3人体制になったNEEの曲作りは
──「マニック」に限らず、今回のアルバム「再生可能」では夕日さんがメインのソングライターとして大部分の作詞作曲を手がけていますけど、夕日さんが曲を作るときは“NEEの曲”ということを強く意識しますか? それとも、もっとフラットな感覚なのか。今の夕日さんにとって“NEEとして発表する曲を作る”ということは、どういうことなのでしょうか?
夕日 最初に考えていたのは、「今までのNEEを真似した作品を作ろうと考えちゃうと、今後やってらんないな」ということで。だから、自分が作りたい曲をとにかく作る。そのうえで、今までのNEEが持っていた要素で、自分が好きなものを取り入れる。「マニック」もそういう感覚で作りました。ただ、作曲で悩んでいた時期はあるんです。去年の6月に「マニック」を作って、結局リリースしたのが今年の5月なんですけど、その間、どういう反応が来るか不安で。蔵馬(くぅ)の作った曲を真似したほうがお客さんも付くし、バンドとしてもやりやすいし、セールスもいいかもしれない。でも、さっき言ったようにそれだと自分がしんどい。それで、今の話をそのままSuspended 4thのWashiyama(G, Vo)さんに相談したんですよ。そしたらWashiyamaさんに、「曲のアイデアをコピーして作曲するんじゃなくて、生前のくぅがどういうモチベーションで作曲していたのかを考えて、それをコピーしろ」と言われて。それがすごく腑に落ちたんですよね。
──なるほど。
夕日 彼(くぅ)は探求心で曲を作っていたと思うんです。よく言っていたのが、「新しいジャンルを作りたい。NEEというジャンルにしたい」ということ。それってほかの人の真似事では成立しないじゃないですか。僕も、それをそのまま実行しようと思いました。なので、たくさん曲を聴くようになったし、そのうえで自分の好きなサウンドを求めるようになりましたね。かつ、ボーカルが3人になった以上、この3人の声を自由に使えるのって、演奏上はしんどいことだけど、楽曲的には大きなアドバンテージだなと。「この3人でやったらカッコいいだろう」というものを探しながら曲を作っています。
時間が気持ち悪い
──歌詞の面、言わば“何を歌うのか”という点については、どう考えていますか?
夕日 去年もそうですし、その前もそうですけど、自分がしんどかった時期が何度かあって。そういうときに考えていたことが歌詞のベースになっています。さすがに去年のことは食らっちゃって、寝込んだり、自分の人生について考えたりしたし、「どうして生まれてきたんだろう?」って、答えのないことを考え続ける時間も過ごしてきたので。今回のアルバムは、そのときのことを歌詞に書いた曲が多いと思います。アルバムのタイトルは「再生可能」になったけど、僕、本当は「ハートブレイカー」の歌詞にある「再生不能」をタイトルにしたくて。でも、メンバーが亡くなって、新体制になって最初のアルバムのタイトルが「再生不能」はちょっと意味深すぎるとスタッフに言われて、逆の「再生可能」にしたんです。
──「再生不能」がいいと思っていたのは、どうしてですか?
夕日 やり直しがきかないからです。“時間”についてずっと考えていたんですよね。例えば音楽は時間が動いていないと成立しないものだと思うんです。時間を自由自在に行き来できる生き物がいたとしたら、その生き物は、音楽を楽しむことはできない。あと、時間は進む一方で、戻ることはできないじゃないですか。そのことについて、みんな理由もわからないのに勝手に納得していることに対して、気持ち悪く感じていた時期があって。バカバカしい話だと思いますけどね、時間が気持ち悪いって。
かほ 時間が気持ち悪い?
夕日 時間が、生きている中で一番恐ろしいものだと僕は思っていて。だって来るかもわからないしさ、時間って。1秒後が来るかもわからない。けど、そう思っていたら1秒過ぎているんだよ。で、戻れない。
大樹 あー、なるほどね。
かほ ずっと一定方向に行くから気持ち悪いってこと?
夕日 そう、ずっと一定方向に行くけど、自分自身が進んでいるわけではないじゃん。明日が来る保証もないのに、みんな経験則とか、「明日は来ます」という誰かが言った情報を受け入れて、それを信じてる。で、「明日は何しよう」とか、「来年はこういうことをしよう」とか言っている。それがすごい変だなと思って。でも、こんなこと考えたって意味ないじゃん?
かほ え、意味ないことを考えるのはいいことだよね?
