「Music & Me ~クリエイターが語る音楽と私~」第4回|関祐介が感じるテクニクスへのシンパシー (2/3)

空間のクオリティが変わる

──このスタジオではTechnicsのコンパクトステレオシステム「SC-C70MK2」を普段から使っているそうですね。

はい。仕事中はほかのスタッフもいるし、音でコンディションが左右される気がするから基本的に音楽は流さないんです。とは言え無音も嫌だから、無機質で精神状態に影響のないものをと考えたときに英語のラジオにたどり着いて、作業中はずっと海外のニュースを流していますね。土日はスタジオに僕しかいないので、ソファに寝転びながら好きな音楽を聴いてグダグダしてますが(笑)。

関祐介

関祐介

──休日にリラックスするときはどんな音楽を?

この間はひさしぶりにNujabesを聴いてました。Nujabes、いいですよね。以前海外で日本人は行かないようなローカルなカフェにふらっと入って、たまたまNujabesの音楽が流れていたときは感動しました。特にヨーロッパには好きな人が多いんじゃないかな。あとはPowderというDJの音源もよく流します。僕が設計したスタジオに所属しているアーティストなんですけど好きですね。

──「SC-C70MK2」は部屋の広さに合わせて最適なスピーカーの鳴りをセッティングできる「Space Tune Auto」機能が搭載されています。こちらの機能を使われたことは?

知ってはいるんだけど、セッティングした覚えはないから使えてなかったのかな(笑)。

──(笑)。では設定してお好きな曲をかけてみましょうか。

(カイル・ホール「4Wrd Motion」の試聴を終えて)おお、硬い音が聴き取りやすくなった気がしますね。合ってます?

──低域がぼやんとするところを抑えようとしているので、そういう認識で大丈夫です。

よかった(笑)。

──「SC-C70MK2」のデザインは、建築デザイナーの視点から見ていかがですか?

どの空間、素材にも合うデザインだと思います。うちのスタジオではスタイロフォームという安価な建材の上に置いているんですけど、リッチになるというか、いい組み合わせに見えますからね。木やコンクリートの空間にもハマるんじゃないかな。あとは角の出方がいいんですよ。ぬるいプロダクトだとアールが付いたものが多いけど、「SC-C70MK2」はステンレスをカットしてしっかりエッジを付けているし、色味も含めていい佇まいをしてる。このスタジオも「SC-C70MK2」があるかないかで空間のクオリティが変わってくると思いますよ。

関がスタジオで愛用している「SC-C70MK2」。

関がスタジオで愛用している「SC-C70MK2」。

 空間以外も妥協しない

──関さんが空間デザインを担当したTechnics café KYOTOについても聞かせてください。デザインを手がけるうえで、Technicsチームとはどんなやりとりをしたんですか?

オファーをいただいた時点では具体的なイメージが固まってなくて、カフェの機能を持たせたい、オーディオシステムを組むから音がちゃんと聞こえる空間にしたいという話でした。彼らも初めてのトライなので、おそらくどのように発注すればいいかわからなかったんだと思います。それに対して、うちは飲食やホテルの経験もあるので、関係性のある方々をこちらからアサインして。コーヒーとフードメニューの監修を小川珈琲、お店で使用する器をNOTA_SHOP、スタッフが着用するユニフォームをクリエイティブディレクターの源馬大輔さんのチームにお願いすることになりました。

Technics café KYOTOのユニフォーム。

Technics café KYOTOのユニフォーム。

Technics café KYOTOの食器。

Technics café KYOTOの食器。

──建築デザイナーがカフェの要であるコーヒーやカトラリー、スタッフのユニフォームまでディレクションすることはよくあるんですか?

基本的にないですね。メニューや店のロゴは先に決まっていて、最後に空間デザインの相談が来ることが多いので。だからTechnics café KYOTOもそこまで関わるつもりはなかったんだけど、自分が設計する場所である以上は、お客さんに提供するものや、お客さんが触るものは一定のクオリティをクリアしたかった。ありがたいことにうちが設計したからという理由でお店に足を運ぶ人もいるんですよ。それで出てきたコーヒーがおいしくなかったら嫌ですよね。空間や目に見える部分以外でも、1つの体験としてよくないものにはしたくないんです。

Technicsに感じるシンパシー

──クリエイターとして、Technicsにシンパシーを感じる部分はありますか?

僕が人生初めてのローンで購入したのがTechnicsの「SL-1200MK3」なんです。あのターンテーブルを使っていて思うのは、多くの人が注目しないであろう部分へのこだわり方や意識の仕方。人が気にしない部分にクリティカルな何かを仕掛ける点は、うちが手がけてきたデザインとリンクしていると思います。

──その“人が注目しないであろう部分”に仕掛けを作るのはなぜなんでしょう。

自分の作品に対して、理解を示してくれる人の質を線引きしたいのかも。気付かない人は気付かないんですよ。言い方は悪いですけど、そういう人は切り捨てる。面白いと思ってくれる感度の高い人とカルチャーを作っていきたい、という思いはありますね。

関祐介

関祐介

失敗作の成功

──Technics café KYOTOの内装を手がけるうえで何かこだわったポイントはありますか?

普段は床も壁も仕上げるんですけど、このビルは新築なので、その新品という状態に対して、わかりやすく線引きして「うちはこれしかやってません」というのを明確に示した設計になっているんです。こだわったポイントとしては手数を入れてる部分が非常に少ないことで、それはコンクリートの塊で作ったカウンターとベンチ、床を実際に切って作った円形の3つ。手数が少ない分、そこに対しての情報量を増やすことを意識しました。例えばカウンターとベンチは、本来であればコンクリート特有のツルツルした質感になっているべきなんですよ。でもTechnics café KYOTOではコンクリートにあえて気泡がたくさん入った、チョコレートが溶けたようなテクスチャーを取り入れました。建築の世界ではNGなのですが、失敗作をあえて作らせることで情報としての強さを入れているんです。

関祐介

関祐介

──実際に施工を行う職人さんたちの反応はいかがでした?

そりゃあ困ってましたよ(笑)。でも面白がってくれる職人さんが多くて、意見の食い違いとかはなかったですね。「本当にこれでいいの?」「失敗するかもよ」と言ってたけど楽しそうに作業をしてました。本当に失敗しちゃうときもあるけど、結果的に僕がイメージしていた “失敗作の成功”になりました。特にカウンターは彫刻的な美しさもあって、いい失敗の仕方をしていると思います。

細部に宿る、人知れぬこだわり

──床の円形の切り込みについても教えてください。

この床はただ円形に切るのではなく、切ったタイルを剥がして、角度を1度だけズラして貼り直しているんです。それによってレコードの回転や、ターンテーブルを表現していて。ちなみにこのアイデアは、韓国で見たマンホールの工事跡から着想を得ました。そのマンホールはデザインではなく、たまたまズレていたんだけどそれが面白いと思って。

関祐介

関祐介

──なるほど。

あと細かい部分について説明すると、床を剥がして貼り直すだけだと今の見え方は成立しないんですよ。石をカットする刃は5ミリくらいの太さがあるから、どうしても切断面は石が削れて隙間が生まれる。その隙間を埋めるために、タイルを貼り直す際に目地を0.1ミリ単位で太くしているんです。

──とんでもない労力ですね。それこそ気付く人がどれだけいるのかという……。

そのこだわりがTechnicsの物作りの姿勢にもつながる気がするんです。普通はターンテーブルやレコードをイメージして床を切りましたで終わっちゃうけど、こだわることでドラマみたいなものが生まれる。