ニノミヤユイ|闇を抱えた少女がデビュー作で起こす革命

現役高校生の声優・二ノ宮ゆいが、ニノミヤユイ名義で1月15日にアルバム「愛とか感情」でアーティストデビューする。

全10曲入りのこのアルバムは「ヤミノニヲイ」「呪いを背負って生きたいよ。」「乱反射↘↑↗」といった個性的なタイトルの楽曲が並べられ、ダークな雰囲気が漂う内容に。作家陣にはバグベア、カノエラナ、佐伯youthK、佐藤純一(fhána)、氏原ワタル(DOES)、湘南乃風の若旦那こと新羅慎二らが名を連ねている。またニノミヤ自身も、共作を含む3曲の作詞に挑戦。自身の中にある鬱屈とした感情や反抗心を言葉にし、独自の世界観を築き上げている。音楽ナタリーではニノミヤに、自分自身と向き合ったというアルバムの制作過程について話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝

今の私のやりたいことがやり切れた

──アルバム「愛とか感情」をお聴きして、ニノミヤさんはアーティストイメージが強固というか、最初からやりたいことが定まっているという印象を受けました。

デビューが決まってから「私のやりたいことってなんだろう?」というのをスタッフさんとたくさんお話しさせてもらいまして。私は例えば欅坂46さんやさユりさんのような、聴いているだけで胸が締め付けられるようなアーティストさんに憧れているんですけど、そういう自分の好みをお伝えしながらアルバムの制作に入ったんです。なのでおっしゃる通り、今の私のやりたいことがやり切れたアルバムになったと思っています。

──資料によれば「陰キャのカリスマを目指します!」とのことですが、それもスタッフさんとのお話の中で?

はい。そもそも「私ってなんだろう?」と考えたときに、私はネガティブで、根暗で、いつも他人にどう思われるか気にしている……みたいなキャラクターだと改めて思ったんです。それをひと言で表すなら「陰キャ」という言葉がしっくりくるんですね。でも、私みたいな人ってたくさんいると思うので、そういう人たちの救い……とまではいかなくても、なんらかの形で寄り添えるようなアーティストになれたらいいなという気持ちから、いっそ“カリスマ”を目指そうと。

──そのニノミヤさんのアーティストとしての方向性が、このアルバムの強力な作家陣につながっているわけですね。

そうですね。先ほども言った「欅坂46さんが好き」というところから、スタッフさんがバグベアさんにオファーを出してくださったり。必ずしも私が直接作家さんを指名したわけではないんですけど、私の中で納得する方々ばかりで。本当に、私の好みややりたいことを汲み取ってくださって感謝しています。

「愛は死んだ」

──リード曲「愛とか感情」は、今お話に出た欅坂46の「サイレントマジョリティー」や「不協和音」を手がけたバグベアさんが作詞・作曲・編曲を担当されています。バグベアさんとはどのようなやりとりを?

実は、このアルバムに参加してくださった作家さんとは全員、事前に直接お会いして、私のパーソナルな部分をお話しさせていただいたんです。もちろんバグベアさんもそうなんですけど、初めてお会いしたときに「愛とか感情」の元となるデモを持ってきてくださって。その時点で本当に素敵な曲だったんですけど、そのうえでバグベアさんは「ピアノとか好きですか?」「テンポはもっと速いほうがいいですか?」と、さらに細かく私の好みを聞いてくださったんです。

──なるほど。実際、アップテンポでシリアスなピアノロックに仕上がっていますね。

そうなんです。私もまさに「ピアノロック的な曲がすごく好きです」ともお伝えしたので、完全に私の願望を叶えてくださった感じですね。完成版を聴いた瞬間に「このインパクト……絶対にリード曲だな」と思いました。

──「愛とか感情」の歌詞に関しては、今おっしゃった「私のパーソナルな部分」が反映されているわけですよね?

