?

リズムはダブとかレゲエのフォーマットなんですけど、サーフロックみたいな感じやと思うんですよね。多分レゲエの人が聴いたらめっちゃ怒ると思うんですよ。「このバッタモン!」って。でも俺らも「気持ちよければええやん!」ってやってるだけなんで。

──そこは大きいですよね。自分を気持ちよくさせてくれるものとして曲を作っているという。

それが100%っすね。それだけでいいかなって思います。

──そしてそこに「元気なときの自分」と「体調悪い自分」という振り幅がある、という。

そうですね。日常で「朝起きるんダルいな」ってところと「夜まだ寝たくない」ってところと。そこの差かもしれないです。曲を作ってるときの気持ちもそうやし。曲と歌詞が一緒に出てくるんで、リアルタイムのしんどさとか楽しさが出てくるじゃないですか。それが曲のテンションになってるんやと思います。

──ちなみに曲を作るときに、聴き手との共感とかそういうことは考えます? 考えなさそうですけど。

ね? いります、それ?(笑) いっつも思うんですけど。共感なんかせんでええって思うんですけどね。なんかね、僕の勝手な発想なんですけど、ファン同士で「このアルバムいいよね」みたいなのはわかるんですよ。でも、こっちから歩み寄る必要はないんじゃない?って思う。勘違い野郎が増えたのもそのせいやと思うんですよね。

──端的に、そういうことを考えたら曲ができない、と。

そうそう。多分この歌詞だって全然共感できないし、「こいつイカレてんな!」ってくらいやと思うんですよ。これを聴いて「下津さん、一生ついてきます!」みたいなヤツがたくさん出てきたら逆に心配になりますわ。そんなん完全にテロリストの集団ですから(笑)。だから共感するのはちょっと勘弁してほしいっすね。

ニューアルバム「世界が見たい」 / 2011年11月2日発売 / 2500円(税込) / Mini Muff Records / MDMR-2018

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収録曲
  1. 世界が見たい
  2. !!!
  3. going going
  4. 言葉も出ない
  5. ドブで寝てたら
  6. 僕はカメレオン
  7. EDEN
  8. 反吐が出るわ
  9. よだれの唄(リアレンジ)
  10. 悪魔の子供(アコースティック)
  11. お涙頂戴
  12. 何処にいるの?
  13. セレナーデ
踊ってばかりの国(おどってばかりのくに)

下津光史(Vo, G)、林宏敏(G)、柴田雄貴(B)、佐藤謙介(Dr)からなる4人組バンド。2008年神戸で結成。2009年3月に発表した自主制作盤1stミニアルバム「おやすみなさい。歌唄い」と2010年3月の2ndミニアルバム「グッバイ、ガールフレンド」がともに好評を得、同年「FUJI ROCK FESTIVAL」「RUSH BALL」などの大型フェスに出演。2011年3月には初のフルアルバム「SEBULBA」を発表し、全国ツアーを行うなど活動の幅をさらに拡大させる。同年11月には2ndフルアルバム「世界が見たい」をリリース。