森久保祥太郎|約2年ぶりにソロ活動再開、新たな一面垣間見えるブルージーなニューシングル

主人公・空乃天晴と重なる高校時代の自分

──「I'm Nobody」の歌詞はどのように練っていったのでしょう?

森久保祥太郎

最初は「どの目線で書こうかな?」ということから考えていきました。というのも、ソロ曲については先ほどご説明した通り、そのときの気持ちをそのまま歌詞にしているけど、今回はアニメのテーマ曲なので、作品の雰囲気を第一に考えて「来週もまた観たい」と思ってもらえるような曲を作りたかったんです。そこで過去のネタ帳を振り返りながらいろいろと考えていたら、2、3年前に高校時代の仲間と何十年ぶりかに再会して飲んだときのメモを見つけたんです。そのとき卒業アルバムを持ってきたやつがいたんですけど、みんな「イエーイ!」と盛り上がっている中で、僕だけどの写真も全然笑っていなくて。自分の中では楽しい思い出しかないのに「なんでこんな顔してるんだろう!?」みたいな(笑)。それで「もしかして俺って暗いやつだった?」と聞いてみたら、「そんなことないけど『俺はいつまでもここにいるようなやつじゃない』というオーラが出てた」と言われて……。「俺ってそんなイタいやつだったの!?」と思ったことがあったんです(笑)。

──(笑)。

そのときのことをネタ帳に書き留めていたんですよね。そして今回「天晴爛漫!」のプロットを見せていただいたり、監督が作品を通して伝えたいことをまとめていただいた資料に目を通したときに、主人公の天晴は「今ここではない場所に、本当に輝ける場所があるんじゃないか」と考えていたり、まだ見ぬ自分やまだ見ぬ世界に思いを馳せているのではないかと感じて、その雰囲気が高校時代の自分の姿と重なったんです。

──なるほど。天晴との共通点を見つけたわけですね。

当時の僕は学校が嫌いなわけではなかったけど、確かに「卒業して早く次のフェーズに行きたい」「劇団を立ち上げたい」と卒業後のことばかりを考えていて。その過去の自分が天晴と重なるような気がしたんです。そこから歌詞を書いていって、最終的に今の自分が過去の自分の思いを鼓舞するような構図になったんです。

森久保祥太郎

“まだ何者でもない”その気持ちが原動力

──「まだ何者でもない」というフレーズは、声優 / アーティストとしてキャリアを積み重ねてきた森久保さんが今歌うからこその深みが出ているように感じます。

森久保祥太郎

今の僕もまだ何者でもないんですよ。「まだ見ぬ自分を見たい」「まだこの先に何かがあるはずだ」という気持ちが今でも自分の原動力になっているし、なんなら今だって「大人になったら何しよう?」「これから自分の人生はどこに行くんだろう?」と考えているくらい(笑)。「I'm Nobody」には、そんな気持ちをメッセージとして込めています。あとはサビでサウンドがバーンと広がるので、そこは小難しく考えずにシンプルな言葉で伝えようと思っていて。そのうえで、さっきのジャック・ジョンソンの話じゃないですけど、言葉から情景や匂いが伝わるものにしたいなと。「天晴爛漫!」という作品から「こういう空気の、こういう温度感の、こんな場所」と想像しながら作っていったので、その雰囲気を感じてもらえたらうれしいですね。

──ソロ名義ではパーソナルな表現を大切にしているというお話がありましたが、今回のようにお題がある場合だと曲作りに苦戦したりするものですか?

僕は楽曲提供をすることもありますけど、そういうときのほうがスッと作れますね。昨年も小野大輔くんに「More Super Love」(作詞・作曲を担当)を提供させてもらいましたけど、そのときもすぐに曲が浮かんだりして。むしろ自分のことが一番わからないというか、自分のことが一番難しいんですよね。特に今回はアニメの世界観につなげる必要があったし、これまでソロ名義でやってきたことからもズレないものにするためにも、作品と自分との共通項を見付ける作業から入ったので。ただテーマをもらって表現すること自体には、すごくやりがいを感じています。今回も「天晴爛漫!」というテーマがなければ「I'm Nobody」のような楽曲は生まれていないし、今になって高校生の頃のエピソードが生かされることもなかったわけですから。