森久保祥太郎|約2年ぶりにソロ活動再開、新たな一面垣間見えるブルージーなニューシングル

声優としてさまざまな人気作品に出演する一方で、ラジオDJやミュージシャンの顔を持ち、近年はShinnosuke(ex. SOUL'd OUT)との音楽ユニット・buzz★Vibesとして作品を発表するなど常にアグレッシブな活動を展開してきた森久保祥太郎。そんな彼がソロ名義では約2年ぶりとなるシングル「I'm Nobody」を7月22日にリリースした。

表題曲「I'm Nobody」は、テレビアニメ「天晴爛漫!」のエンディング主題歌。20世紀初頭のアメリカを舞台に、主人公である空乃天晴と一色小雨が自作の蒸気自動車でアメリカ大陸横断レースに挑む様子を描いた「天晴爛漫!」の世界観に寄り添うブルージーな1曲に仕上がっている。このインタビューでは、森久保自身が「新たな引き出しを開けてもらった」と語る本作の魅力や制作エピソードを話してもらった。

取材・文 / 杉山仁 撮影 / 草場雄介

森久保祥太郎とbuzz★Vibesの関係性

──2018年以降はbuzz★Vibesとしての活動が活発だったこともあり、森久保さんのソロ名義では約2年ぶりの音楽作品になります。このタイミングでソロでの音楽活動を再開したのには何か理由があるのでしょうか。

森久保祥太郎

来年で森久保祥太郎として音楽活動を始めて20年になるんですよ。それもあって、今年から来年にかけては自分がこれまでやってきたことを振り返りつつ、ソロでの音楽活動に注力したいと思っていたんです。とはいえ今回の「I'm Nobody」は、当初の予定にはないものでした。もともと今年は8、9月頃に新曲を出して、そこからツアーにつなげたいと考えていて。ところがその後「天晴爛漫!」の制作チームの方々からオファーをいただいたんです。作品自体も声優として参加させていただきたいと思うくらい素敵な内容で、それでエンディング主題歌を担当することになったんです。

──20周年に向けての計画を立てていたんですね。

そうなんです。でも、お話をいただいた時点ではソロ活動再開の準備ができていなかったし、ひさしぶりに出すシングルは“ディス・イズ・森久保”といった感じでハードな楽曲にしたかったんです。活動再開の1発目が違う雰囲気の楽曲だと「あれ? 何か変わっちゃった?」と思われるかな、という考えも一瞬よぎりまして(笑)。でも去年1年、あまり余計なことを考えずに自由にやってみたことで「そんなこと気にしなくていい」と思えたというか、結果として「I'm Nobody」はすごく大事な曲になりましたね。

──森久保さんはbuzz★Vibesとソロでの音楽活動に、それぞれどんな楽しさを感じているんでしょう。

森久保祥太郎として活動する際には、あまり受け手のことは意識しないんです。そのときの自分の感情や思いをそのまま曲にするというか、もちろんライブになれば目の前の人たちを楽しませることしか考えてないですけどね。ただ曲を作る段階では「俺はこう思うんだけど、どう?」と投げかけていくような感覚で作業しています。そう考えると、自分のパーソナルな部分が前面に出ているのが森久保祥太郎名義の楽曲かもしれません。でも一方で「音楽の楽しみ方はほかにもいろいろあるよね?」という思いもあって、それができるのが僕にとってbuzz★なのかなと。buzz★では「こういう人に、こんなふうに聴いてほしい」と考えながら作ることもあるし、僕はもともとハードロック以外にもいろんなジャンルの音楽が好きなので、そういう意味では2つの軸があると表現の幅が広がるんですよ。buzz★をやっているときに「これはソロの方が合うんじゃないか」というアイデアが生まれることもあるし、逆にソロをやっているときに「これはbuzz★でやる方がいいな」と感じることもある。2つの活動を続けることで生まれる作用と反作用のようなものがあるのだと思います。

こんな引き出しがあったんだ

──「I'm Nobody」はどのようなアイデアから制作がスタートしたのでしょうか。

今回は「天晴爛漫!」のエンディング主題歌として、アニメサイドから明確なオーダーがありました。具体的には「ここ数年流行っているネオカントリーのような雰囲気の曲を作ってほしい」というものだったんです。例えばアヴィーチーの「Wake Me Up」のような、ポップな要素もあるカントリー調の曲ですね。とはいえ、それをそのままやるわけにはいかないので、今回もソロではずっと共作している井上日徳さんに、アコースティックな雰囲気やテンポ感はオーダーに寄り添いつつ、音楽的に自分のルーツともつなげられないかと相談して試行錯誤していったんです。最初はギミックとしてアコースティックな音を使ったりしていたんですけど、そのバージョンは森久保色が強すぎたのか作品とは合わなくて。そこでアコギのストロークをストレートに生かしたものが「I'm Nobody」になりました。

森久保祥太郎

──今回の「I'm Nobody」は森久保さんの過去のソロ名義での楽曲と比べると、ブルースの要素が前面に出ていてとても新鮮でした。森久保さんの歌声も、より渋みやすごみが感じられるものになっていますよね。

そう感じていただけたのならよかった。自分でも「こんな引き出しがあったんだ」と驚きました(笑)。レコーディング中に日徳さんも「この感じ新しいね」と喜んでくれたし、僕自身にとっても新たな発見でしたね。それに、今の年齢になってこの曲と出会えたこともよかったのかなと。ブルースのクォータートーンのように音が揺らいでいくような歌唱法は雰囲気が大切なので、やはりある程度年齢を重ねてからじゃないと表現できないというか。この曲と出会ったことで、新しい引き出しを開けてもらったような気がします。

──ちなみにブルースやフォーク、カントリーのようなジャンルで昔から好んで聴いている楽曲はありますか?

直接ブルースにハマったことはないんですけど、僕が学生時代から聴いてきたハードロックの中にもアコギを主体にしたバラードがたくさんあったし、ハードロックってもともとブルージーな要素が根底にあるので、昔から好きで聴いてきたものに自然とその要素が入っていたんだと思います。そういう意味でも原体験に近いところにあった音楽なのかもしれません。フォークソングも絶対にいろいろなところで触れていますし。それに最近は個人的にもアコースティックな音楽が好きなんですよ。たとえばジャック・ジョンソンやトレイシー・チャップマンを聴き直してみたり。中でもジャック・ジョンソンは、聴くだけでハワイや海のイメージが広がります。匂いが感じられるところが魅力的だと思っていて、仕事から帰ってきたときにそういう音楽を聴いて「海に行きたいなあ」と思ったりすることもありますし、旅行で海のある場所に行ったときには実際に現地でかけたりもしています(笑)。