見えない素敵なものを信じ続けたい

──さらに詩的なリリックも印象的ですが、歌詞には意味を持たせて書いているんですか？

3.11の悲しみ以降も、僕らは相変わらずビールも飲めば恋をしたり……いろいろあるじゃないですか。そういうもわもわとした気持ちはありつつ、「The Last Apple On The Tree」という曲で書いた、りんごの木に最後のりんごが1個残っているというイメージは、震災前と震災後とではやっぱり変わっていると思うし。だから、震災自体を意識して書いた曲はないですけど、それ以降生きているひとりとして書いたという感覚です。

──なるほど。アルバムを通して聴いてとっても豊かな経験をさせてもらいました。それと同時にどこか静かな怒りみたいなものを感じたんです。

いまだに不思議なんですけど、どんどんどんどんいろんなイメージが湧き上がってくるのって、ほんのちょっとの憂鬱と、何かに対しての小さな静かな怒りからなんですよ。ライブのときもオーディエンスは来てくれているし、気持ちは最高なんですけど、何か前向きな怒りみたいのがほんの少しあるんです。そのときすごくいいテンションで、音楽とか楽器とかステージに一緒に立ってる仲間と向き合えるんです。ただ、それを“怒り”という言葉で表現していいのか……。憎しみでは絶対ないし、いまだにそのイメージに合う言葉を探してるような気がします。

──デザイナーでアーティストの澄敬一さんが「全ての芸術は時代の病巣を吸いこんで生まれる」と言っていたんですが、それに近い感じもします。村田さんの作品にひそむ“仮称・怒り”の正体が気になりますね。

自分の作品を取り巻く人たち、そこに集まってくれる人へすごく感謝の気持ちがあって、こんなに自分たちの仲間は素敵なのに、それ以外の世界ではつまんない事件が起こってたりとか、ひどい人がいたりとか。ライブはこんなに感動的なものなのに、政治は……とか。そんなことかもしれないです。

──音楽に集う素敵な仲間や時間と現実との、乖離への怒り？

言葉にするとそうですね。だから、僕らが売っているのはCDっていうプラスチックのような物質であっても、そこに集う見えない素敵なものをやっぱり絶対信じ続けたい。そういう意味で、1作でも多く、1カ国でも多く、自分たちのCDなり作品が流れていくように、もっともっと芸術家として精進して、世界中の人とコミュニケーションをどんどんとっていけるように向き合っていきたいなというのはありますね。暗い人間なりに。

──暗い人間なんですか？（笑）

たぶん（笑）。暗い人間なりにやっぱりコミュニケーションは一番大事だと。1人で考えていてもロクなことないんで、自分の作品を通じてできるだけ多くの人とコミュニケーションとれたらな、と思ってます。

ライブは完成というより提示

──そして、7月5日現在はすでに本作のツアーが始まっていますが、どんなライブになっていますか？

2年ぶりのジャパンツアーでひさしぶりに行く街もあるんで、待たせたねって感じもありつつ、大サービスしていきたいなと思ってます。

──具体的には？

その街に行って、空気を感じて、この街に対してのサービスとはなんぞやと考えますね。セットリストですら、当日考えても本番で全然違うものに変わったり、15曲やる予定でも2曲で終わったりとか……。

──2曲っていうのはずっとジャムってるんですか？

いいえ。途中で中断、というか、完了です。“これが今日の最高の作品”っていう。日によっては50曲くらいやったときもありますし。まあそれは出禁になっちゃいましたけど（笑）。

──（笑）。時間押し過ぎて？

はい。正確に言うと押しまくり過ぎて（笑）。

──2曲で完了するライブかあ……すごく気になりますね。

音楽って、美しさ、優しさ、強さとか、どんどんどんどん自分からはみ出てくるいろんなものをカタチにしたものなので……レコーディングもそうなんですけど、完成ってない。でも、終わらなきゃいけないわけで。ライブもそういう感覚です。だから、完成というよりはひとつの提示ですよ。アイデアの提示、イメージの提示です。お互いで考えよう、感じようってことですよね。

──じゃあライブはインスタレーションに近い感覚？

そうですね。その感覚を土台に持った上で、僕も社会に生きる大人でもあるんで、そういう現実がスッスッとよぎりながら（笑）、毎回のライブは完成してますね。

新しい感覚の扉、開きたいですね

──ツアーのあとはまたしばらく充電をするんですか？

充電はしないです。またここ何十年は突っ走ろうとは思ってます。9月からはINORANのツアーもありますし、もうひとつ別でやってるプロジェクトのU-re:xのレコーディングも今もやってますし。今年は少なくとも目いっぱい入ってますね。

