アルバム「未来」インタビュー
複数ベーシスト制がアルバムに与えた影響
──ニューアルバム「未来」がリリースされました。今作はメロディ、歌、演奏、アレンジ……すべてにおいて、ポップにしてソウルフルというバンドの魅力が過去最大値で光っているアルバムになったんじゃないかと思います。やはり、メジャー復帰となった前作「MISSION」での手応えを経て、ということになりますかね。
西寺 そうなりますかね。それ以前の数作を出していたビルボード(Billboard Records)は、いい意味で好き勝手やったほうがいいって任せてくれるレーベルでした。「MISSION」は古巣のワーナーに戻って来て、いろんな人の意見を聞いて作りたいタイミングのアルバムだったんです。そういう意味では民主的かつ気合いの入ったアルバムで。
奥田 「MISSION」から間髪入れずに制作に入ってるので、モードみたいなものは「MISSION」の残り火が消えていない状態でうまくシフトできたかなという感じはしますね。ある意味、「MISSION」の延長にある作品というか。
西寺 ナタリーでの前回のインタビューで「収録されなかったアイデアもかなりある」みたいなことを言ってたと思うんですけど(参照:NONA REEVES「MISSION」インタビュー)、6曲目の「プレジデント・トゥナイト」とかは「MISSION」のときに奥田のデモとしてすでに存在した曲ですね。
──今回、すべての曲が短めというのも特徴ですよね。4分越えが2曲だけで、トータル40分弱。そのコンパクトさが作品のパンチ力にもつながってるかなと。
西寺 1曲1曲について爽快さを求めようとする気持ちは3人とも共有してたとは思いますね。フェードアウトで終わるのも「今夜はローリング・ストーン」しかないですし。そのへんは自分もそうですけど、普通に今の人が聴いて気持ちいいと思える体内時計に合わせたというか。
奥田 「リスナーは、あと何年ぐらいアルバムというフォーマットで音楽を聴いてくれるんだろう?」という素朴な疑問がアルバムを作ってる途中から沸々と沸いてきて。だから、変な言い方ですけど作りながら懐かしさみたいなものを感じていました。毎回レコーディングの後半になると、「これで本当にアルバムになってるのかな?」っていつも思うものなんですけど、そういう感情も今回どこか懐かしい感じに思えちゃったというか。これから音楽はどういうふうに聞き手に届くようになるんだろうって。
──どこか「未来」というタイトルにもつながる話ですね。そのタイトル曲がすごくアグレッシブなドラムのイントロから入って、まさに1曲目にふさわしいというか、近作ではあまり見せなかった勢いのある雰囲気でアルバムがスタートします。
小松 この曲のベースは、林幸治(TRICERATOPS)くんが弾いてくれていて。あとは「プレジデント・トゥナイト」もそうですね。
西寺 今回のアルバムで今までと一番違うのは、曲によってベーシストが異なって、小松とのリズムのコンビネーションが替わっていくところ。そこは大きなポイントかもしれないです。
奥田 みんなめちゃくちゃキャラが出てて素晴らしい。「プレジデント・トゥナイト」はThe PoliceとかYMOとかホール&オーツみたいな、ソウルフルなんだけど性急な感じにしたくて。そういう意味で林くんが適任だったなと。
──林さんのほかに今作に参加したベーシストを挙げると、須藤優さん、ライブサポートでおなじみの村田シゲさん、高桑圭さん、千ヶ崎学さん(KIRINJI)、あとは冨田謙さんのシンセベースも印象的でした。
小松 曲を聴いて頭に浮かんだベーシストにどんどん頼んでいったんです。今回のアルバムでは、この3人で音を合わせて楽曲を組み上げていくというよりも、ある程度楽曲の形が見えている状態から完成形に向かっていくという作業が中心だったので、何かの方法でバリエーションを付けるとしたら曲ごとにベーシストを替えるのがいいんじゃないかと。で、実際やってみたら、いい感じに楽曲の世界観広がった。ベーシストがいないバンドであることが、いい意味で強調されたアルバムになったんじゃないですかね。
ライムスとのコラボレーション
──ところで今回、スティーヴィー・ワンダー「Go Home」のカバーが収録されていますよね。この曲はどういった意図で取り上げたんでしょう?
