ナタリー PowerPush - The next! Liddell 1974

純粋で自虐的な私小説「リデルの詩」の魅力に迫る

「変えよう」って言えば変われると信じてる

──アルバム1曲目の「しゃぼん玉」についてお訊きするんですが。この曲の歌詞はオタクというか、萌え系マンガの二次創作をしているような人を糾弾してる内容に聞こえるんですが。

コグレ そうですね。それもあると思うんですけど、むしろこれは自己世界のことでもありますから、自分で言って自分に返してるようなところがありますね。

──自分にもある部分?

コグレ もちろんそうですね。

──では「賽は投げられた」という歌詞は「自分で言わなきゃ、踏み出さなきゃ」という気持ち?

コグレ そんな感じです。「変えよう」って自分に対して言えば変われるってちょっと信じてるというか。

──この曲のPVが象徴的なんですよね。メンバーが弾けるというか、破裂するような映像になっていて。

コグレ そうですね。あれは監督のアイデアなんですが、すごく話し合いました。監督としては初音ミクのPVみたいなものとして表現したいっていう考えがあったみたいで、あからさまにブッ壊れてみたり。文字(歌詞)の出し方もまさにそうなんですよね。

前作は物語だったが今作は私小説に近い

──3曲目の「恋の業火」は純愛を謳いながら自虐的な笑いにも転じる内容で。コグレさんはこうした歌詞は物語を考えて書いてるんですか?

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コグレ 前作は物語を書いてる感じだったんですが、今回はもっと私小説に近いものを表してる感じですね。だからラブソングは書けなくて。というのは単純にそういう相手もいないってとこなんですけど。

──今は創作はできない?

コグレ そうなんです、今はね。この曲に関しては久しぶりに恋とかしてみて、一瞬で失恋してみたんですけど(笑)。

──ははは(笑)。

コグレ そのときの自分がもう……ヤバかったんで、とりあえず曲にして解決した感じになってます(笑)。

──じゃあその失恋は成仏できたんですね。

コグレ この曲で(笑)。

──もしかして、人生の中で作品のネタを探してるところがあったりして?

コグレ それはないですね(笑)。でもこうやって表現できる状況に今あることは幸福なことだと思ってます。

──でも音楽に昇華できなかったらつらいですか?

コグレ それはありますね。逆にどんな経験も曲にできるとも言えますし。前作が幻想というか妄想に近いとしたら、今回はそこからちょっと日常に出てきたぐらいの差はあると思います。

10何年やっていてギスギスしたこともない

──コグレさんの表現の原点に児童文学や芸術があったことを考えると、方法論としてバンドじゃなくてもできたんじゃないか?と思えるフシがあるんですけど。

コグレ それは結構言われるんですけど、元々バンドしかやってませんから。僕ら、ホントに仲が良くてずっと一緒なんですよね。それだけがいいとこなんじゃないか?というぐらい。

──ちなみに今クロサワさんが何を考えてるか、コグレさんはわかりますか?

コグレ 「俺、役に立ってんのかな」とか考えてると思います(笑)。

クロサワ そうです(笑)。

──ははは(笑)。その安心感みたいなものが、バンドにとってプラスの方向に働いていると?

コグレ 僕たちの場合はそうですね。10何年やっていてギスギスしたこともないですし。変な話、まあよくもこんなに売れずに長いこと続けてるなっていうところもあって、なんか12年間付き合ってる、結婚してない恋人みたいな感じ。変な話、僕たちもう何年も彼女とかいないんですよ。

──それはバンドのせい?(笑)

一同 ははは(笑)。

コグレ いや、自分たちのせいなんですけど。「嫌なことあった」って言ったら彼女に慰めてもらうとかあるじゃないですか。それが僕の場合バンドなんですよ。

──決定的なことを言いましたね(笑)。

コグレ まあ当たり前の存在なんですよ、僕にとってバンドは。

今回のレコーディングの間に解散しそうになった

──例えば「10数年付き合ってきた恋人」関係にあるバンドが、結婚という契約をするのはどういうタイミングだと思いますか?

コグレ なかなか売れることもなくここまでやってきて、それで何かドカン!っていうのが結婚なのかな、と思います。

──売れたほうがいいですもんね。

コグレ ははは(笑)。だから結婚できたらいいなと非常に思ってます。

──次の関係が築いていけたらっていうところに来たわけですね。

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コグレ 今、こうやってお互いが好きでずっと一緒にいますけど、今の僕らの活動は仕事にもなってないしお金にもなってませんんから、それがお金になるようになったときに「やっと」っていう感じだよね?(笑)

クロサワ うん(笑)。

──なんか不思議な会話になってきた(笑)。社会的な関係になって、また新しい何かが始まるような絆の強さはあるんじゃないですか?

コグレ 実は今回のレコーディングの間にメンバーの事情的なところで、解散しそうになったんですよ。それぐらい厳しい状況の中で、僕ら以外の人の力も合わせて乗り越えようとしていて。今までにないぐらい、僕らのことをわかってくれて力を貸してくれる人がどんどん増えてきてることにすごく感謝していて。

──それはやっぱりこのバンドが独特だし、魅力的だからだと思いますよ。しかも仲の良さがぬるい感じとは真逆な感じで出ているから。

クロサワ 4人の個性は全然違うんですよ。音楽以外のところで言えば僕はアニメが好きだし、メンバーの中には野球が好きな人もいるし。でもバンドはひとつの生き物みたいになっていて、そこが面白いっちゃ面白いですよね。

──なるほど。最後にクロサワさんの当面の目標は?

クロサワ コグレくんがさっき言いましたけど、自分たち以外の人ががんばってやってくれてる部分もあるんで、僕はもう一生懸命、演奏するしかないと思ってます。

──コグレさんはいかがですか?

コグレ このアルバムがしっかり広く届いてほしいですね。そのポテンシャルは絶対持ってると思ってますから。

The next! Liddell 1974 「しゃぼん玉」

ニューアルバム「リデルの詩」 / 2012年11月7日発売 / 2000円 PRIMITIVE PRM-010
ニューアルバム「リデルの詩」
収録曲
  1. しゃぼん玉
  2. ひとりぼっちのホリデー
  3. 恋の業火
  4. ロードムービー2
  5. ふるさと
  6. 僕のマザーグース
  7. ガールフレンド
  8. チューリップ
The next! Liddell 1974
(ねくすとりでるいちきゅうななよん)

コグレ(Vo, G)、タテベ(Dr)、クロサワ(B)、ヒラノ(G)からなる群馬県出身の4人組バンド。2010年、「AOMORI ROCK FESTIVAL'10~夏の魔物~」にThe next名義で参加し、2011年に入ってから現在のバンド名に改名。精力的なライブ活動を続ける。同年10月に1stアルバム「絵のない絵本」をリリース。翌月のレコ発ライブではKING BROTHERSと競演し好評を博した。2012年11月に2ndアルバム「リデルの詩」をリリース。