MAN WITH A MISSION|今高らかに叫ぶ、新しい時代の夜明け

MAN WITH A MISSIONが約3年半ぶりのオリジナルアルバム「Break and Cross the Walls I」を11月24日にリリースした。本作はもともとCD2枚組の作品として構想されていたが、完成を待たず急遽1作ずつリリースされることに。来春には連作となるアルバム「Break and Cross the Walls Ⅱ」の発売が予定されている。

第1弾の「Break and Cross the Walls I」にはテレビドラマ「ラジエーションハウス II~放射線科の診断レポート~」の主題歌「Remember Me」や映画「ゴジラvsコング」の日本版主題歌「INTO THE DEEP」、テレビアニメ「僕のヒーローアカデミア 第5期」第2クールのオープニングテーマ「Merry-Go-Round」といった強力なシングル曲をはじめ、現代の閉塞感を打ち破らんとする気概が詰まった新曲や、言わずと知れたAC/DCの名曲「Thunderstruck」のカバーなど全14曲が収録されている。音楽ナタリーでは、Jean-Ken Johnny(G, Vo, Raps)にインタビューを実施。アルバムの全貌に迫りつつ、制作の背景で彼が抱えていた思いについてもたっぷりと語ってもらった。なお、Jean-Ken Johnnyの発言は編集部でわかりやすいように、ひらがな翻訳している。

さらに特集の最後には、Tokyo Tanaka(Vo)、Kamikaze Boy(B, Cho)、Spear Rib(Dr)、Santa Monica(DJ, Sampling)のコメントも掲載。5匹の言葉でアルバムに注ぎ込んだ思いやバンドの現在のモードを紐解く。

取材・文 / 田山雄士撮影 / 草場雄介

コロナ禍の前からずっと感じていたこと

──ずっと新曲の制作をされているという話を最近のインタビューで伺っていましたけど、アルバムが2枚出せるほど曲ができていたんですね。アルバム曲以外にも、東京スカパラダイスオーケストラの新曲への参加や(参照:東京スカパラダイスオーケストラ「S.O.S. [Share One Sorrow]」インタビュー|Jean-Ken Johnny、ムロツヨシと最新作を語り尽くす)、木村拓哉さんのアルバムへの楽曲提供もあったり(参照:木村拓哉の2ndアルバムにCreepy Nuts、マンウィズ、Kj、平井大、鈴木京香、糸井重里が参加)、かなりの数を作られていて。

来春リリース予定のアルバムはまだ絶賛制作中ですけど、気付けばなんだかんだでかなりの曲数が貯まってましたね。物理的になかなかライブができなかったですし、それによって時間ができたので。いろんなことを考えさせられる時間もやっぱり増えて、それで曲が生まれていったように思います。とはいえ、「作らなきゃ」みたいなことではないです。そういう感覚はもうなくなったかな。すごくナチュラルにできたものを、タイミングよく届けられている気がします。特にこの1、2年は。

MAN WITH A MISSION

──もともとは連作というよりは、2枚組でのアルバムリリースを考えていたそうですね。

コロナ禍によって音楽業界全体がもう長い間まともに動いていなくて、自分たちもまったくライブができなかった時期があって。その中で配信ライブやライブハウスビューイングツアーなどやれることはやりながら、MAN WITH A MISSIONをなんとか止めることなく活動してこられたんですけど、それでもいつも通りのツアーが行えたわけではなかった。この時期にまとまった作品、しかも3年半ぶりのオリジナルアルバムをリリースするのであれば、かなりセンセーショナルなものをお届けしたいなと思ったんですよね。当初は2枚組という形態の予定でしたが、制作の状況を鑑みて急遽1枚ずつに分けることにしました。いち早く新作を聴いてほしい気持ちもあり、まずは「Break and Cross the Walls I」からじっくり味わってもらうのもいいなと思って。

──フルアルバムを連作でリリースするのは、マンウィズにとって初めてのことで。なかなか大胆な試みですよね?

