西川貴教|50歳を迎えさらに加速、西川節全開で“TMさん”を超える

西川貴教が4枚目となるシングル「Eden through the rough」をリリースした。

表題曲は放送中のアニメ「EDENS ZERO」のオープニングテーマとして書き下ろされた、疾走感にあふれる力強いロックナンバー。高い熱量を放つ“西川節”を意識しつつ、新たなトライも盛り込まれた意欲作だ。またカップリングには武侠ファンタジー人形劇「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀3」のオープニングテーマとなる「Judgement」も収録。「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」第2期でもコラボした澤野弘之と再びタッグを組み、作品に登場するキャラクターたちの強い信念を鮮烈に描き出している。

音楽ナタリーでは西川にインタビューを実施。話題を呼んだ最新アーティスト写真や、ニューシングルに注ぎ込んだ強いこだわり、そして50歳を迎えた今の目標について話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 須田卓馬

裸だったら間に合う

──今回のアーティスト写真はかなり衝撃的で。

3月に公開された西川貴教の最新アーティスト写真。

あははは(笑)。そこそこのインパクトはお届けできたかなという思いはありますね。「また脱いでる」みたいな反応もありましたけど(笑)。今回はアニメ「EDENS ZERO」のキャストの皆さんと同時に僕が主題歌を担当することも発表されたんですけど、その際にほかの方々のちゃんとしたプロフィール写真の隣に僕のあの写真が並んでいて。場違いな感じは自分としても面白かったですけどね。

──なんらかのコンセプトがあってあの写真になったんですか?

いや、そこはもう不可抗力と言いますか。ミュージックビデオやジャケット周りのアートワークを固めていく中で、納期なんかを考えると着る服を用意する時間がないぞっていうことになったんですよ。で、「裸だったら間に合うかもしれない」と。そういう不可抗力。

──いやいや(笑)。

ただね、昨年の僕は体1つで勝負して、一応日本一になったんですよ(昨年12月、鍛え上げた肉体美を競う「BEST BODY JAPAN2020」に出場し、50~59歳を対象とするゴールドクラスで優勝)。なので、せっかくだったら体を見せたほうがいいんじゃないかと、周囲の皆さんにほだされたところもあって。

──西川さんにしかできない表現だと思います。

ほかにあんなことをやる人がいないというだけですけどね。ずっと空いている席だし、誰も座りたがらないから僕が座っているというだけで。メジャーレーベルと契約させていただいてからもう30年くらい経つんですけど、当初に想像していた50歳の自分とはだいぶ乖離したところに今いるなという印象ではありますね(笑)。

今の僕に何を歌わせたいのか

──シングルの表題曲「Eden through the rough」は、放送中のアニメ「EDENS ZERO」のオープニングテーマとして書き下ろされたものですね。

はい。お話をいただいてから原作のコミックなんかをいろいろ読ませていただいて。「EDENS ZERO」は友情や勇気と言った普遍的なテーマを、アニメならではの世界観でちょっと気恥ずかしくなるくらいストレートに描いてくれているんです。そういった意味では、小さなお子さんから幅広くご覧いただける作品になっているな、というのが最初の印象でしたね。

──少年マンガの王道的な作品ですよね。

僕もそう思います。いろいろなアニメ作品に関わらせていただく僕としても、こういったどストレートにパンチを打ってくる作品とのコラボはなかなか珍しかったりもするんです。でも今の世界の状況を考えると、むしろこれくらい熱量があってもいいんじゃないかなってすごく思えたんですよね。今だからこその熱量を持った作品だなと。

──友情というテーマは、言い換えれば人と人とのつながりでもあって。それはコロナ禍を経験している僕らには強く響くものになっているようにも思います。

コロナ禍においては人と人との関わりを持たないようにという情勢ですからね。出会うことができたとしても、マスクでその人の顔半分を知らない状況なわけですから(笑)。人と深く関わることが憚られるこんなご時世において、本作のテーマは今後すごく大切になってくるものだと思うので、そういった部分に関しても楽曲を通してしっかり表現できたらいいなという思いはありましたね。

──作詞はSpirit Garden、作曲・編曲はElements Gardenの藤永龍太郎さんが手がけられています。制作は具体的にどのような流れで進行したんですか?

