ニノミヤユイ|新しい私を見せる、“陰×ロック”の世界

ニノミヤユイがミニアルバム「哀情解離」を12月23日にリリースする。

ミニアルバムのテーマは“陰×ロック”。デビューアルバム、1stシングルと、さまざまなクリエイターとコラボしてきたニノミヤは、今作でもミオヤマザキ、DECO*27、蜂屋ななしといった敬愛するアーティストが手がけたロックナンバーを歌っている。

デビュー時から“陰キャのカリスマ”を名乗って生きづらさや葛藤を歌い、独自の世界観を築き上げてきたニノミヤ。髪を金色に染め、「このミニアルバムでイメージを一新したい」と語る彼女の思惑とは? ニノミヤの新しい一面が見えるミニアルバムについて話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝 撮影 / 塚原孝顕

髪を染めて不良になりました

──ニノミヤさん、雰囲気変わりましたね。

ちょっと、このミニアルバムでイメージを一新したいなと思って髪を切り、染めました。デビューアルバムの「愛とか感情」(2020年1月発売)と1stシングルの「つらぬいて憂鬱」(2020年8月発売)を出して、ニノミヤユイの自己紹介パートは終わったかなという気はしていて。これからまた新しい一面を見せていきたいなと。

──前回のインタビューの最後に「今からでも不良になりたいなあ」とおっしゃっていましたが……(参照:ニノミヤユイ「つらぬいて憂鬱」インタビュー)。

ニノミヤユイ

そうです。形から入ろうの精神で(笑)。

──そのミニアルバム「哀情解離」のテーマは“陰×ロック”とのことですが、それも不良の一環で?

あながち間違ってはいないですね。私にとってロックって、乱暴なことを言いやすい音楽というか、ポップスと比べるときれいにまとまらなくてもいいし、むしろ投げやりでも表現になるというイメージがあって。私自身、ここ1年ぐらいロックバンドばっかり聴いていて、ミニアルバムの制作が決まったときに私が「ロックをテーマにしたい」と言ったら、それが通ったんですよ。じゃあ、髪も染めちゃおうみたいな(笑)。

──ちなみに、どんなロックバンドを聴いていたんですか?

今はTHE ORAL CIGARETTESさんとMY FIRST STORYさんの楽曲をめちゃくちゃ聴いています。あとキュウソネコカミさんや、今回のリード曲を作ってくださったミオヤマザキさんも。

──そのミオヤマザキをはじめ、DECO*27さんに蜂屋ななしさんと、今回も作家陣が個性的ですね。

今言ったように、私がミオヤマザキさんを好きでよく聴いているというのはスタッフさんも知っていて、だからミオヤマザキさんにオファーしてくださったんですけど、OKをいただいたときは「本当にこんなことがあっていいのか!?」と。あと、私が最初にハマった音楽はボカロなんですけど、DECO*27さんも蜂屋ななしさんも大好きなボカロPさんなので、夢が叶いすぎてびっくりしました。

──ニノミヤさんはデビューアルバムから一貫して、事前に各作家さんと直接お会いしてご自身のパーソナルな部分をお伝えする機会を設けていますが、今回も?(参照:ニノミヤユイ「愛とか感情」インタビュー

はい。リモートの場合もありましたが、今回も全員の方とちゃんとお話をすることができました。なので、新しいニノミヤユイの要素もたくさんあるけれど、それでいて私のやりたいことを貫けているという感覚がすごくあります。

「お前なんの為に生きてんの?」

──ミオヤマザキのmioさん作詞、takaさん作曲の「痛人間讃歌」はリード曲にふさわしい、アップテンポでヒステリックなロックナンバーですが、お二人とはどんなお話を?

実は、mioさんとtakaさんとお話しした時間はほかの作家さんと比べて短かったので、自分がどういう人間なのかということをちゃんとお伝えできたか不安な部分もあったんです。でも、できあがった歌詞を拝見したら自分のことを的確に言い当てられていて。もともとmioさんの歌詞には共感することが多かったんですけど、自分のことを書かれるとこうもグサグサと刺さるのかと。サウンドにしても、ミオヤマザキさんらしい狂気の入り混じった感じがあって、私の想像を超える強烈なリード曲になりました。

──具体的に、どの歌詞が刺さりました?