小松 これはある意味、アルバムの取っ掛かりになった曲だよね。
西寺 そう、「MISSION」のモードから次のモードに移る時期に、最初に1人でエクササイズというか、まずは自分らしいチョイスで好きな曲を研究のつもりでカバーしてみようと1人でデモを作ったら面白い感じになったんですけど、ある段階で行き詰まって。そんなとき、スティーヴィーが「Go Home」を生バンドで演奏してる映像をYouTubeで見つけたんです。「In Square Circle」に収録されてるオリジナルバージョンはフェアライトやシンセサイザーを多用した打ち込み的なサウンドなんだけど、バンドバージョンを観て「めっちゃイイやん!」と思って。で、ノーナでやったらどうかと思ったんですよね。あとで知ったんですがこの曲が日本でカバーされたのは初めてで、世界でも数少ないらしいですね。
──そういえば、RHYMESTERをフィーチャーした「今夜はローリング・ストーン」にも「スティーヴィー・ワンダー」という歌詞が出てきますよね。これはMummy-Dさんが書かれたラップパートですが。ちなみに、この曲のインスピレーション元はローリング・ストーンズということになるのでしょうか?
西寺 いやいや、ストーンズはあまり意識してないですね。どっちかというとボブ・ディランの「Like A Rolling Stone」とか、ストーンズの由来になったマディ・ウォーターズのイメージで。
──そうでしたか。イントロのカウベルがストーンズの「Honky Tonk Women」みたいだったので、てっきり。
西寺 いいですね。新鮮な感想です(笑)。この曲は、「ローリング・ストーン」というキーワードから、まず思い付いて。「転がっていく」イメージ、「転石苔むさず」って言葉が、イギリスではコロコロ転がっているとどっちつかずになるという悪い意味、アメリカでは時代に対応して変化していかないと腐ってしまうよって正反対の意味って言うのも面白いなと。RHYMESTERは今年結成から30周年ですか? 転がり続けながらも芯がまったくブレてない。そんなライムスと一緒に曲を作れることは、すごく光栄で。ただ、あまりにもこちらが意気込み過ぎて、ガッチリ曲を作り込んで「ここにラップを入れてください」みたいな感じにするのもちょっと違うなと思って。なので、あえて制作途中のラフを渡して、何度かやり取りを繰り返して曲を完成させたんです。
──「会えなかった歳月の落差 埋めるのはいつもこんな音楽さ」という歌詞にキュンとくるんですが、歌詞の背景は同窓会的なものですよね。
西寺 例えば結婚式や同窓会だったり、20代、30代、40代、それぞれの場面で数年ぶり、何十年ぶりの友達に会うような機会が増えますよね。パーティの場で巡る思いはあるけれど、そういうシチュエーションを歌にしたものって意外に少ないなと思って。特にフックの歌詞を書いてくれたMummy-Dさんとは何度も電話でやりとりしながら歌詞のアイデアを出し合って。なにしろライムスは2人のラッパーがすごく優秀なのでリリックもラップも完璧でしたね。宇多丸さんは最後の最後に完璧にDさんと僕のパートをつないでくれて感動しました。あと今回はDJ JINさんが入ってくれたのもデカくて。小松に「JINさんの大好きな、ダチーチーチーやろうぜ!」(ダチーチーチー:DJ JINが提唱したバーナード・パーディ由来のドラムフィル)ってアイデアを出したら喜んでくれました(笑)。
小松 「ダチーチーチー」をやったのは「パーティは何処に?」(2000年のアルバム「DESTINY」収録)以来ですよ。あのフィルって、あんまりやりすぎると飽きてくるから(笑)。
西寺 ギターでいうとエディ・ヴァン・ヘイレンのライトハンド奏法みたいなもんかな(笑)。
小松 でも、ひさびさにやったら新鮮でしたね。
すごくアルバムらしいアルバムになった
──その「今夜はローリング・ストーン」とアルバムタイトル曲の「未来」が先行配信されましたが、どちらもいつものNONA REEVESとはちょっと違う一面を見せている曲だなと思いました。その点、2曲目の「ガリレオ・ガール」は、“まさにNONA REEVES”なポップネスがハジケた曲とでもいうか。
