ナタリー PowerPush - THE NAMPA BOYS

満を持して全国へ 入江悠監督と熱血対談

日本語ラップと自分の人生に重なるところがあった

──地元に対する愛憎って表現の発露になりやすいと思うんですけど、監督は原点を見つめたときに自分には語るべき物語がないということにも気付いてしまったと。

入江 そうですね。

──それに気付いたときにヒップホップをテーマにした映画を撮ろうと思ったのはなぜなんですか?

入江 ヒップホップが元々好きだったのと、あと日本語ラップの成り立ちと自分の人生に重なるところがあったというか。ヒップホップはアメリカからの輸入文化で、元々は貧困や政治をテーマにすることから始まってるじゃないですか。今でこそ日本でも特にサブプライムローン問題以降、経済格差が生まれてきて。日本語ラップシーンにもANARCHYやSHINGO★西成をはじめそういう現状をリアルに歌うラッパーが注目されるようになって、アメリカのヒップホップの状況に似てきたなと思うんですけど。でも、僕が日本語ラップを好きになり始めたときはもっと借り物感があって、どのラッパーもこの面白い音楽をどうやって自分のものにしようかって格闘している印象が強くあったんですね。そこが僕と映画の距離感に似ているなと思って。埼玉という何もない土地で育って、さらに家庭環境がいびつであるとか、経済的な問題を抱えていたわけでもない自分が映画で何を語ればいいのかと。それを思ったときに、日本語ラップの黎明期と重なる部分があるなと思ったんですよね。

インタビュー写真

小林 ああ、なるほど。そういうことだったんですね。

──今後も語るべき物語がない自分と向き合い続けなければならないと思ってますか?

入江 うん、それは変わらずあると思いますね。ただ、今は震災以降という概念が出てきてしまったので。そこに語るべき物語がない人たちも引き寄せられる状況が生まれてしまった。それは映画もドラマもバンドも一緒だと思うんですけど。ある意味で、それは語りやすいテーマでもあるので。震災以降をどう捉えるかは全ての表現者の問題になっていると思うんですけど。

今は自己処理をしている段階

──「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」は震災を経て撮ったものですよね。

入江 そうですね。そこでは震災を直接的には描いていないんですけど。

──それはあえてそうしたんですか?

入江 あえてですかね。まだ自分の中で消化しきれていないので。先日、小説家の高橋源一郎さんと対談したんですけど、お話を聞いていると消化が早いんですよね。ミュージシャンも早い人が多いですよね。僕はそこまで早く咀嚼できなくて。でも、みんなこのテーマから逃れられないとは思います。

──NAMPA BOYSはどうですか? 自分たちが語るべき物語については。

小林 こと震災に関しては僕らもまだ語るべきフェーズに来ていないと思ってます。今はそれよりも自己処理をするしかない段階というか。湧き上がってくるこの衝動はなんだろう? それを曲にしてみよう、その曲に名前を付けてみようという作業だけで手一杯なのが正直なところです。

──今はそれでいいとも思うんですけどね。

入江 そうですね。成長とともに変化していくことでもあると思うし。

小林 そういう意味では、超強力なメッセージというのは、自分の曲にはなかったりもして。今、言いたいことは「オナニーが気持ち良い」とか「今日食ったカツ丼がめっちゃうまかった」とか、そういうことでしかないのかなって。それをいかに曲の味にして、物語にして、みんなに届くものにできるか。その精度を高めている段階で。今の自分ができることはそれだなって思ってます。自分の中で知識やボキャブラリーが増えたときに震災以降に対してもそうだし、超強力なメッセージのある曲を書けたらいいなと思ってますね。

THE NAMPA BOYSには狂ってほしい

──監督は次作の構想は既にあるんですか?

入江 今回「クローバー」で初めて連ドラを撮らせてもらって、なんでも1人でやるもんじゃないと痛感したんですけど(笑)。ただ、脚本のアイデアはなんとなくあって。今まで半径1メートルの世界を描いてきて、「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」でちょっと大きい世界を描いたんですけど。僕は元々80年代のハリウッド映画を観て育ったので、「ターミネーター」みたいな作品を撮りたいなと思ってるんです。

一同 へえー!

入江 中学生のときはいつかそういう映画を自分で撮りたいと思っていたな、と思い出して(笑)。

──初期衝動への回帰ですね。

入江 そうそう。それを撮るにはどうしたらいいか考えたら、日本を早く出たほうがいいんじゃないかと思ったりして(笑)。どちらにせよ今までよりも世界を広げた話を書こうと思ってます。

小林 そのためにも漢方薬を作るのはありかもしれないですよね(笑)。

入江 まずは中国に行ってね。

──最後に監督からNAMPA BOYSに期待することを語ってもらって、この対談を締めたいと思います。

入江 バンドをやるからには、ぜひ狂ってほしいなって思います。

小林 そうっすね。狂いたいです!

インタビュー写真

THE NAMPA BOYS「プランジ」

ニューシングル「プランジ」2012年6月6日発売 500円(税込)A-Sketch / muddy water records NMWR-1003

  • 「プランジ」/ Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. プランジ
  2. 彼女の目
THE NAMPA BOYS(なんぱぼーいず)

2005年に小林聡里(Vo, G)と田中悠貴(B)を中心に結成された4人組ロックバンド。メンバー全員が長野県松本市出身で、2008年の第1回「閃光ライオット」にて本戦出場を果たし、大きな注目を集める。その後地元での活動を経て、高校卒業を機に上京。都内で精力的なライブ活動を行う中で、現在の所属レーベルのスタッフの目に留まり、6月6日にテレビ東京系「クローバー」のオープニングテーマに起用された「プランジ」でデビュー。

THE NAMPA BOYSライブ情報
MUSIC LINXS
2012年5月24日(木)東京都 新宿LOFT
OPEN 18:00 / START 19:00
<出演者>
THE NAMPA BOYS / SAKANAMON / KEYTALK / tricot
BARBARS PRESENTS[『B.B.Q』BARBARS QUEST~第二章 かいしんのいちげき!251のダメージをくらわせろ!~]
2012年5月26日(土)東京都 下北沢251
OPEN 18:30 / START 19:00
<出演者>
THE NAMPA BOYS / BARBARS / The HARPY's
BRAND NEW AGE
2012年6月3日(日)大阪府 福島LIVE SQUARE 2nd LINE
OPEN 17:00 / START 17:30
<出演者>
THE NAMPA BOYS / paionia / BLUE ENCOUNT / Brian the Sun / and more
FM FUKUOKApresents LIVE GOW!! vol.1
2012年7月15日(日)福岡県 スパイラルファクトリー
OPEN 18:30 / START 19:00
<出演者>
THE NAMPA BOYS / The SALOVERS / OverTheDogs / and more
入江悠(いりえゆう)

1979年生まれ、埼玉県出身の映画監督。大学在学中に映画を作り始め、各地のフィルムコンテストで入選を果たす。代表作は「SR サイタマノラッパー」「SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム」「SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」「劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ」など。映画界のみならず、音楽業界でも熱い注目を集め、特に「SR サイタマノラッパー」シリーズは高い評価を得ている。現在連続ドラマ初監督作品となる「クローバー」が、テレビ東京系で放送中。

ドラマ情報

テレビ東京系 ドラマ24「クローバー」
毎週金曜深夜0:12~放送中!(テレビ大阪は月曜深夜0:12~)

・オンエア局
テレビ東京ネット(テレビ東京・テレビ大阪・テレビ愛知・テレビ北海道・テレビ九州放送・テレビせとうち) / 奈良テレビ / 北陸放送