劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」藤本侑里&大石昌良が語り合う主題歌制作秘話

劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」が、5月24日より全国で公開されている。

本作はCygamesが展開するクロスメディアコンテンツ「ウマ娘 プリティーダービー」初の劇場版。主人公のジャングルポケットが、ともに競い高め合う同世代のライバルたちと<トゥインクル・シリーズ>に挑むさまが描かれる。藤本侑里がジャングルポケット、上坂すみれがアグネスタキオン、小倉唯がマンハッタンカフェ、福嶋晴菜がダンツフレームに声を当てており、大石昌良が提供した主題歌「Ready!! Steady!! Derby!!」をこのメインキャストの4人が歌唱している。

音楽ナタリーでは本作と主題歌の世界に迫るべく、藤本と大石による対談を行った。もともと「ウマ娘」のファンだったという2人は、それぞれが感じていたシリーズの魅力を明かす。そして藤本が語るアフレコの裏話、大石による主題歌の制作秘話、本編を鑑賞した2人が明かすお気に入りシーンとは。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 曽我美芽

劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」予告編公開中

※バンドル前売り券の販売は終了しております。

ファンからウマ娘キャストへ

藤本侑里 実は私、ポッケ(ジャングルポケット)役に決まる前から普通にゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」のユーザーだったんですよ。

大石昌良 そうなんだ? ということは、トレーナー(「ウマ娘」ファンの呼称)からウマ娘に転身したんや(笑)。すごいな……あ、でもそういう声優さんけっこういますよね。

藤本 そうなんです。といっても私の場合、そんなに歴は長くなくて……もちろんゲームがリリースされた当初からすごく盛り上がっていたのは知ってたんですけど、流行りに乗って始めるのもなあ……と思っていたんですよね。ちょっと天邪鬼なところがあるもので(笑)。

大石 なるほどねえ。

藤本 でもあるとき「ウマ娘 プリティーダービー」の中には“ウイニングライブ”というものがあるらしい」ということを知って、気になってまず曲を聴いてみたんです。そしたら「GIRLS' LEGEND U」という曲の中に「勝ちたい 勝ちたい 勝ちたい キミと勝ちたい」という歌詞があって、なんか自分に言われたような気がしてウルッときちゃって。「私と一緒に勝ちたいの? じゃあ育成するしかないじゃん!」と。

大石 わははは。めっちゃいい話っすね。

藤本 それで実際に育成をしてから初めて観たウイニングライブはもう、めちゃめちゃ泣いてしまいました。

藤本侑里

藤本侑里

大石 より気持ちが入るもんね。僕は「ウマ娘」はアニメから入ったんですけど、第1期(2018年4月より放送された、テレビアニメ「ウマ娘 プリティーダービー」)を観たときに「とんでもなく面白いアニメが始まったなあ」と思ってたんですよ。あとアニソンフェスなどのイベントでウマ娘の皆さんとご一緒する機会もあったので、ライブでもすごい勢いを感じていました。さいたまスーパーアリーナの客席を走りながらパフォーマンスしていたりして、「誰よりもロックなアプローチしてんなあ」と。

藤本 走るのはウマ娘の本能ですから(笑)。ウマ娘でのライブイベントとかでもそういう演出は多いですね。

大石 そういうのを観て「なんてエネルギーのあるコンテンツなんだ」と思ってましたね。ちなみに、僕はずっとハルウララ推しを公言しておりまして……。

藤本 そうなんですね! 私は推しを1人に決められないタイプなので、そうやって言える子がいるのはちょっとうらやましいです。

大石 これにはハッキリした理由がありまして。史実のハルウララ号って、高知競馬でずっとがんばってたお馬さんなんですよ。僕は愛媛出身なので、隣の県民としてめちゃめちゃ応援していたんです。

大石昌良

大石昌良

藤本 ああ、実馬のほうを。

大石 そうなんです。それがウマ娘になったときにビジュが好みだったというのもあって(笑)、すっかり推しウマ娘になりました。ただ、今回の劇場版を観てからダンツフレームを推し増しすることになってしまいまして。

藤本 おおー! ダンツ(ダンツフレーム)、かわいいですよね!

