紫 今「学級日誌」インタビュー|“完全自作自演マルチクリエイター”が今、本格始動 (2/2)

自分のいろんな強みを出せる曲に

──では、新曲の「学級日誌」について聞かせてください。この曲は「青の祓魔師」のエンディングテーマとして書かれた曲ですが、アニメ主題歌の話を受けてのファーストインプレッションってどうでした?

アニメが好きだったので「小さい頃からの夢が叶った」と思いました。「凡人様」とか「ゴールデンタイム」のおかげでこの縁があると思うと、不思議な運命というか、偶然の積み重ねでここにたどり着けてよかったなって思いました。

──「学級日誌」はどういうふうに作っていったんですか?

アニメで使われる部分だけを最初に作りました。走馬灯みたいな曲にしたいなと思って。「青春」がテーマだったので、切なさだったり、不安定さだったりを感じさせる曲を目指しました。サウンドは昔の海外のバンドみたいな雰囲気を出したかったんですけど、「2番をどうしよう」と考えたときに、私は中学の頃に合唱団に入っていたので、合唱を絶対曲に入れたいと思ったんです。それでゴスペルのパートを入れることにしました。いつか曲にゴスペルの要素を入れたいと思っていたので、ここはチャンスだなと。アニメに教会が出てくるし、エクソシストは悪魔祓いという海外の文化なので、これはジャストだと思って入れてみたら、思いのほかピッタリでした。

紫 今「学級日誌」期間生産限定盤ジャケット

紫 今「学級日誌」期間生産限定盤ジャケット

──なるほど。

歌にも自分のいろんな強みを出したいと思っていました。技術的な面で言うと、高音も低音も出しているし、表現の面で言うと、AメロやサビはロックとかJ-POP的な歌い方をしているんですけど、ゴスペルのパートではどこまで本場の人たちに寄せられるか、質を高められるかが勝負だと思って録音しました。

──歌の説得力というのは、やはりすごく重視しているポイントであると。

ゴスペルを聴いて育っている分、「歌唱力ってこういうことだよね」という正解が自分の中にあるんです。自分的にはまだそこに達していないし、達したいし、達した自分の歌を届けることで日本の音楽界のレベルを今よりももっと高めたいという気持ちもあって。玉置浩二さんとか、DREAMS COME TRUEさんとか、ブルーノ・マーズさんが好きなんですけれど、私も歌がうまいアーティストの曲を聴いて「もっとうまくならなきゃ」と思うし。高め合っていきたいという目標もあります。

──歌のうまさにはいろんなポイントがあると思うんですけど、特に重視しているのはどういうところでしょう?

歌のうまさって、グラフみたいに例えると……横のうまさと縦のうまさがあると思っていて。“横のうまさ”は器用さみたいなもの。例えばAdoさんって、すごく表現が幅広いじゃないですか。そういう幅の広さが横のうまさだと思うんです。で、“縦のうまさ”の最たる例が、自分の中では玉置浩二さんなんです。いろんな声を使い分けるとか、そういうのとはまた違った表現力があって、死とか切なさとかを感じさせてくれる。宇多田ヒカルさん、吉田美和さんもそうだと思うんですけれど、言葉にできないくらいの声の壮大さとか広さがあるという、そういう表現力。私はそのグラフの斜めをいきたいなって思うんです。ボカロ的な無機質な歌い方と、海外のグルーヴとか揺らぎのある歌い方のどっちもできることが自分の強みだと思っていて。表現力のほうはまだまだ磨いていきたいところなんですけど。1曲の中にボカロみたいな歌い方と揺らぎのある歌い方の両方ができるっていう、斜めの表現力を磨いていきたいなと、最近特に考えています。

作曲家の自分、ボーカリストの自分と、もう1人の自分

──映像やアートワークのディレクションもご自身で手がけているということですが、これはどういう入り口で?

作曲を始めてから作曲家としての自分とボーカリストとしての自分という2つの人格があるような気がしていて。作曲家としての自分は「こういうコード進行の、こういう雰囲気の曲を歌いたいな」というアイデアを自分にリクエストするように曲を作っているんです。で、ボーカリストとしての自分には「お前、もっと歌えるだろう」って音域を広げたり、ホイッスルボイスとかフェイクを入れたり、自分の声のいいところを引き出したいという視点があります。で、アートワークに関しては、もう1つ……プロデューサーとしての自分がいる感じなんです。曲が頭の中で完成した段階で「ミュージックビデオはこういうふうにしたい」というイメージが頭の中に一緒に流れている。答えが自分の中にあるんです。そういった理由で映像やアートワークのディレクションも始めました。

紫 今「学級日誌」通常盤ジャケット

紫 今「学級日誌」通常盤ジャケット

──自分の中にいろんな人格があるということですが、プロデューサーの自分、作曲家の自分、ボーカリストの自分、どの自分が一番わがままだと思いますか?

他人に何かを要求するという点では、プロデューサーの自分ですね。やっぱり、「これはダサい」「これはカッコいい」という基準が明確にあるので。ファッションでも、ちょっとバランスがズレたらダサくなっちゃうじゃないですか。それと一緒で、そこは一番わがままにこだわっているかもしれないです。作曲家の自分もこだわりは強いと思います。ボーカリストの自分は、そうやってわがままを言われたのに対してがんばって期待に応える、みたいな立ち位置かもしれないですね。

紫 今を完成させていきたい

──この先の話も聞かせてください。紫さんは今後のビジョンとして、どんなことを思い描いていますか?

私、夢があって。目標として掲げているのがドームツアーなんです。最近ライブに力を入れているんですけど、やっぱり長く続いて残っていくアーティストってライブが素晴らしいですし。自分がこだわっている歌唱力だったり表現力だったり、そういう部分をちゃんと成長させていって、ドームツアーをやれるレベルまでたどり着きたい。とりあえず今はワンマンライブがしたいですね。フェスとかサーキットライブにも出たいなと思います。ライブに来てくれるお客さんをもっと増やして、歌やパフォーマンスもうまくなりたい。がんばりたいです。

──音楽活動において、たどり着く先というか、自分のロールモデルとして思い浮かぶ人はいますか?

やっぱり米津玄師さんですね。米津さんってなんでもできるし、それが1つのアーティスト像を作り上げている。King Gnuさんのドームライブにも先日行ったんですけれど、本当に全部がカッコよかったです。彼らにはPERIMETRONというアートワークのチームがいて、すべての表現をこだわって作り上げている完成形だなと思います。あとは宇多田ヒカルさんもそうですし、Vaundyさんもですね。打ち込みっぽい曲も生音っぽい曲も両方あるし、ジャンルも幅広い。そこに自分もたどり着きたい。そういった先輩方のように、紫 今を完成させていきたいというのが目標です。自分1人だけでは実現できない部分もあるので、いろんな方たちと一緒に紫 今を作り上げていけたらなと思っています。

プロフィール

紫 今(ムラサキイマ)

作詞、作曲のみならず、編曲も自ら行う21歳の女性クリエイター。2023年3月、SNSで話題となった楽曲「ゴールデンタイム」を皮切りに、配信での楽曲リリースをスタートさせる。6月には1st EP「Gallery」をリリース。同作に収録されている「凡人様」は、TikTokで5100万回再生、YouTubeでミュージックビデオが196万回再生と、さまざまなプラットフォームでヒットを記録した。3月にテレビアニメ「青の祓魔師 島根啓明結社篇」エンディングテーマを表題曲とするシングル「学級日誌」をリリースした。