音楽ナタリー PowerPush - ななみ

「世界を変えたい」暗黒時代乗り越えたシンガーが語る夢

自分がいないものだと思われていた

──シングルの表題曲「愛が叫んでる」のビデオクリップでは、女子学生が男子学生に突き飛ばされ、殴られるという凄惨なシーンが登場します。資料には、ななみさんの実体験にも関係があると書かれていますが、いじめられた経験もあったんでしょうか?

私は昔から変わった子だったので、目立ってしまうというか、よく目をつけられていたんです。中学校の入学式前に「入学式に出られないような顔にしてやる」って、先輩に言われたりとか。私はすごく男勝りな性格なので、中学に入ってからは男の子とばっかり仲良くしてたんです。女の子も最初はよかったんですけど、だんだんと「男たらし」とか言われるようになって。男の子も思春期に入ると女の子を意識し始めるから、私をかばってくれなくなってしまうんですよね。それで孤立してしまい、学校に行かなくなってしまったりして。それで引きこもっている間、私は音楽に夢中になって歌手になろうと思うわけなんですけど、学校でも私が歌手を目指してるっていうのがだんだん知られていったんですよ。そうしたら「なれるわけないじゃん」みたいに後ろ指をさされたりして。

──いくら不登校とはいえ、学校というコミュニティを完全に切ることはできませんからね。

1カ月に5回くらいは保健室登校をしていて、給食の時間だけはクラスでごはんを食べることになっていたんです。それで教室に行ってみると、もうお前の席はないみたいな感じだったりだとか。席につくと、机の教科書を入れるところにゴミがいっぱい入っていたりするんです。たぶんそれはゴミを入れてやろうとか思ったわけじゃなくて、邪魔なものがあったからこの空き場所に入れておこうみたいなそういう感じで、その悪気のない行為が本当につらくて。自分がいないものだと思われてるんだなっていうのが。

──「○○になりたい」って現実的に考えて夢を語れる中学生ってあまりいないと思うんです。ある意味嫉妬心というか、自分の持っていないものをななみさんが持っていたから冷たくされたのかもしれませんね。

髪が金髪だとかでは全然なかったんですけど、やっぱり目立ってたんだと思います。なんだろう、絶対子羊の側の人間じゃなかったですね。一匹狼のような。

──集団に対して反抗するような態度を取ってしまったり?

ななみ

そうなんです(笑)。それと負けず嫌いなので売られたケンカは買うみたいな感じもありました。火に油を注ぐじゃないですけど、そういうのが重なってヒートアップしちゃったんだろうなとは思います。でもだんだん音楽をやっていって地元でも有名になっていくと、その頃の友達が「あの頃はゴメンね」って言ってくれるようになったりするんですよ。この間も成人式があったんですけれど、同窓会でもう完全にみんなの態度が違って(笑)。

──ななみさんはそれに対してどう思っているんでしょうか?

なんだかんだ言って昔のことだし、みんな大人になりましたからね。「ありがとう」って言ってありがたく受け取りました。それに、あの時みんなからバカにされなかったら、きっと多少“今”が違っただろうから。

あの頃の自分は前世の自分

──ひさしぶりに会った同級生とのやり取りなんかを聞いているとななみさん自身の変化が伺えますが、自分が一番変わったところってなんだと思います?

全部なんです。暗黒時代の頃はいわゆる前世の自分で、もう同じ人間じゃないんだと思っています。一度生まれ変わったんだって。記憶はあるけれど、確かではないというか。記憶の中で陽だまりのような感じというか、ホワンとしてるんです。もちろん当時はもう幸せになれない、もう笑顔になんて一生なれない、もう恋なんてしないと本気で思ってました。それぐらいいろいろ傷付いたこともあったんですが、結果、笑っている自分がここにいるんです。

──“前世”と“今”を分ける瞬間というか、そのきっかけって何かありましたか?

ななみ

ヤンキーのような生活を送っているときに、夜出歩いて朝帰るっていう不規則な生活のせいで体を壊して入院したことがあって、その入院生活の中で生き返ったと思ってます。入院したばかりのときは、スッピンを見られるのがすごく嫌だったんです。誰も近寄らないでって言って、カーテンの中だけが私のテリトリーで。オバちゃんとかもみんな一緒の病室だったんですよ。私は寝たいのにオバちゃんたちがガールズトークとかをしてて、もううるさい!って最初は思ってたんですけど、だんだんとその中に入っていけるようになったんです。閉じられていたカーテンが、だんだん開いていく感じというか。で、退院する頃にはもうスッピンが平気になっていて。自然とプライドみたいなものも全部落としてくれて、なにも無駄なものが付いていない状態になれた。生まれ変わったというか、退院したときはもうまったく別の人間になってたんです。だからすごく大事な時期でしたね。

──いいお医者さんに出会ったとか、親身に話を聞いてくれる人がいたとかではなく、あくまで環境がななみさんを変えたんですね。

そうですね。それと病院って命の大切さがわかる場所なんです。そういう場所に1カ月近くいたことで変われたのかなって思います。ある意味現実逃避というか、現実の世界をリタイアしたっていうのがよかったというか。学校に行かなくなったのも逃げだったし、ヤンキーになったのも逃げだったけど、でもそれが私の糧になっているし、逃げることは悪いことじゃないんだなって思いました。逃げ道があればいいんだなって。実際には逃げ道がない人のほうが多いと思うので、結局自殺しちゃったりとか。だから、私が誰かにとっての逃げ道になれたらいいなって思ってるんです。

──実際にライブをやっていて、そういうお客さんは多いですか?

私の歌を聴きに来てくれる人はけっこう女性が多くて。ちょっと精神的に弱い方だったりとか、助けを求めている方だったりとかが自然と集まっている感じがします。もちろん“アコギ女子”が好きな男性も観に来てくれますけど(笑)。でも本当にちゃんと私のことをいいと思って来てくれる方たちは、すごく感受性が豊かな方だったりとか、メッセージをちゃんと受け取って来てくれてる方が多いんじゃないかと思います。

──彼女たちにどんなメッセージを送ろうと思ってますか?

もちろん歌や言葉で何か伝えられるのが、歌手としては一番なんだと思いますけど、まず私がステージに立っていることが一番の証明になっていると思うんですよ。どんな人生でもやり直すことができるよっていうのを、その子たちに示してあげられるというか。どんな言葉とか歌よりも、私がこうやって存在しているだけで絶対力になると思うんですよね。どんなにひどいことがあっても絶対笑顔になれるんだよっていうのを、歌だったり姿だったりいろんなもので伝えていきたいんです。

ななみ

ななみ

1993年、大分県生まれ。学生時代から地元大分でライブの経験を積み、2013年1月に行われたヤマハグループ主催のコンテスト「The 6th Music Revolution JAPAN FINAL」でグランプリを受賞。NHK大分放送局のノンフィクション番組「ドキュメント 桃」の主題歌として書き下ろし曲「桜」がオンエアされるなど、地元大分での注目を集めた。グランプリ受賞後は、全国22カ所を1人で回る弾き語りツアーを行い、着実にその知名度を上げていく。2014年10月、自身が“暗黒時代”と呼ぶ学生時代の経験をモチーフにした楽曲「愛が叫んでる」をシングルリリースし、日本クラウンとヤマハが合同で設立したe-stretch RECORDSよりメジャーデビューを果たす。