時代の流れとは逆行しているのかもしれませんね(笑)。どちらも14曲ずつ収録で全28曲になるんですけど、1つのコンセプトにのっとったアルバムをこれだけ多くの曲数で表現するのは、作り手としてもものすごく大変なことだったりもするので。でも、なんだろうな……さっきも言ったとおり、我々は今すごくナチュラルなんですよ。あまり「アルバムを作ろう」という考え方で曲を作っていなくて、自分たちからスッと出てきたものを収めていった感じです。ボリューミーな作品のわりに、さほど気負ってはいない。

Jean-Ken Johnny(G, Vo, Raps)

──曲順や、新曲と既存曲をどう織り交ぜるかについても悩むことはなかったですか?

めちゃくちゃ悩んだりはしてないです。アルバムの曲順に関しては、Kamikaze Boy(B, Cho)がいつもプロットを持ってきてくれるんですよ。で、最終的な判断はマスタリングのときになるんですけど、そのプロット通りになりました。完成版を通して聴いたとき、改めて素晴らしい曲順だなと思いましたね。特に1曲目「yoake」から2曲目「Thunderstruck」の流れはものすごくパンチ力があって。

──冒頭の流れ、最高ですよね。とてもナチュラルに作られたということですが、アルバムをまとめる中で1つのテーマが浮かび上がってきた感じでしょうか?

今回のアルバムにはコロナ禍じゃないときから構想していたナンバーも収録されていて、楽曲に込めたメッセージに関しては、この疫病だけじゃなくて、それ以前から僕らがずっと感じていることが軸になっているんです。疫病のことはもちろん、世界中でいろんな問題が起きていて、それについての情報をインターネットというインフラを介してものすごい速度で、なおかつものすごく無機質に入手してしまう状態……この時代に対しての新しい閉塞感というか、新しい息苦しさみたいなものが非常にあった期間だと思うんですね。そんな考えのもと作った曲が多いので、やっぱり自然に統一性は出ますよね。時代背景を作品に落とし込みたいタイプでは本来ないんですけど、そうも言っていられないですよ。

行き場がありすぎてなくなっている

──Jean-Kenさんが危惧している新しい閉塞感というものについて、もう少し聞かせていただいてもいいですか?

「yoake」でまさに歌ったことなんですけど、自分が生きている世界が500年後とか1000年後とかにどう記されるのかなと最近は考えたりするんです。未来の人が教科書で学ぶときに、今の時代は果たしてどう映っているんだろう、どんなふうに教えられていくんだろうと。例えば「明治時代の人たちはきっとのちのちああやって描かれると思いながら生活していたわけじゃないんだろうな」とか、「明治維新のときだって、めちゃくちゃみんな不安で、あれがまさか新しい時代の夜明けになるとは想像すらしていなかったんじゃないかな」とかね。いわゆる平民の人たちは「なんか各地で戦争が起きちゃってるな」くらいの感じで、実情をあまり把握できていなかった気がして。そんなことで頭がワーッとなったときに、今の僕らが抱く複雑な感情を書き残しておきたい衝動に駆られて作った楽曲が「yoake」なんですよね。

──そういうことだったんですね。

おそらく未来の教科書では「Appleという会社がこれでもかっていうくらい一般市民にコンピュータを持たせて、インターネットのストラクチャーがとんでもなく発展していった時代」のように書かれるんじゃないかな。だって、年に1回新しいiPhoneが出るんですよ? すごいことだと思うんですよね。携帯電話だけじゃなくて音楽を聴くスペースや方法にしても、自分たちが生活で使ういろんなものが、その都度変わったり、構造化されていったりしているというか。僕らは発展に必死で追いつこうと、新しいSNSとかに触れたりするんですけど、どれも流行っては死んでいく。そんな中で勝手なイデオロギーや対立も生まれて、「既存の構造がおかしいんじゃないか」「やっぱり、法を改正しなければいけない」ということになってくる。

──皮肉にも、インターネットが発展したことによって弊害も生まれている。

そう。すごく身近にあるインターネットが発展したおかげ、悪く言えば発展してしまったせいで、今は哲学や思想があふれ返った時代なのかなと考えるようになりましたね。めちゃくちゃ飽和していると思います。行き場がありすぎてなくなっているような感じで。

Tokyo Tanaka(Vo)

──社会全体の一体感みたいなものが薄れているところもあると思います。

うんうん。情報が希薄だった時代のほうが、一体感は生まれやすかった気もします。今はいろんなことが便利になって、それに賛同する方々は「いや、情報があふれているからこそだまされなくなったんだ。みんなが賢くなったんだ」と前向きに捉えたりもするけれど、僕はメリットとデメリットどっちもあると思うんですよね。「そこまで情報強者でいる必要があるのか」と考えたりもします。

