ニワトリが先かタマゴが先か、みたいなことになっている
──リリース後の手応えはいかがでしょう? ユーザーさんからの反響など、期待通りの方向へ進んでいる感触はありますか?
結城 リリース当初はダウンロード数が伸び悩んだのですが、オーディション企画の開催をきっかけに増加傾向に転じました。最初はオーディションの機能は実装できていなかったんですよ。
近藤 毎年9月の下旬に「MUSIC CITY TENJIN」という、天神エリアで行われる九州最大級の音楽フェスがあるのですが、そこのステージを1つ我々が押さえることができまして。そこに出演するアーティストを、musideを通じて募集したんです。
結城 メインステージにはプロが出るようなフェスなので、「あれに出られるんだ!」とけっこうな応募をいただきまして。それ以来、定期的にオーディション企画は行っていこうと考えています。ただ、やはりそういった施策はどうしても地元の福岡エリアばかりが手厚くなってしまう。アプリの仕組み自体は福岡に特化した仕様ではまったくないので、全国どこにでも対応できる汎用性を持たせてはいるんですが、現実的に福岡以外での展開が打ち出せていないのは大きな課題の1つですね。
近藤 もちろん福岡の音楽シーンをもっと活性化させたい思いもあります。その動きを全国にも広げていけたらいいな、というところですね。
──その理想のために日々アップデートを続けているところだと思いますが、最近で最も大きな機能追加が「メンバー募集」機能だそうですね。
近藤 はい、そうです。今年の4月に実装しました。
結城 バンドのメンバー募集って、20年前や30年前はスタジオやライブハウスに張り紙をしたり、雑誌の読者ページに載せてもらったりするのが主流だったんですけど、書かれる情報が限られるんですよね。「パンク系のギター募集、当方ボーカル」とか、それくらいのことしか書かれていない。その情報だけで電話をかけたりするのって、ものすごいギャンブルじゃないですか(笑)。それが今はどうなってるのかなと思ったら、場所がネット上に移っただけで、内容はほとんど変わっていないんですよ。
近藤 もう少し相手の人となりがわかったら、連絡しやすくなりますよね。先ほどのブッキングのお話と同様に、musideのアーティストページを見ればある程度のことはわかるので、募集する側も応募する側も双方にとってメリットがあると思います。
結城 ただこれって、募集の件数が増えてこないとあまり機能しないんですよ。仕組み自体はとてもいいものができたと自負しているんですが、みんなが使うようになってくれないと便利なものにはならない、というジレンマがありまして。
──成功事例が増えればみんな使うようになるんでしょうけど、最初は載っている情報がほとんどないから、ユーザー的にはその段階だと「どう使えるものなのか」が想像つかないですよね。
結城 そうなんです。それは最初にお話ししたライブハウスのデータベースに関してもまったく同じことが言えて、例えば「認証してください」というお願いをお店にしたときに「いっぱい人が集まったらまた声かけて」と言われることが多いんです。でも、いっぱい人を集めるためには認証店舗を増やす必要がある。ニワトリが先かタマゴが先か、みたいなことになっていて(笑)。たぶん、ある一線を超えたらドーンと増えていくんだろうとは思うんですが。
──それこそ食べログだって、最初はそうだったでしょうからね。
結城 そうですよね。楽天市場さんなども同様かと思いますが、皆さんがどうやって人を増やしていったのかは本当に参考にさせていただきたいところです。
プロを目指してもいいし、目指さなくてもいい
──現時点でまだできていないことの中で、今後実現したいのはどういうことですか? まあ、今の「人を増やしたい」が一番なのかなとは思いますが。
近藤 そうですね(笑)。
結城 具体的な機能の面で言いますと、先ほどお話ししたアーティストとライブハウスのマッチングについては、次のバージョンで実装したいなと思っています。それと、まだ先の話にはなるんですが、リハーサルスタジオの予約機能もぜひ入れたいなと思っていまして。それと、バンドメンバー同士のスケジュール調整機能ですね。
渡邉 バンド活動をするうえで障壁になりやすいのが、メンバー間のスケジュール調整なんですよ。LINEなどにもそういった機能はあるんですが、もしmuside上でスケジュール調整ができて、さらにみんなの空いている時間に予約できるスタジオがパッと検索できたら、ここだけで完結するのでかなり便利になると思います。
