泣き虫|謎に包まれた新世代アーティストの独特なモットー

配信ライブ中に思い付き

──「アルコール。」は洗練されたアレンジが印象的です。ホントにサウンドの幅が広いですよね。

「アルコール。」はシティポップ系が流行ってる時期に作った曲で。配信ライブ中に即興で作ったんですよ。その場の思い付きで歌ったんですけど、「いいな」と思って、あとから録画した映像を観ながら歌詞を書き起こして。最速でできた曲です。最初からジャンルを決めるのは得意じゃないんですけど、やろうと思えば作れるんだなと(笑)。

──どうして「アルコール。」だったんですか?

なんでだろう? シティポップが深夜とかお酒のイメージだったからかな。僕はお酒を飲まないんですけど(笑)。

──「夢遊。(Acoustic Ver.)」はアコースティックな音像とラップを融合させた楽曲ですね。

この曲はもともとアコギで歌ったときのほうが人気があって。「アコースティックバージョンはないの?」というリクエストが多くて、収録することにしました。

──リスナーの要望に応えたと。曲作りも「どうすればリスナーに喜んでもらえるか?」と意識してますか?

うーん……。僕は配信をよくやってるんですけど、合間に即興の曲を入れることがあって。その反応を頭にインプットしておいて、曲を作るときに引っ張り出す感じですね。反応がよかった2曲を1つの曲にすることもあって。「どういう曲がいい?」と聞くのではなくて、たくさん曲を聴いてもらって、そこから選ぶという感じかな。

友達のヤバい空想をもとにした「207号室。」

──なるほど。「Shake It Now.(feat. Ado)」にはAdoさんが参加されていますけど、これはどういった経緯ですか?

「誰とコラボしたい?」と聞かれて、Adoちゃんを指名させてもらったら、OKをくれて。その頃よく聴いていて、いいなと思ってたんです。Adoちゃんには攻撃的なイメージがあったから、強めな曲をいくつか作って、選んでもらいました。人と一緒に歌うのは好きなんですよね、もともと。友達と深夜に海に行って、朝まで歌ってたこともあるので(笑)。

──映画みたいじゃないですか(笑)。「POISON.」はヒップホップテイストが強く出てますね。

「POISON.」みたいな傾向の曲はトラックを先に作ることが多くて。歌詞は完全に“韻”重視ですね。こういうヒップホップはもちろん、バラードでも実は韻を踏んでるんですよ。

──なるほど。そして「207号室。」はフォーキーな楽曲で、歌詞は切ないような、恐ろしいような内容ですが……。

そうですよね(笑)。アコースティックライブでは必ず歌ってる曲で、古参というか、前から聴いてくれている人は(アルバムに収録されることを)喜んでくれてます。曲を作ったきっかけは、友達との電話ですね。アパートの101号室に同棲してるカップルがいて、別れたあと、部屋をそのままにした状態で彼氏が102号室に移動して。そこで新しい恋人と暮らして、別れて、また部屋を移動する。思い出に浸りたいときは前の部屋に行ってみる……という空想の話をしてたんですよ(笑)。「ヤバい話だな」と言いながら、アコギを弾きながらその場で作った曲ですね。

この先も好きなことをやりたい

──いろんなエピソードがありますね……。最後は美しいメロディのラブソング「ネモネア。」で締めくくられます。

いいメロディですよね。この曲は地元の海に友達と行ったときに書いたんですよ。朝日が昇ってきて、「いい感じのバラードを歌おう」って(笑)、2人でギターを弾いて、歌詞もその場で考えて。その友達、ちょうど失恋したばかりだったんです。帰りの車でもその話をしていて、「悲しいけど、いい思い出だったな」というイメージを形にしました。人の話を聞くのが好きなんですよね、もともと。

──自分自身の恋愛だったり、人生観みたいなものは歌にしないんですか?

しないですね。自分のことを知ってほしいという気持ちはないし、歌詞だけじゃなくて、自分の顔や名前、年齢も必要ないと思ってるので。音楽をやるために必要なものだけを集めてる感じです。

──シンガーソングライターとしては、かなり個性的なスタンスですよね。

自分としては好きなことをやってるだけというか。今は弾き語りが中心なので、シンガーソングライターというイメージがあるかもしれないし、それを否定するつもりもないんですけど、この先はいろんなことをやりたいと思っていて。バンドもやりたいし、トラックで歌うことも続けたい。好きなことをやりたいという欲はすごいかも。

──映像やデザインも手がけてますからね。

そうですね。映像や写真も好きなので。次に何をやるかは決めてないけど、だからこそ「何ができるんだろう?」って自分でもワクワクしています。