自分のバランスを保つのに必死なんです
──新曲「蜘蛛の糸」「R.I.P.」についても聞かせてください。この2曲を収録することになった経緯は?
もともとはミニアルバムを出したいと思っていたので、そのためにいくつか曲を作っていたんです。「Archives #1」にも新曲を入れたかったし、最近作った曲の中から気に入ってる2曲を選んだということですね。
──「蜘蛛の糸」は天井にいる蜘蛛をモチーフにしながら、さらに大きな視点から自分自身を見つめているような歌ですね。
これはふだん考えていることをそのまま書いた感じです。作ってるときは曲の構成や流れも考えますけど、元になってるのは自分の感情なので。
──長澤さんの素の感情?
うん、曲を書くことはライフワークになってるんですよね、自分の中で。自分が感じたこと、怒り、愚痴、楽しいことなんかをそのまま歌にするということが。僕、蛭子能収さんが好きなんですけど、蛭子さんは以前「僕、東大卒なんです」と学歴を自慢してきた人を自分のマンガの中で刺し殺したそうなんですよ。それって現実世界でやってしまったら事件じゃないですか。でも表現の中では何をやっても自由だし、蛭子さんはそれによって心の均等を保ってるんじゃないかなって。僕もそうなんですよ。生活の中で、自分のバランスを保つのに必死で。だけど僕には曲を書くというアウトプットの方法があるし、聴いてくれる人たちに何かをもたらすことができているとしたら、そんなに素敵なことはないと思いますね。
ALメンバーも参加した新曲「R.I.P.」
──「蜘蛛の糸」や昨年12月発表のミニアルバム「GIFT」もそうですが、最近の楽曲を聴くと長澤さんが自分自身を俯瞰している印象もあります。
そうですね。自分の中ではある程度、俯瞰できるようになったと思っているので。以前はもっと主観で曲を書いていたんです。不満だったり、認めてほしい、愛されたいという気持ちが強かったと思うんですけど、今はもう少し余裕を持てるようになったのかなって。曲の幅も広がりましたね。自分の気持ちばかりを歌うのではなくて、客観的な視点で歌うこともあるし、まったくのフィクションもあるので。
──なるほど。もう1つの新曲「R.I.P.」には長澤さんの女性観が表れていますね。
そうかもしれないですね。女性をディスってるように聴こえるかもしれないけど、僕の中では女性賛美の曲です。
──この曲にはALのメンバーが参加しています。彼らのサウンド、グルーヴ感が必要だった?
というよりも、気を許せる友達がレコーディングに遊びに来たという感覚です。「こういう曲があるんだけど一緒にやらないか?」って言ったら、みんなが遊んでくれたっていう。まずドラムの後藤大樹、ベースの藤原寛に頼んで、「じゃあ、(小山田)壮平も遊びにくる?」っていうノリで彼にも歌ってもらって。「R.I.P.」に関しては「こういう演奏をしてほしい」みたいなこともなく、そのまま自然にやったら素敵だったという感じですね。
──気の置けない音楽の仲間がいるって、心強いですね。
はい。飲んだりするといろいろありますけどね。僕がやらかして、翌日謝ったりとか(笑)。相変わらず壮平と一緒に曲を作って遊ぶのも楽しいです。昔はそういうこともなかったですからね。ソロで活動する前は転々とバンドをやったこともあるんだけど、どうしてもうまくいかなかったから。
音楽は飽きないし、しらけない
──アルバムには「享楽列車」のライブテイクも収録されています。この10年間の中でライブに対する意識も変化してますか?
変わってますね。今は単純に歌うことが楽しいという原点に立ち返ることができています。すごくライブが苦手だった時期もあったんですよ。その頃は歌以外のことを考えてしまったんですよね。一番きつかったのは、3年くらい前にやった「IN MY ROOM」ツアーのとき。そのときは「五感を刺激する」とかいろいろなコンセプトを自分で考えてみたんですけど、そこに頭を持っていかれて、歌うことに集中できなくなってしまったんです。よくないことなんですけど、歌うことに虚無感を感じていたし。で、その姿をみんなに晒してしまっているっていう……今はそうじゃなくて、楽しく歌って、演奏してワーッとなることに集中しているし、それがうれしいんですよね。やっぱり音楽で喜びたいし、楽しむってことが必要なんだなって。リスナーとして音楽を聴くのも相変わらず楽しいですからね。
──最近はどんな音楽を聴いてるんですか?