近藤 Web予約ができるスタジオさんは今でもたくさんありますけど、ユーザーさんは店舗ごとに確認しないといけないし、その予約システムも統一されていないので、使い勝手も店舗ごとに違う。なので、もし「この時間に空いているスタジオ」という形で一括検索できるだけでもかなりユーザーさんの労力を減らせますし、手軽に予約できるようになればスタジオさん側も空き枠を埋めやすくなります。win-winの関係性を築けると思うので、ぜひ実装したい機能ですね。
──ただ、統一の予約システムを各スタジオに入れてもらうのはけっこうハードルが高そうに思います。
結城 その問題はありますね。特に個人運営のスタジオさんだと、そもそも紙と電話だけで予約を管理していらっしゃるところもありますし、そこにネット環境と予約システムを導入してもらうのは決して容易ではありません。「予約の電話でミュージシャンと話すのが楽しみなんだよ」とおっしゃる方もいらっしゃいますし……。
渡邉 でも最近の若い人は電話自体が苦手という人も多いので、長い目で見ればシステムを統一できたほうがいいんだろうなとは思います。
結城 音楽業界、特に我々がターゲットにしているインディー系の業界というのは、旧来の独自ルールで動いている部分がけっこうあるんです。しかも、地域やシーンによってもそのルールが違ったりする。スタジオの予約もそうですが、ライブハウスの出演に関するルールなどもハコごとにまちまちですし。
──例えばですけど、出演時の金銭的な条件ってmusideで確認できたりするんですか? チケットノルマ制なのか、チャージバックはあるのか、機材費はいくらかかるのか、など。
渡邉 一応、そういった情報を入力する欄は設けています。我々としては記載してほしいというスタンスでいるんですが、実際に記載するかどうかは店舗さんの裁量に委ねている感じですね。
結城 ハコ側としては、なかなか出したくない情報みたいなんですよね。別に後ろめたいことではないと思うんですが、これもやはり業界の慣例的に「それは公にするべきものではない」という考え方が根強いのかもしれないです。
近藤 そのあたりを透明化することで、以前の私のようにライブハウスに怖いイメージを持っている方でも入ってきやすくなるとは思うんですよね。例えば「集客何人以上を何回達成したらノルマが減ってチャージバック率も上がります」みたいなことがあらかじめわかっていれば、集客のモチベーションにもつながると思いますし。
結城 我々としては、やはりライブハウス文化になじみのなかった人たちへの敷居を下げたい思いが前提としてあるので、業界的にブラックボックスのようになっていた部分はできるだけオープンにしていきたいなとは思っています。
渡邉 そのルールの根拠がもし「今までそうしてきたから」以外にないんだとしたら、そろそろ考え直してもいいタイミングには来ているのかな、と個人的には思います。
──情報の均一化やシステムの簡易化、統一化などもそうですけど、musideが目指しているものをざっくりまとめると「いろいろフラットにして、みんなで幸せになろうよ」ということですよね。
近藤 おっしゃるとおりです(笑)。
結城 「音楽活動をしている」というと、みんな華やかな芸能界しか想像しないんですよね。必ずしもそこを目指さない音楽活動というものも立派にあるわけですけど、あまり理解されない。そういうところもフラットに見てもらえる社会になったらいいな、という思いがあります。
近藤 私も「弾き語りでライブ活動をしています」と言うと「え、プロ目指してるの?」ってすぐ言われるんですよ(笑)。でも、ゴルフや草野球をやっている人に「プロ目指してるの?」とは誰も聞かないじゃないですか。本質的には同じことのはずなんですけど……。
結城 なぜか音楽だけ言われるんですよね。
渡邉 もちろん、目指したっていいんですけど(笑)。そうじゃない選択肢もあることを普通に理解してもらえたらいいな、とは思います。理想としては、音楽を始めて上達していくまでの流れをmusideのアプリで一貫してお手伝いできたらいいですね。「musideがあったおかげで、挫折することなく楽しい音楽活動ができています」という方が出てきてくれたら一番うれしいです。そこから実力を付けられて、ワンチャン有名になる方が出てきたらいいなあと思っています。
音楽活動サポートアプリ「muside(ミューサイド)」
音楽活動を行うアーティストとライブを愛するリスナーのためのアプリ
主な機能
- ライブ出演・鑑賞の記録機能
- メンバー募集機能
- 楽曲・映像・チケットの管理、告知機能
- オーディション機能
- ライブハウス・ライブバー・練習スタジオ・イベント情報の提供
- 直近のイベントやmusideがピックアップしたアーティストのレコメンド