日食なつこ×住野よる|鬱屈とした2人 “もう一人の私”との対話

70点だと思う人生を送りたくなかった

日食 住野先生は、いつ頃の自分が一番強かったと思いますか?

住野 日食さん、Twitterに「享年30歳」って書かれてたじゃないですか。僕もデビュー前、30歳までにデビューできなければ死ぬと思ってた時期があるんです。だったら、とにかく好きなものを全部詰め込もうと思って書いたのが「また、同じ夢を見ていた」でした。あの頃は精神がとがり散らしていたと思います。「気に入らない人間みんな死んでほしい」って思ってた(笑)。

日食 マジですか!(笑)

住野 今も、その頃の自分を超えなきゃっていつも思ってます。

住野よるの“本体”。

日食 私が超えられないのは、17歳の頃の自分ですね。まだ日食なつこを名乗る前、卵の中の鳥みたいにドロドロと形が定まらず、不満や言いたいことが渦巻いていて、その一方で楽しいことも絶対に逃したくないと思ってた。そういう衝動が26歳になった今よりずっと強かったんです。住野先生の小説には、そういう若い頃のキラキラした部分がたくさん入っていて、それを大人になって書けるのがすごいなって思います。

住野 ありがとうございます。「昔はあんなにきれいだったのに」って思っちゃうんですよね。でも、きれいだった頃は自分ではそれに気付かないし、今だからこそ見えるものがある。僕なんて17歳の頃、部屋で小説書いてたら、親に「またやってんのか」って半笑いで言われたりして、鬱屈としてましたよ(笑)。

日食 十代の頃は何やったって、そんなふうに言われるんですよね。だけど住野先生は17歳から今まで変わらずに小説を書き続けてこられた。その力はどこから生まれたんですか。

住野 たぶん、ただ痛いヤツなんだと思うんですけど……“今に見てろ”ってずっと思ってたんですよ。自分の人生で100点を取りたかったんです。自分自身で70点だと思う人生を送りたくなかった。

日食 意外、と言ったらなんですけど、すごい激情派ですよね。私は70点で妥協しちゃった人間なんで、住野先生はすごいなあと思います。

住野 日食さんが70点!? 本当ですか?

日食 妥協したけど、そんな自分をまだ許せてないから、ずっと歌い続けてるだけなんです。

作品に蓄積されていく鬱屈した思い

住野 でも僕、100点の人生を狙ってますけど、実際は30点くらいしか取れてないですよ。

日食 えっ、だいぶ低くないですか?(笑)

住野 作家の住野よると日常生活を送ってる僕は、違う人間なんです。住野よるは小説が売れて、やんややんやとみんなに持ち上げてもらってるけど、自分はまだ自分が嫌いな自分から抜け出せてなくて、まだ30点くらいを這いつくばってる。

日食 ……その住み分け、めっちゃわかります。私もまったく同じです。「日食なつこはステージの上でガヤガヤやってろよ、私は私でこのままずっと鬱屈としたものを溜めるから」っていつも思ってる。そしてその鬱屈を日食に還元して、ステージで出してもらうんです。

住野 個人としての日食さんは何点ですか。

日食 0点です。というかマイナスマイナスで、借金だらけ(笑)。ひどいですよ。住野先生は、作家としての自分を拒絶する部分ってありますか。

住野 あります。住野よるって、最初はかわいい手乗りサイズだったんです。だけどいつのまにか僕よりも大きくなってて、今ではもう「よるのばけもの」の表紙みたいなイメージになっちゃった。“あいつ”がどこかに行ってしまうでもなく、僕が“あいつ”に食べられてしまうでもなく、受け入れられたらいいなと思います。そうしたら人生の100点が取れるかもしれない。

日食なつこと住野よるの“本体”。

日食 イメージしてることがけっこう似てますね。うれしいな。私も日食なつこをいかに飼い慣らすかをすごく考えてます。そもそも日食なつこというアーティストネームを付けたのも、仮に有名になってしまったときに、個人を守れる最後の砦を持っておかないと、と思ったからなんです。「どんだけ保険かけてんだよ」って感じですけど。

住野 すごくわかります。ペンネームがあってよかったなと思う。思いっきり後ろ暗い話をしますけど、僕、親戚とかに「前から信じてた」みたいな顔されるのがすげー嫌いなんです(笑)。

日食 めっちゃわかります!(笑) 「昔からがんばってたもんな」みたいなこと言う人、いますよね(笑)。

住野 信じてなかったくせに(笑)。でも個人としての僕はすごく弱いので、エヘヘって愛想笑いで済ましちゃう。

日食 その鬱屈した思いが作品に蓄積されていくんですね。私も同じです。

嫌だから言うことを聞かなかった

日食 住野先生の小説を読んでいると、登場人物たちはみんなうまく世界に溶け込めず、めっちゃイビツな感じを出してると思う。それが自分に被って見えるんです。

住野 確かに最近、今書いてる小説を読んだ編集者に「なんて生きづらい人たちなんだろう……」って言われたんですよ(笑)。

日食 編集者ってどんな方が多いんですか。

住野 かなり変わった人が多いんですけど、僕より小説や本に詳しくて、多角的な視点を持っている感じがします。僕は一点しか見えないタイプなので。

日食 音楽で言うとプロデューサーに近い感じですね。作品に対して修正を求められることもあるんですか?

