猫 The Sappinessインタビュー|リスナーから表現者に転じた“バーチャル猫シンガー”の素性を深掘り (2/2)

ボカロ曲はわかりやすく、不自然でないように

──ネコザさんの活動の中で外せないものの1つにボカロ曲のカバーがあります。もともとボカロ文化には触れていたんですか?

ものすごく詳しかったわけではありませんが、アニメが好きなのでその派生としてボカロの文化にはもともと触れていました。ネコザがよくカバーしている初期のボカロ曲はロックサウンドのものが多いです。

──初めての“歌ってみた”の投稿が蝶々Pの「About me」で驚きました。ほぼ全編英語詞の変わり種の曲なので。

すべてがそうではありませんが、新しい曲よりも最近あまりカバーされなくなったけど発表から時を経て聴いてもグッとくるいい曲を選んでいます。「About me」は友達とカラオケに行ったとき、洋楽のカバーを歌ったらそれをすごく褒めてくれて。だったら英語詞の曲がいいんじゃないか、と思って選曲させていただきました。

──発音を聴く限り、ネコザさんはかなり英語が堪能なタイプですよね?

発音には自信があります。ただ、発音以外はてんでダメなのが悔しくて、まだ勉強中です。なので、ちょっとは英語を話せますが、ネイティブのレベルではないです。

──そうなんですか。

学習能力には自信があるので、デビューしてからいろんな世界を旅して、言葉だけじゃなくいろんなことをたくさん吸収しています。

──ボカロ曲を歌うときに意識していることなどありますか?

1つ明確にあるのは「わかりやすく歌う」ということですね。原曲がボーカロイドということもあって、カバーをするときにいろんな技術やアレンジを盛り込みたくなるけど、それでわかりにくいもの、伝わりにくいものになったら意味がないかなと思っていて。なので強弱や抑揚を少し大げさに付ける、みたいなことをすごく意識しています。あとは、不自然ではないこと。

──不自然ではない?

はい。明らかに別テイクのものをつぎはぎして不自然なボーカルにしないようにこだわっています。例えばブレスと自分のボーカルが被るようにはしない、みたいな。人間本来のボーカル範囲で、生でライブをしたとしても再現できるような歌として聴いてもらえるようにしています。

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──これまでカバーしてきた11作品の“歌ってみた”の中で、ご自身のお気に入りは?

どれも思い入れはありますが、強いて1曲選ぶのであれば「雷・々・来」ですね。REDさんはネコザの「My Baby」や「1R Vacation」を作ってくださったボカロPさんで、ものすごくいい詞を書かれるんですよ。オリジナル曲を書いていただいたこともあり、REDさんに何かしらの形で恩返しをしたかったのと、もっといろんな人にREDさんの曲を聴いてほしくて。「雷・々・来」はまだ“歌ってみた”がそこまで多く投稿されていなかったから、ネコザが一番REDさんの曲をうまく歌ってやる!という気概でレコーディングしました。

──カバーを歌うときのアレンジやボーカルのディレクションはすべてご自身で行っているのでしょうか?

はい。ボカロのカバーは「好きに歌う」がテーマなので、すべて自分でやっています。ボーカルのレコーディングも時間を気にせず、自分で納得がいくまで何百回でも録り直せるので、精神的には気が楽ですね。

──オリジナル曲だと作曲家さんのディレクションを受けながらレコーディングをすることもあると思います。その場合とはけっこう感覚が違う?

カバー曲はすべて自分で決められるのに対して、オリジナル曲はそうではないので多少の葛藤がありますね。例えば「自分ではちょっと違ったかな」というときでもOKが出ることがありますから。ただ、自分の手応えがすべてではないこともわかっていて。自分の耳じゃなくて、人が聴いて「いい」と思ったものが意外とよかったりする経験は何度もしてきていますから。あきらめきれないときは、最後に曲を聴かせていただいて「どうしてもここだけ録り直させてください」とお願いするときもあります。きっとみんな「めんどくさいヤツだな」と思っているでしょうね(笑)。

──ネコザさんの行動原理である「後悔したくない」がレコーディングでも表れるわけですね。

そうかもしれませんね。「後悔しない」は私の最大の目標なので。

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見られながらゲームするの、大好き

──配信ではゲームをする機会も多いですが、もともとゲームはお好きなんですか?

アニメと近いカルチャーなので、興味もあるし好きです。選り好みするタイプなのでいろんなゲームをプレイしたことがあるわけではありませんが、ハマったものをひたすらやり込む性格で。

──タイトルで言うとどのようなものを?

「逆転裁判」とか「ダンガンロンパ」とか、ストーリーを読む形のゲームが好きです。

──配信とは相性が悪そうなゲームですね(笑)。

そうなんです。俊敏に動くゲームが得意じゃないから、配信映えするようなアクションゲームはあまりできなくて……。だから配信ではちょっと変なゲームばかりやってるかも。あと対人ゲームも怖くて苦手なんですよ。「スプラトゥーン」だけはかわいいのでプレイしてました。

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──「逆転裁判」「ダンガンロンパ」といった作品は、どちらかと言うと1人で黙々とプレイするタイプのゲームですよね。配信のような場で、複数の人に見られながらワイワイゲームをするのは新鮮なのでは?

確かに、1人でやってきたゲーム体験とはまったく違いますね。でもみんなに見られながらゲームするの、大好きです。対人ゲームが苦手なので、ヒトザのみんなと1つのゲームを一緒にやるまでには時間がかかるかもしれないけど、これからも配信ではいろんなジャンルのゲームに挑戦してみたいです。

一番大事にしたいのは音楽

──Vシンガー・猫 The Sappinessとしての目標はありますか?

まずはオリジナル曲のジャンルをいろいろ広げてみたいですね。自分の得意なことも、苦手なこともやってみたいという気持ちを持って、常に面白いチャレンジをしている存在でありたいです。配信やゲームも含めいろいろやりたいけど、一番大事にしたいのは音楽ですね。携わってくださる皆さんがすごくいい音楽を作ってくれるので、期待を裏切らないようにクオリティを上げていきたいです。

──どんな方に楽曲を書いていただきたいとか、願望はありますか?

アニメオタクだった身としては菅野よう子さんに曲を書いてもらえたら、夢のようです。それとボカロPさんで言うと、164さんはすごく憧れの方で。これまでオリ曲ではロックに挑戦していないので、164さんのようなロックサウンドが得意なボカロPさんともご一緒してみたいです。

──お披露目以降、ネコザさんのライブは行われていません。ライブ開催に関してはどう思っていますか?

ライブ、めちゃくちゃやりたいです。もし叶うのであれば、生バンドをバックにライブができたらめっちゃ気持ちいいだろうな、と思いを巡らせています。生バンドとまでいかなくても、いつか直接ヒトザのみんなに歌を伝えられる機会を作りたいですね。

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プロフィール

猫 The Sappiness(ネコザサピネス)

人語を習得し、さらなる飛躍を遂げるバーチャル猫シンガー。2024年4月に行われたメタバース音楽イベント「META=KNOT 2024 in AKASAKA BLITZ」でデビューし、1st EP「猫 The Verse Day」を発表した。2025年7月に1年ぶりとなるオリジナル曲「散歩」を、11月にTBS「よるのブランチ」のエンディングテーマ「Breezy Magic」を配信リリースした。ファンの呼称はヒトザ。キャラクターデザインは、YOASOBIの「海のまにまに」のミュージックビデオの監督なども務めるアニメーション作家・監督・イラストレーターの土海明日香が手がけた。