MAN WITH A MISSION|「ヒロアカ」オープニングテーマに詰め込まれたマンウィズの哲学

MAN WITH A MISSIONがシングル「Merry-Go-Round」を9月8日にリリースした。

シングルの表題曲「Merry-Go-Round」は、現在放送中のテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」第5期第2クールのオープニングテーマ。アニメの世界観にしっかり寄り添いつつも、これまでのマンウィズとはまた異なる、新しいハイブリッドさを感じさせる楽曲となった。カップリングにはマンウィズの代表曲の1つでもある「Remember Me」のストリングスバージョンを収録。ストリングスアレンジは、2019年にこの曲が主題歌として使用されたテレビドラマ「ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜」の劇伴を担当していた服部隆之が手がけている。またシングルと同時に、ライブ映像作品「Wolf Complete Works 〜LIVE STREAMING Edition〜 RE」「Wolf Complete Works 〜LIVE STREAMING Edition〜 BOOT」もリリースされた。昨年から今年にかけて行われたマンウィズのストリーミングライブが2タイトルで計6公演収められている。

音楽ナタリーでは、Jean-Ken Johnny(G, Vo, Raps)にインタビューを実施。新曲「Merry-Go-Round」についてはもちろんのこと、カップリングの「Remember Me」ストリングスバージョン、そしてバンドの近況やコロナ禍で抱える思いなど、幅広く語ってもらった。なお、Jean-Ken Johnnyの発言は編集部でオオカミ語(カタカナ)からわかりやすく日本語(平仮名)表記にしている。

取材・文 / 田山雄士

ようやく陽の目を見た「THE MISSION」のセット

──6月にシングル「INTO THE DEEP」をリリースして以降、バンドの近況はどんな感じですか?(参照:MAN WITH A MISSION「INTO THE DEEP」インタビュー

Jean-Ken Johnny(G, Vo, Raps)

リリース後は、撮り下ろしの映像を全国各地のライブハウスで楽しんでもらうライブハウスビューイングツアー「"INTO THE DEEP" LIVE HOUSE VIEWING TOUR 2021」を行いつつ、新曲の制作をひたすら進めていました。ライブハウスビューイングツアーは自分たちが現場にいられる形ではないにしろ、この状況下でなかなか集客がしにくいライブハウスの力になれたらと思って実施したもので。その走りという意味ではいい結果を生み出せているし、やってみてよかったんじゃないかなと感じています。

──先日出演された「FUJI ROCK FESTIVAL ’21」では、ライブパフォーマンスはもちろんのこと、オオカミの像と「THE MISSION」の文字が吊るされた、巨大で立体的なステージセットもインパクト大でした。あのセットはマンウィズ結成10周年公演の「THE MISSION」で使う予定だったものですか?(※MAN WITH A MISSIONは2020年8月29日、30日にフジロックと同会場の新潟・苗場スキー場で野外フェス&ワンマンライブ「THE MISSION」を行う予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて開催中止となった)

まさにそうです。本来は自分たちのイベントであのセットをお披露目する予定でした。僕らは「フジロック」に対して並々ならぬ思い入れがありますし、あの時間帯のGREEN STAGEに立たせてもらえたことがすごくうれしくて(※MAN WITH A MISSIONは初日8月20日の18:50〜20:00に出演)。成仏じゃないですけど、せっかく作った素晴らしいセットを最高の舞台で使わせていただけてありがたかったです。中止になってしまった去年の流れも汲んで、ようやく陽の目を見たというか。セットがバルーン的に膨らんでいく様子を含めて、会場の皆さんが楽しんでくれたみたいでよかった。お客さんもルールを遵守していたと感じました。