「お前なんの為に生きてんの?」ですね。即答できる人のほうが少ないと思うんですけど、やっぱり私もこのコロナ禍でいろいろと制限されている中で「私はこれをやりたいけど、状況が許さない」みたいな場面に直面して、じゃあどうしようかといろいろ考えているうちに「私はこのままでいいんだろうか?」「私、いる意味ある?」と不安になることが多かったので。そこへ来て「お前なんの為に生きてんの?」という問いを突きつけられるのはなかなか酷だなと。

──今その問いに答えられます?

答えられません。

ニノミヤユイ

──ですよね。僕も答えられません。ニノミヤさんは過去のインタビューで、学生時代は真面目な子を演じていたみたいなお話もされていました。それが「愛されたくて いい子になって 自分を捨てて」という歌詞に表れているようで。

まさにそうで。前にもお話しした通り、私は周りの目が気になって仕方がない性分というか、嫌われたくない一心で優等生ぶっていたけれど、それってやっぱり自分を捨てることなんじゃないかって。当時はもちろん今でもそう思うことがあるし、それを認めたら絶対につらくなるとわかっているので見て見ぬふりをしていたんです。それをmioさんに看破されてしまったので、もう直視せざるを得ない状況に立たされ……なかなか苦しい歌詞ですね。

──その苦しい歌詞を、どういう気持ちで歌ったんですか?

これはもう、苦しいまま歌うしかないです(笑)。それこそ「お前なんの為に生きてんの?」という問いに答えが出せないように、この歌詞を自分の中で完全に消化することはできないので。「痛人間讃歌」というタイトルもこの歌詞にぴったりだなって思うし、私も含めてなんですけど、生きづらさを感じている人間たちに聴いてほしいですね。

自分の好きな歌い方は見えてきた

──ニノミヤさんはデビューアルバムからロックナンバー自体は歌ってきていますが、それらと今回のずばり“ロック”をテーマにしたミニアルバムで、何か違いはありますか?

今回は感情を乗せるということ以上に、歌の技術面に関して悩みました。それぞれの曲にどういう歌い方で臨めばいいかを考えることにすごく時間をかけましたね。「痛人間讃歌」で言えば、仮歌をmioさんが歌ってくださったんですよ。なのでそれを初めて聴いたときに「ミオヤマザキさんの新曲じゃん!」と。

──そうなるでしょうね。

ニノミヤユイ

自分自身もミオヤマザキさんのファンなので、その曲の強さにいかに立ち向かうかというのがすごく難しくて。やっぱり曲に飲み込まれちゃうとニノミヤユイの曲にならなくなってしまうので、ニノミヤユイらしいボーカルを作っていかなきゃいけないし、そのためには今までのように感情をフルにぶつけるだけじゃ足りないと感じて。デビューアルバムの「愛とか感情」では、自分で意識的に変えていた部分もあるんですけど、歌い方にけっこうバラつきがあったんです。それに対して今回のミニアルバムは、その歌い方のバラつきを抑えつつ、でも表情は豊かにすることを強く意識しました。例えばウイスパー気味に歌うパートだったら、全5曲を通じて息の配分をあまり変えないように気を付けたり。

──その成果を、ご自身でも感じますか?

正直、自分で自分の歌を聴いているとよくわからなくなることもあるんです。ただ、今までは完パケの音源を聴いたときに「ここは、もうちょいこういう感じで歌えればよかったな」と思ったりすることがけっこうあったんですけど、今回はレコーディング中に自分から「もう1回やってもいいですか?」と逐一修正することができて。結果、自分で「好きだな」と思えるテイクが採用されているので、まだ自分の歌い方を確立できたとは言えないものの、少なくとも現時点での自分の好きな歌い方は見えてきたかなって思います。それは今後、また変わるかもしれないんですけど。