ななせのギターと歌、いいでしょ? 1万円のアルバム「スナックぜんもんどう」を携え2回目の47都道府県ツアーへ

シンガーソングライターのななせが、価格1万円のフルアルバム「スナックぜんもんどう」をリリースした。

YouTubeやサブスクリプションサービスで手軽に音楽を聴ける時代に、豪華特典が付くわけでも、特殊仕様を用いるわけでもなく、ごく普通の11曲入りCDで1万円という価格に設定された「スナックぜんもんどう」。これはCDやレコードといったフィジカルな作品を発表する喜びを味わうことがアーティストとしての醍醐味の1つであるという思いから、次の作品を待つファンからの応援を募る意味で実施された大胆な試みだ。

デビューアルバム「maniac love」から1年2カ月ぶりに届けられた今作は、自身のルーツであるアコギ弾き語りスタイルをセッションによってバンドアレンジすることで、新たなニュアンスを手に入れた意欲作となっている。本作を引っさげた全国47都道府県ツアーを9月からスタートさせるのを記念し、音楽ナタリーではななせにインタビュー。アルバムの制作エピソードや、そこでつかんだ手応えを改めて聞きつつ、ツアーへの意気込みを語ってもらった。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / 草場雄介

今からタイアップの練習

──昨年3月にリリースされたデビューアルバム「maniac love」の反響はいかがでしたか?前回のインタビューでは「自信しかない」とおっしゃっていましたよね(参照:ななせ「maniac love」インタビュー)。

ななせ

えー、そんなこと言ってましたか。いいですねー(笑)。本当にそう思えたアルバムでしたから。ただ、リリースしたタイミングですぐコロナ禍に入ってしまい、ライブがなかなかできなかったりもしたので、いろんな方々に聴いていただけているなっていう手応えはあまりなかったというか。もちろんファンの方からの「いいアルバムだね」「ライブっぽいアルバムだね」という声は届いていましたけど。自分自身、ライブっぽさを大事にして作ったから、それが伝わっていたのはうれしかったです。

──新しいファンからの声もありました?

そうですね。SNSを通じてはじめましての方の声もいただけて。そこでも私が想像していた通りのうれしい感想が多かったです。でも私、周りの反応ってあまり気にしないタイプなんですよ。もうちょっと気にしたほうがいいのかもしれないけど、今の自分としてはセールス的な部分で全然まだまだだなっていう思いのほうが強いから。

──現状で一喜一憂してる場合じゃないという気持ちから?

そうですね。私の場合、音楽を始めたときから「もしかしたらすごい売れちゃうんじゃない!?」と思って生きてきたんですよ(笑)。それは今もずっと思っていて。だから私の作った自信作はもっと聴かれるべきだっていう気持ちがあるというか。もっともっとたくさんの人に聴いてほしい気持ちが強いし、全然まだまだ満足してないよっていう。だからあまり周囲の反応を気にしないし、それに気持ちを左右されることがないんだと思います。

──前作のリリース以降、ご自身のクリエイティブな面で何か変化ってありました?

今も基本的にはアコギで曲作りをしているんですけど、最近はピアノを使うこともあって。そこは変化したところですね。ピアノを適当に弾いていると、ギターで作るのとは違ったノリの曲が生まれたりするんです。それがちょっと面白くて。ピアノで作った曲はまだ世には出ていないし、ライブでピアノを弾くっていうのもまったく考えてはいないですけど、それがいい形で今後につながったらいいなという感じですね。

──曲が生まれるきっかけみたいな部分に変化はないですか?

どうだろうなあ……。普段はあまりテーマを決めてから曲を書くことがないんですよ。書いているうちにだんだん決まっていくことが多いので。あ、でもいずれはテーマを与えられて曲を書くことが増えると思うんですよね。たくさんCDが売れるようになったら。

──タイアップ曲を書くことが増えたりとか?

そうそう、そういうことです(笑)。だから、そういう曲の書き方も楽しめるように、今のうちからけっこう練習するようになりました。

ななせが作る気持ちいいバンドサウンドを聴いてみたい

──5月12日には2枚目となるフルアルバム「スナックぜんもんどう」がリリースされました。制作はいつ頃からスタートしたんですか?

レコーディングを始めたのは去年の夏くらいで、秋には終わってたかな。今年1月には完パケていたんですけど、いろいろタイミングを見計らって5月にリリースした流れですね。

──収録されている全11曲は、前作以降に生まれた曲たち?