そうですね。私は弱い人間で、その弱さを克服するために強がっているところがあるみたいな、そういうことをお話ししたら……。

──「愛は死んだ」と繰り返す歌詞が。

その「愛は死んだ」というフレーズは、最初に歌詞をいただいたときはどう解釈していいかわからなくて。でも、時間をかけて考えた結果、この“愛”は文字通りの、誰かが好きという意味の愛じゃなくて、“温かみのある場所”みたいなものだと思ったんですね。つまり、そういう場所にいるだけじゃ強くはなれないというメッセージが込められているんじゃないかって。だったら、私も自分の感情のとがった部分を前面に押し出すしかないという気持ちで歌いました。

──おっしゃる通りヒステリックと言ってもいいくらい切迫した歌声ですね。でも、かなり難しい曲ですよね?

本当に難しくて。しかも、この「愛とか感情」がソロ名義での初めてのレコーディングだったんです。今まで声優の二ノ宮ゆいとしてキャラクターソングを歌ったことはあったけれど、それをカタカナの“ニノミヤユイ”の歌い方にするにはどうすれば……というところから始まったので、いろいろなディレクションをいただきながらじっくりレコーディングさせてもらいました。

──印象に残ったディレクションはありました?

ちょっと語弊があるかもしれないんですけど、「あまり滑舌がよくなくてもいいよ」と。やっぱりキャラクターソングはハキハキ歌うことを心がけていましたし、この「愛とか感情」も滑舌よくカッコよく歌おうとして悩んでいたんです。でも、よりアーティスティックな表現を目指すなら、ラフな歌い方もアリなんだということを教えていただいて、そこで少し気が楽になりましたね。あと、ディレクションとは違うんですけど、レコーディングスタジオの明かりを消してほぼ暗闇の中で歌ったので、それもあって自分の切実な気持ちを声に乗せられたんじゃないかなと思います。

こんなに赤裸々に言葉にして大丈夫?

──4曲目の「乱反射↘↑↗」は作曲・編曲がバグベアさんで、作詞がニノミヤさんとバグベアさんの共作ですね。

これは、歌詞の原案みたいなものとして、バグベアさんから「普段考えていることを一度書いてみてください」と言われまして。その言葉通りに私がぶわーっと書いたテキストを、バグベアさんが曲に当てはめてくださったんです。なので、歌詞としてキレイに仕上げてくださったのはバグベアさんなんですけど、1つひとつの言葉は私から出てきたものだから、歌詞を読んで「自分だなあ」みたいな(笑)。

──ははは(笑)。

「こんなに赤裸々に言葉にしちゃって大丈夫かな?」と思うぐらいド直球に歌っていますし、自分の中でこういう弱い部分もあることに改めて気付かされたというか、実感した曲でもありましたね。

──ちなみに初めて作詞に挑戦したのはこの「乱反射↘↑↗」ですか?

そうです。文章を書くことは好きだったので「いつか作詞もできたらいいな」くらいにふわっと考えていたところ、スタッフさんから「書いてみたら?」と提案していただいて。「デビューアルバムから作詞していいんですか?」みたいな戸惑いもあったんですけど、やっぱり自分の言葉で伝えるというのはすごく大事なことだと思うので、それが最初からできたのはすごくうれしいですね。

──「乱反射↘↑↗」の歌詞は「なりたい私」と「今日の私」の、すなわち理想と現実のギャップについて歌っている?

そうですね。「なりたい私」に「今日の私」は全然届いてなくて、でもそこに悩みながら生きているのが今の自分みたいな。まだ18年しか生きていないんですけど、私の人生は“普通”としか言いようがないんですよ。だから言ってしまえば「特別になりたい」という強い思いが私の中にはあって……まあ、そんな未来は果たして訪れるんだろうかという感じではあるんですけど(笑)。

──でも歌詞を読む限りでは「ここから逆転劇始まるんだ」と、未来に対して強気ないしは希望的なところも見て取れます。

やっぱり、どれだけ背伸びしても今の自分は変えられないんです。だけど、その変えられない今の自分を認めたうえで、ちょっとでもがんばって前を向いていこうという気持ちは、確かにありますね。