MAN WITH A MISSION|今高らかに叫ぶ、新しい時代の夜明け

今生きている僕らの時代について

──今作のオープニングを飾る「yoake」はバンドサウンドを軸としたうえで、ポップでスペーシーな質感のシンセをフィーチャーしていたり、ドラムンベース的なリズムがあったり、ピアノが入っていたり、いろいろ工夫されたハイブリッドなアレンジになっていますね。

人類史やテクノロジーにフォーカスした曲なので、サウンドもそれがダイレクトに伝わるものにしたかったんです。非常にスペーシーで機械的に感じるような音でありつつ、ポップで希望をイメージできる仕上がりを目指しました。加えて、アレンジャーで参加していただいた中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES、THE SPELLBOUND)さんと以前お仕事をされたことがあるXAIさんという女性ボーカリストにたくさん調和(歌詞がない部分の声、ハーモニー)を入れてもらえたのもポイントかな。おかげでよりドラマティックな仕上がりになったと思います。

Spear Rib(Dr)

──途中では、レゲエっぽいテイストも少し出てきます。

中野さんが「ちょっと変わったアレンジを入れてみない?」って感じで勧めてくれて、僕らもびっくりさせられた箇所です。いいスパイスをいただけました。

──無線交信のような音声も入っていますよね。

あれは月面着陸のときのニール・アームストロングさんをはじめとするNASAの宇宙飛行士たちの肉声なんです。両手を上げて自分たちの発展を謳歌している人というと、僕の場合アメリカ人が真っ先に思い浮かぶんです。とにかく発展することを正義としていて、その姿勢に大衆もものすごく興奮して、国がデカくなっていくことに過度な期待と喜びを感じていた時代があったはずで。それが顕著だったのが、宇宙開発をしていた時代だったと思うんですよね。今作のテーマにぴったりじゃないですか?

──確かに。そういう意味があったんですね。

別にあの時代を否定するわけじゃなくて、あの時代の人たちって盲信するほど、自分たちの発展というものに対して夢も希望も抱いていたんだろうなと。その期待感を描きつつ、「本当に行き着く先はここでよかったのかな」「しかも、まだどこかへ突き進もうとしているけど」という現代のニュアンスも込めています。今生きている僕らの時代について考えられるアンセムになってくれればいいですね。

ロックミュージックの原始的なパワー

──そして、2曲目にはカバー曲が収録されています。言わずと知れたAC/DCの名曲「Thunderstruck」ですが、これを選んだ理由は?

この楽曲をカバーしたいと言い出してくれたのはKamikazeで、はっきりしたことは聞いてないんですけども、単純にめちゃくちゃカッコいい曲だということと、それだけじゃなくてロックミュージックが持つ有無を言わせない原始的なパワーがすごく表れていることが理由なんじゃないですかね。全然気取ってもいなければ、全然遠慮もしていない。ロックの無骨なまでにまっすぐで、下手したらバカっぽくも聞こえてしまうような力強さにあふれている曲なんですよ、「Thunderstruck」って。

──歌詞も最高ですよね。「俺ら元気さ、絶好調さ」みたいなノリがほとんどで。

わはははは! 僕とKamikazeも「やっぱり、ロックはこういう歌詞でいいんじゃねえか?」「すげえよな、このテンション」みたいな話を制作時にしましたよ。今の時代にとっても、僕らにとっても、必要だった曲なのかもしれないですね。「雷に打たれたくらいの衝撃だった」「高速で女の子を引っかけてきてめちゃくちゃ楽しかったぜ」「やあ、俺は調子よくやってるぜ」という歌詞はどういうことやねん!というくらい自由ですもん(笑)。

──カバーしてみてどうでしたか?

これまで僕らはほかにもカバーをいろいろしてきたけど、やり始めたのは2012年頃なんですよ。ちょうどいろんなDJが今のポップスの名曲と昔のロックバンドの名曲をマッシュアップさせていた時期で。

──Nirvanaの「Smells Like Teen Spirit」を改めてフィーチャーしたりとか?

