偶然の邂逅
──堀江さんはアニソン初体験だった「No pain, No game」からの約6年で、相当な経験値を積みましたよね。同じナノさんとアニソンの掛け合わせと言っても、そこには大きな違いがあるのかなと。
ナノ あれからの堀江くんの活躍はすごいですよね。
堀江 いえいえ、そんな。「No pain, No game」のあとはしばらくWEST GROUNDさんに会ってなくて……それが少し前に、僕がレコーディングで入っていたスタジオの隣の部屋にたまたまWEST GROUNDさんがいたんですよ。そこでいつも使っているマイクをスタジオの方にお願いしたら「すみません、そのマイクは今ちょっと別の部屋で使っているんです。WEST GROUNDさんが」と言われて(笑)。そこで偶然ひさびさにお会いして、日を改めて飲みに行ったんです。飲みながらワイワイ話しているうちに「今ナノの新曲を作らなくちゃいけないんだけど、まだ何もできてなくて……一緒にやんない?」と急に(笑)。
──偶然の再会から急展開で。
ナノ 自分は前々からまた堀江くんとタッグを組んで曲を作りたいと思っていたので、いつかいいタイミングで……と思っていたら、スタジオで偶然会ったと話を聞いて「今しかない!」って。マネージャー伝いに「ちょっとつついといて!」ってお願いしました(笑)。偶然としてはありがたいタイミングで。
堀江 いい偶然だったね。
──今作は現在放送中のテレビアニメ「CONCEPTION」のオープニングテーマですが、ナノさんはアニメの原作であるゲーム「CONCEPTION 俺の子供を産んでくれ!」のオープニングテーマも担当していて(参照:ナノ、1stシングルはアニメ&ゲームタイアップの注目作)、こちらも2012年の作品だからまた6年ぶりなんですよね。
ナノ そうそうそう。いろんな意味での再会のシングルになっていて(笑)、こだわりが強いんです。
再会のオマージュ
──楽曲制作はどういう進め方だったんですか?
堀江 ナノさん現場はいつもそうなんですけど、すげースピーディなんです。話が決まってから動き出すまでが。それは僕もわかるところがあって、物事は温めすぎるとあまりよくないんですよ。まずWEST GROUNDさんと合作でいこうという話になって、スケッチ程度に作っていたものを聴かせてもらいました。音源が送られてきて「これを好きにしてくれ」って(笑)。メロディを変えてもコードを変えても、構成だって変えてもいい。なんでもやってくれと。でもスケッチの段階で一緒にやれそうだなという感じはあったんです。僕が昔からやっていたアップテンポのロックだったし、すぐにイメージができました。自分が面白いと思う要素をどんどん入れて、メロディもコードも変えて。一番おいしいところは残しつつ。自分でギターとベースを弾いて、ドラムを打ち込んで送り返したら、フルサイズの構成で戻ってきたので、そこからまた僕が別の構成を提案して……2往復3往復していく中で形になっていきました。
──ずっとデータのやりとりで。
堀江 はい。特に話し合いもしてなくて、「ここはこういう意図で」みたいなこともメールには添えずに、ただ音だけで「進めました、ハイ」って。面白かったな。文字面で話すんじゃなく、音で察していくみたいな。
ナノ へえー。
堀江 こっちが変えたものが元に戻って返ってくることもあったけど(笑)。ラストの1往復はお互いまったく直さなかったんで、これで決定だなと。ほぼ文字でのやりとりはなしに進めましたね。
──アニメソングだと作品の設定やテーマなど、ある程度細かいオーダーがあるのかなと思ったのですが。
堀江 なかったですね。スタート段階でアニメの作品資料はもらいましたけど、最初に目を通したあとは何か指示があるわけでもなく、お互い導かれるようにゴールに向かっていった感じ。
──作詞を担当したナノさんへはアニメ制作サイドからどのようなオファーがあったんでしょうか?
