トゥルーパンクバンドmoreru、音楽シーンに一石を投じる衝撃の4thアルバム (2/2)

「は?」とか「なんで?」みたいな展開がすごく好き

──さまざまな変遷を経て、4枚目のアルバム「ぼぼくくととききみみだだけけののせせかかいい」に至るわけですが、今作はどういうアルバムにするかコンセプトを決めて作っていったんですか?

夢咲 はい。基本的にアルバムを作るときはコンセプト先行型です。今回は、3rdアルバムができたくらいのときに「次はめっちゃフラットにロックやるぜ」という考えがあって。それと、このアルバムで鳴ってるのは、最近の“音楽とされるもの”を超越するものとしてのロックなんです。自分が中学生のときにYouTubeで聴いてめっちゃカッコいいと思っていたロックはその時代の音楽ではなかった。でも、時空を超えていた。だから自分も時空を超えて、中学生の自分に聴かせるためのアルバム、そいつの生活を壊すような、今までの人生がまったく変わってしまうような音楽を作りたかった。「ぼぼくくととききみみだだけけののせせかかいい」は昔の自分に向けて個人的に作ったアルバムです。中学生のときの自分がこれを聴いて、そのあとに2ndアルバムと3rdアルバムとさかのぼって聴いたら、それはもう間違いなく人生がおかしくなって、それで今の僕に合流する。それがアルバムのコンセプトですね。

──なるほど。まず歌詞やタイトルで、「死」や「殺す」という言葉がすごく多いですね。

夢咲 これまでもそうですが、今回も恐ろしいくらい、“死”みたいなものに取りつかれている感じがあります。そもそも物心ついたくらいから、周りのことにうんざりしていたり、イライラしていたり、落ち込みまくったりしていて。人間はいずれ全員死ぬ。そういう歌詞が結果的にすごく多くなっています。別に意識したりとかではないです。自分の書く歌詞に死のモチーフが多いのは、自分がうんざりしているからとしか言えないです。

夢咲みちる(Vo)
夢咲みちる(Vo)

夢咲みちる(Vo)

──そういう破壊衝動や破滅願望のような終末感は、これまでもmoreruの曲にはありましたけど、例えば「ROCKSTAR」なんかは特に前面に出ていますね。

夢咲 そうですね。だからハルマゲドン願望というか、自分がすごくデカくなって、地球をぎゅっと握り潰すみたいな、そういう世界観への憧れ。中二病的と言ってもいいかもしれないけど、「来たれ終末」というか「死ぬならお前らも巻き添えだ」みたいな願望。そういう感情を出すことがあの曲の中では許される。

──「ROCKSTAR」は展開がどんどん変わりますよね。moreruは以前からそうですが、一定のビートで最後まで押すことがほとんどなくて、次々に違う景色を見せていくような感じがあるんですよね。それはどうしてだと思いますか?

Dex 聴いている人を驚かせたいんです。安心させたくない。例えば8小節ぐらい、つんつんつんつんと続くと、人はそこに安心してその流れに身を任せる。そういうのをどんどん裏切りたいんです。ある種の嫌がらせ。あと、1個のビートだと普通に飽きるし。

──それと「ROCKSTAR」にはちょっとストリングスみたいな音が入ってくるじゃないですか。それによってシンフォニックな分厚い音像ができて、音圧や破壊力が増していると思うんですが、それも意識的にやっていることですか?

夢咲 はい。そのほうが聴いていて快楽が強まるから。

Dex そこはアイロニーというか、ウケるじゃないですか。脈絡もなくストリングスが入ってきたら面白くないですか? そういうのも多分にある。

夢咲 とにかくもう、「は?」「なんで?」みたいな展開がすごく好き。

カオスであることが真実

──あと、今回は全体的に“声”がちりばめられていますよね。「乙女座最終日」の冒頭のボカロとか、「絶滅によろしく」の最後のほうに出てくる“ずんだもん”の声とか。

夢咲 自分が聴いてきたものを全部、自分の表現にしたいんです。音楽として発表されているものに限らず、例えば、YouTubeで聴いた“ずんだもん”が都市伝説についてしゃべっている動画の音とかも音楽にしたい。そういうコンテクストとしてのサウンドも全部入れたくて。