──今年の「フジロック」は印象深いことがたくさんあったんじゃないかと思います。

さまざまな意見がありますが、決してフェスの主催者だけが非難を浴びることではないですし、いろんな報道の仕方や情報の広がり方によって分断や対立が増えなければいいなと願っています。個人的には「フジロック」のステージでKEMURIの伊藤ふみお(Vo)さんが「右手で握手して、左手で思う存分殴り合えばいい。でも、その右手を離しちゃうのは一番よくないよ」とおっしゃっていたのがものすごく心に刺さって。本当にそうだなと思いました。僕もMCで述べたんですけど、出演アーティストも自分が絶対に正しいという考えでステージに立っていたわけじゃないはずなんですよ。

──そうですよね。

もう1年半くらいコロナ禍に陥ったまま、多くの犠牲が出てしまっている。その停滞からなんとか前に進みたくて、アーティスト側も対策を模索しながら行動を取っている。その間にもちろん議論は起きます。それはあって然るべき。だけど、右手なりどこかでつながった状態で思いっきり議論し合ってほしい。つないだ右手を突き放すような行為だけはお互いにやってはいけないんだろうなと思います。相手のイデオロギーや主義にちゃんと耳を傾けることが大切で。相手の気持ちを汲まないで頭ごなしに否定するとか、「自分の考えがこうだから相手もこうあるべきだ」とか、手を離したままの状態で叩き合うというのはあまりにも悲しいし、意味がないですよね。きれい事かもしれませんが、せめてそこだけでも意識できる世の中になるべきなんじゃないかなって。

フィーチャーしたのは主人公の“劣等感”

「僕のヒーローアカデミア」第5期キービジュアル ©︎堀越耕平 / 集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会

──では、ニューシングルの話にいきましょう。テレビアニメ「僕のヒーローアカデミア」第5期第2クールのオープニングテーマとして書き下ろされた表題曲「Merry-Go-Round」は、これまでとはまた違うタッチのエモーショナルな曲ですね。「Everything will be all right」といったポジティブなメッセージを孕みつつも、同じくらい切実な厳しさも強く感じられて。バラードじゃないのに泣けてしまうような、絶妙な耳当たりの曲です。

ありがとうございます。「ヒロアカ」の主人公のデクくん(緑谷出久)はどちらかと言うと劣等生で、憧れのヒーローを目指して徐々に成長していくんですけど、彼の持つその劣等感に着目して書いてみました。理想のヒーロー像を持っている主人公の「なかなか近付けないけど、いつか自分がなってやるんだ」という憧憬みたいなものを生々しく表現したかったんです。それは僕らがもともと楽曲に込めているメッセージとすごくリンクする部分もあって。この11年間いろいろ制作してきた中、陽だけじゃなくて陰の部分をフィーチャーした曲も多いバンドですし、こういう物語だとなおさらスポットライトを浴びていないときの胸の内を描きたくなりました。ヒーローという、子供にも大人にも非常にわかりやすいテーマで、陰影をうまく落とし込めたと思いますね。

──「ヒロアカ」のダークで入り組んだ世界観を見事に表現した曲だと思います。原作やアニメのファンからの評判もとてもいいですし。

とんでもない数のアーティストが関わっている作品なので、そういう声をいただけるのはうれしいですね。歴代の主題歌は米津玄師さんをはじめ、ビッグネームの方々が担当されていて、僕も聴いてきましたし。とはいえ、オープニングテーマを作るにあたって直接的な影響を受けたわけではなく、自分たちは自分たちの得意とする哲学を素直に楽曲に落とし込みました。デクくんがオールマイト(「ヒロアカ」に登場する伝説的ヒーロー)に憧れて、なかなか近付けない姿をメリーゴーランドに例えて表現した感じです。

──それでいて、No.2ヒーローだったエンデヴァーの心情とも取れるような歌詞ですよね。

確かにそうですね。僕、やっぱり物語の2番手や3番手に肩入れしてしまうタイプなので(笑)。そこまで解釈を広げていただけると、この主題歌がより豊かに響くのかなと思います。作曲はKamikaze Boy(B, Cho)なんですけど、もちろんアニメの世界観に寄り添ったものでありつつ、MAN WITH A MISSIONが持っている洋楽のテイストをちりばめながら、また新しい質感のサウンドにチャレンジできた気がするんです。

──というと?

