Nikoん、メジャーデビューしても変わらない能動的なバンドの届け方「変わったことをするよりも“2500円分のライブできんのか?”みたいなとこで戦いたい」

Nikoんが2ndアルバム「fragile Report」をリリースし、maximum10よりメジャーデビューを果たした。しかし、そのフットワークの軽い活動形態は、一般的な「メジャーデビュー」のイメージとは異なるものかもしれない。彼らはサブスクに音源を公開せず、CDのみでのリリースに絞る一方で、アルバムの購入者に限り無料で入場できる“アウトストア”ライブツアーで47都道府県を回る予定だ。各地でのブッキングライブも合算すると約半年間で100近くのギグを予定しているとのこと。ひたすら、ひたすらNikoんは足を使う。

Nikoんは、ここまで最短距離でバンドにとっての誠実さを体現し続けてきた。オオスカ(Vo, G)とマナミオーガキ(Vo, B)により結成されたのが2023年。翌年には「FUJI ROCK FESTIVAL」の登竜門ステージ「ROOKIE A GO-GO」に選出され、カナダツアーも完遂。自主流通での1stアルバム「public melodies」は「APPLE VINEGAR -Music Award- 2025」で特別賞に選ばれた。ビッグビート / ミクスチャーロックと邦楽オルタナのメロディアスな旨味を3ピースでミックスし、熱量のあるパフォーマンスで叩き付ける姿は、ライブハウスに集う全国のロックリスナーに響いている。

音楽ナタリーでは、サポートドラムを務め、「fragile Report」のレコーディングにも参加した東克幸(Dr)を交えたインタビューを実施。全曲マナミオーガキの歌唱となり、ポップチューンとしての芯の強さと硬質なビートが高次元で融合した「fragile Report」をはじめ、さまざまなトピックを振りまくNikoんの哲学に多方面から迫った。

取材・文 / 風間一慶撮影 / 山田翔太

メジャーデビューするとは知らなかった

──「fragile Report」のリリースをもってmaximum10からメジャーデビューを果たすとのことで、まずはその経緯から聞かせてください。どのタイミングで提案があったんですか?

オオスカ(Vo, G) 去年のツアーファイナルの時期ですね、5月か6月くらいに担当の人がライブを観に来てくれたんです。

──当時はバンドの結成から1年足らずで「FUJI ROCK FESTIVAL」の「ROOKIE A GO-GO」に選出されたり、カナダツアーを回ったり、フットワークの軽い活動をしていましたよね。そのままインディペンデントで続ける道もあった中で、あえてメジャーレーベルに所属することを選んだのはなぜですか?

オオスカ インディーズのときと感覚は変わってないんですよ。そもそもmaximum10からアルバムを出すことが「メジャーデビュー」になるのもタワレコのツイートで知ったくらいで、意識したことはなかった。

マナミオーガキ(Vo, B) うん、確かに。

オオスカ 結局、インディーズでもメジャーでも、バンドをやる時点で誰かの力を借りないと続けられないんです。それで当時のNikoんに「面白いからなんかやろうよ」って声をかけてくれたのが今の事務所だった。ほかからも誘われなかったわけではないけど、単純に話してて一番面白かったし、その熱量に乗っかってみたらメジャーデビューしてたっていう。

マナミ 私としてはバンドに携わってくれるチームの人が増えるっていう感覚で、変に身構える必要がなかったんですよ。だから特に反対もしませんでした。

存在が広まるのは大事だけど、届けたい形で届けることが重要

──バンド内の意見形成が独特ですよね。例えば今年の頭にサブスクから音源を引き上げたときも、オオスカさんが相談せずに停止したとnoteで拝見しました(参考:サブスク停止について。|Nikoん)。

オオスカ あのときは週に2回くらいぺやんぐ(マナミオーガキ)と集まって制作をしたりいろいろしゃべってたりしていて。そこで「ぶっちゃけ、サブスクってどう思ってる?」みたいな世間話になって、お互いの意見を確認したんですよ。当時はミュージックビデオを作った曲だけサブスクで配信してて、それを中途半端に残しておくことにモヤモヤしてたんです。だから音源を消したときも「そっか」くらいのノリでした。

Nikoん

Nikoん

──そこまで大きなトピックとは思ってなかった。

オオスカ そうです。

東克幸(Dr) 俺はnoteでサブスクの停止を知ったんですよ。それまでは「『public melodies』をサブスクで出してもいいんじゃない?」って言ってたけど、オオスカの文章を読んで納得しました。こういう考え方なのか、みたいな。

オオスカ そもそも、俺らはサブスクの前後をリアルタイムで経験してる世代なんですよ。最初はSpotifyがこんなに流行るとも思ってなかったし。それが今やカタログにない音楽のほうが珍しいっていう時代になったわけで、タワレコとかTSUTAYAでCDを買ったり借りたりしながら能動的に探す文化で育った自分にとっては違和感が出てきちゃったんです。そこまで大それたことをしたわけでもなく、自分たちの身体に近いことをやりたかったので消しました。

──「自分たちの身体に近いことをやりたかった」というのは、全国に足を運んでライブを繰り返すNikoんのイメージとも重なります。とはいえ、サブスクの音源はバンドにとっての名刺にもなるわけで、それがなくなることによるデメリットは考えなかったんですか?