──それが結果としてカオスな音像を生んでいると。

夢咲 そうっすね。だから世界そのものがカオス。カオスであることが真実なんで、自分はそれをただ映し出す。

Dex でもわざとカオスにしたいと思っているというより、まずデモがあって、それをメンバーでアレンジしていくときに、メンバーみんな音楽の趣味が全然違っていて、やりたいことがたくさんあるんです。デモのまま演奏したら“普通の曲”になるけど、それだと俺たちがやる意味はないので。“カッコいい”と“ウケる”が半々ぐらいで、これをやったらカッコいいなとか、急にこれが入ってきたらマジウケるとか、そういうアイデアがたくさんある。それを全部やったら、カオスな感じになる。

Dex(Dr, Vo)
Dex(Dr, Vo)

Dex(Dr, Vo)

──以前みちるさんはインタビューで「今のバンドは過剰性と演劇性が足りない」と言っていましたけど、moreruの最たる魅力ってそこなんですよね。「このくらいでやめておこう」というリミッターを外したような過剰さがあって、それがどんどん強まっている。そういう過剰性と演劇性はmoreruにとって大事なものですか?

夢咲 そうですね。今って音楽があらゆるサブスクサービスの無限の選択肢の中の1つに数えられることでしかなくて、その競争によってショート動画を効率よくバズらせるための音楽みたいな、そういう作曲法みたいなものが増えてきている気がするんです。あと、生活のことばかり歌ってる曲が多い。そこでみんなが何を一番数字集めの原理にしているかというと、共感なんですよね。でも僕にとって音楽というのは生活じゃないもの──生活とすごく距離が離れていて、“「いま・ここ」じゃない場所”。そういう超越的なものであるべきだと思っていて。それを表現するとなると、もうカオスにならざるを得ない。超越的な演劇性や過剰性というのも、日常じゃないもの、生活じゃないもので。そういった表現を意図的に引き受けています。

際限なく広がっていきたい

──今回のアルバムは以前に比べて曲の幅が広がっていて、例えば「マリア様に大変な懺悔」はアコギの弾き語りで、ノイズが一切入りませんよね。一方で最後の「あのね」はアイドルポップスみたいな曲ですし。こういうのもできるぜ、というのを表現しようとした?

夢咲 いや、自分は「マリア様に大変な懺悔」のように、もともとはアコギの弾き語りで曲を作ってるんですよ。これは何かについてとにかく謝っている曲で、それを特にアレンジせず。1分半ぐらいの曲がアルバムに入っててもいいかなと思って収録しました。

Dex 「こういうのもできるぜ」じゃなくて、単純にアルバムの流れとしてあるべきなので入れた曲ですね。最後の「あのね」も、アルバムの流れとして必要だった。アルバムを通して聴いたときに効果的な曲だと思うので。

──それと同時に、音楽的な広がりが出ているんじゃないですか?

夢咲 広がらざるを得ない。やれることが増えているんだと思います。

Dex でも、今回ももうちょっとやれたかもしれない。まだまだ。まだもうちょっとがんばります。

──とはいえ今までの中ではダントツで一番手応えがあるのでは?

夢咲 それは間違いないです。「山田花子」から続くこの3枚が、たぶん1つの区切りなんです。僕的にはこういう、学校とか僕とか君とか、子供っぽいことを言うのはこれで終わりにします。歳もとったんで。24になって「学校」とか言ってんの、惨めでしょ。だから最後にします。

──moreruは最近、海外でのライブが増えていますよね。中国とか韓国とか、あと今年アメリカのメタルバンドのOmetraと国内ツアーをやっていたりしていますし、海外での反響は意識していますか?

