MOROHAの音楽の聴かれ方が変化している?
──冒頭のテレビ番組の話にも顕著ですが、この数年でMOROHAの言葉と音の受け取られ方が変わった気がするんですけれども、お二人はどのように感じていますか?
アフロ それに対しては俺、アンチに抱く複雑な感情があるんです。少しずつ俺たちを好きなってくれる人が増えていく中でも、それに囲まれて呑まれないでほしいんです。
──がんばって悪口を言えよと?
アフロ そうそう。「お前が悪いと思ってんだったら悪いって言えよ! 周りに負けんな。周りがMOROHAを最近聴いてて、いいとか言っても、お前はよくないと思ってんなら負けちゃダメだろ」と思ってる気味の悪い俺がいるんです。Twitterとかでずっと悪口言ってるアカウントがあるんですけど、俺はエゴサーチ警察なんでめちゃめちゃ見てるんですよ。みんなが少しずついいものとしてMOROHAを聴こうとしてくれてる、そういう姿勢が整ってきてるのは感じますね。こっちはやってることは一緒なんだけど、人の心としてあり得る話じゃないですか。みんなが勧めてくるものはいいものだと思って聴いたり、逆にみんながいいって言ってるものは認めたくなかったり。ちゃんと聴く姿勢が整ってきた分、後者はもっと斜めな姿勢で聴くようになるんだろうし。その両方を有無を言わさず圧倒する音楽を作りたいですね。
家族の暗い部分と向き合った「ネクター」
──アルバム収録曲のうち「ネクター」はアフロさんの家族の実体験がテーマだそうですが、お二人の元に届いた反響で印象的だったものはありますか?
UK どの曲もですけど、曲を作ったら「こういうリアクションになるかな?」と予想するんですよ。「ネクター」だったら家族の愛情について思うことがある人に刺さるのかなとか、そういうイメージを持ってるんですけど、こんなに反応がいいとは思わなかったですね。言ったら、アフロの私小説的なものじゃないですか。そこに共感が生まれるのは、たぶんみんなが愛に飢えてるからなんだなと思いました。よくも悪くも。自分は不幸だと思ってる人が多いっていう。
アフロ この曲を出してから「実は俺も……」と話してくる友達もいましたね。割合で語るのも野暮なんだけど、なんの問題もない家庭で育った人って、実は多くないんじゃないかなと感じていて。あえて語るようなことじゃないから自分の胸の中に秘めたままだけど、ずっと引っかかり続けて人生に影響を与えている……そういうものが楽曲として世に出ることって今の時代あまりないと思うんです。でも、そういう中で俺らがポンと出したことで、曲に引き寄せられるように今までできなかった話をTwitterやMVのコメント欄で話し始めて、吐き出し口を探してた人たちの荷物が軽くなったのであれば、よかったなと思います。
──配信時のアートワークに不二家のロングセラー商品「ネクター」が使われていましたね。
アフロ 「ネクター」を作るまでの俺は、家族の肯定的な部分だけ書いてたんです。だけど、自分の生き様を全部歌にしてメシを食ってる自覚があるから、じいちゃんが亡くなったタイミングで、いよいよここにも触らなきゃいけないんじゃないかと思って家族の暗い部分を書き始めて。できあがった曲をまず姉ちゃんに聴かせたら、「これは家族の恥だから出してくれるな」と言われたんです。言いたいことはわかるけど、俺も引けなくて「両親に聴かせてもしちょっとでも嫌な顔されたら絶対出さないから、聴かせるとこまでやっていい?」と聞いたら、姉ちゃんもいいよって。結果、母ちゃんは「出していいよ」って言ってくれたんですけど、問題は親父なんです。親父は曲の中でミソくそ言われてるじゃないですか。どうかなと思いながら聴かせたら、ミソくそ言われてるところに差しかかったときに深くうなずいてました。聴き終わって顔上げると「いい歌だな」って。俺は親父のことこういうふうに書いてるけど、今までの曲で書いてたように尊敬もしてるし、大好きだ。そのうえでこういうこと書いてるんだっていう説明をしたら、「これはいい曲だし、書いていること以上のひどいことを俺はしてきた自覚があるから、なんてことない。出せ」と。ただ、この曲は親父だけじゃなく、酒癖の悪かったじいちゃんのことも歌っていて。「じいちゃんは俺の親父でもあるけど、兄弟にとっての親父でもあるから、1つだけ約束してほしい」と言われたのがタイトルなんです。「ネクター」というのは、そのとき仮で付けていたタイトルだったんですよ。
──はい。
