ナタリー PowerPush - New Acoustic Camp 2012

TOSHI-LOW×Candle JUNEが語り合う イベントの魅力と目指すもの

TOSHI-LOW(BRAHMAN、OVERGROUND ACOUSTIC UNDREGROUND)をオーガナイザーとして2010年にスタートした「New Acoustic Camp」(以下NAC)が、今年も9月22~23日の2日間にわたって開催されることが決まった。今年から会場が水上高原リゾート200に変わり、未知の環境のもとでの意欲あふれる新たな第一歩を踏み出す。

その出演者発表を前に、TOSHI-LOWの旧友であり、1年目からNACのフィールドデザインを手がけているCandle JUNEとTOSHI-LOWとの対談をお届けしよう。他の野外フェスとは一線を画すNACの骨太なコンセプトについて、アコースティック音楽の魅力について。尽きぬ言葉の裏側にある2人の熱い思いこそ、NACを動かす原動力だ。

取材・文 / 宮本英夫 撮影 / 五十嵐絢也

自分たちで作っている実感がないと納得できない

──NACスタートのきっかけの話から始めたいんですけども、そもそも第1回開催時に、TOSHI-LOWさんはなぜJUNEさんに声をかけたんですか。

インタビュー写真

TOSHI-LOW まず、JUNEがフィールドデザインしてるのを見てたので、イベントをJUNEにいじくってほしいなという気持ちがあったから。あとは、もはや野外フェスイコール「自然を大切にする」「自然に帰る」ということではない、と思っていて。昔だったら、フジロックのFIELD OF HEAVENとかに行ったときのワクワク感とか、そこで鳴ってる音楽はわかんなくても「いいな」って思える感じがあったと思うんだけど、いろんなフェスが出現したことで、もはや訳わかんなくなってきちゃったというか。「野外であることイコール自然」みたいな流れが出てきた反面、でも本当は自然の中で音楽をやることは不自然だからそこがかけ離れてしまってて。 それをもしかしたら、第三者が入ることによって、もっと自然というものを人間の近くに引き戻せるんじゃないかな?と思って。それに適任なのは、Candle JUNEだろうと。

Candle JUNE 電話くれたのは富士山に登って、降りてるときだったんだって?

TOSHI-LOW そうそう。「あっ」と思いついて。ところでどう? 最近のフェスは?

JUNE フジロックやライジングとか関わってるフェスには、常に毎年「今年はどうしますか?」って聞くところから始めるんだけど。当然参加する心の準備はしているけど、それでも今年もやるかやらないかをジャッジしてほしいんだよね。パーフェクトなフェスはないと思うし、そもそも矛盾があるわけで。「自然が最高」と言うのなら、フェスなんかしないで自然に暮らしていたほうがいいわけだし。フェスには興行という側面もあるから、理想と現実にどう折り合いをつけて納得していくかと考えたときに、運営側との話でいくつか腑に落ちる点がはっきりあると、積極的に関われるから気分がいいというか。

TOSHI-LOW ああー。

JUNE もちろん仕事で参加するわけだけど、それ以上に自分たちで作っている実感がないと納得できないので。今のフェスは全部が準備されてて、警備員もいて救護班もいるけど、それでもありとあらゆる事柄が起こるものだという認識があって。そのときに、例えばゴミが落ちていたら「ゴミを拾ってください」って声をかけるんじゃなくて自分でゴミを拾うとか、誰かが倒れたら率先して助けに行くとか、そういう気持ちになれるイベントかどうかが、一番大事だと思ってて。いまだにフジロックの日高さんとは直接「今年はどうしましょうか?」という話から始めて、そこで発起人の思いやテーマが感じられれば「よし、やろう」となるし。そうやって、スタッフが毎回一緒に作ってるメンバーだと、そこに帰ることがファミリーみたいな感じにもなって。気が付いたら、ずいぶん歳とっちゃったって感じはあるけど。

TOSHI-LOW “森の人”みたいな感じだよね。

JUNE 1990年代から、ずーっとそういうフェスティバルばかりをやってるからね。

出演者が最後まで飲んだくれてる居心地の良さ

TOSHI-LOW フェスをやる場所、つまり「フィールド」を造るにあたって、制約って実はあったほうがいいの? それとも自由にデザインしていったほうが面白いの?

