仲村宗悟インタビュー|「カッコいいものを提示し続けたい」進化過程で生み出した5thシングルを語る (2/2)

「流転」とは真逆な感じで作りたかった

──ミュージックビデオも拝見しましたが……。

カッコいいでしょ! あははは(笑)。

──もちろん超カッコよかったです。めちゃくちゃ暗い映像で(笑)。

実際、現場も真っ暗だったんですよ。1m先も見えないようなところで走ったりしたんで、すごく怖かった(笑)。今回、初めましての監督(中村浩紀)だったんですけど、最初にコンテを3案持ってきてくれて。A案、B案、C案とあった中のC案が海での撮影プランだったんです。こういうプレゼンって、だいたい「A案に決まるもの」として向こうも用意してくることが多いと思うんですけど……。

──そういうものですか(笑)。

どうやら先方は「本当は海で撮りたいけど事務所がOKしてくれないだろうな、でも知らん顔して一応入れてみようぜ」くらいのつもりでC案を紛れ込ませてきたらしいんですよ。でも僕は圧倒的に海がいいなと思ったんでC案を選んだら、向こうもすごく喜んでくれて。彼らも僕らも、畑は違えどクリエイティブな仕事をしているという意味では同じなので、その気持ちの部分が通じ合ったというか。結果、すごくいい撮影になりましたよ。

──歌詞にも「揺蕩う」という言葉が出てきますし、イントロのピアノにもすごく“たゆたう感”がありますよね。確かに海のイメージは映像としてぴったりだと思いました。

潤さんはけっこうそうやって歌詞から受け取って音を作ってくれることが多いですね。それもあって、絶対に海の映像が合うと思ったんです。仕上がりを観ても、やっぱりC案で間違いなかったなと思いますね。

──カップリング曲のお話も聞かせてください。2曲目の「Freedom」は、「流転」とは打って変わって能天気なメロコアですね。

「流転」とは真逆な感じで作りたかったんです。僕は昔から、アルバムとかの中に何も考えずに聴ける曲があるのが好きで。スピッツの「ハチミツ」というアルバムがすごく好きだったんですけど、その中に「トンガリ'95」って曲があって……ずっと「とがっている とがっている」って歌ってるだけみたいな曲。そういうのを作りたいなと思って。

──あ、スピッツのイメージだったんですね。てっきりHi-STANDARDとかなのかなと思ってました。

まあ、アレンジ的にはそっちですけどね。「カラッとしていて、サビはリフレインが頭に残るようなものを」とリクエストしてSACHIKOさんに書いてもらった曲です。

──「流転」がある意味難しい曲なので、ここでいきなりIQがガクンと下がるような安心感がありますね。

「どっちもいけんだよ」という対比を出したくて。これまでのシングルもそうなんですけど、カップリングは表題曲とはまた違ったアプローチを楽しんでいただけるものにしよう、という考え方で作ってきているんです。

仲村宗悟

仲村宗悟

──3曲目の「待ってる間」は、どういう着想で作り始めたんですか?

バラードを1曲入れたかったのと、ライブのときにアコギ1本で歌える曲を作りたかったんですよね。家のソファでなんとなくギターをポローンと奏でていたときに、ふと「ソファの上で生まれる物語って、ドラマあるな」と思ったんですよ。そこから膨らませていって、「1人暮らしの男が洗濯機を回して、洗い終わるのを待っている間にソファでごろんとしていたらふと思い出した出来事」みたいなイメージで書いていきました。だから最後が「さぁシャツを干さなきゃ」で終わってるんですけど。

──すごくパーソナルな、半径の狭い歌ですよね。

この主人公の感情って、そんなに劇的なものではないんです。誰しも生活していて「なんで今、あのときのことを思い出したんだろう?」という瞬間はあると思うんですよ。そういう感覚の歌なんですよね。すごく後悔しているわけでも、すごく寂しいというわけでもない。「なんか思い出しちゃったなあ……よし、じゃあシャツ干すか」というくらいの。

──だから楽器編成もミニマルというか、素朴な方向に寄せた?

メロディを聴かせたかったので。最初はもっとドラマチックなアレンジが上がってきたんですけど、潤さんには「もっと超シンプルでいい」「この主人公にとってはただの日常だから、あまり感情的な音にはしないで」と伝えました。ドラムも前半はずっと打ち込みにして、温度感を下げてもらって。

──そこらへんにリズムボックスを置いてアコギをつま弾いているような、リラックスした光景が目に浮かぶ音作りですよね。そういう素朴な味わいの曲ではあるんですけど、コード進行はところどころで意外と技巧的だったりもして。

僕はけっこう2個目のコードが重要だなと思っていて。そこでグッと引き込まれる気がするので、この曲で言えば「ソファに寝転んで」の「で」の和音にはひとつこだわりましたね。メロディにも半音階を多用することで、おいしいラインをいっぱい作りました。「美メロだなー」と思いながら書けましたね。

──これは実際にライブで弾き語りをする予定はあるんですか?

