西川貴教|50歳を迎えさらに加速、西川節全開で“TMさん”を超える

自由演技は講談師のごとく

──新しい歌い方をするにあたって難しさは感じませんでしたか?

そこはもう今までと全然違う歌い方になるので、なかなかできない部分はありました。どう崩して歌ったとしても言葉が立ってしまうという。結局、今までの西川貴教も出ちゃっているので(笑)。

──でもそこが西川さんの大きな武器ですからね。完全に消してしまうのはまた違うような気もしますし。

西川貴教
西川貴教

自分としてもそれはそれで自分の特技、魅力なんだなっていう発見はありました。それに、この楽曲の持つスピード感で単語のつながりを意識した歌い方をするともっと歌が崩れてしまってもおかしくないんだけど、結果的にそうはなっていないので、従来の歌い方が混ざったことでいい効果を生むことができたんじゃないかなと思います。

──2コーラス目のBメロでは、ラップのようなボーカルを披露されていますよね。

韻を踏んだリリックではないので、ラップと言うかどうかの解釈は分かれるところだと思うんですけど。僕の中でこのパートは、節を変えた浪曲や講談に近いイメージがあったんです。それこそ講談師のごとく、言葉を鋭く切りながら、同時にパンチを繰り出して打撃していくイメージでレコーディングしました。

──そこは西川さんご自身の判断でそういった表現にたどり着いたわけですか。

はい。デモではなんとなくの譜割りだけ渡されて、「ここは自由演技みたいなものなので、どうします?」という感じだったんですよ。そこで自分なりに考えてやってみたところ、「いいですね!」ということになって。そのへんの自由な感覚で提案してくれるのも、若い世代らしいところだとは思いますね。我々の世代は限られたチャンネル数の中でいろいろやりくりをしながらパンチイン、パンチアウトを死ぬ気でやるレコーディングスタイルでしたけど、今はデジタルでなんでもできちゃうPro Toolsが当たり前にある時代ですから。「削ることはあとからできるからとりあえずやってみましょう。トラック数なんていくらでもあるんですから」みたいな。そういう環境だからこそ生まれる柔軟な感性は僕としてもすごく刺激になるし、自分に合ってるような気がするんですよね。

──今の柔軟で自由な制作環境の中で、かつての制限の多いレコーディングスタイルを経験してきたことが生きていると実感する部分もあったりしますか?

僕は基本的に曲の頭から最後までを通して歌って、それを2本、3本と重ねていくんです。昔はそういう録り方が普通だったわけだけど、今は「頭から全部歌うんですか!?」と驚かれることも多くて。最近はパートごとにレコーディングすることも多いし、ブツ切りで録ったとしてもキレイにつなげられちゃいますからね。ただ、そういう録り方をしていると本番でうまく歌えないということも起きてしまうわけで。その点、僕のような録り方をしていると、のちのちのライブなどで音源同様のクオリティを担保できることにつながっていく。そういう部分は当たり前に鍛えられてきたところなんだろうなとは思いますよね。ある意味、それが自分の流儀になっているというか。

──1曲をまるっと歌うことでしか生まれない表現もあるでしょうしね。

そうそう。歌に緩急とドラマ、グルーヴが生まれるというかね。今回の曲のラストのフレーズなんかはブツ切りで録っていたとしたら、あの勢いには絶対なっていないはずなんですよ。あのスピード感を持つトラックの上で、あれだけの分量の言葉をメロディに乗せて歌い切ったからこそ、あの最後の叫び、歪みにつながっているわけだから。

澤野さんとの制作は刺激的

──カップリングには、「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀3」のオープニングテーマとなっている「Judgement」も収録されています。作詞はエンドケイプさんですね。

ご一緒するのは今回で2回目になるのかな。彼は独特な物事のとらえ方をする人だし、そもそもの人間性もすごく面白いんですよ。ずっとエアコンの室外機ばっかり見てる人だし(笑)。

──あとバナナですよね(参照:Endcape(エンドケイプ) (@endcape) | Instagram)。

そう、バナナを彫ってる人ね(笑)。とにかく多趣味で変な人であるエンドケイプさんの着想や言葉選びがすごく気に入っているので、今回もすごく楽しい作業になりました。レコーディングの段階でリリックの表現をちょこちょこ変えてもらったりした部分もあるんだけど、そういうときもすごく柔軟に、臨機応変に対応してくれるので、非常にやりやすかったです。

──この曲で打ち出したかったテーマはどんなものですか?

作品自体、第3期を迎え、キャラクターも増えてきたので、今回は物語を貫く登場人物たちの信念みたいなものを、曲を通してつないでいこうと思ったんです。「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」の登場人物たちは言葉や行為ではなく、太刀を交えないと意志を伝えられない不器用な人たちばかりなので(笑)、その不器用さも含めて楽曲で表現したいという思いもありました。

──作編曲は、第2期のオープニングテーマ「His/Story」とエンディングテーマ「Roll The Dice」に引き続き、澤野弘之さんが手がけられています。

西川貴教

僕は純粋に澤野さんのファンでもあるので、今回も彼が僕に歌わせたい曲を自由に作っていただいた感じですね。いただいたものを踏まえて、「ここはこうしてほしい」「こういう感じはどうですか」というアイデアを僕から投げさせてもらうことはもちろんありますけど。澤野さんとの曲作りもだいぶ回を重ねてきたので、クリエイト的な部分に関しての精度はより上がってきている気がします。

──澤野さんの曲としてはけっこうアップテンポな仕上がりですよね。

そうなんですよ。ミドルテンポで腰がドンと据わったサウンドが澤野さん楽曲の大きな魅力だと思うんだけど、この曲は作品の世界観と僕のボーカルを意識してか、澤野さんなりの解釈でスピード感をしっかり打ち出してくれていて。そこがすごく「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」にハマっているところだと思いますね。