夢咲 moreruの歌詞は全部日本語だし、ドメスティックな表現だなと思っているので、まったく言葉が通じない人に受け入れられていることには自分でもびっくりする。海外は全然意識していなかったんですけど、それならいくらでもこっちから行くし、ライブもやりますよ。

Dex あと、日本だと自分たちみたいなバンドがいる場所は、そんなにないんですよね。自分は実はソロもやってて。ソロでアメリカツアーをしたときに、ここにはmoreruがフィットする土壌、シーンがあるなと思ったんです。今アメリカで隆盛しているskramzという音楽シーンなんですけど。意外とサブスクとかで曲を聴いてもらえてたりするので、海外は興味はすごくありますし、できたら来年あたりツアーをやりたいなとは思います。

──最後にもうひとつ、現時点で目指すものとか、こういうふうになりたいという目標はありますか?

Dex とにかくひっくり返して……。

夢咲 ちゃぶ台を返したときに一番おっきい音が鳴るように。ちゃぶ台をどんどんデカくしたいし、その上にいっぱいいろんな音が鳴る食器を置きたいです。もう際限なく広がっていきたいっていうことです。

左からDex(Dr, Vo)、夢咲みちる(Vo)。

左からDex(Dr, Vo)、夢咲みちる(Vo)。

公演情報

moreru presents「霊霊障障新新感感染染」

  • 2025年10月31日(金)宮城県 SENDAI BIRDLAND
    <出演者>
    moreru / braqkotone / 童子 and the Exorcists
  • 2025年11月1日(土)青森県 KEEP THE BEAT
    <出演者>
    moreru / Is Survived By / ATHLETIX
  • 2025年11月14日(金)神奈川県 横浜B.B.STREET
    <出演者>
    moreru / ANALSKULLFUCK / House Of The Blood Choir / 5000
  • 2025年11月22日(土)東京都 WWW / WWWβ
    <出演者>
    Johnnascus / moreru / 小腸分裂 / ANALSKULLFUCK / KRUELTY / Super Structure / DC / NEGATIVE SUN vs Wolf Creek / VMO / CNG Squad / Slumza / 042ghxst / YUNGSTAお仲間 / SMAP / Taro Aiko(M.A.S.F) / 拒絶666 / Efeewma / Weed b2b NIKEGUCCI420 / MayhemSquad / Kanon / DIV⭐︎ / 春麗 / Rosa / Akane / 豚化粧 / 谷利沙紀 / コスプレシンガーホーリー / and more
    ※小腸分裂との共催企画「evilspa」として開催。
  • 2025年11月28日(金)愛知県 HUCK FINN
    <出演者>
    moreru / Climb The Mind / 天国注射
  • 2025年11月30日(日)京都府 METRO
    <出演者>
    moreru / odd eyes / Kiima Kariis
  • 2025年12月1日(月)大阪府 難波ベアーズ
    <出演者>
    moreru / KK manga / TIVE
  • 2025年12月5日(金)広島県 ALMIGHTY
    <出演者>
    moreru / Sugar / おそロシア革命
  • 2025年12月6日(土)熊本県 Django
    <出演者>
    moreru / safmusic / 浅井杜人
  • 2025年12月7日(日)福岡県 UTERO
    <出演者>
    moreru / HAERERE / herside / ROFLEN
  • 2025年12月25日(木)東京都 clubasia
    <出演者>
    moreru(ワンマン)

プロフィール

moreru(モレル)

高校を中退した夢咲みちる(Vo)と熊本から革命を目指して上京したDex(Dr, Vo)によって2018年に結成された。同年にコジマアツヲ(G, Vo)が加入し、本格的に活動を開始する。2019年にはtaga(B, Vo)と石肉(G, Vo)が加入。ハードコアやグラインドコア、ハーシュノイズを織り交ぜた1stアルバム「itsunohinikabokunokotowoomoidasugaii そして……」を発表。同年に東京・四谷アウトブレイクと共催で7日間連続ライブ「7日間に及ぶ激痛」を開催した。2021年にDHS(Noise, Vo)が加入。2022年、ハイパーポップやトラップメタルなどの要素を取り入れた2ndアルバム「山田花子」を発表した。2023年にDHSが脱退したのち岩本雪斗(Noise, Vo)が加わり、現在の体制での活動がスタート。同年12月に3rdアルバム「呪詛告白初恋そして世界」をリリースした。2025年10月に4thアルバム「ぼぼくくととききみみだだけけののせせかかいい」を発表。10月31日よりライブツアー「霊霊障障新新感感染染」を行う。