MAN WITH A MISSION「Break and Cross the Walls Ⅱ」インタビュー|閉塞する時代に立ち向かう、5匹の意思表明 (2/3)

メッセージの打ち出し方が随分と変わってきた

──Kamikazeさん作詞作曲の「Rain」は、陽の温かいアンサンブルが感じられる素晴らしいバラードでした。

ありがとうございます。シンプルなピアノ伴奏から最終的にロックアンセムへと変わっていく展開も好きですし、何より新鮮だったのは、歌詞において書き手個人の心情がものすごく赤裸々に出ているように感じられたんですよね。

──前作の収録曲「Anonymous」にどことなく近いものがあるような。

なんかね、メッセージの打ち出し方が随分と変わってきたのかなと思います。僕にしても、Kamikazeにしても。

Kamikaze Boy(B, Cho)

Kamikaze Boy(B, Cho)

──これまで以上に個が出ているということですか?

そうそう。例えば楽曲の世界観をビデオカメラで撮っていたとすると、僕の場合はそのレンズを自分に向けることがほぼないんです。詞を書くとき、必ず違う役者さんに演じてもらっているイメージというか。違う誰かに己の人生を投影するケースはありますけどね。でも、まさに前作の「Anonymous」は自分に焦点を当てたものになりましたし、「Rain」に対しても同じような印象を受けますね。今までだと抽象性を生かした、投影、憑依させるような手法が多かったのが、レンズが個に向いた感じがして。非常にセルフィーだなあと。

ミニマルで素朴な曲調のほうが、聴き手にじんわりと何かが残る気がした

──Jean-Kenさん作詞作曲の「blue soul」は、途中から聞こえてくるどこかホッとできる音色が絶妙ですね。

DJ Santa Monica(DJ, Sampling)がアイデアを持ってきてくれたんですけど、あれはケーナです。サイモン&ガーファンクルがカバーした「コンドルは飛んで行く」でも使われている有名な楽器。「blue soul」で使っているのはケーナをサンプリングした音で、それをスクラッチしながら鳴らしています。

──スペクタクルなアレンジの中に、あの一風変わったアプローチを入れた狙いというのは?

スペクタクルな部分を表現したい意図がすごくあったんですけど、それだけに終始しない深みをSanta Monicaが足してくれたというか。そんなことを考慮して、ノスタルジーも感じさせるような音色を選んできたんじゃないかと思いますね。バンドのハイブリッドな面を一番ズバッと出せるプレイヤーですし、こういった攻め方ができるのは本当に我々の強みじゃないかな。ケーナを使うというアイデアも一聴してすぐに気に入りました。

DJ Santa Monica(DJ, Sampling)

DJ Santa Monica(DJ, Sampling)

──今作にはドキュメンタリー映画「MAN WITH A MISSION THE MOVIE -TRACE the HISTORY-」の主題歌「The Victors」も収録されていますが、映画の主題歌として聴いたときとはまた別の意味合いを伴って響いているような印象があって。

不思議なことにね。3年くらい前に作った曲で、当初はなんとなく2020年のオリンピックをイメージしながら書いたようなところもあったのが、転じてこの時代の問題に立ち向かっていくための、未来や光をつかむためのテーマソングに聞こえてくる。「Break and Cross the Walls II」が意図するメッセージにもハマっていると思います。

──そして、アルバムを締めくくるのが「小さきものたち」(2021年6月発売のシングル「INTO THE DEEP」カップリング曲)のアコースティックバージョンです。

オーケストラなどのオーセンティックな編曲は今までいっぱいやってきたし、それとはちょっと違う側面を見せたかったんですよ。牧歌的で温かみがありながら、主人公の人間性そのものが目の前に突き付けられるような質感にしたくて。しかも最後の曲にするのであれば、なおさらね。こういったリコーダーが映えたり、なるべくミニマルで素朴な曲調のほうが、豪華に終わるよりも聴き手にじんわりと何かが残る気がしたんです。

──どなたがアレンジをされたんですか?