西川貴教

昨年、ゲームアプリ「アズールレーン」のCMソングとして配信リリースした「As a route of ray」(参照:西川貴教が美少女化!新曲がアプリゲーム「アズールレーン」CMソングに決定)もそうだったんですけど、最近は僕がこれまでやってきた活動を見たり聴いたりしてきてくれた世代の方々が、今の僕にどんなメロディ、どんなリリックを歌わせたいのかということにすごく興味があって。なので、まずはそれを提案してもらう形でスタートした感じですね。自分の中にある固定観念みたいなものを1回フラットにしたうえで若手の方々と作業するとすごくいい代謝が生まれるので、今回も新鮮で心地のいい制作になりました。

──楽曲の方向性やイメージに関しては、最初に西川さんから提示するんですか?

そうですね。作品的にマッチするスピード感であったりとか、先ほどお話しした物語が持つテーマ性みたいな部分を最初に共有したうえで制作していただきました。その後、サウンドやリリックに関しても、細かくいろいろやり取りをさせていただきながらレコーディングに向かっていった感じでしたね。今回は全体的にすごくスムーズに進んだので、あまりスタックする瞬間はなかったかもしれない。リリックは何度かイメージの往復があったけど、曲として大切にしたい部分、最終的なゴールはちゃんとお互いに見えていたので。

──結果、楽曲は作品同様に猛烈な熱を放つ仕上がりになりましたね。

自分で言うのも変ですけど、“西川節”を全開に出した曲にしたい気持ちがあったんです。熱量やけたたましさのような部分はやっぱり自分の持ち味だと思っているので、そこはリミッターをかけるのではなく、直撃で全開なものをひさびさにちょっとやってみようかなと。

──いつも以上に西川さんらしさのツマミをひねった感じもしますよね。

確かにそうかも。アンプで言えば、プレゼンスのツマミをめいっぱいまでひねってみようというところはあったと思います。

西川貴教の伸びしろ

──力強くヘビーに疾走するサウンドですが、そこにはストリングスによって生まれる壮大な美しさも加味されていて。すごく印象に残りました。

イントロでのつかみに関しては、そういったサウンドを特に気にしました。単にギターリフだけにするのではなく、宇宙を舞台に冒険するアニメ作品に寄り添ったスケールの大きさを表現できたらいいなと思っていたので。

西川貴教
西川貴教

──ボーカルに関しても西川節を意識してレコーディングに臨まれた感じですか?

そこは今回、若いクリエイターと一緒に作っていく中で、自分なりの解釈みたいなものが新たに生まれてきた実感はあって。これまでの自分は、歌詞カードを見なくても言葉が入ってくる歌というものをすごく大事にしてきたんですよ。でも今回は単語のつながり……要は2つのワードが1つになって聴こえるような歌い方をしたんです。ワードの子音でスタックせず、メロディやフレーズとして聴かせていくみたいな感じですね。歌詞を見ずとも聴いていて気持ちいい、歌ってみて気持ちいい、みたいなところをすごく意識しました。

──ある種、洋楽っぽいアプローチなのかもしれないですね。

最近は日本でもそういうアプローチの楽曲が増えているし、今回の「EDENS ZERO」は日本とほぼ同じタイミングで海外にも配信されていますからね。海外のファンの皆さんに聴いていただくことを狙いにしていた部分も確かにあったと思います。日本語としての意味合いというよりも、パンチのあるメロディや歌が生み出すグルーヴみたいなものを体感していただきたいなと。なのでリリックの運びに関してはいつも以上に意識したところもありました。

──これまで築き上げてきたご自身のボーカルスタイルを、ある意味で大きく崩すことにもトライできる柔軟さは素晴らしいですよね。

もともと存在しているソロプロジェクトT.M.Revolutionを傍らに置きつつ、この“西川貴教”名義でのプロジェクトをやる意義はそこにあると思うんですよ。自分自身のシンガーとしての伸びしろをまだまだ知りたいというか、この年齢だからといって歌い方や表現の成長を止めてしまっては面白くないから。チャンスをいただけるのであれば、いろんな挑戦をしていきたいという僕の思いに、今回の作品は非常に忠実なものになったとは思います。