シティポップブームの礎を築いた村井邦彦とは?|ユーミンやYMOを世に送り出したアルファミュージック創設者の偉大な足跡 (2/2)

そうそうたる才能を輩出したアルファレコード

このようにアルファレコード自体の音楽性の幅も非常に広がっていき、SHEENA & THE ROKKETSなどのロックバンドから、タモリやスネークマンショーのようなコミカルなものまで、さまざまな作品がリリースされた。また、洋楽のライセンス業務も行うようになり、70年代末には名門A&Mレコードの販売権を獲得。クインシー・ジョーンズやセルジオ・メンデスなどがアルファを通じて日本でヒットした。このようにアルファレコードは、非常にバラエティに富んだカタログがそろったレーベルへと成長していくのである。またどの側面からもセンスよく、スタイリッシュなイメージがあるのは、まさに村井邦彦というプロデユーサーの存在があったからだろう。

そんな中、村井は1985年に突如アルファの代表を退任する。そして海外での音楽出版ビジネスを継続していることもあって、90年代初頭には拠点を米国ロサンゼルスに移し、それまでのアルファミュージックよりもパーソナルな感覚で音楽活動を継続していく。現在は、映画やドラマの音楽を手がけたり、クラシック系のアーティストのサポートを行ったりと、それまでとはまた違う新たな分野にも関わるようになっている。

村井邦彦

村井邦彦

ただ、アルファミュージックから卒業したとはいえ、村井邦彦は今もアルファの顔といってもいいだろう。2015年には村井邦彦の古希を記念し、「ALFA MUSIC LIVE」が行われた(参照:アルファアーティスト再集合!「ALFA MUSIC LIVE」豪華2DAYS完結)。これは、荒井由実(松任谷由実)、YMO、小坂忠、吉田美奈子、ティン・パン・アレーといったそうそうたるメンバーが集った伝説的なコンサートで、昨年には映像作品としてリリースされている。また、昨年末には「ALFA MUSIC YouTube Channel」が立ち上がり、過去作品のアーカイブから撮り下ろしのオリジナル映像まで続々とアップされている。惜しくも4月に逝去した小坂忠が、名曲「HORO」を弾き語りで歌う貴重な映像もあるので、ぜひご覧いただきたい。

現在も続く精力的な音楽活動

こうしてアルファミュージックと村井邦彦の再評価が高まっている中、新たなプロジェクトが発表された。村井邦彦の作曲活動55周年を記念したコンサート「『モンパルナス1934』KUNI MURAI」だ。これは、Webサイト「Real Sound」で連載されている村井の小説「モンパルナス1934~キャンティ前史~」と連動したコンサートで、自身の代表曲のほか、小説のサウンドトラックともいえる新曲が世界で初めて演奏されるそうだ。すでに新曲のレコーディング費用を募るクラウドファンディングも進んでおり、Steve Gadd Band、クリスチャン・ジェイコブ、ブダペスト・スコアリング交響楽団という超一流ミュージシャンを起用して楽曲制作もスタートしている。

55年のキャリアを持つ作曲家であり、日本のポップス黎明期に音楽ビジネスの新たな可能性を見出した村井邦彦。その足跡をたどれば、自ずと過去・現在・未来の音楽シーンが浮かび上がってくるのではないだろうか。彼の歴史的な作品に触れ、貴重なコンサートに足を運ぶことで、日本の音楽史を深く知ることができるはず。村井邦彦という類まれな存在をより深く知ってもらいたいと思う。

村井邦彦

村井邦彦

公演情報

村井邦彦 作曲活動55周年記念コンサート「モンパルナス1934」KUNI MURAI

村井邦彦 作曲活動55周年記念コンサート「モンパルナス1934」KUNI MURAI

2022年7月3日(日)東京都 東京芸術劇場コンサートホール
OPEN 16:00 / START 17:00

演奏:オーケストラ・アンサンブル金沢
指揮:森亮平
出演:村井邦彦 / 海宝直人 / 真彩希帆 / 田村麻子

チケット:12000円(全席指定・4歳以上入場可)

企画:オフィスストンプ / 制作協力:アースワークエンタテインメント
主催:読売新聞社 オフィスストンプ

問い合せ:キョードー東京 0570-550-799 オペレーター受付時間(平日11:00~18:00/土日祝10:00~18:00)


クラウドファンディング情報

「モンパルナス1934」テーマ曲制作プロジェクト

現在、村井邦彦はWebサイト「Real Sound」にて小説「モンパルナス1934~キャンティ前史~」を連載中。本連載は、村井が日本経済新聞編集委員の吉田俊宏とともに、“文化交流プロデューサー”川添浩史の交流の足跡をたどり、戦前から戦後にかけてグローバルな文化がどのように日本に息づいてきたのかを、数多くの資料と関係者たちの証言に基づいてつづる物語だ。村井は本作のテーマ曲を作曲。Steve Gadd Band、クリスチャン・ジェイコブ、ブダペスト・スコアリング交響楽団という超一流ミュージシャンの編曲、演奏によるレコーディング費用を現在募集している。詳細はクラウドファンディングサイト「うぶごえ」にて確認を。

村井邦彦(ムライクニヒコ)

1945年東京生まれ。ロサンゼルス在住の作曲家。現在までに300曲以上の楽曲、30本におよぶ映画音楽を手がけ、世界的に活躍している。慶應大学在学中より本格的に作曲を始め、1967年に作曲家としてデビュー。1969年に音楽出版社アルファミュージックを設立、77年にはアルファレコードを創業し、荒井由実(松任谷由実)や、YMOなどをプロデュースしてきた。2015年9月には70歳を祝したライブイベント「ALFA MUSIC LIVE」が東京・Bunkamuraオーチャードホールで行われ、荒井由実(松任谷由実)、加橋かつみ、小坂忠、コシミハル、サーカス、SHEENA & THE ROKKETS、鈴木茂、高橋幸宏、林立夫、ブレッド&バター、細野晴臣、村上“ポンタ”秀一、雪村いづみ、吉田美奈子など18組28名が出演した。現在もアメリカと日本を往復しながら活動を続け、アーティストへの楽曲提供、舞台音楽や映画音楽の作曲を行っている。