新しい音楽をよく知ってるわけではないですけど、例えばこういうものとか(カバンからASKA「Too many people」、小沢健二「流動体について」のCDを取り出す)。あとはマネージャーに教えてもらった映画「シング・ストリート 未来へのうた」がすごくよくて、劇中歌の「Up」という曲も好きですね。聴いているとき、聴き終わったときに世界が変わったように見えるし、ロマンチックな気持ちになって。
──リスナーとしても音楽のパワーを実感してるんですね。
音楽は飽きないし、しらけないですからね。今は無理をしないで楽しもうっていうモードなんだと思います。それがいつまで続くかはわからないけど。
──4月に開催される約3年ぶりのバンドツアー「-10th Anniversary Anthology- Nagasawa Tomoyuki Band Tour 'Kumo No Ito' 2017」も楽しめそうですか?
これからセットリストを組むんですけど、アルバムに縛られすぎずにやりたい曲をやろうと思ってます。ライブ中にしらけるような経験はもうしたくないですからね。
──期待してます。ちなみに長澤さん、音楽以外での楽しみってありますか?
えーと、YouTubeで猫の動画を見ることかな。猫が好きなんですけど、今は飼えないので。あとは釣りの動画とか。
──釣り、されるんですか?
しないんですけど、動画だけ見てるんです。ブラックバスを捌いて食べる動画を何回も見てるうちに、自分でも魚が捌けるようになりました(笑)。
- 長澤知之「Archives #1」
- 2017年4月12日発売 / AUGUSTA RECORDS
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[2CD]
3300円 / POCS-1552~3
- DISC 1
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- あんまり素敵じゃない世界
- フラッシュバック瞬き
- 夢先案内人
- バベル
- センチメンタルフリーク
- スーパーマーケット・ブルース
- STOP THE MUSIC
- バニラ(2014 Acoustic)
- MEDAMAYAKI
- 誰より愛を込めて
- 消防車
- R.I.P.
- マンドラゴラの花
- 犬の瞳
- 享楽列車(2014 Live)
- 三年間
- 蜘蛛の糸
- DISC 2
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- P.S.S.O.S.
- THE ROLE
- JUNKLIFE
- 狼青年
- 片思い
- 零
- RED
- ねぇ、アリス
- 風を待つカーテン(2007 Demo)
- EXISTAR
- スリーフィンガー
- 茜ヶ空
- 明日のラストナイト
- はぐれ雲けもの道ひとり旅
- 回送
- ベテルギウス
- 僕らの輝き
- 長澤知之「-10th Anniversary Anthology- Nagasawa Tomoyuki Band Tour 'Kumo No Ito' 2017」
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- 2017年4月18日(火)大阪府 BIGCAT
- 2017年4月20日(木)福岡県 DRUM Be-1
- 2017年4月24日(月)東京都 LIQUIDROOM
- 長澤知之(ナガサワトモユキ)
- 1984年福岡県生まれ。10歳でギターを始め、18歳の頃にデモテープオーディションでその才能を認められライブ活動を開始。2006年8月、シングル「僕らの輝き」でメジャーデビューを果たす。2011年4月に1stフルアルバム「JUNKLIFE」をリリースする。ライブ活動と楽曲制作を重ね、2013年11月に2ndアルバム「黄金の存処」を発表。2015年には以前から楽曲制作やライブを行っていた小山田壮平(Vo, G)とのプライベートプロジェクト・ALに藤原寛(B, Cho)と後藤大樹(Dr, Cho)が参加。本格的に活動をスタートさせ、2016年4月に自主レーベル・Revival Recordsから1stアルバム「心の中の色紙」をリリースした。同年12月にはミニアルバム「GIFT」を発売。2017年4月12日に10年間の活動をまとめたアンソロジー盤「Archives #1」を発表し、約3年ぶりとなるバンドツアーを行う。