「FINAL FANTASY」シリーズの音楽制作に携わっている作曲家、ピアニストの谷岡久美さんです。「FF」ってケルティックなサウンドなど民族音楽の要素を含んだ曲が多いと思うんです。ノスタルジックでもあるし、華やかでもあるし、牧歌的でもあるという。そういった表現に精通された方なので、今回お願いさせていただいたんですけど、本当に素敵なアレンジに仕上げてくださって感謝しています。

5匹がバンドの“正解”を見つけられた感覚がある

──アルバムの収録曲についていろいろ聞きましたけど、Jean-Kenさんが思う「Break and Cross the Walls II」の聴きどころを改めて伺ってもいいですか?

2作を通して言えることですが、やっぱりこれまでとは違って、我々がものすごく時代を意識して書いた楽曲が並んでいる点でしょうね。僕個人にとっても初めての挑戦であり、一歩踏み出したアプローチをしているので、できれば2022年にリアルタイムで聴いて、何かを思っていただけたらうれしいですね。もちろん10年後、20年後に聴いても、それぞれの曲が輝きを放っていてほしいという考え方も変わらずあるんですけど、このアルバムは現在の自分たちを取り巻く状況や世界を鑑みながら、肌で感じながら、今すぐ耳を傾けてもらいたい作品です。

──バンドが新たな段階に進んだ印象もありますね。

「僕らはこういうバンドです」という理念やスタンス、サウンドのあり方って、最初から決め打ちで迷いがないバンドがいれば、模索しながらわかっていくバンドもいるはずなんですけど、そういった中で今回の2作は、プレイヤーの5匹がバンドの“正解”を見つけられた感覚があって。とても自信に満ちあふれたアルバムだと思います。

Spear Rib(Dr)

Spear Rib(Dr)

──これまでのアルバムとはまた違うという。

はい。この2作に関しては、演者や作り手の達観だったり満足感だったりが伝わるサウンド、楽曲が詰まったアルバムができたような手応えを抱けまして。今までにない誇らしさがあるんですよね。

──付き合いの長いサウンドプロデューサーの方々も、マンウィズの変化を感じているんでしょうか?

そういう話もよくしますよ。特に大島さんは本当に活動初期からお世話になっているので、感想を聞くのが一番ワクワクする方なんです。つい先日の弾き語り公演にも出ていただいたんですけど、ライブ全体のことはもちろん、新曲の感想もちゃんと伝えてくれて。

──どんなやりとりを?

ライブでは「Anonymous」や「小さきものたち」を一緒にやらせてもらったんですけど、楽曲自体をめちゃくちゃ褒めてくれました。「すごく見えている感じがするね」ということをおっしゃっていて、きっと僕らが具体的に言葉にはしなくても、曲ににじむ充実ぶりが伝わったんだろうなと。そういった変化は長く時間を共有してきた大島さんにはすぐにバレるんでしょうね(笑)。

意義深いツアーになるのは間違いない

──6月から10月にかけて、「Break and Cross the Walls」2作を携えた全国ツアー「MAN WITH A MISSION Presents『Break and Cross the Walls Tour 2022』」が開催されます。

これだけ長く各地を回れるのは楽しみですよ。疫病との向き合い方も変わりつつあって、ツアーの4カ月間でも変わっていく気がします。ライブに参加してくれる方々はたぶん僕らと同じ感覚を持っていると思うんですけど、なんだろうな……社会的な仕組み以上に、日本の人たちの意識がもう少し変わったらうれしいですかね。

──というと?

言葉を選ばずに言いますけども、こういったライブ活動が当たり前に行われるような流れにしたい。ライブだけじゃなくて、エンタテインメント全般。日常生活の諸々を含めて、ひとつアップデートした新しい付き合い方を、腹をくくってやるべき段階なんじゃないかなと思っています。

MAN WITH A MISSION

MAN WITH A MISSION

──今回のツアーは各地2日間にわたる開催で、1日目は「Break and Cross the Walls Ⅰ」、2日目は「Break and Cross the Walls Ⅱ」の楽曲を中心としたセットリストになるそうですね。

とはいえ、めっちゃコンセプチュアルな試みとか、凝りすぎたことはやらないと思います。ただ、すごく強いタイトルと内容になった2枚のアルバムなので、セットリストや楽曲そのものが発するメッセージ、あとはそれこそ時代感も相まって、意義深いツアーになるのは間違いないでしょうね。ぜひ、遊びに来てください!