大石 彼女は控えめな性格なんだけど、「勝ちたい」という熱い気持ちはみんなと同じように秘めていますよね。そのギャップが胸に来てしまったというか……僕はどちらかというと、カッコいい系よりかわいい系のウマ娘に惹かれる傾向があるんですよ。ポッケの前で言うのもアレですけど(笑)。

藤本 全然大丈夫です(笑)。福ちゃん(ダンツフレーム役の福嶋晴菜)に伝えときます! めっちゃ喜ぶと思います!

必ず喉をやられて帰る感じでした

藤本 私はずっとウマ娘になりたくて、これまでにもいろんなキャラクターのオーディションを受けては落ちていたんです。なのでポッケ役に決まったときは「ついに私もウマ娘になれた!」という喜びがすごく大きかったんですけど、まさか劇場版の主役をやることになるとは夢にも思っていなくて。

大石 そうなんだ? それ前提のオーディションってわけじゃなかったんだ?

藤本 たぶん制作さん側はそのつもりだったと思うんですけど、こちら側は何も聞いていなくて。ポッケ役に決まって10日後くらいにゲームの初収録があったんですけど、その収録前に「ジャングルポケット号という馬にはこういう史実があって、実馬はこういう性格で……」みたいな説明を受けているときに、ついでみたいにポロッと言われたんですよ。

劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」より、ジャングルポケット。

劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」より、ジャングルポケット。

大石 (笑)。「ちなみに劇場版では主役をやってもらうから」みたいな?

藤本 いえ、さも周知の事実かのように「まあ、ジャングルポケットは劇場版の主役もありますし……」ってサラッと言われて「えっ?」て。

大石 わははは。

藤本 だから喜びを通り越して、驚きと混乱でいっぱいでした(笑)。話が大きすぎて現実感が全然なかったですね。

大石 そりゃそうなりますよね。しかもゲームのボイス収録とアニメのアフレコって、まったく違うものでしょうし。

藤本 全然違いますね。ゲームの現場では1人でブースに入ってひたすらセリフを読み続ける感じなんですけど、アニメのアフレコでは複数人で同時にお芝居をするので。今回の劇場版で言うと、メインキャラクターの4人(藤本、アグネスタキオン役の上坂すみれ、マンハッタンカフェ役の小倉唯、福嶋)と、タナベトレーナー役の緒方賢一さん、フジキセキ役の松井恵理子さん、ナリタトップロード役の中村カンナさんとご一緒させていただく場面が多かったです。私は皆さんとそこではじめましてだったので、もう緊張感がすごくて。

劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」より。

劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」より。

大石 しかも藤本さんはもともとトレーナーだったわけだし、余計に緊張しちゃうよね。例えば上坂さんに対して「わー、本物のタキオン(アグネスタキオン)だ!」みたいな。

藤本 それはもう……! しかもメインキャラクターとしてアニメ作品に関わるのも初めてだったので、こんなにたくさんセリフをしゃべるアフレコ自体が初めてだったんです。すごい緊張感のある現場ではあったんですけど、共演者の皆さんがすごくお優しくて……緊張をほぐそうと話しかけてくださったり、緒方さんからは「このシーンではこういう気持ちになるはずだから、それだとこういう言い方になるんじゃない?」みたいなアドバイスをいただいたり。

大石 へえええー。僕も試写を観させていただきましたけど、やっぱポッケといえば雄叫びじゃないですか。

藤本 ……は、はい。そ、そうです(恥ずかしそうに)。

大石 「なんでこんなに息が続くんだろう?」と思うくらいの長い叫びもあるし、そもそもポッケは終始テンションが高いですよね。めちゃくちゃカロリーの高いアフレコだったんじゃないかなと思ってて。

藤本 ポッケの収録は本当にパワーを使いますね。アフレコもそうですし、ゲーム収録でも歌のレコーディングでも、必ず喉をやられて帰る感じでした(笑)。だから雄叫びシーンの収録は、音響監督さんが気を使って1日の最後に回してくださったんですよ。それ以外のシーンを先に録り終えてから「これで今日は終わりだから、心置きなくやっちゃって!」って。

劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」より、雄叫びを上げるジャングルポケット。

劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」より、雄叫びを上げるジャングルポケット。

大石 なるほど、そういう配慮もあるんだ。「雄叫びは1日1回」みたいな。

藤本 そうですね(笑)。でも私、今までこんなに叫ぶ役をやったことがなかったので、ポッケ役に決まった当初は全然叫べなくて。なので筋トレのメニューを増やして肺活量を増やしたり、足を踏ん張れるように下半身を鍛えたりとかもしました。

大石 肺活量はわかるけど、下半身まで鍛えたんや?