それもあれば、「向かいあわせ」とか「少年たち」「フルーツバスケット」のように私が高校生のときに作った曲も入ってますね。あと、「春になる」と「good morning」は前回のアルバムを作っていた時期に元となるものはできていたんだけど、ちょっとまだリリースはできないなという判断で寝かせていたんですよね。今回やっと「いいじゃん」と思える形にすることができたから、アルバムに入れることにしたんです。

ななせ

──曲をよりよくするために、時間をかけて試行錯誤した感じですか。

そうですね。「maniac love」を出したあと、ワンマンライブが何カ月も続いた時期があって。せっかく毎月ワンマンがあるなら何か自分なりにがんばろうと思って、新しい曲を作り、ライブで歌っていたんですよ。その中に「春になる」と「good morning」があったんですけど、ライブでやってみるといい部分もダメな部分も全部見えてくるというか。そこで見えたダメなところをいろいろ直していく中で、やっと音源にしてもいいかなと思える形にすることができたんです。

──ライブを通して曲をブラッシュアップしていくのはいい手法ですよね。

私もそう思いました。ものすごく売れちゃったらね、リリース前の曲をライブで演るのは難しくなっちゃうかもですけど(笑)、今はまだそういうやり方を続けてもいいのかもなって思いました。

──ななせさんのルーツであるアコギサウンドが軸にありつつも、今回のアルバムではアレンジがより多彩になっていますよね。

「maniac love」のときは私がギターで弾き語りをしたあとにほかの楽器を重ねていく作り方をしたんですけど、その経験が自分にとってすごく大きかったんです。自分の曲にピアノやドラムの音が入ることの楽しさを知ったというか。なので今回はバンドサウンドをより楽しめている感じが出ていると思います。「superstar」という曲は、いろんな楽器が加わっていくことを想像しながら作った曲だったりもしますし。1作目の影響をしっかり反映した2作目になっていると思いますね。

──アルバムのリード曲となる「superstar」はまさにななせさんの新たな可能性を伝えてくれる1曲だと思います。具体的にどう作っていったか聞かせてもらえますか?

ななせが作る気持ちいいバンドサウンドの曲を聴いてみたいっていう思いが出発地点でしたね。普段からそうなんですけど、「こういう曲が作りたい」というよりも、「ななせのこういう曲が聴いてみたい」という視点で作り始めることが多いかもしれないです。今回のアルバムに入っている曲で言えば、「ただ涙を流すだけの日も」とか「タイトル未定」もそういうイメージで書きました。「superstar」に関しては、よりポップでかわいらしく、歌謡曲っぽいテイストのものがいいなと思ってましたね。そういう曲をななせが歌ったらどうなるんだろうって。それをアレンジでよりイメージ通りの形にしていった感じです。

ベテランバンドメンバーにもバシッと

──大きく変わった点で言うと、今回はバンドメンバーと一緒にアレンジを作っていったそうですね。

はい。曲を作った段階で私の中にはなんとなくのイメージがあるんですけど、それを先に伝えることはしないようにしていて。なんとなくの方向性だけを決めたうえで、ギターやベース、ドラム、キーボードの方から出てきたものをまずは楽しみたかったんですよね。で、「せーの」で音を出したものを聴いて、そこで何か感じれば伝えて、修正してもらったりしながらフレーズをちょっとずつ決めていった感じでした。

──それはもうセッションですよね。

そうですね。アレンジャーさんを立ててやっているわけではないので、感覚としてはバンドのみんなで一緒に作っているような感じですよね。一応バンドの中心が私なので、出てきたフレーズのいい悪いの判断はバシッと言わせていただくんですけど(笑)。

──バンドメンバーは金崎圭介さん(G / 六子)、別府克彦さん(G / trans:bound)、斉藤哲也さん(Piano, B / Nathalie Wise)、白根賢一さん(Dr / GREAT3)というベテランの方々ですけど、遠慮なくバシバシ意見を言っていくと。

ななせ

確かに言われてみればそうですよね。ヤバいな私、大丈夫か(笑)。でも、バンドとしてやってるからそんなことは気にしていられないというか。きっとメンバーの皆さんもそう思ってるはずです。私はとにかく「いいプレイをお願いしますよ!」っていう感じでした(笑)。

──頼もしい(笑)。そういうアレンジの仕方だと、想像を超える仕上がりになることも多かったんじゃないですか?

ありましたね。私の場合、基本的には弾き語りでも成立するように作っているんですけど、アレンジされたことで曲自体のイメージがガラッと変わるものもあって。それこそ「superstar」なんかは思い描いていたイメージ通りでもあり、いい意味でイメージ通りじゃなくなった部分もあったりして。言い方が難しいですけど、ちょっとチャラさが出たような気がするんです。もちろん、それはいいチャラさ(笑)。それによって私の歌も変化したんですよね。最初はもうちょっと切なく歌うつもりだったけど、結果的には超無邪気に歌うことになって。そこもまた自分のイメージとは変わった部分でした。

──バンドのアレンジによって新たな歌の表情が引き出されたと。

そうそう。前回は弾き語りで歌を先に録っていたので、アレンジの影響を受けようがなかったですからね。でも今回は後ろの超元気な音たちを聴きながらの歌録りだったので、歌も自然とそこに寄っていたんだと思います。「superstar」はアレンジも含めて、「あー、いい曲が作れた!」っていう達成感を一番味わえた曲でもありましたね。


2021年8月14日更新