アフロ なんでかと言うと、ずっと酒ばっか飲んで家族をめちゃくちゃにしてたじいちゃんが病気になって、最後にもう手の施しようがなくなって、医者から「悔いのないように好きな物を食べさせてあげてください」と言われたとき、家族で「じいちゃん、もう好きなもん飲んでいいってよ。酒買ってくるかい?」と聞いたら、細い声で「もう俺は酒はいいわい。『ネクター』を買ってきてくれや」って言ったんです。それが俺、ずっと心に残っていて。あれだけ酒好きだったじいちゃんが、最後に飲みたいのが甘いジュースだったって……。懺悔のようにも聞こえたし、もしかしたら酒を知らない子供の頃の記憶が戻ったのかもしれない。このことはうちの親戚一同が知っていて、親父は「この仮タイトルは絶対に変えないでくれ。お前がじいちゃんのことを思ってたってことがわかってもらえるタイトルだから、このタイトルで出してくれ」って言ったんですね。レーベルからは「なんで『ネクター』なの?」と聞かれたけど、その話をしたら理解してくれて。不二家さんにもちゃんと許可も取って、ありがたいことに快く使わせてくれました。
あなたのギターはすごく優しいんだから
──UKさんはこの15年間、アコースティックギター1本でアフロさんの言葉を支えてきたわけですが、これまでの演奏や作曲の変遷について聞かせてください。
UK 僕はもともとバンドをやっていて、最初はエレキを弾いてたんですよ。片手間にアフロとも音楽を始めて、そこからMOROHAと名前を付けて真剣に活動を始めたタイミングでアコギに持ち替えました。ヒップホップ=ループミュージックをアコースティックギター1本で表現しようっていうところから僕のアコースティックライフが始まって。当時は基本的にループを無機質に弾くスタイルだったんですけど、ある日、自分の音楽を母に聴かせたら「あなたのギターはすごく優しいんだから、もう少し感情を込めて弾いたらいいのに」と言われて……やっぱ親の言葉はすごいっすね。その頃は20代前半だったんでわりと尖っていて、周りから言われることに対して全部うるさいなと感じてたのに「ああ、そうだね」と思って、そこから今のスタイルに変わったんです。「アコースティックギターという、人を魅了できるパワーがある楽器を、繰り返しに聞こえないぐらいまで感情を込めて弾こう。いいメロディ、いい曲を作ろう」って。どうしても技術として肘を使ったりボディを叩いたりするスラム奏法が注目されるんですけど、あくまで僕自身はいいメロディ、いい曲を作ることを一番に考えていて、必要になったときにテクニックを取り入れるって感じです。それは母に言われてからずっと変わらないことですね。そしてそれが進化していった結果、今回の「MOROHA V」まで曲ができたという。
アフロ UKさん、いい機会なんで1つ聞きたいんですけど。
UK はい、どうぞ。
アフロ エゴサーチしたとき「MOROHAのインスト盤が欲しい」ってコメントを見ると、俺はめちゃくちゃ落ち込むんですけど、UKさんとしてはうれしいわけですか?
UK まあ、うれしさもあるけど、出してたまるかとは思うよね。だってアフロの言葉を伝えるために作ったフレーズだから、インストだと本来の聴き方と違ってくるじゃない? 自分の意図していない伝わり方になるわけで。
アフロ なるほど。言葉を立たせるために作ったのに、言葉がいらないと言われてるのは自分の未熟さのせいだと。
UK いや、逆、逆。言葉がなければ、もっといい曲作れるのにって(笑)。
アフロ わはははは! でも、それは本当にそうで。たまにUKのメロディが立ち過ぎて、「俺が言葉乗せらんないよ」って思った音源はUK用のストックとして取ってあるんです。だからインスト盤を出すんだったら、最初からギターだけで聴かせる前提の音源を出すってことだよね。
UK そうそう。
──やっぱり気になりますか? ギターのインストが欲しいという声は。
アフロ 気になる。UKが自分のギターだけで完結させるつもりで作った曲が一度、世に出たことがあるんです。UKの「GRAYZONE」という企画のオープニング曲として。それに俺が無理やりリリックを乗せて曲にしたのが「MOROHA III」に入ってる「それいけ!フライヤーマン」なんです。「や、乗せれんじゃん! 乗る乗る乗る!」みたいな。あのときのUK、すごく嫌そうだったなあ。
UK 「なんでそんなことするの?」とは思いましたね(笑)。
──UKさんは、アフロさんがあら恋の「日々」にフィーチャリングで参加したり、イヤホンズに「トメハネハラウ」を提供したりと個人でも活動していることに対してはどう思われているんですか?
UK 伸び伸びやってほしいです。MOROHAではできない部分、俺では叶えられない部分は絶対あると思うから、うまく納得のいく形にできてるんだったらそれはそれで素晴らしいことだなと。あとは、ほかの場所でやると俺が言葉のない曲を作りたがる気持ちがわかるよね?って言いたくなります(笑)。
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UKのギターは“優勝”