ですね。あとはMetallica×レディー・ガガの「Enter Sandman」とか、マッシュアップがすごく流行った時期があって。そういったものをKamikazeと僕がライブ会場かクラブかで聴いたときに「これはめちゃくちゃいい形だな」と衝撃を受けたんです。ちょうどロックバンドがフォーマットとして少しずつ古いジャンルに聞こえ始めてきた時代の中で、ものすごくモダナイズされた新しいものだったんですよ。

Santa Monica(DJ, Sampling)

──新鮮でしたよね。

めちゃめちゃ驚いて、当時Kamikazeと興奮して話した記憶があります。今なおロックミュージックはほかのジャンルにちょっと押されているという意見もたぶん少なくないと思うんですけど、あのマッシュアップの手法はロックの力強さをまったく損なわせずにアップデートしていたんですよね。もしかしたらこれがMAN WITH A MISSIONのやっていきたいことの中心になるんじゃないかって、2人ともなんとなくわかっていた気がするというか。今回のAC/DCのカバーはその答えの1つと言ってもいいかもしれないです。

──意義のあるカバーだと思います。

2曲目に置くのはかなり大胆だけど、アルバムに見事ハマりましたね。こういうカバーって、原曲のパワーに負けてしまうか、現代に寄せすぎたせいで楽曲そのものが持っている何かを失ってしまうか、どちらかに転ぶ危険性がけっこうあると思うんですよ。でも、今回は自分たちなりにモダナイズしたおかげで、オリジナルのバカっぽいところがさらにバカっぽく聞こえるし、一段とカッコよくも聞こえる。それでいてリスペクトも損なっていないと思うんです。

──リスペクト、めっちゃありますよね。そういえば、つい先日AC/DC「Thunderstruck」のミュージックビデオがYouTubeで10億回再生突破したというニュースを見ました。

へえー! それは狙ってなかったけど、今カバー曲をリリースできるのはタイミングとして最高ですね。

──本当に今作はこれまでのどのアルバムにも増してパワフルで爽快感をもたらしてくれる幕明けになっているし、連作という形で2枚に分けたとはいえ、インパクトが薄まるなんてことはなく、非常に濃くてボリューミーなアルバムですよね。ドラマ「ラジエーションハウスⅡ~放射線科の診断レポート~」の主題歌である「Remember Me」をはじめ、既存の楽曲もハイクオリティで。

ありがとうございます。「ラジエーションハウスⅡ」でも引き続き「Remember Me」を主題歌として使っていただけてうれしいですね。僕もドラマを観てますよ。オンタイムが難しいときも今はTVerがあるので、とても便利で助かってます(笑)。

内面的なことを赤裸々に書いた

──Kamikazeさんが作詞作曲した表題曲「Break and Cross the Walls」でも「夜明けが来るということ」が繰り返すように歌われていますね。

Kamikazeが意図して重ねてきたのかどうかはわかりませんけど、アルバムを象徴する言葉を含めた楽曲ですし、やっぱり自分たちがこの数年で味わってきた感覚は共通していますからね。サウンドアプローチは「yoake」とはまた違って、ドラムのビートを筆頭に重厚なトーンで心情に訴えてくるようなものにできました。

──これまで話していただいたナンバー以外で、Jean-Kenさん的にとりわけ印象深い曲というと?

「Subliminal」かな。けっこう幅広いジャンルを押さえたアプローチをするバンドなんですけど、1つ芯になる武器を選ぶとしたら、マンウィズの一番の強みってたぶんこういったデジタルロックサウンドになるのかなと思うんですよね。その類の中でも、ものすごくファニーな楽曲でありながら、けっこう辛辣でシニカルな世情を歌ってもいますし、このバランスが好きですね。

MAN WITH A MISSION

──ビートのパターンが急に変わったりと、めまぐるしい展開でもいいドライブ感で聴ける曲でした。

そうですね。これはKamikazeの得意とするところで。印象的には、フルコースっぽい曲。EDMのテイストまで入ってますから。主菜だけじゃ足りない。前菜も副菜も全部欲しい、みたいなアプローチなんですけど、それが功を奏したので、本人も手応えを感じていると思いますよ。