サビがものすごく健康的というか、いい意味で打撃力のあるJ-POPの感じになって、洋楽のテイストとうまく融合させられたなと。Kamikazeは音作りでかなり悩んでパターンをいくつか作っていたんですけど、転調してドラマティックに聴こえる、なおかつJ-POP然とした派手さがあるこのサビが、最高のハマり方をしてくれていると思います。

──これまでに増してハイブリッド感がある曲ですよね。

そうなんです。下手するとジャンルのつぎはぎにもなってしまいそうなところを絶妙に融合させられたのは、MAN WITH A MISSIONが11年間やってきた自信の表れでもあると思うんですよね。ここまで踏み込んでJ-POPマインドな楽曲にできたのは初めてかもしれません。洋楽的な部分だと、そうだな……四つ打ちのビートでレトロなロックも感じさせつつ、ダンスナンバーにも聴こえるAメロやBメロのリズムのあり方は、90年代から2000年代以降のさまざまなバンドが挑んだテーマなんですけど、僕らもそういうハイブリッドさを意識しました。例えば、The Musicのようなイメージかな。

バラードではないのに、ロックバラードに聴こえる

──AメロのJean-Kenさんのうなるようなパワフルな歌い方と息遣いも新鮮でした。

そもそもこの楽曲のメロディを最初に聴いたとき、90年代から2000年代にかけてのサウンドが頭に浮かんだんです。いわゆる60年代や70年代のロックにダンスミュージックを掛け合わせたようなリバイバル感。あの手のバンドって、メロディ自体はすごくレトロで、ロックンロールな歌い回しだったりするんですよね。それに対してアンサンブルが非常にデジタルだからこそ、うまく融合している印象があって。なので、僕も近いアプローチで力強くうなる、Led Zeppelinっぽい歌い回しをしてみました。

──なるほど。ミュージックビデオをプレミア公開した際にマンウィズのメンバーがチャットで投稿していましたけど、間奏も攻めてますよね。旋回するように左右のチャンネルから聴こえてくるトム・モレロ(Rage Against the Machine)的なギターソロやサイレンのようなサンプリング音、迫力のあるストリングスが印象的です。

ギターの音色はちょっとクセのある感じにしています。あそこでド王道のフレーズを弾くと、それこそいろんなジャンルのつぎはぎっぽくなりそうだったので。トリッキーな音色にしたおかげで、ギターソロがむしろ糊付けの役目になってくれているというか。ストリングスをガツンと引き立たせる結果にもなったかなと思います。

──アレンジャーで参加している大島こうすけさんとは初期からの付き合いですよね?

もう、だいぶ長くお世話になっています。僕らがやろうとしていること、特にKamikazeのアイデアの具現化に一番携わってくれていて。MAN WITH A MISSIONはこれでもかっていうくらい要望をいっぱい出すバンドなんですけど、大島さんは「必要ないんじゃない?」と言いながらも付き合ってくださる人ですね(笑)。「Merry-Go-Round」のようにジャンルや楽器が混在した曲も、このバンドならではの個性を尊重しつつ、きれいに整えていただいていたり。シンセやストリングスの存在感、サビの派手さにも異彩を加えてもらっています。

──Jean-Kenさんが思う「Merry-Go-Round」の聴きどころは?

先ほども話しましたけど、MAN WITH A MISSIONが併せ持つジャンルの多彩さが色濃く反映されていて、今までにないくらい目まぐるしく展開が変わっていく楽曲であること。そのうえで1本筋の通った仕上がりにできた点ですね。おっしゃっていただいたとおり、バラードではないのに、僕にはロックバラードに聴こえるんですよ。アニメとともに、そのへんの質感をぜひ楽しんでみてください。