どうでしょうね……2ndツアーのことはまだまったく話し合ってないんですよ。1stツアーが本当に“素ライブ”というか、華美な演出もなく淡々と演奏するバンドライブだったので、次はどうしよう?と迷っているところで。「同じスタイルで曲数を増やすだけだと、ただの延長線上に見えないかな?」「演出を差し込むにしても何をするんだ?」とか、いろいろ考えている最中ではあるんですけど。

──それこそギター1本で弾き語るコーナーがあってもいいのでは? ファンの皆さんも観たがると思いますよ。

いいですよね。僕もそういうの好きですし。

仲村宗悟

仲村宗悟

枠組みに囚われたくない

──では、その2ndツアー「SHUGO NAKAMURA 2nd LIVE TOUR ~⁺ING~」のお話も聞かせてください。4月から全国5カ所を回る予定になっていますね。

僕が提案した「⁺ING」というタイトルに決まったんですけど、「いろんなものがまだまだ進化過程だよ」「現在進行形だよ」という思いで付けました。決まっているのは本当にそれくらいで……もちろん、そういうタイトルを付けたからには1stツアーを超えないといけないとは思っていますけど。

──先ほどのコードの話じゃないですけど、何事も2発目は大事ですもんね。音楽業界では昔から「デビュー後に作る2ndアルバムからが本当の勝負だ」みたいな話もありますし。

それは本当に思いますね。1発目って、ある意味ご祝儀的に買ってくれる人もいるから。僕は2枚目のシングル「カラフル」を出すときにまずそれを思いました。そこで自分が何を強みとして勝負していくべきかを考えたときに、「枠組みに囚われたものは作りたくない」と思ったんですよ。例えば、アニメーションとかに全然興味なかった人にも「声優業界にこんなやつがいるんだ?」と気になってもらって裾野が広がっていくような、そういう部分に挑戦していきたいんですよね。

──それは音からも伝わってきます。仲村さんの音楽って、声優ファンやアニメファンよりむしろ“バンド音楽ファン”に刺さるものという感じがしていて。ただ、果たしてその層に届いているんだろうか?という心配もあるんですけど。

そこで「どうせそいつら聴いてないんだから」と自分のこだわりを曲げてしまったら、僕の音楽は終わりだから。むしろ逆に、こういう音楽のよさを知らない人たちに対して「こういうのがカッコいいんだぜ」と提示していくのも僕らの役目だと思うんですよね。

──世間的にカッコいいとされているものに追従してもしょうがない、という。

そうそう。人間の感覚って慣れもあるから、自分の好きなものしか選ばない傾向もあるじゃないですか。せっかく今はこんなに多種多様なものを選べる時代なんだから、「知らないところにもカッコいいものがあるんだよ」というのを提示し続けていきたいです。

──実際、そういう表現をされているなと感じます。変な言い方になりますけど、仲村さんの作品はいわゆる“声優アーティストの音楽”に聞こえないんですよね。

いやあ、ありがとうございます。そこを払拭していきたいですね。「声優っぽい」「ぽくない」ではなく、「こういう人も声優の中にはいるよね」みたいな感覚が普通という時代が来ればいいなと。最近はそうなってきていますけどね。例えば先日、武内駿輔さんが「ものまねグランプリ ザ・トーナメント2021」(2021年12月に日本テレビ系で放送された番組)で本職のモノマネ芸人を押しのけて優勝しましたけど、ああいうのめっちゃカッコいいなと思うんです。いろんな声優がいろんな業界で頭角を現して、「声優業界すごいな」というふうになってほしい。

──役者としても、「声優ってこういうお芝居をするものだよね」に縛られたくない思いがあります?

ありますね、もちろん。でも、それはみんなあるんじゃないかな。誰かがよしとするものではなく、自分が素敵だと思って大事にしている部分はどっかに持っていないと。そうじゃないと残っていけない時代が来ているんじゃないですかね。

──そういう時代を生き抜いていくために、どういう存在でありたいかは考えますか?

なんかね、今は「こうなっていくぞ」というより、まだいろんなものに触れている最中なんですよね。それこそ「ING」状態なんで。だから、今後出会うものに対して頭から否定しない自分でありたいとは思っています。何か新しい物事が自分のところにやって来たときに「いや、俺こうなんで」をやってしまったら、何も生まれないし何も磨かれないと思うから。

──今の世の中全体にも通ずるお話ですね。コロナ禍以降はいろんな“当たり前”が覆されて、それまでの常識や「俺こうなんで」が通用しない局面も増えている気がします。

いい意味でも悪い意味でも、いろんなことに気付けたこの2年間くらいだったと思いますね。「Freedom」の歌詞じゃないですけど、考え方ひとつで世界は一変するんですよ。不安に思ったり、考えすぎてしまうようなことは僕にもありますけど、それを壊してくれるのはいつだって自分以外の誰かの言葉や何気ない行動だったりするんですよね。だから、いろんなことに興味を持てる自分でいたほうがいい。それが可能性を広げていくんだと思います。

仲村宗悟

仲村宗悟

ツアー情報

SHUGO NAKAMURA 2nd LIVE TOUR ~⁺ING~

  • 2022年4月30日(土)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2022年5月4日(水・祝)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2022年5月7日(土)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
  • 2022年5月21日(土)宮城県 SENDAI GIGS
  • 2022年5月29日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

プロフィール

仲村宗悟(ナカムラシュウゴ)

1988年7月28日生まれ、沖縄県出身の声優、アーティスト。高校卒業後にアーティストを目指して上京し、音楽専門学校に進学する。その後、友人の舞台を観劇したことがきっかけで声優を志し、2015年にゲーム「アイドルマスター SideM」の天道輝役で声優デビューする。2019年3月に「第13回声優アワード」で新人男優賞を受賞。10月に1stシングル「Here comes The SUN」でアーティストデビューを果たし、2020年3月に2ndシングル「カラフル」を発表。自身の誕生日である2021年7月28日に1stアルバム「NATURAL」と4thシングル「壊れた世界の秒針は」をリリースした。2022年1月26日に5thシングル「流転」を発売。4月から5月にかけてツアー「SHUGO NAKAMURA 2nd LIVE TOUR ~⁺ING~」を開催する。