インタビュー写真

JUNE 実は、自分が本当に自由にアーティストとしてモノを作ったことがあるかといったら、それはないと思っていて。現実的に言うと「水場がここにあるし」とか「トイレはここかな」とか、いろんな条件があって、「だからこれが一番いいよね」って、作らされてることのほうが多いっていう気はしてる。もちろんオーガナイズする人の「こんなふうにしたいんだよね」という気持ちがあったら、その声をフィールドに反映させるようにしてるし。

TOSHI-LOW JUNEはフィールドを造るべき場所を探し出してくれるじゃない? でも探せなくって居心地悪そうなときも見かけるから、ああいうときはどう思ってるのかな?って。

JUNE 大自然との調和みたいなことも考えてるんだけど、でもどちらかというとそれ以上に、やっぱり人だなと。オーガナイザーがイベントについて抱いてる気持ちが一番だなと思う。

TOSHI-LOW 新潟(Candle JUNEが参加している、中越地震からの復興イベント「SONG OF THE EARTH」)もそうだし、フジとかもそうだと思うけど、思いを持ってる人たちが多いところではすごいフィールドを作りやすいと思う。逆に言ったら新しいイベントとか、まっさらなものに対しては、何をきっかけに作っていくの?

JUNE 今回のNACは特にその感じがしていて、ものすごい不安とものすごいワクワクが同時にある。スタッフのみんなと「どうしますか?」みたいな感じで話しあう、学生のような気分というか。そういうことがすごく楽しくて、不安要素はすごくたくさんあるんだけど、でも逆に言えば「またいつもの感じだよね」というような仕事感がなくて。そういう感じが、来てくれる人たちに対しても伝わるといいなと思う。「一緒に作っていきましょうね」というと安っぽいセールストークみたいな感じだからイヤなんだけど、「NACじゃなかったら体験できない」みたいな感じがこれまでの2回では確かにあったなと思っているし。それは、出演者にも伝わってるなと思うし。出演者が最後まで飲んだくれてるフェスって、最近はないよ。

TOSHI-LOW ないね(笑)。居心地がいいというかね。別に手前味噌じゃなくて。去年出た人たちも、一番初めにやったときに「来年も出して」という人がすごく多かったから、それが全てを物語ってると思う。

New Acoustic Camp 2012 公演情報

2012年9月22日(土・祝)
群馬県 水上高原リゾート200
OPEN 8:00 / START 11:00

2012年9月23日(日)
群馬県 水上高原リゾート200
END 15:00

料金

2日通し入場券早割11500円 / 前売13500円 / 当日15000円

早割チケット

2012年6月16日(土)~7月10日(火)
イープラスにて販売
駐車場券4000円 / ファミリーサイト券3500円

TOSHI-LOW(としろう)

BRAHMANのボーカル、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDのボーカル&ギターとして活躍する男性アーティスト。1995年にBRAHMANを結成し、1996年に初作品「grope our way」をリリース。1990年代後半にひとつの社会現象になったパンクムーブメントにて絶大なる人気を集め、その後もヨーロッパやアジアでツアーを行うなどワールドワイドな活動を展開している。さらに2005年にはOAUを結成。2006年にセルフタイトルの1stアルバムでデビューする。2010年からは野外イベント「New Acoustic Camp」をオーガナイズ。

Candle JUNE(きゃんどるじゅん)

空間演出を手がけるアーティスト。1994年からキャンドルの制作を始め、ギャラリーやサロンなどでエキシビションを開催。ルイ・ヴィトン、プラダなどのレセプションパーティや多数のファッションショー、「Fuji Rock Festival」を始めとする野外フェスティバルのフィールドデザインで注目を集める。2001年に広島で「平和の火」を灯してから「Candle Odyssey」と題した世界中で“悲しみの生まれた場所”を巡る旅をスタート。アメリカ、アフガニスタン、広島、長崎、沖縄、中国といった場所のほか、新潟中越地震震央地や東北大震災被災地でも活動を行っている。