「セレナーデ」の延長線「リビングデッド」、ラフな気持ちで入れた「Catherine」
──シングルに収録されるカップリング2曲についても聞かせてください。まず「リビングデッド」はどんな時期にどんなふうにできた曲なんでしょうか。
なとり 「リビングデッド」は「セレナーデ」の延長線みたいなところがあります。
──まさにメンタル的にどん底の状況が歌われていますよね。
なとり 「死にたい」とはまた別なんですけど、「生きたくない」という考えがずっとあって。いろんな人を傷付けながら「セレナーデ」を作っておいて、自分はずっとパソコンに向かって楽しいことをしている。ほかの人は俺のためにつらい道を選んで生きてるのに、俺だけ楽しんでるんじゃないかと感じた瞬間に、「俺、何してんだろう?」と思ったことがあって。責任感もプレッシャーもあったし「何もやりたくない」っていうタイミングで作ったのが「リビングデッド」です。
──曲調やサウンド的にも「セレナーデ」とリンクしている感じがあります。
なとり どっちもサイドチェーンというエフェクトが大好きな時期に作ったので、サウンド感は近くなってます。あと、ツミキさんと一緒に「セレナーデ」を作ったことで、なとりの音楽に歴史が生まれたと思っていて。僕は自分の歩みを振り返ることがよくあるんです。この時期に誰と一緒にやった、この時期にこの曲を作って、それがたくさん聴いてもらえた、みたいな。そういうことを皮肉めいたふうに書いてみたいという思いもありました。それこそ「Overdose」という曲も、好きな曲ではあるけれど“呪いの曲”だと思っていて。そういう呪いに対して書いた曲でもあります。
──3曲目の「Catherine」はどうでしょうか?
なとり もともとライブでやっていた曲で、ボーナストラックみたいなラフな気持ちで入れました。2024年の1stライブのために作った曲だから、リリースする必要も感じていなかったんですけど、みんな「Catherine」を求めてくれていたので。ここから先は「セレナーデ」を機にシーズンが変わっていく気がするし、出すなら今しかないなと思いました。
──考えてみれば「カップリング曲」という表現自体、最近では珍しいですよね。ストリーミング配信だと全曲が表題曲的な存在になりうるけれど、CDシングルというパッケージがあるからこそ、2曲目とか3曲目に、いい意味で勝負曲じゃない曲も収録できる。そういうことも思いました。
なとり カップリングの話と少しズレるかもしれませんが、ツミキさんと俺で一番共鳴したのがアルバムに対しての考え方なんです。初めて一緒に飲んだとき、「俺はプレイリストみたいなアルバムが嫌いで、最終的にちゃんとストーリーになってるアルバムが好きなんです」と話したら、「わかる。本来アルバムってそうあるべきだよね」と言ってもらえたことを覚えてます。
──1月にリリースされた「深海」はまさにコンセプトとストーリーがあるアルバムですよね。
なとり そうですね。ツミキさんのボカロP時代の1stアルバム「SAKKAC CRAFT」(2021年発表)も、ちゃんとアルバムとして意味があるものになっていると思うんです。そこにも影響を受けているし、ツミキさんのイズムを受け継いでると思います。
ツミキ その話は僕も覚えてますね。音楽的価値を意識してアルバムを作ってるから、なとりがそんなふうに思ってくれるのはうれしいです。
2人のエレクトロ要素はどこから?
──改めてお二人の音楽的なルーツや作風についても聞かせてください。ツミキさんはこれまでインタビューなどでASIAN KUNG-FU GENERATIONや椎名林檎さんなど90年代から00年代のロックをルーツとして語っていたと思います。一方で、ツミキさんの作風としてはクラブミュージックやエレクトロポップの側面もあると思います。その方面のルーツとか影響源ってどのあたりにあるんでしょうか?
ツミキ 小学生のときにギターとかドラムを始めたんですけど、中学生の頃からニコニコ動画を観るようになって。そこでたまたま聴いたCAPSULEに「何、この音楽?」と衝撃を受けたんです。そこから中田ヤスタカさんのルーツを掘り進めて、電気グルーヴとかYMO(Yellow Magic Orchestra)のようなテクノポップに出会ったのが始まりでした。洋楽のエレクトロを聴いたり最近のクラブミュージックを聴いたりもしていますけど、きっかけとしては中田ヤスタカさんの存在が大きかったです。
──なとりさんはご自身の楽曲の中のエレクトロ要素はどこから来ていると思いますか?
なとり 「Overdose」もジャンルとしてはエレクトロになるとは思うんですけれど、俺はもともとあんまりそういう音楽を知らなくて。PSYQUIさんの「ヒステリックナイトガール」とか、四つ打ちの曲がすごく好きなのはありましたね。あとはコロナ禍の頃に「ナイトコア」というジャンルが流行っていた時期があって。当時は学生でずっと家にいたんですけど、そのときに「電子音楽ってカッコいいんだ」と気付いた瞬間がありました。
──まさにコロナ禍の頃にツミキさんは「フォニイ」を出していますよね。ツミキさんのキャリアの中でもそれ以前はギターが主張するバンドサウンドの曲が多いですが、「フォニイ」以降は電子音が増えてきていますよね。そういう時代背景は共有していると思うのですが、いかがですか?