──音楽やアニメなどすごくいろんなことに詳しいJean-Kenさんが、冷静に状況を見つめている感じがいいですね。

ありがとうございます(笑)。やっぱり、何もかもが飽和しているのを肌で感じるんですよ。今はSDGs(持続可能な開発目標「Sustainable Development Goals」の略称)という考え方なんかもものすごく中心になってきてますけど、これも裏を返せばそういうビジネスと取れてしまって。

──元THE BOOMの宮沢和史さんも以前インタビューで同じようなことをおっしゃってました。「将来がどうなるかわからないので、持続可能な何かを考えていきましょうってどうなの?」みたいな。

本当にそう。理念は正しいと思いますけど、今まで好き勝手してきた人たちがこれから生きる人たちにその問題を押しつけるのはなんか違うんじゃないかなって。こういう考え方ができるようになったのも、結局僕らが情報を手に入れやすくなったからで、よくも悪くもいろんな思想が生まれてしまう時代なんでしょうね。

──情報が手軽に得られる感覚は、危うさもはらんでいますよね。

相手のことを理解できていないのに、理解できた気になってしまうみたいな。そういうことも起こりますからね、情報が飛び交っているぶんだけ。いやー、なんだか熱くなってしまってすみません(笑)。わかりやすく言うと、テクノロジーがバブルで暴走してずっとハジけている状態なんだろうなと感じている次第でございます。「yoake」に話を戻すと、時代の節目で何かすごくセンセーショナルなことが起こる瞬間は、やっぱり「時代の夜明け」というものをイメージするところがあって。そういうタームに来ているのかなと思ったんですよね。

状況を打破したいという願い

「Break and Cross the Walls I」初回限定盤ジャケット

──ジャケットのアートワークや新しいアーティスト写真はチェスがモチーフになっていますね。

アートワークに関しては、今までやってこなかったデザインだったり、単純にカッコいいなと思うものを考えるんですけど、期せずしてアルバムの内容とリンクする感じになりました。チェスの盤上で自分たちが駒になっているというのが、非常にシステマチックに動いてしまっている世の中を乗り越えていこうと訴えるメッセージに取れて、うまくハマったんじゃないかなと。

──さっきの話を聞いていても思ったんですけど、アルバムタイトル「Break and Cross the Walls I」にある「Cross」(交わる、掛け合わせる)の部分がメッセージの肝ではないですか?

まさしく! まずアルバムタイトルに関しては、このタイミングで出す作品としてのメッセージ性を持たせるにあたって、やはり今現在の状況を打破したいという願いがありました。先ほども話したように疫病だけではなく、さまざまな問題を乗り越えていこうという意味を込めたくて。なので、全曲を通しての共通項は表題曲のタイトルであり、その歌詞にも登場する「Break and Cross the Walls」という言葉がふさわしかったんです。で、僕も「Cross」がポイントだと思うんですよ。人類って破壊する行為には長けているんですけど、そこを再構築することをしてこなかった気がして。再構築を謳うわりに、結局壊すだけを多く繰り返してきた印象があるんです。

Kamikaze Boy(B, Cho)

──なるほど。

もちろん新しいものを生み出してきたからこそ今日に至るわけですが、壊したのであればやっぱりちゃんと問題点を乗り越えていくというか、反省点を生かしたうえで前に進まないといけないんじゃないかなと。それこそ聖書の頃から「破壊と再生」については語られていて、おそらく人間そのものの哲学の根底にある思想だけど、我々はこの行為をもう十分やってきたんじゃないかと思うんですよ。そこで何かを見落としているとしたら、ただ破壊して作り直すことだけに重きを置いてしまったこと。問題としっかり向き合って解決するマインドがないと、新しく生み出すものにも意味がない。そう考えたりするんですよ、最近は。

──このアルバムを聴いていてイメージしたのは、「対話」みたいな言葉でした。

そういうふうに汲み取ってくださって非常にうれしいし、ありがたいです。「Break the Walls」という表現もありますけど、壊してしまったものに対し傍観しているだけではダメで。手を取り合って対話したりしながら、問題点を乗り越えていく必要があると思いますね。