藤本 はい、事務所の先輩からアドバイスをいただいて。あの雄叫びのシーンはトレーニング前の私だったらできていなかったと思うので、本当にやってよかったなと思ってます。それでも雄叫びのあとは頭が真っ白になって、一瞬フラッとなったりもしたんですけど。

大石 魂懸けてんなあ……!

俺もターフに立てるのか!

大石 そんな魂のこもった作品で主題歌を作らせていただけて、本当に光栄です。さっきも言ったように僕はもともと作品のファンでもあるので、お話をいただいたときはちょっと喜びが尋常じゃなかったですね。

藤本 でも、大石さんが「ウマ娘」に楽曲提供されるのがこれが初というのは、ちょっと意外な感じもしました。

大石 それ、けっこう言われますね。たぶん、以前番組で「うまぴょい伝説」をカバーさせてもらったことがあって……まあ、あれは僕というかカタカナのオーイシマサヨシさんですけど(笑)。その影響なのか、あの曲を作ったのが僕だと誤解している人が意外と多いみたいなんですよ。

藤本 ああー、なるほど。

大石 そのたびに「あれは僕じゃないですよ!!」って訂正はしてるんですけど。そんな経緯もあったので、オファーが来たときは「ようやくこのバトンが回ってきたか!」と。「俺もターフに立てるのか!」と気合いが入りました。

大石昌良

大石昌良

藤本 うふふふ。私、「Ready!! Steady!! Derby!!」のデモをいただいて聴いた瞬間にすぐ好きになりました。

大石 ええー、うれしい。

藤本 そのデモでは大石さんが自ら仮歌を歌っていらっしゃって、「ああ、大石さんだー!」って(笑)。楽曲提供をされるときにデモの仮歌をご自分で歌われるらしいという噂は前々から聞いていたので、「これが例の!」とうれしくなっちゃいました。

大石 なんか恥ずかしい(笑)。ありがとうございます。

藤本 私、Dメロの「どんなことが起こったって レースが止まらないように ずっと続いてゆく この友情」ってパートがめちゃめちゃ好きで。

大石 うれしい、僕も好きです。そこは書いててめっちゃ筆が乗ったところですね。

藤本 わあ、ホントですか! ポッケたちの、一見バラバラな方向を向いているようでも心は通じ合っているみたいな独特の関係性を「友情、続いていくー!」って感じに表現してくださったのがすごくうれしくて。私的にも、ポッケ的にも。

劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」より。

劇場版「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」より。

大石 主題歌のオファーをいただいた段階で、「メインキャラの4人が歌唱する曲になります」という話は聞いていたんですよ。なのでポッケたちが歌うのであれば、かわいさよりもカッコよさを追求したいなと思ったんですよね。それぞれがレースの中で答えを見つけていく感じ、走りの中でしか見つからない答えを探していく感じを言葉にしたいなと。自分の走りだけじゃなく、お互いの走りを見て何かに気付く感じとか……それがそのDメロ部分だったり、サビの「生きてく 意味なんて ぶっちぎった後で ついてくる」だったりするんですよね。

藤本 うんうんうん。

大石 あとカッコよさの表現でいうと、Bメロに「ウマ娘」楽曲としては珍しいラップパートを入れていまして。これはNG食らうかもなと思いながらおそるおそる出してみたんですけど(笑)、案外あっさりOKをいただきまして。許可してくださった制作陣の勇気に感謝ですね。

藤本 そのラップパートは歌っていてすごく楽しいです。ポッケのキャラにも合ってると思いますし。

大石 よかったー。やっぱみんなが主人公だと思いますし、4人それぞれのよさをちりばめた、展開の多い曲にしたかったんですよ。それでいてキャッチーな、一度聴いたら耳から離れないような曲というのを普段から心がけているので、そのあたりも盛り込めたらいいなと思って作らせていただきました。