──澤野さんのサウンドは、西川さんの歌声との相性もバッチリですよね。

そう言っていただけるとうれしいですね。澤野さんは今、すごく注目されているクリエイターでもあるので、いろんなシンガーの方とコラボしているじゃないですか。それを僕はいつも憎々しく思いながら眺めているわけですけど(笑)。

──あははは(笑)。西川さんはかなりコラボを重ねているほうですよね。男性シンガーとしては。

確かにけっこう頻繁に楽曲制作をご一緒させていただいている感じではありますけどね。本当に澤野さんとの制作は刺激的ですね。ここ最近はコロナの影響でなかなか叶わずにいるんですけど、また一緒にセッションで曲を作ったり、ライブでご一緒したいです。

“TMさん”を超える

──今回シングルに収録される2曲は、前を向いて生きていくための強い意志が描かれている点で共通しているような気がします。そこには西川さん自身の思いも投影されているのでしょうか?

きっとそうだと思います。西川貴教としてはアルバムを1枚出して、それを抱えたツアーしかやっていないわけで。本来であれば昨年はもっと活動する予定でしたけど、それが叶わなかったりもしましたから。でもその分、西川貴教というプロジェクトにおいて成すべきことをより明確にできた気もするんです。その思いを楽曲に注ぎ込み、素晴らしい作品とのコラボと言う形でお届けできることは本当に大事な機会だし、ありがたいことだなと思いますね。

──昨年50歳になられた西川さんですが、今思い描いている目標は何かありますか?

思えば、ひと昔前は僕を呼称するときに“TMさん”と言う人がすごく多かったんですけど、今はほぼほぼ皆無になったんですよ。それは舞台やドラマなどをはじめ、いろんな形で僕という存在を知っていただける機会が増えたからだと思うんです。そういう状況になっているからこそ、ここからは自分の本線である音楽というものを今まで以上にきちんと届けて行きたい気持ちはすごく強いんですよね。そこには、いただいたチャンスをありがたく受け取り、その期待にちゃんと応えていくことが大前提としてあるんですけど。

──西川さんを知るための入り口がたくさんある中で、アーティスト・西川貴教の認知度をさらに高めたいということでもありますか?

西川貴教

そうですね。T.M.Revolutionには皆さんが知ってくださっているような代名詞的な楽曲が存在している。ならば自分を超えるという意味において、西川貴教としてもそういった代名詞になるような曲を作っていきたいんです。そこは1つ明確な目標かもしれない。

──ライバルのような視点でT.M.Revolutionという存在を見ているところもあると。

それはものすごくあります。いい意味で2つの名義がきちんとセパレートしてきている状況でもありますしね。お互いの個性がより明確になれば、例えばT.M.Revolutionの活動をしながら、その傍らで西川貴教が動くみたいなことだって全然アリなんじゃないかなって。

──極端な話、対バンしてもいいわけですしね。

下手すりゃね(笑)。今年はT.M.Revolutionがデビュー25周年なので、ファンの皆さんと作り上げてきた歴史を大事にしながら動きつつ、一方では西川貴教としてもより意欲的に、貪欲に活動したいと考えています。

ライブ情報

T.M.R. LIVE REVOLUTION'21 -VOTE-
  • 2021年5月13日(木)滋賀県 大津 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 大ホール
  • 2021年5月15日(土)滋賀県 米原 滋賀県立文化産業交流会館 イベントホール
  • 2021年5月16日(日)滋賀県 米原 滋賀県立文化産業交流会館 イベントホール
  • 2021年5月26日(水)滋賀県 彦根 ひこね市文化プラザ グランドホール
  • 2021年5月27日(木)滋賀県 彦根 ひこね市文化プラザ グランドホール
  • 2021年6月3日(木)滋賀県 栗東 栗東芸術文化会館SAKIRA(さきら)大ホール
  • 2021年6月4日(金)滋賀県 栗東 栗東芸術文化会館SAKIRA(さきら)大ホール
  • 2021年10月13日(水)滋賀県 守山 守山市市民文化会館(守山市民ホール)大ホール
  • 2021年10月14日(木)滋賀県 守山 守山市市民文化会館(守山市民ホール)大ホール
  • 2021年10月21日(木)滋賀県 甲賀 あいこうか市民ホール
  • 2021年10月22日(金)滋賀県 甲賀 あいこうか市民ホール
  • 2021年10月30日(土)滋賀県 大津 大津市民会館 大ホール
  • 2021年10月31日(日)滋賀県 大津 大津市民会館 大ホール
  • 2021年11月9日(火)滋賀県 東近江 八日市文化芸術会館
  • 2021年11月10日(水)滋賀県 東近江 八日市文化芸術会館
  • 2021年11月20日(土)滋賀県 近江八幡 近江八幡市文化会館 大ホール
  • 2021年11月21日(日)滋賀県 近江八幡 近江八幡市文化会館 大ホール
  • 2021年11月27日(土)滋賀県 野洲 シライシアター野洲(野洲文化ホール)
  • 2021年11月28日(日)滋賀県 野洲 シライシアター野洲(野洲文化ホール)
  • 2021年11月30日(火)滋賀県 草津 草津クレアホール
  • 2021年12月1日(水)滋賀県 草津 草津クレアホール
  • 2021年12月8日(水)滋賀県 大津 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 大ホール
  • 2021年12月9日(木)滋賀県 大津 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 大ホール
  • 2021年12月22日(水)滋賀県 米原 滋賀県立文化産業交流会館 イベントホール
  • 2021年12月23日(木)滋賀県 米原 滋賀県立文化産業交流会館 イベントホール