ナノ WEST GROUNDはアニメの楽曲を作るときも、あまり作品に寄せることを考えずに、そのとき降りてきたものを形にしていくタイプなんですけど、歌詞はやっぱりアニメ作品のファンが共感できないといけないと思うんです。今回は原作のある作品だし、自分が原作ゲームのオープニングテーマを歌った6年前に感じた気持ちを掘り起こして、思い出しながら書きました。自分にとっては「CONCEPTION」との再会でもあるので、感謝とリスペクトの意味を込めたオマージュを歌詞に入れたり。あと、すぐに気付いた方も多いと思いますけど、「Star light, Star bright」というタイトル自体が堀江さんへのリスペクトの気持ちを込めて、「No pain, No game」とまったく同じ文字構成にしたんです。あの頃からのファンはタイトルを見てニヤニヤするんじゃないかなって(笑)。
──2つの再会を機に、自分を見つめ直すような。
ナノ プラス、これからの新しい自分も表現できたらなと思って、いろんな仕掛けを考えたんです。
堀江 そうそう、ミックスのときに気付いたんですけど、僕が指定していないキーボードのフレーズが入っていて。なんだろうと思ったら、「No pain, No game」のカップリングで僕が作った「Crossroad」のピアノのフレーズなんですよ。僕には説明もなく、勝手に。
ナノ 勝手に(笑)。
──6年前のいろんな伏線がここに回収されているという。
堀江 いい現場だなと思いましたね。
太くなったナノの声
──堀江さんは「No pain, No game」から6年後のナノさんの歌声をどう感じましたか?
堀江 まずびっくりしたのが、音がめちゃくちゃ太くなりましたよね。
ナノ ああ、確かに。
堀江 発声法を変えたり練習したりしたんですか?
ナノ 最初の頃手探りだったのが、やっていくうちにつかめてきたというのもあるし、WEST GROUNDも「もっともっと太く」と考えていて、なんとなく変わっていったかなという。
堀江 ミックスのときにチェックしていて、イントロが終わって歌が始まった瞬間に明らかに違った。そこの変化が一番印象的かなあ。声が太いといいことはいっぱいあって。まずはオケに負けない。後ろで歪んだギターがギャンギャン鳴ってても、ドラムがガシャガシャやってても、声が太ければグッとかき分けて1歩前に出てきてくれるんです。そういう声だとアレンジがシンプルでもよくなってくるんですよ。ボーカルだけで鳴っている情報量が多いから。情報量の少ない声だと音像に隙間ができちゃうので、オケで補わないと物足りなく感じてしまう。補強しなくても歌の力だけで耳が充実すると言うか。これだけ太い声に変わってるんだったら、今後もしチャンスがあれば、ほかにいろいろできることがありそうだなと。
ナノ 「No pain, No game」をレコーディングしたときは、まだあまりライブ経験がなくて。歌うのはスタジオレコーディングばかりだったんですよ。あのあとライブをやる回数がすごく増えて……ライブで歌ってるとどうしても声が太くなるんですよね。それからはレコーディングでも意識するようになりました。
──なるほど。堀江さんが作編曲家としての経験値をどんどん上げていた6年間、ナノさんが大きく変わった点と言えばライブの経験値ですよね。国内外、大小の会場を経験して。
ナノ そうですね。ライブの経験が今の自分にとっては一番大きな糧になっているかなと思います。
──ナノさんが作詞作曲を手がけた「Blue Jay」はソリッドなロック、アプリゲーム「Dark Rebellion」の主題歌「Artificial Hero」はアコースティックと、カップリング曲はそれぞれテイストは違うものの、どちらもシンプルで強い曲だなと感じました。先ほどの堀江さんの意見だと、今のナノさんの太い声にはシンプルなサウンドのほうが合うのかもしれない。
ナノ 洋楽のシンプルな構成になじみがあるので、やりやすいというのはありますね。一度とことん複雑なほうに行って、またシンプルなほうに戻ってきているのかなという気がします。
堀江 人の耳には、シンプルでも複雑でも、その変化を聴き取ろうとする性質があると思っていて。その場合において、曲がシンプルなほうがボーカルのちょっとしたニュアンスにより意識が研ぎ澄まされると思うんです。ナノさんのように細かいニュアンスが表現できるシンガーは、楽曲は全然シンプルでよくて。シンプルだから地味になる、ということはないんだなと「Star light, Star bright」を作っていて感じました。
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「こんなに笑っているナノは初めて見た」
- ナノ「Star light, Star bright」
- 2018年11月21日発売 / FlyingDog
-
ナノ盤 [CD]
1404円 / VTCL-35291 -
アニメ盤 [CD]
1404円 / VTCL-35292
- ナノ盤 収録曲
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- Star light, Star bright[作詞:ナノ / 作・編曲:WEST GROUND、堀江晶太]
- Blue Jay[作詞・作曲:ナノ / 編曲:中西航介、WEST GROUND]
- Star light, Star bright Instrumental ver.