オオスカ うーん、そもそもサブスクって、特定のアーティストがもともと好きな人が聴くものだと思うんですよ。Nikoんのことをまったく知らない人がわざわざ調べて音源にたどり着くのは相当稀なんじゃないかと。

──うんうん。

オオスカ しかも、お金を払わないと聴けなかったはずのアルバムが無料で聴けちゃうわけで、そこで消費されちゃうのも嫌なんです。CDって最初の30秒でハマらなくても、買ったなら最後まではひとまず聴いてくれると思うんですよ。ただ、サブスクだとほかのバンドのアルバムに飛んでいっちゃう。でも、最初の30秒がダメでも後半の展開があるおかげで光る作品もあるじゃないですか。それも込みで評価してほしかったんです。

オオスカ(Vo, G)

オオスカ(Vo, G)

──サブスクの音源を停止してからのツアーで反響を感じることはありましたか?

オオスカ 「RE:place public tour 2025」で東京以外の場所にもCDを持っていって、結果的に250枚くらい手売りできました。それが俺らにとって健全だったんですよね。ライブを観て、よかったらCDを買う、みたいな。多くの人にNikoんの存在が広まるのはもちろん大事ですけど、それ以前に届けたい形で届けることが重要なんです。

──そういう意味ではアルバムを発表することとライブをすることが非常に近いというか、「届けたい形で届ける」という目標があって、それに対していろいろなアプローチで臨んでるという。

オオスカ でも、音源を作ってるときはそんなにいろいろ考えてないです(笑)。今回のアルバムはこの3人で作ったんですけど、各々がとりあえず納得するものを作ったってだけです。

岡村靖幸、宇多田ヒカル、井上陽水のポップセンス

──「fragile Report」は全曲マナミさんのボーカルですよね。いつから構想していたんですか?

オオスカ バンドを組んだ時点で2ndアルバムまでは見えてたんですよ。1枚目は俺が歌って、2枚目はぺやんぐが歌う。これまでも弾き語りとかソロでぺやんぐが歌うことはあったけど、「この子がメインボーカルで歌うバンドってどうなのかな?」ってずっと思ってて。

マナミ 「ぺやんぐがボーカルの曲をやる」っていう話はなんとなくオオスカから聞いてましたけど、アルバムまでは想定してなくて。なので実際に録音するときは「あ、マジか」とは思いました(笑)。Nikoんの前にも2バンドくらいやってたんですけど、そのときはコーラスだったので、メインボーカルをやるっていうのは自分の音楽人生にとっても挑戦でした。

マナミオーガキ(Vo, B)

マナミオーガキ(Vo, B)

──「さまpake」の制作についてマナミさんが書いたnote(参考:パリパリチョコサンデー|Nikoん)では、岡村靖幸や宇多田ヒカルの名前がリファレンスとして挙げられていましたよね。確かに、「fragile Report」は既存のNikoんの要素に加えてポップスの成分が持ち込まれた印象です。

マナミ その2人に共通するのって、パッと聴くと英詞が乗ってそうなメロディに日本語が乗っていることなんです。そのセンスが入り口になっていろいろ聴き始めたので、自分もやってみたくなりました。私が英詞をバリバリ歌うのってちょっと恥ずかしいというか……でもカッコいいメロディも歌いたいので、日本語で気持ちよく響くようにチャレンジしてみました。

──「public melodies」の頃からダンスミュージック全般からの影響はありましたけど、「fragile Report」ではよりJ-POPらしい歌メロの強さが表現されていますよね。

オオスカ 今回は東さんとぺやんぐのシンパシーを感じました。俺は音楽知識もないし、8ビートと16ビートの違いもぶっちゃけわからないくらいなんですけど、リズム隊の2人はちょっと昔のJ-POPのノリとかを共有してるんですよ。特にドラムの細かいアレンジは全部任せたし、アレンジの大枠は東さんが作ってくれたと思ってます。

 デモをバンドに落とし込むことを考えてるうちに、だんだんとNikoんっぽいフレーズがわかるようになるんです。ちょっと専門的な話ですけど、普通はハイハットとバスドラを同時に入れるようなタイミングでバスドラを入れずに、ギターとリズムが噛み合うようにするとか。それでメカニカルな16ビートを有機的に叩くっていう。そういうイメージが「fragile Report」を作る中でできていきました。

東克幸(Dr)

東克幸(Dr)

オオスカ ぺやんぐは宇多田ヒカルを挙げてたけど、東さんは井上陽水あたりの世代までさかのぼって考えてくれてるんですよ。ファンクとかソウルが日本のポップスに入ってきた時代の名曲が持ってるニュアンスとかを汲んでくれる。「fragile Report」のレビュー企画(参考:Nikoん New Album「fragile Report」特設サイト)で「前のアルバムよりもポップになった」ってコメントをくれる人がいるのは、そういう下地があるからだと思います。

“おもんないビート”は避けたかった

──ドラムに関しては明確に重みが増したというか、例えば「bend」とかはプロダクションでバキバキにしてますよね。

オオスカ 「bend」みたいな曲って普通は前のめりで、勢いで叩いちゃうと思うんですよね。でも、そこは避けたいっていう感覚を俺と東さんは共有していて、それが重い音につながってるんじゃないかと。テンポは早いけどヘビーにするっていう。

 「これだとおもんないビートだよね」みたいな。

オオスカ そうそう(笑)。そういうビートだと聞こえ方が変わってきちゃうよね。拍も小節数もキッチリ決まっているけど、その中で有機的に叩くっていうことは人間にしかできないことなので、その点では東さんを信頼して制作を進めました。

マナミ “おもんないビート”ってダブルミーニング?