ツミキ 確かに。コロナ禍でインターネットアーティストが一気に世に出てきた、あのムーブメント自体が音楽的な転換期だったと思います。みんなの耳がそっちに行っていたし、アーティストが自分の持ってる手札の中でチューニングを変えていった。僕もその中の1人だったというのは確実にあります。
──「フォニイ」にしても、ツミキさんがゲスト参加したMAISONdesの楽曲「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」にしても、メロディに和のテイストがありますよね。そのあたりの意識はありましたか?
ツミキ そこはYMOの影響が大きくて。YMOにハマってずっと聴いてた時期があったんです。特に「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」に関してはYMOをリファレンスにヨナ抜き音階で作ったので、それが和テイストになっている大きな要因だと思います。
──なとりさんはダンスミュージックやクラブミュージックという意識はなく電子音を自分の音楽に取り入れた、という感じだったんでしょうか?
なとり そうですね。自分の曲に、クラブで流れるというイメージはあまりなくて。むしろクラブじゃなくて引きこもりの人が聴いている音楽を作ってる自覚があります。
──なとりさんはボカロカルチャーに影響を受けているわけですが、ボカロっぽいことをやっているクリエイターではないと思うんですね。新しい流れを生み出していて、それがオリジナリティになっている。1つ挙げられる理由としては、例えばimaseさんのように、ボカロを通っていない、R&BやK-POPに影響を受けたアーティストと、たまたま同じ世代で同じ場所で盟友としての関係を結んだ。だからこそ、そういう新しい刺激が自然に入ってきて融合されたのではないかと思います。
なとり それはあると思います。音楽を聴く手段が僕の世代から明らかに増えたと思っていて。サブスクもそうだし、TikTokで流れるキャッチーな要素を持つ音楽をコロナ禍で聴いてきた。そういうところでメロの良し悪しや、人の心に残るもの、自分が好きなものを判断する感覚が生まれてきたと。そこは上の世代とは違う気がしていますね。その頃に聴いていたのはボカロだけじゃなかったし、imaseくんと共通点があるのもそういうところだなと思います。
ツミキ やっぱり自分とは感覚がちょっと違うところがあると思うんですよね。時代背景というか。だから僕もなとりにいろいろ教えてほしいです。
──では最後に、これを機に何か伝えておきたいことはありますか?
ツミキ 今回、なとり名義でオファーをかけてもらったんで、今度はどこかで僕からもオファーしたいです。僕が作った曲を歌ってもらったり、一緒にやりたいと思います。
なとり めっちゃうれしいです。楽しみにしてます!
公演情報
なとり 3rd ONE-MAN LIVE「深海」
- 2026年2月18日(水)東京都 日本武道館
- 2026年2月19日(木)東京都 日本武道館
なとり Hall Tour 2026
- 2026年6月12日(金)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2026年6月13日(土)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2026年6月27日(土)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2026年6月28日(日)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2026年7月4日(土)新潟県 新潟県民会館
- 2026年7月5日(日)石川県 本多の森 北電ホール
- 2026年7月11日(土)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2026年7月12日(日)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2026年9月22日(火・祝)東京都 昭和女子大学人見記念講堂
- 2026年9月23日(水・祝)東京都 昭和女子大学人見記念講堂
- 2026年9月26日(土)香川県 サンポートホール高松 大ホール
- 2026年9月27日(日)福岡県 福岡市民ホール 大ホール
- 2026年10月11日(日)大阪府 グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)メインホール
- 2026年10月12日(月・祝)大阪府 グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)メインホール
- 2026年10月28日(水)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
- 2026年10月31日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
プロフィール
なとり
2021年5月に活動開始。2022年5月にYouTubeに投稿した楽曲「Overdose」が瞬く間にヒットを記録し、再生数は2億4000万回を超える。ジャンルにとらわれないサウンドを追求し、国内の10代ファンのほか海外リスナーからも支持を得る。2026年1月に2ndアルバム「深海」をリリースし、2月にはテレビアニメ「【推しの子】」第3期のエンディング主題歌「セレナーデ」をシングルCDとしてリリース。2月18、19日の2日間にわたり自身初の東京・日本武道館公演を行う。
なとり/ natori (@siritoriyowai_)|Instagram
ツミキ
2017年にボカロPとしての活動をスタート。初めて投稿した楽曲「トウキョウダイバアフェイクショウ」がニコニコ動画で殿堂入りを果たす。2021年2月には自身初のフルアルバム「SAKKAC CRAFT」をリリースした。また、みきまりあ(ぷらそにか)とのユニット・NOMELON NOLEMONとしても活動中。石野理子(Vo)、すりぃ(G)、やまもとひかる(B)とのバンド・Aoooでドラムを務めている。なとりによる「【推しの子】」第3期のエンディング主題歌「セレナーデ」に共編曲で参加した。
ツミキ / tsumiki (@_23ki_)|Instagram