──my way my loveの次回作もそう遠くない？

まだ次回作までは考えてないです。でも、ライブはガンガンやります！ 今回のツアーがあって、10月後半ぐらいにツアー第2弾を一応考えてはいます。さらに作品もどんどん湧いてきてます。

──そう考えると、毎月でもアルバムできちゃいますね。

もう本当それくらいですよね。

──毎日1曲配信とか？

毎日1曲配信、熱いですね！ それやってくれるレーベル、ないですかね（笑）。

──レコ発インタビューで言うことじゃないんですけど（笑）、CDが売れなくなってる理由の1つに、ずいぶん前に録音したパッケージを売るという時間感覚が今の時代とマッチしないのもあるのかなあと。毎日新曲配信はそれで新しい提示の仕方になる感じがしますよね。

売ってるものはCDだったりするけど、その裏側では、そこにあるライブ感……今回のレコーディングもライブ感があったし、そのスピードを届けてるんだとは思うんです。だから毎日配信で1曲ずつ出して、どんどんクオリティが落ちていったり、またちょっと上がったり、「でもクオリティが下がって落ち切ったのが実は一番my way my loveらしい」とかいうみんなの意見もあったり（笑）。そういう悪口も含め、ロックバンドだとは思うんで。だから結局トータルですよね、作品は。

──深いですね。

少なくても僕は、もっと歴史的な作品としてmy way my loveを考えてます。my way my loveの歴史をトータルで届けるんだと思ってるんです。

──なんかぶっ飛んだことをやってくれそうな気がしてひさしぶりにドキドキしてます。

そこは任せてください。binyl recordsというぶっ飛んだレーベルとも会いましたからね（笑）。

──ロックには人を元気にするパワーもあると思うんですけど、人間の新しい感覚の扉を開いてくれる可能性もある。my way my loveにその可能性をひしひしと感じます。

そういう前向きな、みんなが幸せになるいたずらもいっぱい考えていきたいですね。で、思えば、このネットの時代に例えば毎日音楽を配信するようなことが、ディランが10万人を相手にしたのと同じ熱狂になりうる可能性はあるんだと思うんです。一度に10万人を集めて対峙するのとは違って、単位は違うし、かかる時間も違うけど、緩やかなそれでいてハイな熱狂があると思うし。そこに行く新しい感覚の扉、開きたいですね。

The Fact Is "VAMPIRE" Japan Tour 2013

• 2013年7月3日（水）東京都 新宿JAM
• 2013年7月5日（金）北海道 旭川CASINO DRIVE
• 2013年7月6日（土）北海道 室蘭Live cafe Soliste
• 2013年7月7日（日）北海道 札幌Spiritual Lounge
• 2013年7月10日（水）宮城県 仙台Flying Son
• 2013年7月12日（金）埼玉県 越谷Easygoings（※Yukio Murataソロ）
• 2013年7月13日（土）兵庫県 尼崎Deepa（※Yukio Murataソロ）
• 2013年7月14日（日）兵庫県 尼崎Deepa
• 2013年7月15日（月・祝）大阪府 タワーレコード難波店（※インストアライブ）
• 2013年7月15日（月・祝）兵庫県 神戸ART HOUSE
• 2013年7月16日（火）徳島県 徳島club GRINDHOUSE
• 2013年7月17日（水）岡山県 倉敷REDBOX
• 2013年7月18日（木）福岡県 タワーレコード福岡店（※インストアライブ）
• 2013年7月19日（金）福岡県 福岡graf
• 2013年7月20日（土）広島県 広島MADHOUSE
• 2013年7月21日（日）山口県 周南LIVE rise
• 2013年7月23日（火）東京都 下北沢MOSAiC
• 2013年7月24日（水）新潟県 新潟RIVERST
• 2013年7月25日（金）東京都 タワーレコード新宿店（※インストアライブ）
• 2013年7月26日（金）千葉県 稲毛K's DREAM
• 2013年7月27日（土）埼玉県 越谷EASYGOINGS
• 2013年7月28日（日）長野県 伊那GRAM HOUSE
• 2013年8月9日（金）愛知県 HUCK FINN
• 2013年8月10日（土）大阪府 心斎橋FANJ twice
• 2013年8月11日（日）東京都 吉祥寺Planet K