奥田 このへんは「MISSION」のムードの続きというか、こういう曲を作っておかなきゃいけないという僕らにとってのミッションですかね。すごく個人的な話をすると、去年、父親が亡くなって、ちょうど病院通いしてる頃に作ってた曲なんですよ。「ガリレオ・ガール」はとにかく明るい曲を作りたいという自分なりの縛りが最初にあったうえで作った曲だったので、そこに助けられたところはありますね。この曲、最初は「ナイチンゲール」って仮タイトルが付いてたんです。夜勤の看護師さんを何日も見ていたので。
西寺 Aメロを僕が書いて、Bメロとサビは奥田だったんですけど、最初はもうちょっとゆったりしたテンポ感だったんです。ユーロビート感のあるアッパーなドラムに差し替えて、バンドの攻めてる感じが伝わりやすい曲になりました。歌詞も含めてポップチューンとして完成されてると思うし、この曲は僕もすごく好きです。「ガリレオ・ガール」はアルバムの中でのクリーンナップというか、こっちのノーナもちゃんとあるぞというのを明確に提示することができた曲ですね。
小松 この曲があって本当によかったなと思いました。「ガリレオ・ガール」が、あるのとないのとではアルバムの印象が全然違うし。
西寺 うん。この曲ができたことで、「未来」は、“いい打線”が組めてるアルバムになりましたね。曲順も含めて、すごくアルバムらしいアルバムになったなと思います。
※特集公開時より、一部発言を変更しました。
- NONA REEVES「未来」
- 2019年3月13日発売 / Warner Music Japan
-
[CD] 3240円
WPCL-13008
- 収録曲
-
- 未来
- ガリレオ・ガール
- 今夜はローリング・ストーン feat. RHYMESTER
- Physical
- Sad Day
- プレジデント・トゥナイト
- Go Home
- Sorry JoJo
- Aretha
- Disco Masquerade
- 遠い昔のラヴ・アフェア
ツアー情報
- THE FUTURE 2019
-
- 2019年5月3日(金・祝)東京都 新代田FEVER
- 2019年5月4日(土・祝)東京都 新代田FEVER
- 2019年5月11日(土)大阪府 Music Club JANUS
- 2019年5月12日(日)愛知県 ell.FITS ALL
- 2019年5月18日(土)北海道 札幌KRAPS HALL
- 2019年5月25日(土)福岡県 DRUM SON
- 2019年6月1日(土)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- 2019年6月23日(日)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA(※追加公演)
- NONA REEVES(ノーナ・リーヴス)
- 西寺郷太(Vo)、奥田健介(G, Key)、小松シゲル(Dr)の3人からなる“ポップンソウル”バンド。1995年に結成し、1997年11月に「GOLF ep.」でメジャーデビューを果たす。初期はギターポップ色の強い楽曲を得意としていたが、1999年のメジャー2ndアルバム「Friday Night」を機にディスコソウル的なサウンドを追求し始める。その後も精力的に活動を続け、コンスタントに作品を発表。ポップでカラフルなメロディと洗練されたアレンジによって、国内でほかに類を見ない独自の立ち位置を確立する。西寺は文筆家としても活動し、80'sポップスの解説をはじめとする多くの書籍を執筆。さらにメンバーは3人とも他アーティストのプロデュースや楽曲提供、ライブ参加など多岐にわたって活躍している。2017年3月にメジャーデビュー20周年を記念したベストアルバム「POP'N SOUL 20~The Very Best of NONA REEVES」を、10月には通算13枚目となるオリジナルアルバム「MISSION」をリリース。2019年3月にはニューアルバム「未来」を発売し、5月からレコ発ツアー「THE FUTURE 2019」を行う。
2019年3月13日更新