夕日 そうだね(笑)。で、こういうことについて極限まで考えようと思ったことがあって。そうすると、あくまで僕個人の感覚だけど、これ以上は人間が考えてはいけないというところで、脳にストッパーがかかるんです。「これ以上はもう無理です」って。だから気持ち悪い。ある程度のところまでは理屈で説明できるけど、それ以上のところはわからない。それが恐ろしいなと思うし、僕らはそれを死ぬまで受け入れ続けなきゃいけないんだなっていう……ずっとこういうことを考え続けているわけではないんですけどね(笑)。今言ったようなことを考えて、すごく苦しい時期がありました。そういう答えがないことに対しての不安が歌詞には書いてあると思うし、それでも、「それでいいんだよ」と自分を落ち着かせることができていた時期もあるから、そのことも歌詞に書いてありますね。
──今回のアルバムは「再生」という楽曲で始まり、ラストの9曲目が「まき戻し」であることも含めて、“時間”という存在を多角的に捉えたアルバムだと聴いていて感じました。そもそも音楽は時間芸術だし、時間というものに対して恐怖や居心地の悪さを感じるからこそ、夕日さんは音楽に向き合うのかもしれないですね。
夕日 そうですね、そうかもしれない。
「この街」で伝えたかったこと
──今回のアルバムは、NEEというバンドが“前に進んでいる”とリアルに感じさせるアルバムだと僕は思いました。その中で、6曲目の「この街」はどこか牧歌的な雰囲気のあるバンドサウンドが新鮮で、アルバムの中でも特殊な空気感を生んでいますよね。作詞はかほさんが手がけられていますけど、どんなイメージを持って歌詞を書かれましたか?
かほ この曲の歌詞を書こうと思った理由は、1番サビの「諦めたふりは ちょっと似合わなかったな ごめんね」に集約されているなと思っていて。私はどんなに苦しんでも、泣いても、人生を投げ出す気には最終的にならなかったんですよ。苦しんで苦しんで、やめれる人っているじゃないですか。やめれちゃう人。それはそれで、その人の人生だと思うけど、やめられない人もいるんです。どんなに苦しくても、生き続けてしまう人。私はそっちだなと思う。あきらめたふりをずっとしていたんですよ。どうでもいい、どうでもいい、どうでもいい……って思い込もうとしていたけど、結局自分はすべてをやめることはできない性質の人間だった。じゃあ、もし人間を2種類に分けたとして、私とは逆の“やめれちゃう人”を、なんとか“やめれない人”の側に連れてくることはできないかな、と思ったんです。全員を、無理矢理にでも生きようとする人にできないだろうかって。そういう思いでこの歌詞を書きました。「みんな怖いと思うかもしれないけど、そんなに人間は怖くないよ」と伝えたかった。だから歌詞に“街”がいっぱい出てくる。人間を怖がる人は、街の全部が怖いと思うんですよ。あのコンビニが怖い、あのタバコ屋が怖い、あの自転車が怖い、あのすれ違った犬が怖い……って。でも、「別に怖くないよ」と言いたい。全員を救いたいとは思わないけど、あきらめられなかった側の人間として、なんとか「そんなことない」と言いたいなと思いました。
──アルバムを作り上げて、この先について考えることはありますか?
夕日 まだまだ音源作品としてやりたいことはいっぱいあります。今回はヘビーな内容の曲もあるし、曲が全体的にエネルギッシュすぎて暴力的な部分もあるので(笑)、もっと聴かせるサウンドも突き詰めたいなとも思う。今回のアルバムは、僕らの“1年目の作品”として、今できることを全力でやった結果なので。もっと成長していきたいと思います。
大樹 僕は、この先をめちゃくちゃ楽しみにしています。今のNEEは可能性がすごくある状態だと思うし、この3人は、この先もっといろんな混ざり方をしていくと思います。今回はかほりん(かほ)が初めて作詞をしましたけど、僕も楽曲制作にもっと携わっていきたいし、前向きなことだらけだと思います。早く前に進みたいです。
かほ 今回のアルバムは、今までのNEEと“違うけど違わない”アルバムになったと思います。だから、今までNEEにハマらなかった人の中にも、今回のアルバムでハマる人はいると思うし、そうやって変化する状況も楽しんで、バンドをやっていければいいなと考えています。それに、今いるファンの人たちには、ずっとついてきてほしい。どんなNEEも楽しんでほしいです。
公演情報
NEE 10th TOUR「EXOTIC METTYA SAISEI」
- 2025年11月13日(木)東京都 LIQUIDROOM
- 2025年11月15日(土)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2025年11月22日(土)広島県 LIVE VANQUISH
- 2025年11月23日(日・祝)香川県 DIME
- 2025年11月29日(土)宮崎県 LAZARUS
- 2025年11月30日(日)福岡県 DRUM LOGOS
- 2025年12月14日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2025年12月21日(日)宮城県 darwin
- 2026年1月17日(土)愛知県 DIAMOND HALL
- 2026年1月18日(日)大阪府 なんばHatch
- 2026年1月30日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
- 2026年2月11日(水・祝)沖縄県 桜坂セントラル
プロフィール
NEE(ニー)
2017年7月に結成されたロックバンド。メンバーは夕日(G, Vo)、かほ(B, Vo)、大樹(Dr, Vo)。2020年4月に現在のバンド名に改名し、同年8月にリリースしたシングル「JINRUI」のリード曲「不革命前夜」で高い注目を浴びる。翌2021年9月にアルバム「NEE」でメジャーデビュー。以降活躍を重ねてきたが、2024年5月、くぅ(Vo, G)が25歳の若さで死去した。夕日、かほ、大樹は3人でバンド活動を継続。2025年5月に4人体制の集大成となるベストアルバム「博覧会」を発表。10月に新体制初のオリジナルアルバム「再生可能」をリリースした。