住野 多々あります。「このままだとこのキャラクターがこう思われちゃうから、こんなシーンを付け加えられますか」とか。「このキャラクターを、もっとみんなに好かれるようにしてください」とか。

日食なつこと住野よるの“本体”。

日食 まず「“みんな”って誰だよ!?」って思いますよね(笑)。

住野 そうなんですよ(笑)。今、担当さんとバチバチやりあってます。日食さんも曲作りにおいて、そういうことありますか?

日食 あります、あります。「もっと歌詞をわかりやすく」とか、最初にこの世界に飛び込んだときはよく言われましたね。でも嫌だから言うことを聞かなかったんです。「毎週曲を持ってこい」と言われて、「はい、わかりました」と答えたあと、半年も曲を書かなかったり。よく契約を切られなかったなと思います(笑)。

住野 まるでロックスターのようなエピソードだ(笑)。

日食 いまだに「あのときは……」って言われますけど(笑)。あのタイミングで、悪いけど私は折れませんっていう姿勢を見せておいたから、今があるのかなと思います。私はうまくケンカができないから、こっちが完全に折れるか、相手が完全に折れるか、0か100しかなくて。住野さんのように上手にぶつかりあえないんですよ。

住野 いや、僕も全然上手じゃないですよ。

日食 ありえない修正を求められたら「嫌です」って言いますか?

住野 僕も日食さんのように、完全に無視します。メールのその部分を読んでないような顔をして。それで最近、ついに修正点をレジュメで提出されました(笑)。

日食 あははは! 相手もそれくらい本気ってことですね。

日食なつこ「鸚鵡」
2017年9月27日発売 / LD&K Records
日食なつこ「鸚鵡」

[CD]
2160円 / 281-LDKCD

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収録曲
  1. ギャングギャング
  2. レーテンシー
  3. 座礁人魚
  4. 2099年
  5. 廊下を走るな
  6. LAO
  7. ハッカシロップ

ライブ情報

時差呆け矯正ツアー
  • 2017年11月4日(土)神奈川県 Yokohama Bay Hall
  • 2017年11月15日(水)京都府 磔磔
  • 2017年11月16日(木)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2017年11月24日(金)広島県 Live Juke
  • 2017年11月26日(日)香川県 SPEAK LOW
  • 2017年12月2日(土)北海道 サンピアザ劇場
  • 2017年12月3日(日)北海道 札幌くう
  • 2017年12月7日(木)宮城県 darwin
  • 2017年12月8日(金)新潟県 ジョイアミーア
  • 2017年12月17日(日)福岡県 Gate's 7
  • 2018年1月8日(月・祝)東京都 日本橋三井ホール
  • 2018年1月14日(日)大阪府 なんばHatch
  • 2018年1月20日(土)岩手県 Club Change WAVE
日食なつこ(ニッショクナツコ)
日食なつこ
1991年5月8日、岩手県花巻市生まれのピアノ弾き語りアーティスト。9歳からピアノを、12歳から作詞作曲を始め、高校2年生の冬から地元岩手県の盛岡にて本格的なライブ活動を開始する。「ストファイHジェネ祭り09」の東北エリア代表アーティストとしてファイナルに残り、この時期にiTunesボーカルチャートで1位を獲得した。2012年から各地のロックフェスティバルに出演。2014年にはアルバム「瞼瞼」をリリースし、全国7都市を周る全国ツアーを開催する。2015年には「FUJI ROCK FESTIVAL’15」に出演した。2017年に「逆鱗マニア」をリリースし、ツアー「マニアたちの親睦会」を開催する。ツアーファイナルの様子は4月発表の自身初のライブDVD「マニアたちの親睦会-千秋楽 東京キネマ倶楽部-」に収録された。9月に2枚目となるミニアルバム「鸚鵡」をリリース。11月からはワンマンツアー「時差呆け矯正ツアー」を実施する。
住野よる(スミノヨル)
小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿していた「君の膵臓をたべたい」が注目を集め、同作で2015年にデビュー。2016年2月に2作目の小説となる「また、同じ夢を見ていた」、12月に「よるのばけもの」を発表する。なお「君の膵臓をたべたい」は浜辺美波と北村匠海(DISH//)のダブル主演で映画化され、2017年7月に全国公開された。