mzsrz|「ヨルヤン」から鮮烈デビュー “多様声”を操る若者の代弁者

5人組ボーカルコレクティブ・mzsrz(ミズシラズ)が、配信シングル「夜明け」でデビューを果たした。

エイベックスとテレビ東京がタッグを組んだオーディション番組「ヨルヤン」から誕生したmzsrz。見ず知らずだった彼女たちはどのように出会い、ともに音楽人生を歩み始めたのか。音楽ナタリーではオーディションからデビューに至るまでの約1年間を振り返る。

文 / 寺島咲菜

DECO*27とボーカリスト5人の邂逅

「ヨルヤン」ロゴ

2019年12月、エイベックスとテレビ東京が「ASAYAN」以来約17年ぶりに仕掛けた“次世代型”オーディションプロジェクト「ヨルヤン」がスタートした。第1弾は楽曲動画の総再生回数が2億回を超えるボカロクリエイター・DECO*27、アレンジャーでDECO*27の制作パートナーでもあるRockwellらが審査員となり、インターネットを媒介して才能豊かなボーカリストを探した。

まずDECO*27は第1次審査に向け、課題曲を制作。イントロ、Aメロ、Bメロ、サビをそれぞれ2パターンずつ作り、36万人(オーディション開始時、2019年12月時点のフォロワー数)がフォローする自身のTwitterアカウントにアップし、人気投票の末に選ばれたバージョンをつなぎ合わせてメロディを完成させた。斬新な作曲アプローチを知り、番組MCの生見愛瑠とカミナリは期待を膨らませる。できあがった課題曲「インベーダー」を聴くと、口をそろえて「カッコいい」「めっちゃいい曲!」と絶賛した。

トレーニング期間中のmzsrz。

第1次審査では応募者が「インベーダー」と自由曲をそれぞれ好きなようにアレンジした歌唱動画を投稿。歌声だけでなく、楽器演奏やダンス、工夫を凝らした映像作りなど、各々が得意分野を生かし、勝負に臨んだ。この結果、作山由衣、ゆゆん、余星、大原きらり、クローゼットの住人Sを含む8人が最終選考に駒を進めることとなった。

最終審査でライブハウスに集められた8人。1人ひとりがステージに上がり、生バンドをバックに課題曲「インベーダー」を披露していく。余星は舞台裏で緊張の面持ちを見せながらも、持ち前の優しく透き通った歌声で審査員を魅了。クローゼットの住人Sは、歌い出しの前に応募者の中で唯一シャウトを入れ、独自の世界観を演出した。

半年間のオーディションを経て集まった、見ず知らずの5人

最終審査を経て合格したのは大原、作山、クローゼットの住人S、ゆゆん、余星の5人。ここで彼女たちのプロフィールを紹介する。

大原きらり(おおはらきらり)
大原きらり(おおはらきらり)
滋賀県出身の18歳。声優コンテストでの受賞経験があり、アニメソングを得意とする。オーディションでは審査員から“七色の美声”と称された。
作山由衣(さくやまゆい)
作山由衣(さくやまゆい)
東京都在住の14歳。繊細で美しい声と、グループ最年少でありながらも堂々とした歌いっぷりが審査員の目に留まった。
実果(みのか)
実果(みのか)
青森県出身の17歳。芸術的な歌声でプロデューサー陣を惹き付けた。家族に迷惑をかけないようクローゼットの中で歌っていたことから、当初「クローゼットの住人S」という名前で参加したが、デビューを期に実果に改名した。
ゆゆん
ゆゆん
熊本県出身、中性的でパワフルな歌声を持つ17歳。高校を中退し、アルバイトをしながら歌手になる夢を追いかけていた。
よせい
よせい
兵庫県出身で、日中バイリンガルの19歳。TikTokにアップしていたアカペラ動画はデビュー前から話題となっており、TikTokのフォロワーは44万人を突破。2020年12月に自身の失恋経験をつづったバラード「だから」を配信リリースした。デビュータイミングで名前を余星からひらがな表記に変更。

約半年間のオーディションを終えた5人は、mzsrzと名付けられた。彼女たちの武器は、透明で形が定まらない水のような“多様声”を持つこと。「見ず知らずだった私たちから、まだ見ず知らずのアナタへ」というコンセプトのもと、歌声を届けていく。ユニット名を告げられた彼女たちは、デビューに向け、さまざまな課題曲の歌唱に挑むなどトレーニングを重ねていった。

「夜明け」のその先へ

日夜練習に励む中、レコーディングスタジオに集められた5人に、DECO*27の口から2021年1月11日に「夜明け」でデビューすることが伝えられた。「夜明け」はDECO*27が彼女たちに直接インタビューを行い、メンバーの心の機微を歌詞につづった1曲。デビュー前──言わば“夜明け前”にいる彼女たちの、リアルな不安と希望が込められ、答えを探し続ける若者の不安定な感情を代弁している。始まりはクローゼットの住人Sこと実果を連想させる「光も届かない 暗い部屋で」のフレーズ。そして言葉数が多く難易度の高いBメロ、個性の異なる5人の歌声が1つになるサビへと続く。メンバーはハイレベルな楽曲に苦戦し、時には涙しながらも、レコーディングを無事終えた。それぞれが安堵の表情を浮かべる中、実果は「歌で1人でも多くの人に寄り添える人になりたいです」と固く誓った。

「夜明け」のミュージックビデオのコンセプトは、mzsrzを象徴する“水”。スタイリングはDEMI DEMUが手がけ、透け感があり、反射するマテリアルを使用したBALMUNGのアイテムを身にまとったメンバーは、初のMV撮影ながらも堂々としたパフォーマンスを披露している。そのほかビジュアルを通じて水が流れる様子をイメージすることで、若者の多くが抱える不安定な気持ちを表現。監督はHiroki Yokoyamaが務めており、映像の最後ではメンバーが不確定な未来に果敢に立ち向かう様子が描かれている。

4月21日にはDECO*27とTeddyLoidがタッグを組み、“SNS”をテーマに掲げて制作した2ndシングル「ノイズキャンセリング」もリリースされ、さらなる活躍が期待されるmzsrz。彼女たちの持つ“多様声”は人々の心に深く浸透していくだろう。