- Blue Jay Instrumental ver.
- アニメ盤 収録曲
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- Star light, Star bright
- Artificial Hero[作詞:ナノ / 作・編曲:WEST GROUND]
- Star light, Star bright Instrumental ver.
- Artificial Hero Instrumental ver.
- ナノ
- アメリカ・ニューヨーク州出身、7月12日生まれ。卓越した歌唱力を持ち、日本語と英語を使い分けるバイリンガルシンガー。2010年よりYouTubeやニコニコ動画などの動画サイトに、洋楽やVOCALOIDのカバー楽曲の投稿を始め、国内外問わず多くの音楽、アニメユーザーの支持を集める。2012年3月にアルバム「nanoir」でデビューを果たし、1年後の2013年3月には東京・新木場STUDIO COUSTで初のワンマンライブ「Remember your color.」を大成功のうちに収めた。同年5月にはドイツ・デュッセルドルフで行われたジャパニーズカルチャーコンベンション「DoKomi」に招待され、初の海外公演を体験。以降は海外でのライブも積極的に行っている。デビュー5周年を迎えた2017年は2枚のシングルと1枚のオリジナルアルバムのリリース、全国ツアー、初のサイン会など精力的に活動した。2018年5月にはアニバーサリーイヤーの締めくくりとなるオーケストラとのコラボレーションコンサート「ナノ 5th Anniversary Concert ~Symphony of Stars~」を東京・東京芸術劇場コンサートホールで開催。また4月に東京・シアター1010で上演された舞台「大正浪漫探偵譚-六つのマリア像-」では主題歌を担当した。8月にはテレビアニメ「かくりよの宿飯」のオープニングテーマとなった「ウツシヨノユメ」、11月にはテレビアニメ「CONCEPTION」のオープニングテーマ「Star light, Star bright」と立て続けにシングルをリリース。
- 堀江晶太(ホリエショウタ)
- 5月31日生まれ、岐阜県出身。10代の頃より作編曲家として活動し、上京後に音楽制作会社に入社する。2011年にボカロP・kemuとして、イラストレーターのハツ子、動画クリエイターのke-sanβ、アドバイザーのスズムからなるKEMU VOXXを結成し、動画共有サイトに楽曲を投稿。いずれも大きな反響を呼ぶ。2013年に独立して以降は、LiSA、ベイビーレイズJAPAN、茅原実里、田所あずさらに楽曲を提供。アレンジャー、コンポーザーとしての地位を確立させる。PENGUIN RESEARCHのベーシストとして、2016年1月にシングル「ジョーカーに宜しく」でメジャーデビューし、バンドマンとしても精力的に活動中。PENGUIN RESEARCHは2018年9月にシングル「WILD BLUE / 少年の僕へ」を発表した。