──アルバムを締めくくる「Anonymous」も今作のキーとなる、じっくり耳を傾けてほしい曲だと思います。

これも自然に書き上げたわりに、思いのほか締めにふさわしい楽曲としてハマってよかったです。我々の特性でもあるんですが、ほかのバンドと比べて人物像があまり見えないと思うんですよ。オオカミですし。人間の皆さんの場合、自分の歴史が相まって伝わってくるけれど。

──言われてみれば、そうですね。

自分たちの人生や生き方を演者として出しつつ、オーディエンスがそれを見て反応するのがよくある形なんですけど、ことMAN WITH A MISSIONに関しては、生き様を出しているつもりでも非常に見えにくかったりしまして。そんな中で、内面的なことを赤裸々に書いてみたのがこの「Anonymous」なんです。こうやってさらけ出したほうがもっと曲が響くのかなと思ったし、今まであまりダイレクトにやってこなかった自覚もあったので。痛いくらい自らにフォーカスしてみました。

長いことやっていけそうな自信が生まれてきた

──アルバムの中盤に入っているインスト曲の「Between fiction and friction I」もカッコいいですね。「ケッケッケ」と悪魔が笑っているみたいなスクラッチ音が印象的でした。

あれ、いいですよね(笑)。Santa Monica(DJ, Sampling)の存在感が立ちつつ、ギター主体のインストにもなっていて、僕ららしさが出ていますよね。オーセンティックなロックのノリとか、激しく畳みかけるサウンドとか。

──8曲目の「クラクション・マーク」はどのような楽曲になったと思いますか?

ほかの13曲と比べると、一際ソリッドなんですよね。僕らの楽曲ってシーケンスだったり、自分たち以外の楽器を登場させたりすることが多いんですけども、「クラクション・マーク」に関してはそういうのが何もなくて。

──珍しいですよね。

そうなんです。作り始めた段階からソリッドにしてみようと話していたんですよ。ひさびさにこういうアプローチをやってみて、僕はなんだか反省しましたね。最近はアレンジをするうえで音数が多すぎたなって。これだけ少なくてもすごく力強い曲にできるじゃん、という。いい初期衝動がサウンドに表れていると思います。今作ではいろんな曲で「もう1回新しく始めよう」ということを歌ってるんですけど、そういった意味でアルバムの折り返し地点にこの原点回帰的なナンバーがあるのはいいですよね。

MAN WITH A MISSION

──やっぱり、素晴らしい曲順だと。

今回のアルバムの一番気に入っている点は、もしかしたら曲順かもしれない。

──アルバムとして完成度がとても高いということですね。2022年春にリリース予定の次作「Break and Cross the Walls II」もますます楽しみになりました。

新曲はまだまだ制作途中のものも多いんですけど、こういったインタビューを間に挟むことによってものすごく刺激を受けますよ。もっといいものを作らなきゃなって思わせてもらえます。

──そうしたプレッシャーというものは常にあるんでしょうね。

どうなんですかねえ。あると言えばあるのか。でも、生みの苦しみみたいなことを自分で説明しちゃうとすごい嘘くさくなるじゃないですか(笑)。本来は曲を作るのってむちゃくちゃ楽しいことなのでね。もうあまり余計なことは考えないようになりました。

──バンド結成10周年を越えたからこそ、ですか?

大きいでしょうね。まさかこんな心境に至れるとは想像してなかったです。各所で耳にするのは、バンドって最初の作品にやっぱり初期衝動が色濃く出て、1stアルバムが忘れられないという方が多いらしくて。「自分たちもそうなるのかな」と思いつつも、結成10周年のベストを出したときにまったく変わらない部分があるのがわかって、そこが強みだと再確認できたことで、さらに長いことやっていけそうな自信が生まれてきたんですよね。なので、きっといいアルバムがまたできると思います。

──まずは、連作の第1弾となるこの素晴らしいアルバムを聴いておいてもらいたいですね。

ぜひ、よろしくお願いします。先に「Break and Cross the Walls I」を心ゆくまで堪能していただいて、そのうえで期間が空いて届く「Break and Cross the Walls II」を聴いてもらえると、全28曲のストーリーがいい感じで味わい深く伝わるはずなので。次作の完成も楽しみに待っていてください!